ベジャール没後10周年にその作品を再評価、「蘇るモーリス・ベジャール」記者会見レポート

レポート
2017.7.31
ジル・ロマン、那須野圭右 撮影:西原朋未

ジル・ロマン、那須野圭右 撮影:西原朋未


『ボレロ』『春の祭典』など、数々の名作を産み、バレエに革新をもたらしたモーリス・ベジャール。​今年2017年は、この巨匠が2007年11月22日にこの世を去ってから10年目を数える。その節目の年の11月、モーリス・ベジャール・バレエ団が来日し日本公演を行うほか、同バレエ団と縁の深い東京バレエ団が合同で<ベジャール・セレブレーション>として公演を行う。

そこでこのほど「蘇るモーリス・ベジャール」記者会見&秘蔵映像上映会が開かれ、ベジャールからバトンを引き継ぎ芸術監督としてモーリス・ベジャール・バレエ団を率いるジル・ロマンと同バレエ団ダンサーの那須野圭右が登壇。一般公募で集まった約500人の観覧者とともに秘蔵映像の上映を楽しみながら、来日公演のプログラムやベジャールとの思い出を交えたトークとともに、来たるべき来日公演の抱負を語った。

■バレエ界のさらなる発展に向け、節目の年に「ベジャール」を再認識

イベントではまず招聘元の公益財団法人日本舞台芸術振興会(NBS)の髙橋典夫専務理事が登場。髙橋専務理事によると、2017年はベジャール・バレエ団の初来日から50年目、同バレエ団がブリュッセルからローザンヌに拠点を移してから30年目、モーリス・ベジャールが亡くなって10年目であると同時に、ジル・ロマンがベジャール・バレエ団芸術監督になって10年目に当たる「節目の年」だという。

NBS 髙橋典夫専務理事 撮影:西原朋未

NBS 髙橋典夫専務理事 撮影:西原朋未

ベジャール・バレエ団はその50年の間に日本とも深くかかわり、画家の横尾忠則、歌舞伎役者の坂東玉三郎、デザイナーの三宅一生や演出家の蜷川幸雄など、多くのアーティストとジャンルを超えたコラボレーションも行っている。髙橋専務理事は「ベジャールの作品は演劇的、音楽的、詩的であり、また官能的、哲学的、そして祝祭的。私自身もベジャールの作品と出会わなかったらこの仕事をしていなかったかもしれない」と話す。

また没後10年という節目の年に、WOWOWがベジャール・バレエ団の特集番組を放映し、『第九交響曲』メイキングを扱った映画も公開されるほか、ベジャールの功績を偲ぶ様々な企画があることを発表。そのうえで「ベジャールを再評価し、その魅力や功績を再評価できれば。バレエの発展のために、ベジャールのパワーを再認識したい」と語った。

■ベジャール作品と新作の2つの車輪

続いてベジャール・バレエ団芸術監督のジル・ロマンとダンサーの那須野圭右が登場。ジル・ロマンによると、現在同バレエ団は「ベジャール作品」「ジル・ロマンあるいはほかの振付家による新作」という2つの"車輪"を中心に作品を上演しており「ベジャールとの思い出は語りつくせないほどあるが、ベジャール作品の稽古をするたび、いつも一緒にいる感覚になる」と話す。

また同バレエ団のバレエ学校を卒業し、カンパニーで20年踊っている那須野は「ベジャールは芸術家として非常に尊敬する。印象といえば、僕にとっては一言で言えば一緒に食事をしたり、車いすを押したりした"おじいちゃん"」と巨匠との思い出を語った。

那須野圭右、ジル・ロマン 撮影:西原朋未

那須野圭右、ジル・ロマン 撮影:西原朋未

■ベジャール作品の傑作『魔笛』『ボレロ』にジル・ロマンの新作も

続いてジル・ロマンから11月17日から行われるベジャール・バレエ団2017日本公演の演目、そしてベジャールの命日にあたる11月22日と23日のベジャール・バレエ団と東京バレエ団の合同ガラ<ベジャール・セレブレーション>の演目の説明が行われた。

まずベジャール・バレエ団来日公演のプログラムはAプロが『魔笛』。モーツァルトの有名なオペラのバレエ化で、初演は1981年。日本では1982年、2004年に上演されており、バレエファンのみならず、音楽ファンからも絶賛を浴びている。「ベジャールはもともとあるオペラの音楽や台本に何も付け加えない、という手法を取っている」とジル・ロマン。

またBプロはベジャール作品とジル・ロマンの作品をミックスした「ベジャール・バレエ団の現在の姿」で、ベジャール作品としてはもはや説明の必要のない金字塔『ボレロ』、日本で初演された『ピアフ』が上演される。『ボレロ』はジュリアン・ファブロー、エリザベット・ロスがメロディを踊る予定だ。またシャンソン歌手エディット・ピアフの生涯をテーマとした『ピアフ』は「男性ダンサーによる作品。ピアフが出会った大勢の男性による、彼女へのオマージュ」だという。

ジル・ロマン 撮影:西原朋未

ジル・ロマン 撮影:西原朋未

さらにジル・ロマンの作品は『アニマ・ブルース』『兄弟』を上演する。『アニマ・ブルース』はベジャール自身も師と仰いだというユングの精神分析にヒントを得たもので、「男性の中の女性像(アニマ)、女性の中の男性像(アニムス)」をモチーフとしている。「自分のなかのもう一人の自分を受け入れることで成長するという、一つのロードムービーのような作品だ」。

もう一つの『兄弟』はベジャール・バレエ団ダンサーの那須野圭右と大貫真幹(おおぬきまさよし)の2人に振り付けた作品で、音楽には三味線の吉田兄弟と美空ひばりの歌った「ラ・ヴィアン・ローズ」が使われる。同バレエ団で「兄弟のようだ」といわれる那須野と大貫、吉田兄弟の音楽、さらにアルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編小説『侵入者』に登場する1人の女性を巡る兄弟というモチーフも絡めているという。

那須野は「マサ(大貫)とは寝るとき以外一緒にいるくらい仲がいい。ジルに『兄弟』を作りたいと相談を受けた際、曲探しを手伝ったが、一番大変だったのは美空ひばりさんの曲を探すまで。60~70年代の日本の恋の歌を、と言われても僕は生まれていなかったので(笑)インターネットの動画などで50曲くらい探したのだが、全部没。冗談のつもりで美空ひばりさんの『ラ・ヴィアン・ローズ』を持って行ったら気に行ってもらえた」と当時の思い出を語った。そして「ジルが初めてメインキャストとして僕らに作ってくれた作品。思い入れはあるし、それを日本で上演できるのはすごく嬉しい」と話す。

那須野圭右 撮影:西原朋未

那須野圭右 撮影:西原朋未

■「テム・エ・ヴァリアシオン(t'M et variations...)」はベジャールへの返事

ベジャールの命日の11月22日から2日間にわたって上演される<ベジャールセレブレーション>は1部が「テム・エ・ヴァリアシオン(t'M et variations...)」、2部が「ベジャール・セレブレーション」だ。

1部の「テム・エ・ヴァリアシオン(t'M et variations...)」はベジャール・バレエ団がベジャールに伝える、今のバレエ団の姿だ。

ジル・ロマンによるとベジャールは毎日彼に手紙を書いていたという。「ベジャールは不眠症で夜、眠れない時に手紙を書いていた。昼は一緒に仕事をしていたが、書くことによって、会っていても直接伝えられないことを伝えていたし、書きながらアイデアを固めていたのだろう。時には10枚に及ぶこともあった」と振り返る。「しかし私は返事を出さなかった。毎日彼と会っていたからだ。今でも手紙は残っていて、気持ちが落ち込んでいるときに読み返す。その返事を、ダンサーを通して書こうと思った。この作品はある種の日記で、ページを綴るように、現在のカンパニーの姿をモーリスに伝えていく」。

「ベジャール・セレブレーション」は「祝祭の実現」で有名無名を含め、様々なベジャール作品取り上げる予定で、現在再構築中だという。

この<ベジャールセレブレーション>には東京バレエ団も参加する。「ベジャールの祝祭を日本でやるなら、大切な友人であり兄弟であり、共に多くの仕事をしてきた東京バレエ団は欠かせないし、コラボレーションをすることはカンパニーにとっても大切なことだ。ベジャール自身、日本と東京バレエ団を愛していた。彼は別の人生で歌舞伎の俳優だったかもしれない(笑)」とジル・ロマン。

また、この際に那須野が作品指導を行う。「ベジャールの作品には動きのひとつひとつに意味がある。その意味を伝える際、フランス語と日本語のニュアンスの違いがあるが、僕は20年間、その言葉のニュアンスの違いを経験し、試行錯誤しながらやってきた。それを伝えていきたい」と意気込みを語った。

那須野圭右、ジル・ロマン、髙橋専務理事 撮影:西原朋未

那須野圭右、ジル・ロマン、髙橋専務理事 撮影:西原朋未

■バレエ団の今の姿を見に来てほしい

最後に日本の観客に向けたメッセージとして、ジル・ロマンは「日本のファンの方々がくださっている支援に感謝している。ぜひ私たちのカンパニーの現在の姿、進化を見に来ていただきたい。お会いできるのを心から楽しみにしています」と挨拶。那須野も「ベジャールが亡くなって10年という節目の年に来日ができ、日本で踊れるのは光栄なこと。個人的なことだが今回の来日が最後の舞台になると思うので、どうぞ見に来てください」と語った。

今なお日本の観客の間に大きな印象と感動を残すベジャール作品の数々。ベジャール・バレエ団の歴史を凝縮したわずか30分の映像には懐かしいジョルジュ・ドンの姿なども見られ、また時代の変化と共にこれらの作品が新しい力を持って訴えかけてくるかもしれない、そんな予感も感じさせた。この秋、新たな「ベジャール」に再会できるかもしれない。

会場に飾られたベジャール縁の品々 撮影:西原朋未

会場に飾られたベジャール縁の品々 撮影:西原朋未

取材・文・撮影=西原朋未

公演情報
モーリス・ベジャール・バレエ団2017日本公演 11月

東京公演 Aプロ「魔笛」
■会場:東京文化会館
■日時:
11月 17日(金)18:30
11月 18日(土)14:00
11月 19日(日)14:00

 
東京公演 Bプロ「ボレロ」「ピアフ」「アニマ・ブルース」「兄弟」
■会場:東京文化会館
■日時:
11月25日(土)13:30
11月25日(土)18:00
11月26日(日)14:00

 
兵庫公演
■会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
■日時:
11月28日(火)「魔笛」
11月29日(水)ガラ・パフォーマンス

モーリス・ベジャール・バレエ団東京バレエ団合同ガラ<ベジャール・セレブレーション>
■会場:東京文化会館
■日時:11月22日(水)19:00、11月23日(木・祝)14:00

■チケット一般発売 8/26(土)10時~
■演目:
第1部「テム・エ・ヴァリアシオン」
振付:ジル・ロマン
出演:モーリス・ベジャール・バレエ団
第2部「ベジャール・セレブレーション」
振付:モーリス・ベジャール
演出:ジル・ロマン
出演:モーリス・ベジャール・バレエ団、東京バレエ団

 
■公式サイト:http://www.nbs.or.jp/
 
シェア / 保存先を選択