上田誠×菅原永二×川面千晶が語る、ヨーロッパ企画の最新作『出てこようとしてるトロンプルイユ』

インタビュー
舞台
2017.10.27
菅原永二、上田誠、川面千晶(左から)

菅原永二、上田誠、川面千晶(左から)


京都を拠点に活動するヨーロッパ企画の新作公演『出てこようとしてるトロンプルイユ』が9月から上演中だ。東京公演の後は、大阪・愛媛・横浜・名古屋・広島・福岡・四日市でも上演。ヨーロッパ企画主宰で作・演出の上田誠にとって、自劇団に書き下ろす戯曲としては、第61回岸田國士戯曲賞後第一作目となる。上田と、客演する菅原永二川面千晶の3人に話を聞いた。

画壇でキワモノ扱いされた「だまし絵」が題材

--今年『来てけつかるべき新世界』で第61回岸田國士戯曲賞を受賞されました。おめでとうございます。受賞後、初の新作ですが、いかがですか?

上田 ありがとうございます。受賞後初の第1作だなぁと思いますよ(笑)。身内まわりは盛り上がってくれてますが、だからといってそれほど仕事が増えたわけでもないので……あまり変わらずにやっています。

--今回の作品のタイトルは『出てこようとしてるトロンプルイユ』。トロンプルイユとは「だまし絵」のことだそうですが、着想はどのように得たのでしょうか?

上田 もともとエッシャーというオランダの画家が好きなんです。美術史の真ん中にいる人ではなくて、どちらかというと傍流で、独自の路線を突き進めた。それが面白いなと思っていたんです。エッシャーを題材にして何かできないかなと調べていくうちに、「だまし絵」というものは、美術史の真ん中からはちょっとキワモノ扱いされながらも脈々と続いている文脈であることに気づいたんです。それがいいなと。エッシャーは、2次元の絵画空間の中で不可能図形みたいなことをやっている。それ以前にも、「トロンプルイユ」という絵画の分野があったりして。りんごが置いてあると思ったら絵だったというような、3次元空間に訴えてくる絵のことですね。

『出てこようとしてるトロンプルイユ』のチラシ画像 ヨーロッパ企画提供

『出てこようとしてるトロンプルイユ』のチラシ画像 ヨーロッパ企画提供

--今回のチラシのような絵ですね。

上田 はい。「だまし絵」という題材は、演劇で絵画をテーマに、しかもコメディでやる時に、ちょうどいい距離感だと思いました。

--菅原さんや川面さんは、「だまし絵」についてのイメージやエピソードは何かございますか?

菅原 なんか教科書に載ってましたよね。貴婦人にもおばあさんにも見える絵。

上田 ありますね。

菅原 いわゆるトリックアートですよね?

上田 そうですね。画壇の中では端にいますけど、トリックアート館などアミューズメントとしてはとても人気ですよね。

川面 私は小学校の時に、校舎にスロープ(斜路)があって、それを全部トリックアートにすると校長が言い出したんです。そして1年かけてスロープの独特な形を利用したトリックアートを描いたんです。私が小学校3年生ぐらいの時だったんですが、卒業する小学校6年生の時には、それががずたぼろになっていて(笑)。トリックアートって少しでも色褪せると何も成立しないじゃないですか。どんどん成立しなくなって、卒業する頃には汚くなってしまったんですよ。繊細なものなんだなぁと思ったのを覚えています。

上田 そう、だまし絵に関していいのはね、悪口が言えるということなんです。アートを扱う劇で悪口は言えない傾向にあるんですけど、トリックアート館に行くとみんな半笑いじゃないですか(笑)。そんなカジュアルな感じでだまし絵は扱えるんです。そこがいいなぁと思って。

--舞台上でトリックアートのような仕掛けは再現されるのでしょうか?

上田 このあいだ横浜にあるトリックアート館に行ったのですが、基本的にカップルが互いに写真を撮り合うような施設なんです。僕は一人で行ったので、別のカップルが入ってくるのを見て、「なるほど、こうなるのか」と勉強していました(笑)。もちろん舞台上に何らかの仕掛けは用意するつもりではいますが、錯覚的なアートを取り入れようとすると角度が大事になってしまうので、美術家の長田さんと相談してます。我々の舞台は割と仮装大賞的な側面があって、お客さんに協力してみてもらうことが前提なんですよね。憐れみながら加担していただいているというような……今回も「騙されまいぞ」と思って見られるときついです(笑)。

「一緒にやったら面白そう」でキャスティング

--この芝居の舞台は日本ですか?

上田 いえ、今回ね、フランスの話なんですよ。だまし絵画家が残した作品をめぐる話なんです。『来てけつかるべき新世界』(2016年)がコメディらしいコメディだったんですけど、今回は変な話ですね。コメディ要素はあるんですが、僕らの作品で言えば『ビルのゲーツ』(2014年)など、割と振り抜いた話になるかなぁと。ヨーロッパ企画でしかやらないだろうなというコメディです。

--面白そうですね。菅原さんと川面さんをキャスティングされた理由を教えてください。

上田 はい。僕らは特殊な作り方をするので、最初から配役が決まっているわけでもないんです。本公演のツアーが長いので、長い期間一緒にやっていて面白いだろうなという方をキャスティングさせていただいてます。菅原永二さんは本公演では『建てましにつぐ建てましポルカ』(2013年)に出演いただきましたが、他にも僕が脚本・演出だった『TOKYO HEAD』(2015年)や、幾つかの映像作品でもご一緒しています。「また一緒にやりたいなぁ」とずっと思っていました。

菅原 出演した公演が終わっても、『遊星ブンボーグの接近』(2015年)だって『来てけつかるべき新世界』(2016年)だって、一回も接点がないわけじゃなく、飲んだりはしていたので(笑)。次はどんな作品をやるのかなど、じわじわと噂は入ってきたりして(笑)。また出演できたらいいなと思っていました。

--ヨーロッパ企画に客演する楽しみは?

菅原 ヨーロッパ企画は京都で稽古をするんです。前に出演した時は、稽古で1か月ぐらい、公演も合わせると1か月半ぐらい京都に滞在しました。「なんて楽しいんだろう!」と思って(笑)。京都は東京と比べて時間がゆったり流れていて、気持ちがいい。ヨーロッパ企画の事務所から自転車で稽古場に向かう間に、そこここの辻で、みんなが少しずつ合流していくんです。

川面 へぇ~、面白い!

菅原 芝居のオープニング感がありました(笑)。

上田 川面さんは経緯が変わっているんです。えっと、確か石田剛太ですよね?

川面 そうですね。

上田 ヨーロッパ企画劇団員の石田剛太が、劇団かもめんたるで川面さんとご一緒させてもらったんです。川面さんがすごく面白いと石田君が言っていました。これまで錚々たる作品に出演されていますし、映像では拝見してきました。あ、あと、実は川面さんのお姉さんとは関西の方で何度かご一緒することがあったんです。関西に「ジュース」という劇団があって、お姉さんが……。

川面 10年くらい前です。姉は俳優をやっていたんですけど、今はやっていないんです。

上田 そう、だからお姉さんの方が先なんです(笑)。「妹さんいはるんや~。え!妹さんめっちゃ活躍しているやん」みたいな入り方で(笑)。そのあと、川面さんと石田が共演して、熱烈な求愛をさせていただきました。ヨーロッパ企画では、世に出ていない『囲むフォーメーションF』というちょっと奇抜の映像作品に出ていただいて……。

川面 それが初めてです。

上田 しかも諏訪雅が演出したので、僕は現場にいなかった(笑)。あとは1回飲んだくらいですよね?(笑)

川面 そう。かもめんたるさんの単独ライブが大阪にあって。

上田 たまたま見に行って、ご飯でも食べましょうってなった。キャリアを積んだ方なのに出会い方がね(笑)。

川面 不思議な出会いですよね(笑)。

上田 永二さんも川面さんもお二人とも出演歴は素晴らしい。そこはそれとして、僕らとの関係性もなんだかすごく無理がないところで付き合ってくださっている感じがしていて。そう言った関係性の中で一緒にやってみたいなぁと思ったんです。

川面 石田さんから軽い感じで「暇ですか?」とLINEが来たんですね。なんだろうと思って「秋は空いてます」と送ったら、事務所に改めてオファーが来たんです(笑)。まさか本公演のオファーだとは思っていなくて、遊びか旅行かなと思っていたぐらいなんです。すごくびっくりしたのを覚えています。

ヨーロッパ企画とハイバイの関係性

--面白い経緯ですね。「ヨーロッパ企画」に対するイメージはありますか?

川面 私はハイバイという劇団にいるのですが、ヨーロッパ企画とは仲良くさせてもらっていて。みんないい人で面白いというイメージですね。でも、(取材時点では)知り合って2、3回しかお会いしてないので、本当はどういう人たちか全く分からないのですが(笑)。

上田 全然親しくないじゃないですか(笑)。正直すぎる!

--ハイバイとヨーロッパ企画の違いは何か感じますか?

川面 劇団員の雰囲気は真逆だなと思います。ハイバイは5人しかいないのにみんなで一緒にいることを嫌うんですが、ヨーロッパ企画は人数が多いのが羨ましいですし、皆さん仲が良い。和気藹々としていますよね。すごいなぁと思います。ハイバイとは全然違いますよ。みんなが脚本書いたり、監督したり、「劇団」って感じだなと思います。完全に憧れます。羨ましい。

--ハイバイの5人も仲が悪いわけではないですよね?(笑)

川面 あまりお互いに興味がないですね(笑)。最近意識改革して、お互いに興味を持つようにはしているんですけれど(笑)。

上田 そうなんですね。僕も見ていて、なんとなく真逆だろうなと思っています。稽古の仕方も絶対そうですね。ハイバイ主宰の岩井秀人さんは緻密な作りですが、僕自身はアドリブ感のある作りだと思います。岩井さんと話していても「全然違うね」って話しています。結構、怒ったりもされるんですよね?

川面 はい、めちゃくちゃ怒ります(笑)。

上田 一点を見つめて突き詰めていくような作り方かなあ、と思っていたんです。僕はコメディということもあり、拡散的にと言いますか、和音的にと言いますか、そういう作り方なので。

--ヨーロッパ企画の『来てけつかるべき新世界』に出演した藤谷理子さんは、先日ハイバイの『ハイバイ、もよおす』に出演されたりして、役者の交流は多いような印象なのですが。

上田 確かにそうなんですよ。急接近です。

川面 ここ数ヶ月で(笑)。

上田 岩井さんについては、もともとは『曲がれ!スプーン』(原作・脚本:上田誠/2009年)という映画に出ていただいたことがきっかけです。今思えば、なんであの作品に?とも思うんですけど(笑)。あれがなかったら我々は、そんなに出会ってなかったかなと思います。

菅原 でも上田さんも岩井さんもゲーム好きですよね。これは揺るぎない共通項ですよ(笑)。芝居の作り方は違うんでしょうが、お互いにできないことをやっている印象があります。棲みわけができていて、お互いが信頼・信用しあっているというか、面白がっているかなと思います。いい関係だなと思います。

東京で公演をする「怖さ」

上田 作家同士なので、僕は結構この人がこれやるんだったら、そうじゃないところに、という縄張り意識はありますね。できるだけニッチなところに行こうというのはあります。岩井さんの作品を見て、これは絶対できないから、そうじゃないことでやるしかないかと思います。例えば、『来てけつかるべき新世界』の前に、ハイバイで、永二さんも出られていた『おとこたち』という作品がありました。そこに、老人がゲームセンターに行く場面があるんです。その反動でというか、たとえば死を書くなら僕だったらこう書こうと思ったりする。ハイバイに限らず、ある劇を見たらそれが基準になって、敢えてそこではない方向へ行こうとします。というのも、僕は京都でずっとやっているので、東京には公演をやりに行く立場で、何かと怖いからなんです。

--怖いんですか?

上田 東京には芝居がたくさんあって、切磋琢磨しあってレベルが高い。僕ら京都の劇団が、年に1回作品を持って行く時に、それなりのインパクトを持っていかないと、「なんで来たん?」となるので、それはすごく意識します。各地域によって、「大阪でやるなら笑いがこれぐらいの強さでいかんと!」と思ったりするんですが、東京でやるときは「演劇界」というのがそこにあるので、格別に意識しますね。

菅原 東京公演が案外長かったりするもんね。

上田 それもありますね。意識するのと真似するのは違うので、わざと違うところで勝負しています。東京はいろんな芸能やエンターテイメントが発達している。そこにはどう逆立ちしても勝てない。京都に限らず、他の土地土地で、そこにしかない栄養素というか養分があるんです。東京から出てくる演劇もあれば、大阪から出てくる演劇もあれば、各地から違う作物が出てきた方が面白いですよね。僕はそう思っています。京都でコメディをこういう形で作るのは割と珍しいかなと思ってやっている部分はありますね。

--川面さんは関西ご出身ですが、どうお感じになりますか?

川面 単純に東京が好きじゃないので、私は関西からの通いをやっています。つくづく思うのは俳優は不利な仕事だよなということ。教師や医師って全国どこでもできるじゃないですか。でも、俳優の場合、演劇ができる環境が東京にばかり集中している。「なんでだよ!」って思いながら東京に行っています(笑)。

上田 珍しいスタンスの取り方ですよね。住むならどこにでも住めるけど、やっぱり役者やるってなるとね。役者に関しては、東京の方が地の利があるよね。

川面 仕事の事情で東京に住む時期もあるんですが、その時は心が荒んでいきます(笑)。

菅原 え、僕は40年以上住んでるよ、東京に(笑)。荒みきって自分の状況がわからないのかもしれない(笑)。でも確かに、久しぶりに京都行ったりしてリフレッシュしている部分はありますね。地方に行くと、のんびりしているというか、東京より忙しくないイメージがあるから。心にゆとりができるんだろうなぁ。

新しいフェーズに入ったヨーロッパ企画

−−今回の『出てこようとしてるトロンプルイユ』の音楽は、元「たま」の滝本晃司さんが担当です。『曲がれ!スプーン』、『建てましにつぐ建てましポルカ』に続く3作目のタッグですね。

上田 僕、「たま」がめちゃくちゃ好きで、小学校の時、ファンクラブに入っていたんですよ。「たま」は解散されたんですけれど、滝本さんの音楽は、僕らのお芝居と掛け算になった時にいい響きがあるなぁと思っているんです。今回は異国情緒が欲しかったこともあり、滝本さんしかいないと思いお願いしました。『建てましにつぐ建てましポルカ』は3次元的な迷路の話だったんですけど、今回の「だまし絵」はそれの4次元版という感じでしょうか。滝本さんには先にイメージをお伝えして作っていただくこともありますし、今回は稽古を観てもらってから、作っていただこうと思っています。

--最後に読者の皆さまへ勧誘のメッセージをお願いします。

川面 11都市を巡ります。これほど多くの地方に行くは初めてなので、土地土地の公演をお客様がどういう感じでご覧になるのか、興味ありますね。テレビを見るような感じでご覧になるのか、生身の人間を見るんだという形で来るのか。……いずれにしましても、多くの方に見てほしいです。

菅原 『建てましにつぐ建てましポルカ』に続く、ヨーロッパ圏の話に(笑)、また呼んでいただいて嬉しいです。前回はすごくスポーツみたいな芝居だったんですね。汗をかいて、なんぼだった。すごく心地よくて、ゴールした後のカーテンコールというイメージがありました。今回もドタバタの舞台?

上田 そうですね。「まったり公演」と思わせといて、実はカロリー消費量が多い。

菅原 その辺を楽しんでいただければ!

上田 ここ最近「企画性コメディ」というものを自分たちで標榜してやってきました。でも、前回の『来てけつかるべき新世界』からちょっと新しいフェーズに入ったんです。前回からローカルのテクスチャー(質感)を意識的に出しています。実際、新世界という場所を取り上げたら、すごく良かったんですよ。仕掛けや構造を考えるのはもともと僕の作業なんですけど、大阪のおっさんを演じるために現地をフィールドワークして……というのは役者と一緒にやれるまた別の作業で、本当に掘り下げ甲斐がありました。今回のだまし絵コメディは、明らかにネタ的な意味での仕掛けも入ってきますけど、フランスの「シュルレアリスムの画壇の……」みたいな当時の匂いも伝えられたらと思います。フランスの香りとバカバカしい笑いを見ていただければなと思います。

取材・文=五月女菜穂

公演情報
ヨーロッパ企画第36回公演『出てこようとしてるトロンプルイユ』
 
■作・演出=上田誠
■音楽=滝本晃司
■出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力 / 金丸慎太郎、川面千晶、木下出、菅原永二
■日程・会場:
【栗東プレビュー公演】2017年9月30日(土) 栗東芸術文化会館さきら 中ホール
【京都公演】2017年10月6日(金)~10月9日(月祝) 京都府立文化芸術会館
【高知公演】2017年10月14日(土)高知県立県民文化ホール グリーンホール
【東京公演】2017年10月20日(金)~10月29日(日)本多劇場
【大阪公演】2017年11月1日(水)~11月8日(水) ABCホール
【愛媛公演】2017年11月11日(土) 松山市民会館 中ホール
【横浜公演】2017年11月16日(木)~11月19日(日)KAAT神奈川芸術劇場(大スタジオ)
【名古屋公演】2017年11月23日(木祝) 愛知県産業労働センター ウインクあいち 2階 大ホール
【広島公演】2017年11月28日(火) JMSアステールプラザ 中ホール
【福岡公演】2017年11月30日(木)~12月1日(金) 西鉄ホール
【四日市公演】2017年12月3日(日) 四日市文化会館 第2ホール
■特設サイト:http://www.europe-kikaku.com/projects/e36/

 
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