ポップスの真髄へと歩みを進めるシンリズム、広がり続けるその音世界で記す“今”
シンリズム 撮影=風間大洋
シンリズム 2nd Tour「Have Fun」 2017.8.22 代官山UNIT
優れたポップスを生み出すためには、様々な条件が必要になる。まずは音楽に対する知識。パンクロック的な衝動だけでは、質の高いポップスは絶対に生まれない(もちろんパンクロックを揶揄しているわけではありません)。その知識を体系的に捉え、独自の視点から再構築することも求められる。当然、アレンジ、サウンドメイクは高度になるので、それを表現するテクニックも必要。さらに楽曲に込められた知識、技術などを前面に出さず、誰が聴いても「いい曲だな。楽しいな」と感じさせる間口の広さも大事――つまりはとんでもなくハードルが高いわけだが、10年に1度くらいのペースで“ポップスのマナー”を自然と身に付けたアーティストが現れる。シンリズムはまちがいなく、そういうアーティストのひとり。2ndアルバム『Have Fun』を引っ提げたワンマンライブ(8月22日/代官山UNIT)で彼は、そのことを改めて証明した。
会場に入るとフォクシジェン「How Can You Really」、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード「The River」などのインディー/オルタナティブ系の楽曲が聴こえてくる。そのセンスの良さに感じ入っているうちに(彼はいまも新しいポップミュージックを求め続けている)、ライブはスタート。心地よいファンクネスを備えたSEとともにバンドメンバーとシンリズムが登場、軽やかなギターカッティングから始まるグル―ヴィーなポップナンバー「彼女のカメラ」を披露する。さらに洗練されたメロディラインが印象的な「春の紅」、軽快なポップサウンドから一転、後半ではサイケデリックなムードが広がる「Pure」とアルバム『Have Fun』の収録曲が続く。凄腕のバンドメンバー(Key:高野勲/Dr:小松シゲル(NONA REEVES)/フジイケンジ(The Birthday)/Ba:酒井由里絵/Per,Tp:西岡ヒデロー(Conguero Tres Hoofers))による質の高いサウンドも素晴らしいが、特筆すべきはシンリズム自身がバンドの軸をしっかりと担っていたこと。正確なギターカッティングでバンド全体を引っ張る姿からは、デビューから2年が経ち、二十歳になった彼の成長ぶりが感じられた。MCは相変わらずちょっとたどたどしいが、そこは愛嬌ということで。
フジイケンジ
シンリズムがソウルフルな鍵盤を弾き、フジイケンジのスライドギターが響き渡ったロックナンバー「ATTACK!ATTACK!ATTACK」――「初めてやりましたけど、この曲いいですね! フェスとかでもやっていこうかな」というコメント通り、この楽曲は今後のライブの大きなポイントになると思う――の後は、ふたつの新曲が演奏された。まずはオーガニックな音響と抒情的なメロディラインが溶け合うポップナンバー。もう一方では、レゲエ/ダブのテイストを反映させたリズムの中に、どこか物憂げなボーカルとディレイがかかったトランペットの音色が広がる。『NEW RHYTHM』『Have Fun』という2枚のアルバムで驚異的なポップセンスを示したシンリズムだが、この2曲を聴くと、彼の音楽の世界が今も広がり続けていることがはっきりと感じられた。本当に末恐ろしいポップクリエイターである。
酒井由里絵
オルタナティブ経由のギターサウンド、変則的なリズム、「お前の汚い部分を見せろよ」というリリックがぶつかり合う「遊びロック」を挟み、ライブは後半へ。ゲストボーカルの宮崎朝子(SHISHAMO)が登場し、デュエットソング「ショートヘア」が披露される。アルバム『Have Fun』に関するインタビューで彼は「ヒデとロザンナとかカーペンターズを聴く機会があって、男女ボーカルの曲を作ってみようと思ったんです。女性目線の歌詞を書くのは初めてだったので、すごくおもしろかったですね」と語っていたが、緻密なコード進行と徹底的にソフィスティケイトされたメロディ、長い髪を切ろうとする女性と美容師を主人公にした歌詞をバランスよく共存させたこの曲には、シンリズムのソングライティング/サウンドメイクの(現時点における)粋が極められていると言っても過言ではない。大人の女性像を描き出す宮崎のボーカルも素敵だった。
SHISHAMO・宮崎朝子
シンリズム / 宮崎朝子
シンリズムがベースを弾いた(上手い!)ネオアコ系のナンバー「ラジオネームが読まれたら」、心地よいファンクネスを軸にしたサウンドと“ラララ~”というコーラスが溶け合う「FUN!」、そして本編ラストは音楽のポジティブなパワーをテーマにしたアッパーチューン「Music Life」。バンドメンバーもさらにテンションを上げ、観客の体をしっかりと揺らす。優れたポップセンスだけではなく、バンドと一体となった高揚感を体感できたことも、このライブにおける大きな収穫だったと思う。
SHISHAMO・宮崎朝子
アンコールの1曲目はアコースティックギターの弾き語りによる「長く続く道」。<荷物を持ち踏みしめる都会の地/僕はもう覚悟を決めたんだ>というフレーズを丁寧に紡ぎ出し、豊かな感動へとつなげる。「セカンドアルバム自体、高校を卒業して、大学に入った時期に作ったアルバムで。そのときに自分が思っていることを入れたいなと思っていたんですけど、『長く続く道』はいちばん“自分”という曲です」という言葉も強く心に残った。
さらにバンドメンバーと宮崎朝子が再びステージに登場、「心理の森」を華やかに演奏し、ライブはエンディングを迎えた。今年7月に二十歳になったばかりのシンリズム。ポップアーティストとしてのその類まれな才能はこの瞬間も進化を続けている――そのことをリアルに実感できる意義深いライブだった。
取材・文=森朋之
2. 春の虹
3. Pure
4. 話をしよう
5. 放人主義
6. ATTACK! ATTACK! ATTACK!
7. 新曲
8. 新曲
9. 遊びロック
10. ショートヘア
11. superfine
12. ラジオネームが読まれたら
13. FUN!
14. Music Life
[ENCORE]
15. 長く続く道
16. 心理の森