奈良の風景を巻き込んだ維新派野外劇『トワイライト』レポート。

レポート
舞台
2015.9.23
 撮影:井上嘉和

撮影:井上嘉和

「ソコハドコデスカ」と問いかける、虚構の地図が広がる世界。

瀬戸内の小島から都心のエアースポットのような屋上まで、世界から忘れられたような場所を見つけてきては、その空間を生かしたダイナミックな野外劇を上演してきた、大阪の劇団「維新派」。今年彼らが会場に選んだのは、古代の空気をまとった奈良県の山間にあるグラウンドだった。その公演の模様を、現地の観光案内なども交えながらレポートします。

一番の最寄り駅からでも、バスで1時間近くかかる山奥にある曽爾村。本作のメインビジュアルの撮影地・曽爾高原などの名所が多く、奈良県民にとっては林間学校の定番の村だそう。公演期間中の曽爾高原は、まだ穂が開ききってないピンク色のススキが広がり、まるでお花畑のような風景となっていました。この近くには、温泉ランキングで中日本エリア(静岡~島根)No.1を獲得したこともある名湯「お亀の湯」や、レストランや地ビール「曽爾高原ビール」(維新派の屋台村でも販売)の工場などを備えた「曽爾高原ファームガーデン」などの施設も。ただこのエリアは、維新派の会場からは結構離れているので、上演前に訪れるなら時間配分と足の確保には注意しておきましょう。

さてお話は維新派の方に。公演会場となるグラウンド「曽爾村健民運動場」は、山の中腹から突き出たような所にあり、ちょっと天空の城めいた雰囲気です。背後には鎧岳や兜岳など、ユニークな形状の岩山がそびえています。この雰囲気に合わせてか、名物の屋台村も今回は2階建ての山小屋風。すっかり名物となったモンゴルパンなどの無国籍風の料理や飲み物が並び、開演前後には日替わりミュージシャンによるライブも開催されます。

太陽は見えなくなったものの、まだ薄明が残る時間に舞台は開演。内橋和久の音楽&生演奏に乗せて、白塗りの役者たちがリズミカルに言葉を発していきながら、グラウンドを駆けめぐります。そこに現れたのは、2013年の犬島公演『MAREBITO』にも登場した少年ワタル。犬島から旅を続け、今は曽爾村にやってきたことが、母親宛の手紙を読み上げる形で語られます。彼はこの地でハルという腕白な子と出会い、お互い地図と旅が好きというつながりで仲良くなっていきます。が、そこに大人になったワタルも現れて、この物語が少年ワタルがリアルタイムで体験していることなのか、大人のワタルが思い出している風景なのか、幻惑されるような世界が繰り広げられていきます。

撮影:井上嘉和

撮影:井上嘉和

前回の『透視図』は大阪の風景論に終始していた維新派だけど、今回はどちらかというと人間にスポットを当てたという印象。特に「何時何分何秒何曜、地球が何回回った時」「ゲロゲロ」「ぶらぶらソーセージ」など、誰もが子ども時代に一度は言ったような、幼児的なはやし言葉や悪口雑言が飛び交うのが耳に残ります。時にみんなで無邪気に遊んだかと思うと、次の瞬間には小突きあいが始まり、かと思えば一致団結して「普通じゃない子」をのけ者にする…。自分の子ども時代と重ね合わせて微笑ましくなったり、あるいは思い出したくなかった思い出が急浮上して、少し胸が痛くなる時もありました。

撮影:井上嘉和

撮影:井上嘉和

この世界を描いていく上で、大きなキーアイテムになったのが「地図」です。公演前のインタビューで、構成・演出の松本雄吉が「様々な地図を、役者の身体を使ってお客さんに幻視してもらおうと思う」と語った通り、地図が各シーンで重要な役割を果たしています。と言っても具体的な地図が現れるのではなく、役者が舞台上に点として立つことで、観客がそこに日本地図や世界地図のラインを頭に思い描く…というように、なかなか想像力を試されるような見せ方です。しかしただこれだけでも、この地上には様々な場所があり、そこには多種多様な人たちが生活していて、自分たちはその中の点でしかない…もしかしたら点ですらないかもしれないとまで考えさせられました。さらにはその地図が天空にまで広がっていると思わせるような、今回最も大きな舞台装置が登場するシーンは、その美しさと急激な距離感の変化に目を見張るばかりでした。

撮影:井上嘉和

撮影:井上嘉和

このグラウンドの広さを生かした様々な風景美と、出会いと別れの切なさを感じさせるストーリーに心を鷲づかみにされる。その一方で、いろいろな状況が激しく変化していく現代、私たちは今地図上のどこに立っているのか、そして「地球が何回回った時」にいるのか…ということにも思いをめぐらせることになる。これまでの維新派スタイルでありながらも、どこか今までの公演とは違ったビター&スイートな後味が残る世界。遠い未来に維新派の歴史を振り返った時に、伝説的な公演の一つとして語られるものになりそうな予感がしたのでした。今からでもチケットを取れる日はあるそうなので、ぜひ曽爾村まで旅行がてら観に行ってみてください。

撮影:井上嘉和

撮影:井上嘉和

 
イベント情報
維新派『トワイライト』

日時:9月27日(日)まで
会場:曽爾村健民運動場(奈良県宇陀郡曽爾村大字今井862)
構成・演出:松本雄吉
音楽・演奏:内橋和久
「トワイライト」公演特設サイト:http://ishinha.com/SP2015/
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