『ヌード展』にこめられた、英国テートの意欲的な挑戦 記者発表会をレポート
(左から)ブリティッシュ・カウンシル駐日代表英国大使館文化参事官 マット・バーニー氏、横浜美術館館長 逢坂恵理子氏、テート国際巡回展責任者 ダニエル・スレーター氏、読売新聞東京本社取締役事業局長 福士千恵子氏
芸術家にとって、ヌードはとても身近であると同時に、時に批判や論争を巻き起こしてきた題材だ。そのヌードを大胆にテーマに据えた展覧会が、世界で注目されている。英国を代表する西洋近現代美術の殿堂であるテート・コレクションを中心に、至高のヌード作品約130点が一堂に会する国際巡回展『ヌード NUDE ―英国テート・コレクションより』が、2018年3月より横浜美術館にて開催されることが決まった。その記者発表会より、注目の展覧会のみどころと主催者のメッセージをお伝えする。
西洋芸術家たちの「ヌード」への挑戦を追う
2016年11月シドニーではじまり、オークランド、ソウルを巡ってきた本展。世界でもヌードをテーマにした大規模な展示は前例がなく、また昨今のジェンダーへの関心の高まりもあり、多くの話題と反響を呼んでいる。
本展は、美の象徴、愛の表現、また内面を映し出す表象であるヌードという永遠のテーマに挑戦し続けてきた芸術家たちの軌跡を、ヴィクトリア朝から現代まで200年に渡って辿るものだ。世界屈指の西洋近現代美術コレクションを誇る英国テートから絵画、彫刻、版画、写真など約120点が来日し、横浜美術館所蔵の作品約10点を加えて、合計約130点が出展される。
本展は「1:物語とヌード」「2:親密な眼差し」「3:モダン・ヌード」「4:エロティック・ヌード」「5:レアリスムとシュルレアリスム」「6:肉体を捉える筆触」「7:身体の政治性」「8:儚き身体」の8つのセクションにまとめられ、時代とともに変化してきたヌード作品の歴史を丁寧に紐解く展示構成となっている。
アンリ・マティス 《布をまとう裸婦》 1936年 油彩/カンヴァス 45.7×37.5cm Tate: Purchased 1959, image © Tate, London 2017
日本初公開! ロダンの大理石彫刻《接吻》
ヌードの傑作が集結する本展の中でも、特に注目すべきは日本初公開となるロダンの大理石彫刻《接吻》。不倫を題材にしつつも男女の純粋な情熱を表現した、理想的な裸体表現の傑作だ。
オーギュスト・ロダン 《接吻》 1901‐4年 ペンテリコン大理石 182.2×121.9×153cm Tate: Purchased with assistance from the Art Fund and public contributions 1953, image © Tate, London 2017
ブロンズ像で広く知られる《接吻》だが、等身大を超える迫力ある大理石彫刻は世界で3体のみ。中でもギリシアのペンテリコン大理石を用いたテート所蔵の本作は、3体の中でも最も美しいと言われているそう。白く輝くとろけるような美しい肌合いを、ぜひともこの機会に目の前で観てみたい。
大理石の本作は1913年イギリスでの公開当初、不倫を扱ったうえに若者たちには刺激が強すぎると騒ぎになり、シーツで覆い隠されてしまったとのこと。ちなみに、1924年に日本で初公開されたブロンズ像の《接吻》も、同じく囲いが作られるほどスキャンダラスに扱われたとか。
ボナール、ターナー、ホックニー等、英国テートの豪華な顔ぶれ
ロダンの他にも、出展される作品の作者は大変豪華な顔ぶれとなる。神話を題材としたフレデリック・ロード・レイトン、画家とモデルの親密な室内空間を描いたボナール、ルノワール、マティス、身体の造形的なアプローチに彫刻で挑んだヘンリー・ムーア、ベッドルームの男女をスケッチしたターナー、同性愛を描いたホックニー、人種や性に言及したバークレー・L・ヘンドリックス。
その他にもテートが誇る至高のヌード作品ばかりが一堂に会するとあり、その表現の多様性や、作家性のつながりが見えてくる面白さもあるようだ。また、男女両方の作家作品を並べることで、見る側と見られる側が逆転するような瞬間もあるというので興味深い。
フレデリック・ロード・レイトン 《プシュケの水浴》 1890年発表 油彩/カンヴァス 189.2 × 62.2cm Tate: Presented by the Trustees of the Chantrey Bequest 1890, image © Tate, London 2017
ピエール・ボナール 《浴室》 1925年 油彩/カンヴァス 86×120.6cm Tate: Presented by Lord Ivor Spencer Churchill through the Contemporary Art Society 1930, image© Tate, London 2017
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 《ベッドに横たわるスイス人の裸の少女とその相手》「スイス人物」スケッチブックより 1802年 黒鉛、水彩/紙 16.3×19.8cm Tate: Accepted by the nation as part of the Turner Bequest 1856, image © Tate, London 2017
デイヴィッド・ホックニー 《23, 4歳のふたりの男子》C.P. カヴァフィスの14編の詩のための挿絵より 1966年エッチング、アクアチント/紙 34.5×22.3cm Tate: Purchased 1992 ⓒ David Hockney
バークレー・L・ヘンドリックス 《ファミリー・ジュールス:NNN[ノー・ネイキッド・ニガー(裸の黒人は存在しない)]》1974年 油彩/麻布 168.1×183.2cmLent by the American Fund for the Tate Gallery, courtesy of the NorthAmerican Acquisitions Committee 2011, image © Tate, London 2017, ©Estate of Barkley L. Hendricks. Courtesy ofJack Shainman Gallery, New York.
英国テートのミッション、本展へかける想いとは
さて、ここで本展を主催する英国テートについておさらいしておこう。そもそもテートとは、大英博物館、ナショナル・ギャラリーと並ぶ、英国を代表する国立美術館のひとつ。1500年から現代までの英国美術を展示するテート・ブリテン、国内外の近現代芸術を展示するテート・モダン、テート・リバプール、テート・セント・アイヴスの4つの施設から成り、約7万点の所蔵品を誇る。4つの施設の年間来場者の合計は約660万人にものぼる。
最高レベルの所蔵品を誇り世界中から多くの人が集まるテートが、国際巡回展に力を入れる理由について、テート国際巡回展責任者ダニエル・スレーター氏は次のように語った。
「テートのミッションは、ナショナル・コレクションを守り、そして広めていくことです。約7万点のコレクションの中から、年間数千点を国内外に積極的に貸し出しています。今回の展覧会で約120点がイギリスから海外へ持ち出されますが、これはおよそ10年ぶりのこと。また、異なる時代の作品やイギリス国内外の作品が同じ展示空間に並べられるのも、国内では実現できないことなのです。テートは海外にフランチャイズを持ちたいのではなく、国際的なパートナーシップを結ぼうとしています。その国のパートナーと一緒に展覧会を作っていきたいのです」。
また、本展のみどころについてはこう話す。「特に強調したいのは<エロティック・ヌード>の章です。様々な制約のある時代にも新たな挑戦をしてきた芸術家たちの作品からは、現代の私たちに向けられた重要なメッセージを受け取ることができるでしょう」。
テート国際巡回展責任者 ダニエル・スレーター氏
本展の会場となる横浜美術館で、テート・コレクションを迎えるのは実に20年ぶりとなる。20年前にはコレクションを幅広く紹介する内容だったというが、今回はテーマを「ヌード」に絞っており、同館にとっても全く新しい試みとなる。
誰にとっても身近でありながら様々な意味を内包する「ヌード」というテーマは、芸術作品を通すことで多面的なアプローチで現代の私たちに人間の在り方を問いかけてくるだろう。来年3月の公開で、日本に何か新たなムーブメントが起こりそうだ。
会期:2018年3月24日(土)〜6月24日(日)
休館日:木曜日、5月7日日(月)
*ただし5月3日(木・祝)は開館
開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
会場:横浜美術館
主催:横浜美術館、読売新聞社、テート
後援:ブリティッシュ・カウンシル、J-WAVE
観覧料:一般1,600円(1,400/1,500)、大学・専門学校生1,200円(1,000/1,100)、中学・高校生600円(400/500)
*小学生以下無料
*( )内は前売および有料20名以上の団体料金