白井晃インタビュー 性の変換を逆手にとって魂の普遍性を表現するヴァージニア・ウルフの『オーランドー』間もなく開幕! 

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2017.9.17

白井晃演出による『オーランドー』の日本初演が、9月23日初日のKAAT神奈川芸術劇場を皮切りに、松本、兵庫で公演、そののち新国立劇場 中劇場で上演される。

この作品は20世紀モダニズム文学の重鎮で、最も有名な女流作家のひとりであるヴァージニア・ウルフの代表作を、アメリカの劇作家サラ・ルールが翻案。青年から艶やかな女性に変身し、16世紀から20世紀まで400年にわたって生きたオーランドーを、現代に甦らせる。

【あらすじ】

16世紀のイングランドに生を受けた少年貴族オーランドーは、エリザベス女王をはじめ、あらゆる女性を虜にする美貌の持ち主。しかし初めて恋に落ちたロシアの美姫サーシャには手ひどくフラれてしまう。傷心のオーランドーはトルコに渡る。その地で30歳を迎えた彼は、なんと一夜にして艶やかな女性に変身! オーランドーは18世紀、19世紀と時を超えて生き続け、またもや運命の人に会い、それから……。

女性を虜にする美貌の青年貴族・オーランドー役に多部未華子、エリザベス女王に小日向文世、そのほか小芝風花、戸次重幸、池田鉄洋、野間口徹という、たった6名の俳優で奇想天外なストーリーを演じる。この異色作について、演出の白井晃に語ってもらった「えんぶ10月号」のインタビューを別バージョンの写真とともにご紹介。

長い時間の中に空想を巡らせた伝記物語

──この戯曲を上演しようと思った動機から伺いたいのですが。

20世紀初めの近代古典と呼ばれる戯曲、それをもう一度読み直して上演する作業を、KAATで継続してきたわけですが、今回の『オーランドー』もその1つで、作者のヴァージニア・ウルフは、ちょっと幻想的な小説を書く人として、興味はありました。そして、この作品をアメリカの翻訳・脚本家のサラ・ルールが翻案していると知り、その脚本を読んだところ、非常に演劇的な仕掛けになっている。そこで舞台として立ち上げていくのも面白いだろうなと。それから、ヴァージニア・ウルフが生きた時代は、ジェンダーの意識が大きく変遷しようとしていた時期で、その中で女性とか男性とか、そういう社会の枠組みから抜けたところで生きていく1人の人間を描こうとしている。そこに興味を持ちました。

──オーランドーは性が入れ替わることで、恋愛や政治を複眼的に見られるようになりますね。ヴァージニア・ウルフも当時としては自由な生き方をしていた女性ですが、それでもヴィクトリア朝から続く時代の息苦しさへの抵抗もあったのでしょうか。

それはあったと思います。彼女がこの作品を書いた動機の1つは、かつて恋人であった女性ヴィタ・サックヴィルの存在があって、ヴィタを1つのモデルにして、2人がこの時代に巡り会ったことの意味、そして人間の魂について、300年とか400年の時間の中で空想を巡らせて書いた、ある意味、空想的な伝記物語でもあるんです。ですから、今回の上演でも、ジェンダー論をとくに課題にはしないつもりですし、むしろ性の変換を逆手にとって、1人の400年生きた人物が、男になったり女になったりしたけれど、その魂は普遍だというようなことが描ければいいかなと思っています。

──原作と翻案ではラストが違っていますね。そこはどんなふうに捉えていますか?

原作のラストでは、オーランドーは結婚して幸せに生きてますが、それは同性愛者であるとともに結婚もしていたヴィタへの、ウルフの愛に満ちた肯定だったと思うんです。もちろん自分への肯定でもあったと思いますが。サラ・ルールの脚本は、その先にある人間そのものの孤独を感じさせるラストで、そこに現代の作家であるサラ・ルールさん自身が投影されているのを感じます。

ウルフもきっとクスクス笑いながら

──キャストはたった6人で、色々な役を演じるのですね。

これぐらい力のある方たちでないと難しい戯曲で、本当に面白い俳優さんが揃いました。コーラスというコロス的な役割も、全部この方々でやります。皆さん大変ですが、僕としてはほぼ最小限の人数だからこその自由さ、面白さを出したいと思っています。かなり荒唐無稽な物語なのですが、最近の演劇は、そういうものが少なくなっているような気がするので、とんでもないところからスタートした大きなフィクションの中に、人間の存在のリアリティみたいなものが見えてくる、そんな作品を作ってみたいと思っていたところなので。

──戯曲は詩的な言葉で綴られていますが、ブラックなユーモアもあって、遊びが沢山入っていますね。

この作品が本来持っている、「コミカルかつ詩情豊かに出していく」というところが、なかなかハードルが高いのですが。ウルフはこの作品を結構クスクス笑いながら書いている気がします。「というわけで、ここで私は伝記作家としては、こんなことまで言及していいのかわからないけれども」とか、原作ではくだらないことを書く言い訳みたいなことをいっぱい書いてて。いっぱい書いた上で、そのまま次に行ってしまうとか(笑)。だいたい300年も生きた人間なんかいないわけで、そういう体裁を作りながら、でも、人間の存在とはなんだろうとか、何故人は言葉を残そうとするのだろうとか、そういうことを考えさせてくれるので、そこをうまく浮き彫りにさせていきたいと思っています。

 
しらいあきら○京都府出身。早稲田大学卒業後、83年~02年まで遊◉機械/全自動シアターを主宰。現在は、演出家として作品を発表する一方、俳優としても舞台・映像ともに活躍中。第9回、第10回、読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。平成17年度湯浅芳子賞(脚本部門)受賞。2016年4月よりKAAT神奈川芸術劇場芸術監督に就任。最近の舞台作品は『春のめざめ』ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』『マハゴニー市の興亡』『レディエント・バーミン』、『No.9-不滅の旋律-』『ペール・ギュント』『マーキュリー・ファー』(以上すべて演出)、『夢の劇-ドリーム・プレイ-』(演出・出演)など。
 

【文/宮田華子 撮影/岩村美佳】

公演情報
KAAT×PARCOプロデュース​『オーランドー』

【神奈川公演】
日程:2017年9月23日(土・祝)~2017年10月9日(月・祝)
会場:KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
【兵庫公演】
日程:2017年10月21日(土)~10月22日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
【東京公演】
日程:2017年10月26日(木)~10月29日(日)
会場:新国立劇場 中劇場

■原作:ヴァージニア・ウルフ
■翻案・脚本:サラ・ルール
■演出:白井晃
■翻訳:小田島恒志・小田島則子
■出演:多部未華子 小芝風花 戸次重幸 池田鉄洋 野間口徹 小日向文世
■演奏:林正樹 相川瞳 鈴木広志


■公式サイト:http://www.parco-play.com/web/play/orlando/

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