『安藤忠雄展ー挑戦ー』をレポート 自然や人のあわいに立ち上がる建築たち
9月27日より国立新美術館にて、日本の建築界を代表する安藤忠雄の展覧会が開催中だ。これまでも個人住宅から美術館や商業施設に至るまで様々な設計を行い、日本の風景をかたちづくってきた安藤忠雄。40年以上におよぶ活動を振り返ると同時に、さらなる「挑戦」の意を示すこととなった本展をレポートする。
素人からの挑戦
1941年、大阪府に生まれた安藤は、1950年代に同じく大阪を拠点に活動していた具体美術協会と出会い、「人のまねをするな」という理念に大きな刺激を受けて独学で建築を学んでいく。一時はプロボクサーでもあったという異色の経歴を持つ安藤だが、28歳から4年間世界を旅するなかでその場の環境との調和の中で生き抜いていく“ゲリラ”的な生き方を志向するようになる。帰国後は設計事務所を設立し、個人住宅を多く手がけた。
そして1975年、大阪府の下町の三軒長屋の中央をコンクリートの住宅へと立て替えた《住吉の長屋》によって高い評価を受けることになる。「極小の敷地に建つ住居での生活に本当に必要なものは何か」が考えられた、下町の路地に凛と佇むコンクリートの住宅には、都市で呼吸するための中庭が大胆に建物中央に配置されている。
アカデミックな建築の知識による設計ではなく、その環境に準じた建築の在り方を見出す安藤建築のはじまりといえる代表作だ。
住吉の長屋,1976年,大阪府大阪市 撮影:新建築社 写真部
住吉の長屋(大阪市) 模型
日本人にとっての建築
このように独自の視点で建築の本質を見つめていく安藤建築は明確な世界観を体現しながらも、まるで周辺環境と解け合うかのように心地よい空間を生み出している。それは、単にクライアントの要望を満たす物理空間ではなく、あらゆる関係の中で建築を思考する一貫した姿勢があるからだ。「人工と自然、個人と社会、現在と過去といった多様な事象のあいだにあるものが建築だ」と語っていることからも、その思想を伺いしることができる。
本展においては「原点/住まい」「光」「余白の空間」「場所を読む」「あるものを生かしてないものをつくる」「育てる」という6つのセクションでその本質に迫ろうとしている。
はじめに鑑賞者を出迎えるのは、世界を放浪している時のスケッチや旅の記録だ。そこに記されている街角の風景や人々の喧噪はまるで独学時代の安藤の記憶を追体験するようでもある。
後半のセクションに向かうにつれて大きく広がる展示室で、模型、スケッチ、図面など豊富な資料で建築が立ち上がるプロセスを見ることができる。
会場の中央では長い年月をかけて取り組む直島での一連のプロジェクトをインスタレーションで展示。直島という環境で安藤建築がどのように自然やそこに住まう人々と関わりを生み出していくのか、想像が膨らんでいく。
直島 ベネッセハウス オーバル,1995年,香川県直島町 撮影:藤塚光政
こうして数々の作品を見ていくと、そこには建築を通して周囲の環境や社会状況、そこに住まう人など「日本」の景色が立ち現れてくるように感じる。
《光の教会》を原寸大で再現
本展の中でも特に注目なのは、1989年に大阪府につくられた《光の教会》を美術館の野外展示場に原寸大で再現されていることだろう。建築費はもちろん、法的な申請など展示室を飛び出して実現される本作にはタイトルにもある「挑戦」という安藤の意欲が伺える。
光の教会,1989年,大阪府茨木市 撮影:松岡満男
安藤建築が体感できる会場構成
さらに注目したいのは、会場全体が安藤建築を体現する空間になっているということだ。各セクションを繋ぐ導線上には美しい光が漏れていたり、長い通路を抜けると現れる広場のような展示室があったりと、あらゆる工夫が施されている。身体的な感覚が活き活きと動き出す空間は安藤建築のテーマそのものだ。
目の前のディテールに目を凝らすだけでなく、ゆっくりと会場全体を見渡すと見えて来る人々と建築空間の関係性は是非体験してもらいたい。
さらなる挑戦
40年以上にわたり建築と向き合い続ける安藤が手がけてきた中から89のプロジェクトが展示され、その資料や模型は270点余に及ぶ本展。記者を前に「人間も建築も長く生きるにはメンテナンスが必要不可欠。美術館という場でも好奇心のメンテナンスが必要」だと語る安藤からは、建築が生み出す人や環境との関わりへの愛情が溢れていた。
丁寧に紹介される過去のプロジェクトや美術館を飛び出して再現される建築、そして建設を予定する新たな試みなど常に変化する自然や都市、社会や私たち自身を深く見つめる安藤忠雄の挑戦はこれからも続いていく。
日 時:2017年9月27日(水)〜12月18日(月)
休館日:毎週火曜日
時 間:10時〜18時 金曜日・土曜日は20時まで
会 場:国立新美術館 企画展示会1E+野外展示場
http://www.tadao-ando.com/exhibition2017/