野田秀樹×K・ハンター×G・プリチャード 『「表に出ろいっ!」英語版”One Green Bottle”』ゲネプロレポート、吹替に大竹しのぶ&阿部サダヲ

レポート
舞台
2017.10.30
 (撮影:篠山紀信)

(撮影:篠山紀信)


野田秀樹による9年ぶりの英語版最新作『「表に出ろいっ!」English version ”One Green Bottle”』が、東京芸術劇場にて上演される。プレビュー公演(29・31日)、本公演(11月1日~19日)に先駆けて行われたゲネプロ(総通し稽古)の模様を紹介する。

三人家族のコミカルな狂気

舞台『表へ出ろいっ!』は、2010年に野田地図(NODA・MAP)の番外公演として初演された。<父親>役に十八世中村勘三郎を迎え、<母親>を野田秀樹が、<娘>を黒木華と太田緑ロランス(Wキャスト)が演じ、カラフルな舞台に描かれたコミカルな狂気が伝説となった。

今回上演されるのは、その英語版だ。上演台本を手掛けるのは、イギリス本国でも注目の気鋭の劇作家ウィル・シャープ。キャストは、英国より『THE BEE』『THE DIVER』でも共演したキャサリン・ハンターグリン・プリチャードが再び野田秀樹のもとに結集。初演に続き、<母親>を野田、<父親>を女優であるハンターが、<娘>を男優であるプリチャードが演じる。台詞は基本的に英語だが、貸し出されるイヤホンガイドの日本語吹替えがあるので安心。吹替えも豪華で、野田は自身の役の吹替えを担当。父親(キャサリン・ハンター)を大竹しのぶ、娘(グリン・プリチャード)を阿部サダヲが担当。舞台でも吹替でもキャスト全員が、ジェンダーを入れ替えた役を務めている。

上演中は、田中傳左衛門による生演奏があり、舞台は堀尾幸男。この一流ぞろいの布陣で描くのは、くだらないことから始まる、全力の家族喧嘩だ。

以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。

一流の布陣で全力の悪ふざけ

ステージ上には、レトロなテレビとちゃぶ台。会場全体が能舞台を模した造りとなっており、中央の本舞台(ただし歪な四角形)を二方向から客席が囲む。本舞台の下手には、舞台袖に向けて橋(能舞台なら、橋掛かり)が伸び、劇中では玄関へ続く廊下となる。ここは“ワールドクラス”の能楽師の自宅。上手よりスッと登場したのは黒紋付の田中傳左衞門。生演奏の鼓と「伊勢物語」の唄で物語が始まる。不吉なニュースが断片的に流れると、廊下から厳かに<父親>が登場する。照明がついて初めて気がつくのは、壁に施された絢爛たる装飾だ。揚幕や定式幕を思い起こさせるストライプだ。

<あらすじ> 父、母、娘の3人家族の物語。その夜、三人はそれぞれ絶対に外出しなくてはならない理由があった。しかし、愛犬プリンスが出産間近とあり誰かが家に残り、面倒を見なくてはならない。父として、そして伝統芸能嘘、裏切り、あの手この手を使って、それぞれが他の二人をあざむき、なんとか家を抜け出そうとする。やがてそれぞれの「信じるもの」が明らかにされ、互いの中傷、非難、不寛容が、事態を思わぬ方向へと導いていく……。


ゲネプロでは、英語を母国語としている方々が数多く見学していた。英ローレンス・オリヴィエ賞を受賞している大女優のハンターが、磯野波平ばりのヅラで登場。それだけで思わず吹き出しそうになるが、この日の客席は本物の能を観るかのように真剣な表情。さらにサザエさんのようなヘアスタイルの野田が飛び出してきても、大きなリアクションは見られなかった。思い起こせば2010年版では、勘三郎がカラフルな舞台で舞を披露するだけでクスクスと笑いが起き、野田が飛び出してきただけで会場が盛り上がった。客層が違えば笑いどころも違う。グローバルな客層だと、ゲネプロとはいえ終始この真面目な雰囲気なのだろうか。一瞬不安がよぎったが、それは余計な心配だった。

(撮影:篠山紀信)

(撮影:篠山紀信)

野田が演じる<母親>には、この日、どうしても行きたいアイドルのコンサートがある。そのアイドルへの愛を訴える場面では、野田の力づくともいえるパワフルでハイテンションな演技が笑いを起こし、客席の空気を変えた。キャサリン・ハンターの<父親>が電話に出るたび、自ら“ワールドクラスの”と付けて名乗れば何度でも笑いが起きる。ここぞという場面での大仰な台詞回しはまるでシェークスピア劇。常にクスクスを誘う。グリン・プリチャードが演じる<娘>は、パープルのロングヘアに、ミニスカート。SFとゴスロリを足して割ったような装いだ。エキセントリックな見た目にも関わらず、両親へのツッコミは鋭く真っ当。スマホを手放さない今どきの若い女の子を、オネエではなく10代の少女として演じ、安定した笑いを誘っていた。

吹替の大竹しのぶと阿部サダヲは、舞台上の野田、ハンター、プリチャードを邪魔することなく、いかにもイヤホンガイドらしい淡々とした口調で語り続ける。その平坦な語りの中にも時折、大竹の声に仰々しさが滲んだり、抑えめの阿部の声にも狂信的なトーンに混ざったりする。この贅沢な吹替えを集中して聴くためだけにでも、もう一度観劇したくなる。

(撮影:篠山紀信)

(撮影:篠山紀信)

メイド・イン・ジャパンの要素も満載

本作は海外公演を見据え作られており、全体を通して外国人が好みそうな要素、外国人の目にもメイド・イン・ジャパンの舞台だと気づいてもらえそうな要素が満載だ。たとえば、揉みあうシーンでは歌舞伎のような演出もある。生の附け打ちとともにスローモーションで動いたり、絵面の見得をきってみせたりする。ハンターは器械体操のような海老反りまでしてみせた。会場からは、笑いとともに拍手が沸いた。

ハンターの身体が驚くほど柔らかいのをみて、2010年の日本版の勘三郎に「伝統芸能の役者は体が硬いんだ」といった台詞があったことを思い出す。一般的な再演ならば、そこで勘三郎が演じた<父親>と今回の<父親>を比べてしまうものかもしれない。しかしハンターは、国籍も言葉も性別も違う。イメージがダブらないおかげで、上演中は純粋に今作楽しみ、観劇後は懐かしさとともに前作を思い出すことができた。

もうひとつ海外向けだと感じられたのは、後半の展開だ。タイトルとなる『One Green Bottle』も絡ませつつ、日本版以上の急角度で如何ともしがたい状況に陥っていく。グローバルな客層のゲネプロでは、その展開も喜ばれている様子で純日本人の感覚ではその反応が新鮮だった。しかしクライマックスには、一様に固唾をのんで舞台を見守った。

上演回数を重ねるほどに、3人の掛け合いによるグルーブ感が強まっていくであろう作品だ。一流のキャストが、ドタバタの末の狂気を力技でみせる約80分。『「表に出ろいっ!」English version ”One Green Bottle”』は東京芸術劇場にて、11月19日(日)までの上演だ。

(撮影:篠山紀信)

(撮影:篠山紀信)

取材・文=塚田史香

公演情報
『One Green Bottle』
~「表に出ろいっ!」English version ~

 
■作・演出:野田秀樹
■英語翻案:ウィル・シャープ
■作調・演奏:田中傳左衛門
■キャスト:父/キャサリン・ハンター 娘/グリン・プリチャード 母/野田秀樹
■日本語吹き替えキャスト:父/大竹しのぶ 娘/阿部サダヲ 母/野田秀樹
※英語上演・イヤホンガイド(日本語吹き替え)付

 
■日程:2017年11月1日(水)~19日(日)
■会場:東京芸術劇場 シアターイースト 
■料金:一般6,000円、65歳以上5,000円、25歳以下3,000円、高校生1,000円

 
《プレビュー公演》
■日程:2017年10月29日(日)・31日(火)
■会場:東京芸術劇場 シアターイースト 
■料金:一般5,000円、65歳以上4,000円、25歳以下2,500円
※各公演当日券あり
■お問い合わせ:東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296(休館日を除く。10:00~19:00)
■公演特設サイト:http://onegreenbottle.jp/​

 
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