「時速246億」主宰者の初ソロ公演について~川本成にインタビュー
撮影:渡辺マコト
演劇ユニット「時速246億」の最新作は、なんと主宰者・川本成の一人舞台『独立』
2007年の立ち上げ以降、水野美紀とのコラボ公演や、即興や演劇、歌にトークをまじえた“春フェス”など、年間約1本のペースで多種多様な舞台を上演してきた時速246億。これまでは数々の客演陣との共演でステージを盛り上げてきたが、11月11日から中野・劇場MOMOにて上演される最新作は、なんと主宰者・川本成の一人舞台。「独立」という意味深なタイトルが付いた自身初となるソロ公演について、川本に話を聞いた。
「一番自分がやりたくないことはなんなんだろう?」
――まず、時速246億の前身、時速246の立ち上げのきっかけから教えて下さい。
僕は20代の頃から役者を志望してたんですけど、なかなかきっかけがなかったんですよ。「待ってたらオファーが来るかな?」と思ってたけど来なくて。それで、「だったら自分で立ち上げた方が早い」と思ったのがきっかけですね。
――あちこちのオーディションを受けに行くんじゃなくて、自分でイチから劇団を作ろうと。
どんな作品に出たいとか何が面白いとか、そんなことも分からなかったぐらいのレベルだったんですよね。もちろん、コンビでコントはやってたんですけど、当時は“お芝居”と“笑い”というのは別物だと思ってたフシがあって。今では「結局はどっちも同じだな」と思ってるんですけど。
――じゃあ、最初は手探りだったんじゃないですか?
そうですね。立ち上げたら立ち上げたで全く自分の思い通りにはいかないわけですよ。それで、「一旦ゼロにしようか」ということで立ち上げ直したのが今の時速246億なんです。
――では、時速246億で芝居を重ねていくに連れてご自身のやりたいことが?
そうですね。やってくうちに、「これはやりたかったことのひとつだな」みたいに気付くようになって。でも、そのうち考え方がループしてきて、今は笑いというものの尊さ、難しさや魅力、そして欽ちゃんファミリーの誇り的なものを再認識してます。
――芝居を通してお笑いに対する新たな発見があったと。
そう。コントをやってるときは「俺はコントじゃねぇんだ、芝居がやりたいんだ!」って言ってたのに、芝居をやり始めたら「いや、芝居じゃねぇんだ、俺はコントなんだ!」みたいなことになって(笑)。よその芝居の現場に行くと、みんなコントをしたいわけですよ。そういう場で自分がお笑いでやってきたことが役に立ったんです。人が難しいと言ってる部分が、「あれ? 俺、ずっとこれやってきたじゃん」みたいな。それで、次第に周りの人たちが僕のそういう部分を必要としてくれ始めたんです。そこで、「そうか…お芝居っていうのはお笑いが必要で、お笑いっていうのはお芝居が必要なんだ」って気付いてきた感じはあります。
――なるほど。では、今回のソロ公演ですけど、これをやろうとしたきっかけは?
ユニットを主宰するようになっていろんな客演の人たちに協力してもらって作品を作っていくうちに、だんだん「面白い!」って言ってもらえるようになってきて。そうするとだんだんお客さんが期待してくれるようになるんですよ。「次もあんな作品を見たい!」って。でも、前と同じようなことをやるんじゃなくて、どんどん違う道を作っていかないと展開が読めてしまってダメだなって。過去の作品をなぞってしまっては、そのうちどこかで終了してしまうんですよ。
――去年は水野美紀さんとのコラボ公演、今年は春フェスといった具合に変わった企画を次々と打ち出しているのはそういう思いから?
とにかくたくさんのお客さんに来て欲しいってなると、集客やキャスティングの方に追われるような気がしちゃうんですよ。でもそうではなくて、大事なのは「自分が何をしたいか」「お客さんに何を楽しんで欲しいか」ということで、まずお客さんにびっくりしてもらわないといけない。だから、お客さんの予想外のモノを打ち出していこうという感じなんですよね。
――そして、今回の“予想外”はソロ公演だったと。
「一番自分がやりたくないことはなんなんだろう?」って考えると、一人でやることなんですよ。水野美紀さんとやったのと同じようなことをやればお客さんが来てくれることはわかってるし、そうなると選択肢は2つなんです――またああいうことをやるのか、真逆なことをやるのか。そうすると、僕は怖いほうを選びたいというか。要はテンパりたいんですね。僕は、したたかで計算高いいじわるネズミみたいな20代を過ごしてきたので(笑)、そのイメージを自分の手で打ち壊して、どんどん生身になってテンパらないと、バカになっていかないと、お客さんは本当の意味で僕のことを信用してくれないなって思うところがあって。
――一体どんな内容になるんでしょう?
馬鹿みたいな内容です(笑)。具体的に言うと、全く言葉を使わないものもやりたいし、僕は出身が鳥取なので鳥取弁のものもやりたい。毒っ気のあるものもやるでしょうし。
――「独立」という意味深なタイトルが付いてますが。
「一人で立つから独立だ」ぐらいのものなんですけどね。マネージャーさんにも「意味ありすぎじゃない?」って言われたんですけど、思いついっちゃったんだからしょうがない!
――注目すべきポイントはどこでしょう?
“ライブ”っていうことでしょうね。作品の完成形を見るなら映像でいいと思うんです。でも、毎日公演があるってことは、その日ごとのグルーヴがあるってことなので、時にはコントの内容が変わることもあるかもしれない。そういうことを自分でも楽しみたいっていう思いがあるんですよ。おこがましい例えなんですけど、談志さんが「芝浜」をやってる時に、最後にお酒を飲もうとして結局飲むのを止めるっていう下げがあるんです。そこで奥さんがお酒を勧めるんですけど、談志さんは「私も飲みたくなっちゃった」っていう、元々はない奥さんのセリフを言い出すんですよ。なんでだろうと思ったら、後のインタビューで「奥さんが飲みたくなっちゃったんだよなぁ」って言ってるのを読んで「格好良い!」って。だから、自分のライブでも元の台本よりそっちの方がいいと思ったらそうするってことを目指した方がいい気がして。
――バンドのライブでいうと、その日だけギターソロが長くなるみたいな。
そう。歌詞も変えちゃっていいし。ライブだってことを楽しんでいただきたいし、自分も楽しみたいですね!
[取材・文=阿刀 "DA" 大志]
[撮影=渡辺マコト]
時速246億 川本成ソロ公演「独立」
<公演日程・会場>
2015/11/11(水)~11/15(日) 中野・劇場MOMO (東京都)
<キャスト・スタッフ>
演出:小林顕作
作:川本成 小林顕作
出演:川本成