ユーミン×帝劇『朝陽の中で微笑んで』寺脇康文、宮澤佐江が描く時を超えたSF純愛作
ユーミン×帝劇vol.3 『朝陽の中で微笑んで』
2017年11月27日(月)、東京・帝国劇場でユーミン×帝劇vol.3『朝陽の中で微笑んで』の幕が開けた。本作はユーミンこと松任谷由美が荒井由実の名で活動していた時代の同名曲をモチーフに、未来の純愛物語に仕上げた作品。松任谷と共にW主演を務めるのは寺脇康文。ヒロインは宮澤佐江を据え、水上京香、中別府葵、島ゆいか、山田ジェームズ武、入江加奈子、六平直政、斎藤洋介らが出演。脚本・演出の松任谷正隆がすべてのキャストに対して当て書きを行ったという本作のゲネプロと囲み会見の模様をお伝えする。(以下、松任谷由美は「ユーミン」、松任谷正隆は「松任谷」で記載する)
ユーミン×帝劇vol.3『朝陽の中で微笑んで』
3年の構想を経た本作のテーマの一つはSF。時代は500年後の2517年。職を失った中年男・鳴沢肇(寺脇)は、ある容疑で警察の取調べを受けていた。鳴沢には、20年前に結婚を約束しながら、不治の病で亡くなった恋人がいた。しかし今、彼女に生き写しの女性・紗良(宮澤)が18歳を迎えていた……。折々にストーリーテラーであるユーミンが登場し、物語の世界へと誘っていく。
ユーミン×帝劇vol.3『朝陽の中で微笑んで』
寺脇は、人の良さそうな、すこしうだつのあがらない男を好演。一人の女性に対し、激しさと遠慮を共存させる愛で向き合っていた。相手役の宮澤は帝劇ヒロイン3回目となる。少年っぽさもあるアイドル時代を経て、ミュージカル『王家の紋章』では天真爛漫な女の子キャロルを演じた宮澤は、今回素直な少女らしさと包み込むような女性らしさを同居させる、これまでにない顔を見せた。松任谷からは「あっけらかんとしてて」と言われ続け、「だんだんと普段の生活もそうなっていきました」と語る。寺脇とのシーンでは「人生でいちばん幸せなんだ……という瞬間を味わっています。切ないけれど、幸せすぎて涙が溢れる体験をさせてもらっています」と幸せそうだ。ユーミンは宮澤のことを「実はあなどっていました(笑)」と明かしつつ、すごく良いと褒めていた。
紗良の友達を水上、中別府、島、入江の4人が演じる。4人は共に白をベースに鮮やかな差し色が異なる近未来的なかわいい衣裳を身に着けている。それぞれ個性が違う女子高生たちの微妙な人間関係を見せていた。
反対に、警察官たちは全身真っ黒。齋藤、山田ら刑事たちは職務を全うしようとするあまり無機質で冷酷に感じられる場面もあるが、その人間関係も描かれることで、、寺脇らと対比、リンクしていくにつれ、彼らの思いや状況から語られる以上の葛藤が垣間見え、切なくも感じさせた。
ユーミン×帝劇vol.3『朝陽の中で微笑んで』
このほか、六平、入江(2役)らが演じる周囲の人物の役どころが、500年後の世界に幅を広げていた。「数百年後にはこんな不思議なことが起こるかも」と思わせる「あの」存在は、劇場を後にしてからその台詞を振り返ると、少し怖くもあり、同時に未知の未来にわくわくさせてくれた。
物語の変化と共にユーミンの歌と場面がシンクロする。ユーミンは時に登場人物を見守り、時に背中を押す。また、観客と500年後の世界との橋渡し役にもなる。六平はユーミンを「シンガーではなく、役(として存在しているよう)に見える」と語る。この言葉に松任谷は「主役は曲つまり作品。ストーリーのメインになっているのは曲で、そこからインスピレーションを受けているんです」と説明。物語にユーミンの音楽が乗せられているのではなく、ユーミンの曲が物語を動かしていく……。そして物語によって歌の世界がさらに広がっていくのだ。
登場のたびに変わるユーミンの衣裳はどれも目を楽しませる。500年後はレトロブームとのことで、未来的なデザインもあれば、1070年代のようなスーツも着こなすユーミン。しかし松任谷は「衣装はまだ60点」と言うくらいなので、本番ではさらに進化しているのではないかと期待させた。
スクリーンに映し出される街並みとアクロバティックな動きは、文明の発展した500年の世界を表す。そこにユーミンの独特の歌声が重なることで、すんなりと時を繋げてくれる。ユーミンといえば過去には『時をかける少女』、そして2017年は映画『メッセージ』『ブレードランナー2049』など、SFの世界との親和性が高い楽曲を多数持つ。だが、それらの曲は私たちに未来の世界であってもそこには数百年前から変わらない人間の営みや文化が存在すると伝えてくれる。ユーミンが「バスタオルが必要!」と言うように、未来の愛の物語の後半は現代の観客からのすすり泣きが聞こえていた。
ユーミン×帝劇vol.3『朝陽の中で微笑んで』
“ユーミン×帝劇”というコンセプトについて「ライブでもないエンターテイメントでもない」(寺脇)、「演劇のニューウェーブ」(六平)と演劇経験の長い二人も口を揃える。稽古も4日間、東映のスタジオに帝国劇場さながらの回転舞台を設置して稽古したというから驚きだ。さすがユーミン!
ユーミン×帝劇vol.3『朝陽の中で微笑んで』
松任谷は、秋に脚本を書き上げた時、プロデューサーらからの反応が良くなく、とても落ち込んだそうだ。だが初めてキャストたちによる読み合わせをした時には「いける!」と確信したと言う。ゲネプロの段階で舞台の出来に絶大な自信を持っている松任谷だが、過去にはゲネ後に泊まり込みで戯曲を書き換えたことも。今回も初日に向けて大きなレベルアップをはかる気らしい!?
会見では、話題になったユーミンの座長弁当についても紹介される。自ら何度も試食した特注の懐石料理を関西から取り寄せ、初日にキャストやスタッフへ振る舞うそうだ。お椀は今作のタイトル『朝陽の中で微笑んで』をイメージしたしつらえを施したとのこと。さらに俳優それぞれに役をイメージしたカラーの楽屋のれんをプレゼントしたユーミン。宮澤には爽やかなエメラルドグリーン、斎藤には深いカラス色など配色には「油絵作家」松任谷由実のセンスもあらわれていたとか。舞台裏までもが、さすが歌姫ユーミンという気配りを感じさせていた。
取材・文・撮影=河野桃子
■日程:2017年11月27日(月)~12月20日(水)
■会場:東京都 帝国劇場
■出演:松任谷由実 / 寺脇康文、宮澤佐江 / 水上京香、中別府葵、島ゆいか、山田ジェームス武、入絵加奈子、六平直政、斎藤洋介
■公式サイト:http://www.tohostage.com/yuming2017/