ブス会*ペヤンヌマキ、稽古で確信「『男女逆転版・痴人の愛』という楽曲の旋律を一つの音程も外さずにつくりあげていくこと」
ブス会*「男女逆転版・痴人の愛」稽古場より 撮影:曳野若菜
2010年、AV監督としても活動するぺヤンヌマキが、舞台作品を上演するために立ち上げたユニット「ブス会*」。女同士の関係における醜くも可笑しい “ブス” な実態を、さまざまな角度から描いてきた群像劇で話題を呼んでいる。共に40歳を迎えたペヤンヌマキと女優の安藤玉恵が、節目の年にタッグを組む新シリーズ『ペヤンヌマキ×安藤玉恵 生誕○周年記念ブス会*』の第一弾が『男女逆転版・痴人の愛』だ。この公演については、当サイトでも対談記事が掲載されているが、今度は稽古場に乗り込んでみた。
ブス会*「男女逆転版・痴人の愛」稽古場より。演出をつけるペヤンヌマキ 撮影:曳野若菜
「においをかぐようなフレーズがほしいんですよね」。この一言に、稽古場が爆笑に包まれた。横の演出席をのぞくと、ペヤンヌマキがテレと恥ずかさが入り混じったような笑顔をしていた。彼女とゆっくり話をするのはポツドールが〈セミドキュメント〉で演劇界の注目を集め始めたころだから15年以上前かぁ、僕も少しテレる。
「においをかぐようなフレーズがほしい」とは、フリーのチェリスト・浅井智佳子に対するオーダー。音楽に関してまったく詳しくないペヤンヌマキは「疑惑の音は何かありますか」「セックスしてください」などの言葉で浅井に相談をするのだとか。そのことを事前の座談会でみんなが指摘していたから、「これこれ!」と僕に知らせるように笑いが起きたのだ。ついたての向こう側から安藤玉恵と福本雄樹が追いかけっこ(洋子がナオミの動向を探るシーン)する様子を横目に見ながら、かわいらしく首をかしげ、「これならどうですか?」といろいろ音を出していく浅井……。
右からペヤンヌマキ、安藤玉恵、浅井智佳子 撮影:曳野若菜
演劇の仕事はもちろん台本を読んだのも今回が初めてという浅井とペヤンヌの噛み合わないやりとりは、失礼ながらなかなか面白い。でもこの手探りな感じが、お互いにお互いを必死に理解しようとする様子をしっかり伝えてくれる。なんかいい感じ。不器用に進んでいく時間が作品の土台をゆっくり、強固に作りあげていく。実は『男女逆転版・痴人の愛』においてチェロは重要な役割を果たすのだ。
ブス会*「男女逆転版・痴人の愛」稽古場より 撮影:曳野若菜
あえぎ、叫ぶチェロの音色が耽美な世界を艶っぽく彩る
主人公は仕事人間の40歳独身女性の“私(=洋子)”。ある日“私”は美しい少年ナオミと出会い、「小鳥を飼うような心持ち」で同棲を始める。“私”は未成熟なナオミを教育して自分好みの男に育て上げようと考えたのだ。人見知りで影があり、どこかアカ抜けない少年だったナオミは、次第にその美貌を利用して奔放な振る舞いを見せるようになり、“私”は翻弄され身を滅ぼしていく。
谷崎潤一郎の名作小説「痴人の愛」を原作にした『男女逆転版・痴人の愛』の耽美な世界にはチェロのあえぎや叫びがよく似合う。
ブス会*「男女逆転版・痴人の愛」稽古場より 撮影:曳野若菜
「演劇の稽古場って初めてなので、最初にみなさんが台本を読むのを見たときは、よくドラマの番宣番組で流れる“顔合わせ”の映像みたいで、なんなんだこれは?と思いました。私から見た洋子ですか? 大丈夫か?って感じです(笑)。洋子にはまったく共感できないです。わからない世界。そういう意味では難しいけれど、よくよく考えれば、クラシックの音楽も非現実なことを表現していることもあるので同じかなと思います」(浅井)
けれど“私”を演じ、内面をモノローグで語る場面が多い安藤は「チェロの音色は完全に演者ですね。なんなら主役みたいな存在感がある。すでに4人芝居になっています。もはやチェロがないと物語の世界が成立しません。基本的には“私”の心情を表現していて、お互いに補い合っているような関係性なんです」と頼もしさを感じている。
初めて原作ものにチャレンジしているペヤンヌマキ。古くて美しい日本語をあえて使うのも、“私”のモノローグを多様するのも新鮮な体験だ。
「いつもの戯曲と比べると、描いている人間の持つ根幹は同じだと思っているんですけど、コーティングが違う。チェロのおかげで、この作品自体が『痴人の愛』という楽曲だと思うようになって、一つの音程も外さずに旋律をつくりあげていくんだと決意しています。今回は特に谷崎さんの世界をやるということで緊張があるんです。原作の美しい言葉を引用しつつ自分の言葉を新たに加えていると、なんだか不純物を混ぜ込んでいるような気分になってきます。男女を逆転させても原作に対して共感する部分がいっぱいあるんですけど、逆にここは感じ方がちょっと違うという発見もある。エンディングの展開は原作とは違うけれど、もし谷崎さんが客席で見ていて、喜んでくださったらすごくうれしい」(ペヤンヌマキ)
そういえば、どこかの記事で「谷崎とセックスしているよう」とコメントしていたな、とても心情が伝わる名言だ。
ブス会*「男女逆転版・痴人の愛」稽古場より 撮影:曳野若菜
「私自身は若い男の子を家に住まわせたいという欲望がまったくないし、キャラクターも洋子とはまったくかけ離れているけれど、母性ということに関してはわかるところもあります。ただどうしても悩んだときはペヤンヌさんの人生を思い出しています(笑)。この戯曲には彼女の人生すべてが凝縮されているし、それを私はずっと見てきているので」と語る「生誕○周年記念ブス会*」の同志・安藤のペヤンヌマキに対する言葉にはかなり惹かれるが、そこは次回にゆずることにしよう。早ければきっと10年後の、生誕50年の時にも……さらに積み重ねられる人生模様が楽しみ ^ ^
福本雄樹はペヤンヌマキに育てられてナオミになっていく
右から福本雄樹、山岸門人 撮影:曳野若菜
では、男性陣はどうだろう? “私”と一緒に暮らし始めるナオミを演じる福本雄樹は、「僕は共感とかないですね。ナオミは美しい存在だし、どうやって作品の世界観を表現したらいいかずっと悩んでいます」と語っていたが、ひとたび役に入ると、目力が急に増して、ブラックホールのように周囲を飲み込んでいく。なんか“私”を翻弄する目がイキイキしている。
「この人、性格とか雰囲気がナオミっぽいんです。見ていてハマっているなあと思っています。知らず知らずのうちに周囲を振り回していくタイプなんですよ」と、“私”とナオミが出会うバーのマスター、ナオミのお金持ちの友人・浜田、洋子の同僚・山本など二人の周囲の人物すべてを演じる山岸門人が打ち明ける。そんな山岸が演じる役の中には、ナオミと深い関係になるものも。
山岸「二人の物語の周りの人物はすべて僕がやるんですけど、振り回されるキャラクターが多いのでけっこう精神的につらいですね。なんて言うんだろう、気持ちが削られていく感じ。でも楽しいですよ。ナオミとの濡れ場?……いえいえ、ふれあいのシーンはあります(笑)。僕ら1年以上前にワークショップをやってからの付き合いなので、テレはないんです。初めましてだと恥ずかしいんでしょうけど。長くやるのって大事ですね」
ブス会*「男女逆転版・痴人の愛」稽古場より 撮影:曳野若菜
ペヤンヌマキも二人のワークショップでのやりとりは絶賛している。
福本「ナオミは心の中で思っていることと口に出していることがまったく逆だったりする。そういう部分は自分にもあるなと。少年から始まって、最後は悪い男みたいになりますけど、成長していく過程で4回くらい大きな変化があって、そこをしっかりやったらナオミができていくんじゃないかと思うんです。美しいところは美しいところで普通にやらなければいけないとか思いますけど、人間的な部分はよりリアルにやらなければいけないのかなと」
山岸「原作を読んだあとに台本を読みましたが、男女を入れ替えても本質は変わらないし、僕は(原作の)譲治さんと(譲治をもとに書かれた)洋子さんにも共感できるんですよね。特に人間に執着して自分がぶっ壊れていく感じは。滑稽さだったり、愚かさであったり、原作は100年近く前の作品ですけど、人間の本質はいつまでたっても変わらないんですね」
「舞台をつくるにあたって古典作品の美しい世界観を失いたくないと思ったんです」というペヤンヌマキ。その思いと彼女の美意識が重なり、それは存分に演出にも現れている。
福本「ペヤンヌさんはフェティシズムがあるけど、僕はそういうのがないので、そこにそんなにこだわっているんだというところが新鮮です。美しく見せるための方法にすごくこだわっていらっしゃいますね。シャボン玉をふいたり、背中を見せたり。今度、とある仕草を猛特訓すると言われています」
山岸「福本くん、いい背中しているよ(笑)。福本くんはペヤンヌさんに育てられているように思いますね。本番終わるころにはどうなっているか楽しみです」
演出するペヤンヌマキ 撮影:曳野若菜
取材・文:いまいこういち 写真撮影:曳野若菜
■脚本・演出:ぺヤンヌマキ(原作:谷崎潤一郎『痴人の愛』)
■出演:安藤玉恵 福本雄樹(唐組) 山岸門人 / 浅井智佳子(チェロ演奏)
■日程:2017年12月8日(金)~19日(火) 計16ステージ
■タイムテーブル:
12月8日(金)19時30分 ※プレビュー公演
12月9日(土)休演日★過去作品上映
12月10日(日)14時/18時
12月11日(月)14時/19時30分
12月12日(火)19時30分
12月13日(水)14時/19時30分
12月14日(木)休演日
12月15日(金)19時30分
12月16日(土)14時/18時
12月17日(日)14時/18時
12月18日(月)14時/19時30分
12月19日(火)14時
※開場は開演の30分前、受付開始は開演の45分前
★過去作品上映
12月9日(土)12時「お母さんが一緒」、15時「女のみち2012再演」、18時「お母さんが一緒」
○一般シート(入場整理番号付自由席)前売4000円/当日4500円
○ブスシート(入場整理番号付自由席/1~2列目ベンチ席)前売4000円/当日4500円
※プレビュー公演=一般シート・ブスシート共に前売3800円/当日4300円
★上映会(入場整理番号付自由席)前売・当日共に 1500円
■問い合わせ ブス会* 080-7943-2251(10:00~20:00) info@busukai.com
■ブス会*公式HP http://busukai.com