美術館を擬人化してみた~「根津美術館」編~【SPICEコラム連載「アートぐらし」】vol.16 とに~(アートテラー)

コラム
アート
2018.1.30

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美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。
今回は、アートを発信する「アートテラー」のとに~さんによる『【美男化プロジェクト】Mr.ミュージアム』第3弾です。


軍艦、刀剣、城、お米……さまざまなモノが擬人化されている昨今。本企画は、日本全国の美術館・ミュージアムを擬人化していく『【美男化プロジェクト】Mr.ミュージアム』です。毎回イケメン男子の姿となったミュージアムたちが、自己紹介をしながらその館の魅力や展示をお伝えします。今回は「根津美術館」編です。

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イラスト=yukimone

イラスト=yukimone

やぁ、よくきてくれた。まずはお茶を一服さしあげよう。君の口にあえばよいが。

ここに来るまでに、間違えて根津駅に行ったりしなかったか?

根津美術館という名前から、ごくたまに根津駅の近くにある美術館と勘違いされることがあるんだ(苦笑)

生まれてこの方ずっと、ここ南青山の地にいるのだが。

根津美術館外観 (c)藤塚光政

根津美術館外観 (c)藤塚光政

君はもちろんわかっているだろうが、根津美術館の“根津”というのは地名ではない。

初代・根津嘉一郎氏という、ワタシと非常に関わりの深い人物の名前が由来となっているのだ。

何、根津嘉一郎さんを知らないのか? まったく……へそが茶を沸かすな。

仕方がない。初代・根津嘉一郎氏について、話すとしようか。

初代と仏像

初代と仏像

嘉一郎氏は、今のフコク生命保険設立をはじめ、石油、電灯、ビールなど、さまざまな事業会社の社長を歴任した大実業家だ。

東武鉄道をはじめ、多くの鉄道の再建に関わったことから、「鉄道王」とも呼ばれているぞ。

教育者としても、政治家としても活躍したし、茶人としても有名だな。

そんな嘉一郎氏のもうひとつの顔が、日本を代表する古美術コレクターだ。

「コレクター・根津嘉一郎」の名が一躍世に広まったのは、《花白河蒔絵硯箱》を手に入れた時だったそうだ。

重要文化財 花白河蒔絵硯箱 日本・室町時代 15世紀 根津美術館蔵

重要文化財 花白河蒔絵硯箱 日本・室町時代 15世紀 根津美術館蔵

どうしてもその硯箱を手に入れたかった嘉一郎氏は、大阪で開催される入札会の会場に、わざわざ汽車に乗って向かい、見事、当時の売立での最高金額16,500円で入手したらしい。

当時、公務員の初任給は14円程度。

今の初任給平均が約20万円だから……って、いちいち計算しなくていい!

別に、お茶を濁すわけじゃないんだが、このエピソードで一番重要なのは、この一件がきっかけで、嘉一郎氏が蒐集家として世の中に認識されたということなのだ。

その後、嘉一郎氏は、日本ないしは東洋の貴重な美術品がどんどん欧米に流出していることを深く憂い、なんとしても海外流出から護るべく、自分の好き嫌いとは関係なしに、名品と呼ばれる美術品を次から次へと手に入れていったんだ。

そんな初代の美術コレクションを広く一般に公開すべく、息子である二代・根津嘉一郎氏が、昭和16年に自邸に誕生させたのが、このワタシというわけだ。

意外と歳がいってるって? 茶々を入れるな。

うちでは、絵画だけでなく、仏像や茶道具なんかも常に楽しむことができるぞ。

あぁ、それから、中国の青銅器もいつも展示されているな。

展覧会によっては、刀剣や陶磁器、古い書や経典、着物、漆工も公開している。

根津美術館エントランスホール ©藤塚光政

根津美術館エントランスホール ©藤塚光政

何はともあれ、いつ訪れても、幅広いジャンルの東洋美術が楽しめるというのが、ワタシの自慢のひとつだ。

まぁ、のちほど、ゆっくり鑑賞していってくれよ。

そうそう。美術鑑賞を堪能したあとは、是非、うちの庭も散策してくれたまえ。

雅さと野趣、両方の魅力を併せもった庭は、ワタシのもうひとつの自慢だ。

広さは17,000坪もあるから、たっぷり散策していると、30分くらいかかってしまうかもしれないな。

まぁ、庭園内には、「NEZUCAFÉ」というカフェがあるから、疲れたらそこで休むといい。

ん? 5,000円札にデザインされている花の絵? あぁ、尾形光琳の国宝《燕子花図屏風》のことか。

国宝 燕子花図屏風(右隻)尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵

国宝 燕子花図屏風(右隻)尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵

京都の西本願寺が売り立てに出したものを、大正3年に初代が入手した琳派の名品中の名品だな。

何? 《燕子花図屏風》は、いつ訪れても観られるのかって?

おいおい、君は、ずいぶんと滅茶苦茶なことを言うな。

古美術品というのは、繊細なものなんだ。ずっと展示しておいたら、傷んでしまうじゃないか。

ワタシにとっても貴重なものだが、それ以上に、日本にとって大切な宝だからな。

一年の中で、1ヶ月くらいしか公開していないぞ。

ここ10年くらいは、毎年ゴールデンウィークの前後で公開している。

今年は、4月14日から始まる『特別展 光琳と乾山―芸術家兄弟・響き合う美意識―』という展覧会に合わせて、展示されるようだ。

例年通りなら、ちょうど4月末から、庭のカキツバタも見頃になるから、それに合わせてまた遊びに来るといい。

根津美術館 庭のカキツバタ

根津美術館 庭のカキツバタ

おや? 話しすぎて、どうやらお茶が冷めてしまったようだ。

さて、もう一服立てるとするか。

文=とに〜 イラスト=yukimone 協力=根津美術館

イベント情報
特別展 光琳と乾山 ―芸術家兄弟・響き合う美意識―

 日時:2018年4月14日(土)~2018年5月13日(日)
 会場:
 根津美術館公式サイト:http://www.nezu-muse.or.jp/

 

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