『ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜』内覧会レポート 俳優・渡辺裕太「躍動感ある人物や、鮮やかな色味を実物で感じてほしい」

レポート
アート
2018.1.31
「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」展覧会場入り口

「ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜」展覧会場入り口

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16世紀から17世紀のフランドル(現在のベルギーにほぼ相当する)地方に、150年に渡って優れた画家を輩出し続けたブリューゲル一族がいた。東京都美術館にて開催中の『ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜』では、ほとんど日本初公開となる貴重なプライベート・コレクションを中心に、およそ100点の油彩画、版画、素描画などを展示。ブリューゲル一族に脈々と受け継がれた伝統と、ブリューゲル様式の全体像に迫る内容となっている。プレス内覧会より、見どころをレポートしよう。

画家一族150年の軌跡に見えるもの

一族の祖であるピーテル・ブリューゲル1世は、16世紀のフランドルを代表する画家だ。聖書の世界や農民の生活、風景などを、時に皮肉を交えた作風で描き、当初から高い評価を得た。その父の死後、長男のピーテル2世が父の忠実な模倣作を手がけて世に広め、次男のヤン1世は父の自然への観察眼を受け継ぎ、模倣にとどまらない植物画や静物画の世界を切り拓いた。その後、孫やひ孫まで、自然や人間の原始的な姿を捉えるブリューゲル一族の作風は150年もの間受け継がれ、そして革新を繰り返し、多様な芸術を生み出した。

《キリストの復活 》ピーテル・ブリューゲル1世と工房  1563年頃

《キリストの復活 》ピーテル・ブリューゲル1世と工房 1563年頃

《アーチ状の橋のある海沿いの町》ヤン・ブリューゲル1世(?)、ルカス・ファン・ファルケンボルフ  1590-1595年頃

《アーチ状の橋のある海沿いの町》ヤン・ブリューゲル1世(?)、ルカス・ファン・ファルケンボルフ 1590-1595年頃

《地上の楽園》ヤン・ブリューゲル2世  1620-1625年頃

《地上の楽園》ヤン・ブリューゲル2世 1620-1625年頃

本展では、よくある時系列で各個人の作品を並べるという手法は取っていない。ブリューゲル絵画を紐解くための7つのテーマにセクションを分け、絵画のジャンル別に見比べられる構成となっている。そのため、雄大な風景やヒエロニムス・ボス風の版画が人気を博したピーテル1世、模倣作によりブランド確立に貢献したピーテル2世、「花のブリューゲル」と呼ばれたヤン1世、寓意画と神話を得意としたヤン2世、静物画で名声を得たアブラハムなど、彼らが生み出した絵画のテーマや特性が非常にわかりやすい。ちなみに、作品横のキャプションには、作者がいつの世代に当たるかの表記もあってとても親切だ。

《嗅覚の寓意》ヤン・ブリューゲル2世 1645-1650年頃

《嗅覚の寓意》ヤン・ブリューゲル2世 1645-1650年頃


《果物の静物がある風景》アブラハム・ブリューゲル  1670年

《果物の静物がある風景》アブラハム・ブリューゲル 1670年


《蝶、カブトムシ、コウモリの習作》ヤン・ファン・ケッセル1世  1659年

《蝶、カブトムシ、コウモリの習作》ヤン・ファン・ケッセル1世 1659年

オペラグラスが必要?驚きの細密技巧

本展には、30センチ角に満たない小さな作品が多数展示されている。よくよく目を凝らせば、そこに描かれた細密な描写に驚くはずだ。ヤン1世の《水浴する人たちのいる川の風景》の、画面下に小さく描かれた人物たちの水面に映る人影などは、単眼鏡やオペラグラス持参で確認したいところ。そのほかにも、思わず顔を近づけたくなる作品に、いつしか夢中になってしまう。

《水浴をする人たちのいる川の風景》ヤン・ブリューゲル1世  1595-1600年頃

《水浴をする人たちのいる川の風景》ヤン・ブリューゲル1世 1595-1600年頃


《鳥罠》ピーテル・ブリューゲル2世  1601年

《鳥罠》ピーテル・ブリューゲル2世 1601年

工房作・共作の面白さを見つける

150年も脈々と受け継がれるブリューゲル芸術の繁栄には、「工房作」の手法も一役買ったようだ。師匠となる画家が指揮して弟子に描かせるこの手法では、師匠は下絵を描いたり、重要な部分の仕上げを行う。一方、弟子は師匠の下絵に基づいた技法を真似ることで、技術や画風を受け継ぎながら学べる。こうして、工房としてのブランド力を保って安定した生産が可能になるのだ。また、背景画が得意な画家と、人物画が得意な画家で、それぞれ担当を分けて一枚の作品を仕上げた「共作」もポピュラーな手法だったようだ。作品を鑑賞する際には、作品横のキャプションで作者の欄を確認して、こうした制作工程を想像しながら楽しむのもオススメだ。

《机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇》ヤン・ブリューゲル1世、ヤン・ブリューゲル2世  1615-1620年頃

《机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇》ヤン・ブリューゲル1世、ヤン・ブリューゲル2世 1615-1620年頃


《豊穣の角をもつ三人のニンフ》ペーテル・パウル・ルーベンスと工房、フランス・スナイデルス  制作年不詳

《豊穣の角をもつ三人のニンフ》ペーテル・パウル・ルーベンスと工房、フランス・スナイデルス 制作年不詳

「農民の踊り」に現れた人間の暮らしへのまなざし

本展覧会監修者セルジオ・ガッティ氏は、ブリューゲル一族の作品の魅力をこう話す。

「(ブリューゲル一族は)はじめて絵画の中に、本当の意味で人生を描きました。《野外への婚礼の踊り》では、踊れる、歌える、明るい人生のよろこび、そして皆の毎日の感情が描かれています」

それまでのルネサンス期に描かれた理想化された人間像ではなく、素朴で感情豊かな農民たちに光をあてた眼差しと観察眼にこそ、ブリューゲル一族の素晴らしさがあるようだ。

本展監修者セルジオ・ガッディ氏(美術評論家)

本展監修者セルジオ・ガッディ氏(美術評論家)

《野外での婚礼の踊り》ピーテル・ブリューゲル2世  1610年頃

《野外での婚礼の踊り》ピーテル・ブリューゲル2世 1610年頃

本展オフィシャルサポーターに渡辺裕太、音声ガイドは石田彰

この日は本展オフィシャルサポーターに抜擢された、俳優・渡辺裕太も登場。150年続くブリューゲル一族の芸術に触れ、芸能一家の一員としても感じ入ることがあったと話す。

「息子たちの作品は、父を模倣しながらもオリジナリティを感じさせる部分があります。どんなことを考えながら作品を作ったのだろうと、いろいろ想像しながら鑑賞しました」

今まであまり美術館には馴染んでこなかったという渡辺だが、自分と同じような人たちに向けて「小さい作品に細かく描かれた躍動感ある人物や、強烈で鮮やかな色味などには単純に驚いたし、とても楽しめました。ぜひ実物を観て、ブリューゲル一族の世界を感じていただきたいです」とメッセージを送った。

本展オフィシャルサポーター 俳優・渡辺裕太

本展オフィシャルサポーター 俳優・渡辺裕太

また、本展音声ガイドでは声優・石田彰が、ブリューゲル一族の魅力を解き明かす“謎の工房職人”になりきって案内役を務め、見どころの多い本展を楽しく導いてくれる。

日本ではじめてブリューゲル一族を本格的に紹介する本展は、2018年1月23日(月)〜4月1日(日)まで東京都美術館にて開催後、愛知、北海道、広島、福島に巡回する。ぜひ、画家一族の150年を見届けてほしい。

会場風景

会場風景

ブリューゲル一族の系譜

ブリューゲル一族の系譜


 
イベント情報
ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜​

【会期】2018年1月23日(火)~4月1日(日)
【会場】東京都美術館 企画棟 企画展示室
【休室】月曜日、2月13日(火) ※ただし、2月12日(月)は開室
【開室時間】9:30~17:30、
金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
【観覧料】
当日券 | 一般 1,600円 / 大学生・専門学校生1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円
団体券 | 一般 1,400円 / 大学生・専門学校生1,100円 / 高校生 600円 / 65歳以上 800円
※団体割引の対象は20名以上
【本展特設サイト】
http://www.ntv.co.jp/brueghel/​

 

 

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