木ノ下歌舞伎『勧進帳』が関東初上演!木ノ下裕一×杉原邦生インタビュー

インタビュー
舞台
2018.2.16
杉原邦生と木ノ下裕一(左から)

杉原邦生と木ノ下裕一(左から)

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歴史的な文脈を踏まえつつ、現代における歌舞伎演目上演の可能性を発信する木ノ下歌舞伎。彼らの代表作ともいうべき『勧進帳』が2018年3月1日~4日、KAAT神奈川芸術劇場で上演される。本作品は2010年初演、2016年に完全リクリエーション版として再上演され、監修・補綴の木ノ下裕一が平成28年度文化庁芸術新人賞を受賞。一般的に「義経一行の関所越えを描いた忠義の物語」とされる『勧進帳』を〈関所=境界線〉として読み解き、国境/現在と過去/主と従/観客と舞台……といった現代社会を取り巻くあらゆる〈境界線〉が交錯する多層的なドラマへと再構築している。

今回、木ノ下と、演出を務める杉原邦生(2017年5月に木ノ下歌舞伎を卒業し、外部の演出家として初めて木ノ下歌舞伎を演出)の2人に作品の見どころなどをたっぷりと語ってもらった。

完成度が高く、強度のある作品になった『勧進帳』

木ノ下裕一

木ノ下裕一

−−2016年以来の『勧進帳』ですが、今回の上演に至った経緯を教えてください。

木ノ下 KAATの白井晃芸術監督から声をかけてくださり実現した公演ですね。

杉原 2016年10月にやった豊橋公演を観にきてくださって。

木ノ下 そう、すぐにでもやりたいと仰ってくださったの!

杉原 終演後は仕事ですぐお帰りになったんでダメだったかなと思ったんですけど(笑)、後から感想をお聞きしたらすごく良かったと。

木ノ下 本当はその年度末に……という話もあったのですが、色々調整もあって、満を持しての上演です。

−−初のKAAT、初の関東上演だそうですね。

杉原 『勧進帳』は2016年のとき関東公演をやらなかったし、キノカブ(※木ノ下歌舞伎の略称)としては初めてのKAATですね。

木ノ下 そうね。でもね、よく言われるの。「今度観に行きます。いつものKAATですね」って(笑)。

杉原 いつものKAAT?(笑)

木ノ下 キノカブで初めてなのに。邦生さんがよくやっているからじゃないかなって。

杉原 その人がよくKAATに行くだけじゃないの(笑)。まぁ確かにキノカブはよく横浜でやっているけど……

木ノ下 そう、だから否定はしないの。「そうなんです~」って(笑)。

杉原 でもその人、のげシャーレ(※2017年『心中天の網島』を上演した劇場)に行っちゃうかもよ。

木ノ下 あはは、あそこをKAATやと思っているって? それはまずいね。

−−今回は、2016年のリクリエーション版との違いを出すのですか? 構想があれば教えてください。

杉原 全部変わりますね。……いえ、嘘です、何も変わらないです。

木ノ下 ややこし! 今、一瞬、ドキッとしたよ(笑)。

杉原 2016年のリクリエーション版『勧進帳』はすごく手応えがあったし、木ノ下歌舞伎としても、僕の演出作品としても、とても完成度が高い、強度のある作品ができたなと思っているので、基本的には変えずに、あの作品を関東で皆さんに観ていただくというシンプルな再演で行きたいなと思っています。

−−だからこそ、キャスティングも同じなのですね。

杉原 変えていないですね。

木ノ下 スタッフも同じですね。

「境界線」を軸に読み解くと、歌舞伎では見えないものが見えた

−−今回も「境界線」をテーマにしているのですか?

杉原 そうですね。「境界線」というテーマは先生(※木ノ下の愛称)が2010年の初演の時に提示してくれたもので、僕は最初、ピンとこなかったんだけど、稽古していくうちに「なるほど」と。物語上では関という一つの境界線だけど、それが例えば国境に見えたり、現代語と歌舞伎の言葉の境目に見えたり、敵と味方、関所を守る側と突破したい側を分ける一線に見えたり。「境界線」というテーマで読み解くと、確かに歌舞伎の上演では見えてこないものが見えてくるなと思いました。

キャスティングでも「境界線」が一つのポイント。巨漢のアメリカ人俳優が弁慶を演じるというのは初演から変わっていない。リーさん(※リー5世)はアメリカ人だけど日本に20年近く住んでいて、人種や国境という境界線を内包している。さらに、義経役にはニューハーフののえみちゃん(※高山のえみ)という性の境界線を内包している俳優を配している。舞台美術も初演時にあった具体的な境界線をなくして、舞台そのものを空間を遮る一本のラインに見立てている。その上で登場人物たちが、それぞれが対峙するいくつもの境界線を越えるのか、越えないのか、越えたくても越えられないのか、越えようとすらしないのか。そうやって様々に揺れ動く姿を描き出しています。そういう意味で「境界線」というテーマは10年の初演時よりずっと見えやすく、濃いものになって現れていると思いますね。

杉原邦生

杉原邦生

木ノ下 そうですね。そんな感じがしますね。

杉原 見え方が濃くなっている分、メッセージ性もすごく強くなっていて。結局僕はそういういろんなラインで人を分けたり、カテゴライズすることが嫌いだし、必要ないと思ってる。だからもし、そういうラインが世界からなくなれば、小さな争いも戦争もなくなると思うし、もしかしたら『勧進帳』の登場人物たちもそういう社会を望んでいたんじゃないかって思うんです。「このラインがなかったら僕らすごく楽に生きられる」とか「このラインさえなければ僕らはもっと自由だ」なんて思っていたかもしれない。そういうことが観た人の中に少しずつ伝わっていけば良いなって思います。

木ノ下 それは単純に「ラインなんて取り払おう!」とか「世界平和だぜ!」みたいなことを言いたいわけではなく、ボーダレスな世の中を作ることの困難さも存分に表現されていますよね。「とはいえ、なかなかそのラインというものは無くならないものですよね……」みたいな。

杉原 無くならないことがわかっているからこそ言っているのかもね。

木ノ下 歌舞伎を扱うからこそ出る邦生演出の醍醐味や色合いがあると思うんですよね。僕は『勧進帳』を2016年に作って、「あぁ邦生さんの演出ってこういうことだったんだな」という発見があった。それまで僕は、邦生演出の魅力は、批評性とエンタメ性の両立にあると思っていたんですよ。すごく批評的で構造的な演出をつけ、空間を設える。だから舞台美術も自分でやる。同時に、演劇の祝祭性というか、お客さんを楽しませることも忘れない。つまりちゃんとエンターテイメントとしても楽しめるように作る。どちらにも偏ることがないから、舞台芸術というものの間口を広げていくことができる。見巧者も演劇をはじめて観る方も、同時に楽しむことができますから。でも『勧進帳』で違ったなと思って。

杉原 ほう。

木ノ下 つまり、批評性があるからエンタメ性の部分が膨らむし、エンタメ性があるからもっと批評的なところが表現できるんだという、その相乗効果に気がついたんです。両立というより、混然一体。両方あることによって作品の爆発力が増していくんです。例えば『勧進帳』なら義経たちの家来と、冨樫側の家来を、同じ4人の俳優が両方を兼ねている。あれは批評的な演出ですよね。どっちに行っても同じ人物がやる。そうすると、2つのグループが対比されつつも、そこで展開される集団のドラマもより克明に見えるようになる。ある種のメロドラマ的な部分も含めて、すごく膨らむ。それはきっと俳優8人用意したら出ない効果ですよね。ダイナミックなドラマは生まれてこない。両立じゃなくて相乗効果、足し算ではなくて掛け算であるということを思いました。それができる演出家ってそんなに多くはないから。

木ノ下歌舞伎の最新形であり10年の集大成であり

杉原邦生と木ノ下裕一(左から)

杉原邦生と木ノ下裕一(左から)

−−2016年バージョンは平成28年度文化庁芸術祭新人賞を受賞しました。木ノ下さんとしても手応えはありましたか?

木ノ下 そうですね。木ノ下歌舞伎の最新形だと思ったんです。色々な意味でそう思っているのですが、やはり全編現代語訳していることが大きいです。ほぼ95%現代語なんですね。初めての試みだったんですが、これは演出の邦生さんから「そうしてみたいのだけど……」と稽古前に言われて。でもね、それに対する勝算はなくて……大丈夫かなと思っていました(笑)。

杉原 そう。僕自身も稽古前は、(最終的に現代語になるのは)きっと半分ぐらいかなぁと思っていたんですよ。でも、稽古をしてみたら意外とうまく行った。僕が上演台本を書いて先生にチェックしてもらいながらつくっていったんですが、ガンガン進んだね。

木ノ下 進んだね。世話物だったら現代語訳しても別に不思議はないかもしれないけど、歌舞伎の『勧進帳』は様式性が強い演目なのでね。現代語訳の勝算がなかったんですよ。一方でここ数年、「木ノ下歌舞伎は歌舞伎を現代劇に作りかえてますっていうなら全部現代語訳してやれ!」みたいな批判をよく耳にするようになって。でも僕は、その批判は認識不足だと思っている。そもそも、全部現代語でしゃべれば現代劇かよって思うし、現代語訳が生きる演目とそうでない演目とがあるはずで、その辺をすっとばしている批判なので、さほど深刻に受け止める必要はないんですけど、やっぱりちょっと悔しい。じゃあ、邦生さんが「やろうと思えばできますよ、ってことを示す意味でも『勧進帳』を全部現代語訳するのはどうでしょうか」ということで、なるほどなるほどと……。

杉原 そういう的外れな批判ってムカつくから「じゃあやってやる」って(笑)。あと自分たちでも「歌舞伎を現代劇として上演しています」と言って10年以上活動してきたので、現代劇化とは何だろうということも含めて改めて考え直す一つの礎、起点になるかなと。歌舞伎を現代劇にするという可能性の幅広さを、木ノ下歌舞伎はどんどん提示していくべきだと思う。僕は木ノ下歌舞伎の立ち上げから10年間の中で、先生と本当にいろんなことをやったよね。

木ノ下 ね。そうだね。

杉原 そこで一つ、10年間の集大成として、今までやってきたことをやるのではなく、失敗してもいいから新しいことをやって、杉原邦生が木ノ下歌舞伎でこれだけ実験したぞっていうのを残すのもいいかなと思って。

−−卒業記念制作のような、集大成という気持ちはどこかであったのですか?

杉原 そうですね。翌年(2017年)に予定されていた『東海道四谷怪談』は基本的に2013年の再演にするつもりでいたから、新しく何か創造的な実験ができる作品は団体メンバーでいるうちはこれが最後かなと思っていた。大いなる失敗をしてもいいかなって思っていました。

−−で、結果的には「成功」したわけですね。

杉原 そう、結果ね。

木ノ下 それはね、自負しております(笑)。

−−制作過程でも失敗に感じることもそんなになかったわけですか。

木ノ下 僕はずっと稽古場にいたので、そこで見ていた感触としては、すごく色々試していたなと。特に前半ですね。舞台美術は挟み舞台で両面から客席があるというのは決まっていて、稽古場でオープニングからどのようにするかというのを何通りも試していた。驚いたのはですね、そのジャッジが早いんです。格好いい幕開きだったりするんですよ。「これいいですね」とか言っても、邦生さんは「そうかな」って(笑)。色々試しましたよね。

杉原 そうだね、オープニングだけで1日、いや、2日ぐらい使ったかな。

木ノ下 いろんなバージョンを作って、違う、違う、違うとなって、この形に収まるんですが、試すのと、ボツにしていく速度がすごく早いんです。普通は演出家が迷っているという風に思われてもおかしくない稽古の内容なんですが、めちゃくちゃ早いから「めっちゃ稽古が進んでいる!」みたいな(笑)。そこで演出家がしたいことはメンバーに共有されるし、非常に熱のある稽古でした。

初日からいきなり通し稽古

木ノ下裕一

木ノ下裕一

−−まずは『勧進帳』を完コピされるお稽古から始まるそうですね。

杉原 2010年の初演の時に今ではおなじみになってる完コピという稽古方法を、木ノ下歌舞伎としても初めて取り入れたんです。それが僕らにとって、キノカブの第2章の始まりみたいな、すごくエポックメイキングなことだった。そこから基本的に新作をつくる時にはやっています。……やらないとね、不安なんですよ。『東海道四谷怪談』を2013年に初演した時は、今回は生世話物(きぜわもの)で言葉もそこまで難しくないし、時代劇に近いものだから、完コピしなくてもできるんじゃないかなと思ったんですよ。

木ノ下 がっちりした様式もないしね。

杉原 そう。それで完コピをやらなかったんですよ。そしたら稽古で何していいか分からなくなっちゃって。

木ノ下 俳優さんも含めて、みんな。

杉原 何を起点に演技を構築していったらいいか、僕も何を起点に演出をつけていったらいいか分からなくて。これはまずいということで。1週間ぐらい完コピなしで稽古をするという大いなるタイムロスをしたんです。そこから使えそうな映像を用意して完コピを始めたから、本当に大変でした。そのトラウマがあるからそれ以降は絶対やるんです。最終的に作中でどれだけ生かされるかは別として、まずはやる。

木ノ下 儀式だね。全体の稽古日数にもよるけど2~3週間はやりますね。

杉原 2016年の『勧進帳』リクリエーションの時も完コピから始まりました。ただアメリカ人の俳優がいるので、大変です(笑)。弁慶役は最もセリフが多い役ですし、超難しい言葉もたくさん喋るので。だから全編はやっていないですけど。

−−今回のお稽古の時はまた完コピから始めるのですか?

杉原 やりません。稽古初日から通し稽古をします。

−−え、初日ですか? すごいですね。

杉原 もう言ってあるので、皆さん、稽古初日までに自分でやってきてください、と(笑)。

木ノ下 もう恒例ですよ。「杉原邦生のむちゃ通し」と言えば有名(笑)

杉原 2016年の『黒塚』パリ公演の時もそうです。稽古場にバミって(※舞台装置や俳優の立ち位置を示すために稽古場に印をつけること)、すぐGO!です(笑)。せっかちなんですよ。待つの嫌いだから。ぐちゃぐちゃでもいいから先に通しをして、みんなで出来ていないところをさらっていった方が早いし。

「自分の団体の次に面白いことやっているのが木ノ下歌舞伎だ(笑)」

杉原邦生

杉原邦生

−−杉原さんは木ノ下歌舞伎を「卒業」されたわけですが、出られたことで気がつく木ノ下歌舞伎の魅力を教えてください。

杉原 昨年秋に上演された『心中天の網島』までは企画段階から関わっていたので、メンバーだった頃と大きく変わった感覚はまだないかもしれないですね。メンバーだった時も僕が関わっていない作品は、稽古を1回見学に行って本番を観に行くような感じだったんですね。だからまだ、卒業したからどうこうという感じはないです。ただ、物理的に(他メンバーと)会わなくなった……。

木ノ下 そうね、まず一緒にいる時間が減りました。

杉原 昨日、半年ぶりに一緒に先生と二人で飯食ったもんね(笑)。卒業してすぐの6月に京都で飯を食って以来。……でも、全く連絡取らないわけじゃないし、あんまり変わらない。変わったと言えば、ライバル劇団になったってことかな(笑)。結局、僕は木ノ下歌舞伎でやっていることが面白いと思っているからメンバーだったわけだし、もちろん自分の団体がやっていることが一番だけれど、KUNIOの次に面白いことをやっている団体が木ノ下歌舞伎です(笑)という感じ。だから負けないようにしないといけないな、と思ってますね。

木ノ下 多分ね、僕の方が変わった気がするんです。邦生さんが抜けて、たまたま数日後に歌舞伎座に行く用事があって。じゃあね、歌舞伎座の正面にね、邦生さんが構成を担当される八月納涼歌舞伎の『歌舞伎座捕物帖』の予告看板が掲げてあって、「構成・杉原邦生」って十返舎一九の横に書いてあるんですよ(笑)。その前の年も同じ仕事をやってらしゃったから、松竹歌舞伎のチラシや看板で名前を見ること自体は2回目なんですけど、団体を抜けてから見るのはすごく感慨深かった。ずっと「本家の歌舞伎に食い込んでいくアーティストをキノカブから輩出したい」と願っていたからでしょうね。それと、邦生さんが演出をしている舞台を観に行くんですけど、木ノ下歌舞伎を抜けてから観に行くとね、邦生さん本人から聞く前情報が減ってるわけですね。稽古段階でここが大変とか、手ごたえありとか。幕内的な前情報もないまま舞台を見ていると、その時の方が、「あぁここ邦生さん戦ったな」とか「きっといま、こういう事に興味あるな」とか「この作品ではこういうことを描きたかったんだろうな」とか、合っているかどうか知りませんけど、すごくクリアにわかるようになって。不思議ですよね。ずっと一緒にいるわけじゃないのに、戦っている仲間の姿がすごくクリアに見える。以前に増して同志感が強まっているようにも感じるし。

「これでダメならきっとキノカブ合わないです(笑)」

杉原邦生と木ノ下裕一(左から)

杉原邦生と木ノ下裕一(左から)

−−3月の『勧進帳』に始まり、6月の『三番叟』、そして秋には『勧進帳』のフランス公演も決まりました。濃密な1年になりそうです。

杉原 卒業したくせにあんまり何も変わっていないですよね(笑)。僕にとっては、木ノ下歌舞伎の中で動いている情報が入ってこなくなっただけで、クリエーションに関しては何も変わらない。だって変わらず先生と制作の本郷麻衣さんが創作のサポートしてくれるし、作品に必要な信頼している人たちが集まってくれるし。だから、今年に関してはそんなに変わらない。

木ノ下 変わらないなと思いますが、楽しみにしています。いろんな演出家がキノカブに参加してくれてますが、それぞれが持ち味がある。邦生さんとのクリエーションで一番楽しいのは、一緒に「飛べる」感じがするんですよ。つまり、着地点が見えてなくても、全編現代語訳しませんかとか、僕も着地点がわからない提案みたいなのがあって。それはすごくスリリングなんですよね。たとえそれがダメだったとしても、それに代わるものが見つけられるんじゃないか。もしくは邦生さんなら何とかしてくれるだろうという信頼もあるので、そういう意味では不安ではないし。必ず新しい風景が見えるってすごく楽しい。

杉原 それは僕にとってもそうかもしれないです。突拍子もないことを言っても、まぁ違ったら先生がなんか言ってくれるかなって安心感がある。自分のカンパニーや他の現場で演出家として一人で立っていると、どうしても演出的ジャッジを一人でしていかなくてはいけない。周囲をざわつかせる突飛なアイディアを出した時も(笑)、最終的なジャッジを自分でしなくてはいけない。先生がいてくれると、自分では思いもよらない理由でOKになることもある。一人だとそれはできない。驚くべきジャッジが生まれる面白さやスリリングさはありますよね。

−−木ノ下歌舞伎を初めて観る方もいらっしゃると思います。最後に一言お願いします。

杉原 中村七之助さんと同じく「木ノ下歌舞伎はスカしている」と思っている人に観て欲しいですね(笑)。

木ノ下 「弁慶がアメリカ人? あいつら歌舞伎をスカしやがって」という人にね(笑)。

杉原 『勧進帳』を観る前はそう思っていたって、七之助さんご本人から聞いたんですよ。でも、松本公演の時にとても感動して、2日続けて観に来てくれて。だから、スカしてると思っている方はぜひ(笑)

木ノ下 誰にでも観て欲しいけどね。特に若い人に観て欲しいと思うんですよね。

杉原 木ノ下歌舞伎をきっかけに古典に興味を持ってもらえたら嬉しいし、そもそも僕たちはそういうことをやろうとしていたんですよね。歌舞伎とか『勧進帳』という作品を好きで知っている人が観ても新しい発見がある。逆に全く興味がなくて、現代演劇しか知らないような人たちが観て、「あ、歌舞伎を観てみよう」と思う。そういうお客さんのミックスが生まれたらいいなと思っているので。どんな人にも観て欲しい。とにかく一度観て欲しい。これ観てダメだったらもういいです、諦めます(笑)。

木ノ下 キノカブ、多分、合わないです(笑)。

杉原 邦生演出作品も全部キツイと思う(笑)。

木ノ下 でも確かにそう思えるね。

杉原 究極のシンプルさで、木ノ下歌舞伎という団体がやりたい事を、僕なりの解釈で表現して、なおかつ、僕自身が演劇でやりたい事をも表現できていると思うから。ぜひ劇場で体感して欲しいです。

取材・文・撮影=五月女菜穂

公演情報
木ノ下歌舞伎『勧進帳』
 
■日程:2018年3月1日(木)~3月4日(日)
■会場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ (神奈川県)

 
■監修・補綴:木ノ下裕一 
■演出・美術:杉原邦生[KUNIO]
■出演:リー5世、坂口涼太郎、高山のえみ、岡野康弘、亀島一徳、重岡漠、大柿友哉

 
※アフタートーク開催
3月1日(木)19:30 KAAT芸術監督白井晃・木ノ下裕一・杉原邦生[KUNIO] 
3月3日(土)18:30 木ノ下裕一・杉原邦生[KUNIO] 

 
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