舞台『お月さまへようこそ』吉原光夫と海宝直人にインタビュー!「今、このメンバーでやりたかった」
海宝直人(左)×吉原光夫(右)『お月さまへようこそ』 (撮影:岩間辰徳)
『レ・ミゼラブル』『FUN HOME』など、俳優としても活躍する吉原光夫がジョン・パトリック・シャンリーの戯曲『お月さまへようこそ』をArtist Company 響人にて演出する。6つの短編で紡がれる本作に出演するのは海宝直人、宮澤エマ、畠中洋ら実力派のプレイヤーたちだ。初めて出会ってから20年近く経つという吉原と海宝に話を聞いた。
海宝直人(左)吉原光夫(右)『お月さまへようこそ』
相手と交流しながら関係を作る過程が楽しい(海宝)
――響人、約3年振りの再始動です!
吉原 これには深いようで深くない理由がありまして(笑)。と言うのも、今回のこのメンバーで集まってじっくり舞台を作りたかったんです。みんなのスケジュールの都合もあり、タイミングを探っていたところ、今になってしまったという。
――海宝さんは初・響人ご出演、そして吉原さんの演出を受けられるのも初めてですね。
海宝 現時点での印象ですが、演出家としての光夫さんはとてもまろやかで、広い気持ちを持って僕たちに接してくださっている気がします。どちらかと言うと、役者同士としてご一緒している時の方が少しピリッとした空気をまとわれている感じでしょうか。
――ちょっと意外な気もします(笑)。
吉原 プロを相手に演出する時は基本、穏やかですよ(笑)。自分が俳優をやりながら時に演出もさせていただいているので、演技をする時の俳優の気持ちが痛いほどわかるんです。俳優って演技をする時、すごく怖いんですよね……いろんな意味で。それこそ演出家が放った一言でずっとトラウマを抱えるようなこともありますし。対して演出家は鈍い痛みがずっと静かに続いていく感覚かな。俳優は変なプレッシャーがない方が良い演技ができると僕は思っていますので、演出をしている時はなるべくそういう空気を作れたらと心掛けています。
海宝 僕は稽古に参加してまだ数日といったところですが、テーブル稽古(=読み合わせやディスカッションなど)で時間をかけながら、相手役としっかり目を合わせて交流し関係を作っていく過程が楽しいです。こういう稽古をじっくりやることで、結果的にすっと立ち稽古に入れるという感覚もありますね。
海宝直人『お月さまへようこそ』
――今回なぜ『お月さまへようこそ』をチョイスなさったのですか。
吉原 じつはプレゼンなんですよ。あるメンバーの家にみんなで集まって、候補にした3つの戯曲の内容を話したり、映像を観てもらったり、音楽を聞かせたりしながら軽くリーディングをしてみたんです。その時の反応が1番良くて、全員一致でやりたい!となったのが短編集の『お月さまへようこそ』で。
海宝 初見でホン読みしている時から、クスクス笑いが出てましたよね。僕も読んでいて気持ちがドライブする感覚で、素直に楽しい!やってみたい!と思いました。
吉原 そうそう、なんかね、みんながこの戯曲が好きだなって思う気持ちが強く伝わってきたんです。まずは提示する側の自分たちが楽しめる作品じゃないとダメだから。あとはこの短編集だと、作品ごとに細かく分けて稽古ができるので、スケジュールが組みやすいっていう理由もありましたね……みんな、忙しい人たちだし。
――現時点の情報では、海宝さん、5役を担われるとか。
吉原 おおー!すごいじゃん。
海宝 ちょっと(笑)!5つの作品や役のあいだを旅していく……みたいなところはありますね。短編集でありながら、じつはどこかで繋がっているというか。今は作品をブロックごとに稽古しているので、まだ全体像が見えていませんが、その繋がりが浮かび上がってくるとまた面白いんじゃないかと思います。
――戯曲を読むと、まったく違う6つの世界にも思えるし、じつは登場人物たちがどこかで繋がっているんじゃないかという印象も受けました。そこは吉原さんの演出でさらに明確になると思うのですが。
吉原 そうなんです、その繋がりみたいなものは出していくつもりです。軸としては海宝が演じる“男性”と宮澤エマさんが演じる“女性”がいて、ただその男女は固定ではなく、短編ごとにそれぞれ他の俳優も演じるんですが。もしかしたらすべて1人の“男性”かもしれないし、まったくの他人かもしれない……そういう暗喩的なところを意識的に仕掛けながら、上手く6編が繋がっていくように演出したいと思います。とてもおしゃれな戯曲ですし。ただ、「こことここは繋がってますよー」って説明的にはしたくないんです。それは圧倒的にダサいから。
吉原光夫『お月さまへようこそ』
――海宝さん“演出家・吉原光夫”の1番の魅力ってなんですか?
吉原 あとで500円渡すから……分かってるな(笑)?
海宝 じゃあ、褒めます(笑)。いやでも真面目な話、稽古の中でうかがうお話はすべて勉強になります。今回は17歳の中村翼くんも参加するんですが、光夫さんが翼くんにじっくり向き合って演出しているのを近くで見ているだけでも大きな刺激を受けますね。今回、こういう繊細なストレートプレイに出演させていただく中で、あらためて“会話”の大切さを光夫さんから教わっている気もします。ありがたいですよね。
吉原 僕は海宝は今後も大きな舞台に立ち続ける俳優のひとりだと思っています。ただ、日本の演劇界では規模が大きい舞台になるほど稽古もスピーディーにならざるを得ない状況がある。そんな中、日々に飲み込まれて俳優として自分が極めたい表現や突き詰めていきたいことをふと忘れがちになる時もあるけれど、海宝にはつねに妥協せず極めていってほしい。今回は精神的なストレッチ、ではないけれど、一旦いろいろなことをほぐして、ここで得たものをまた違う稽古場に持っていってほしいです。海宝がそういう姿を見せることで、いろいろ刺激を受けて変わっていく俳優たちもいると思うし。
海宝は子どものころから“役者”だった(吉原)
海宝直人『お月さまへようこそ』
――そんな素敵なお話を聞けたところで、これまでのおふたりの関係についても掘らせてください。確かご共演は2.5回ですよね。
吉原 ん、2.5回?
――『ライオンキング』『レ・ミゼラブル』そして組がREDとWHITEに分かれた『ジャージー・ボーイズ』。
海宝 『ジャージー・ボーイズ』は同じ回の舞台には立っていないんですよね。
吉原 稽古場でずっと見てたから、すっかり一緒にやってる感覚だった(笑)。
――まずは『ライオンキング』から。海宝さんがヤングシンバで吉原さんがその父・ムファサです。その時のことって覚えていますか?
吉原 もう17、8年前になりますが、僕はめちゃめちゃ覚えてますね。僕がムファサを演じたのは21歳の時で、それは劇団的にもなかなか異例なことだったんですけど(笑)、ずっと稽古場にムファサ役候補者としてついていて、舞台稽古になった時に、ヤングシンバ役でその場にいたのが海宝だったんです。で、海宝が今のままの感じで立ち位置とかいろいろ教えてくれて。なんなら、待ち時間の世間話にも付き合ってくれるデキた子役でした。
海宝 僕もいろいろ覚えてます(笑)。じつはムファサとしての光夫さんより、シンバとしての光夫さんの印象の方が強いんですが。
――ヤングシンバとシンバとしてもご共演なさっているんですね。
吉原 そう、僕は先にムファサをやって、その後にシンバを演じたんです。
海宝 シンバの時は楽屋も同じでしたよね。正直、光夫さんは他の方とはちょっと違う……ある種、異質な空気をまとっていて(笑)。ちょっとオラオラしているというか……だから僕も、普段以上に丁寧だったのかもしれません(笑)。
吉原 そうだったのか、繋がったよ(笑)!そう言えば、普通に「お前」とか呼んでたよね。
海宝 はい、他にそんな人、いませんでしたから(笑)。
――劇団での舞台歴で言えば海宝さんの方が先輩なのに(笑)。
吉原 だから今では「パイセン」って呼んでます(笑)。当時、自分が出ていない『ライオンキング』の舞台を良く観に行っていて、海宝のヤングシンバを観るたびに「こいつは成長したらシンバをやるな」と思ってました。子どもなんですが、当時からすでに“役者”のたたずまいで。
海宝 そんな風に見ていてくださったんですね。僕自身は幼かったので、いつかシンバを演じたい!みたいな気持ちはなくて。ただ、芝居や演技についてはよく考える子どもだったと思います。
吉原光夫『お月さまへようこそ』
――そして2015年、2017年の『レ・ミゼラブル』では、バルジャンとマリウスとして義理の親子を演じます。
海宝 僕としては2017年の時の方が一緒にいた印象がありますね。2015年の時はそれこそピリっとしていて、あまり気軽に近寄れなかった。
吉原 確かにそうかも。今になって思うと、2013年を経ての2015年って、自分の中にちょっと構えすぎたところがあったかもしれない。当時は体調管理も完璧ではなく、痩せすぎてしまったり、バルジャンとジャベールふた役のバランスを取りきれなかったりで、追い詰められた感があった。2017年はプライベート面をサポートしてくれる人ができて、安定した状態でいられたかな。だから海宝のところにも泊まりに行けたし(笑)。
海宝 翌日が休演日の時に、ほぼ朝までゲームしたりしましたね(笑)。
吉原 そうそう、結構ハードな格闘アクションとかね。一緒にショップに行ってゲームソフトを選んだり。
――おふたりが影響を受けた方ってどなたでしょう。
海宝直人(左)×吉原光夫(右)『お月さまへようこそ』
海宝 この作品の取材だから言うわけじゃないですけど、僕は今回のカンパニーのみんなです。ずっと一緒にやりたいと思っていたので、毎日刺激を受けてますね。
吉原 演出家としてはやっぱり小川絵梨子さん、あとはワークショップを受けたデヴィッド・ルヴォーさん……役者として影響を受けたのは中嶋しゅうさんですね。僕、あまり舞台を観て「ヤバいな、この人」って思うことはないんですけど、しゅうさんは最高にヤバかった。『今は亡きヘンリー・モス』を観た時の衝撃は忘れられないです。
――海宝さん、将来演じてみたい役ってありますか?
海宝 (少し考えて)悪役をやってみたいです。極悪人でもいいし、取りようによっては“悪”でない人でもいい。そういうタイプの役をこれまで演じたことがないので。
吉原 いつか海宝のジャベールが観たい。2017年の『レミゼ』や『ノートルダムの鐘』を経た海宝と一緒にやってみて、あらためて光と影の両方を出せる俳優になったと実感しているし。発散する系の役もいいけど、自分の中でいろんなものを引っ張ってバランスを取る芝居も観たいと思うよ。
海宝 ありがとうございます!
吉原 あと、1つ聞いていい?なんでシアノタイプ(=海宝がボーカルを務めるバンド)のライブに呼んでくれないの?西川(大貴)なんて毎回連絡くれて、なんなら一緒にバックヤードでご飯食べたりしてるんだよ。
海宝 いや、深い意味はないです……じゃあ、呼びます!次回は来てください!
吉原 じゃあ、ってなんだよ(笑)。
海宝直人(左)×吉原光夫(右)『お月さまへようこそ』
取材・文=上村由紀子
撮影=岩間辰徳
公演情報
公式サイト:https://www.hibikibito.com/
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