pollyは初のフルアルバム『Clean Clean Clean』で何を描いたのか――越雲龍馬と再びじっくり語り合う
polly・越雲龍馬 撮影=風間大洋
pollyが1stフルアルバム『Clean Clean Clean』を完成させた。会場限定の音源を除けばおよそ2年ぶりとなる本作は、その間に起きたメンバーチェンジなどの様々な事象を乗り越えつつ、サウンド面においても詩作においても、フロントマンである越雲龍馬の嗜好と美学とを、よりクリアな形で閉じ込めた1枚となっている。それはつまり、とてもピュアな作品に仕上がった、ということでもある。
本稿では、越雲と語り合いながら、彼がどのように本作の制作に向き合ったのか、どんな作品にしたかったのか、どんな作品にはしたくなかったのかを中心に、ここへきてより鮮明になってきたpollyのバンド像に迫っていく。
■人肌をあまり感じないような作品にしたかった
──会場限定シングルの「愴」と「想」を除けば約2年振りのリリース。一作目、二作目を近い感覚で出した後、2年空いたわけですが、その間にいろんな変化があったと思うんですよ。
うんうん。
──そのあたりは今作に至る上でどんな風に影響しました?
心情的な変化みたいなものはそんなにないかな。ただ、空いたぶんの、CDを出せないストレス、音源を作れないストレスみたいなものはずっとあって。でも、空いたことで逆にポジティブな気持ちになり、やりたいことをどれだけ追求するのか?という期間ではありましたね。
──「音源を作れない」というのは環境的な意味で? それとも自分的な?
曲がそんなにできていなかったし、メンバーチェンジもあって整っていなかった気はしています。ベースの須藤(研太)が入ってすぐにツアーだったんで、まずバンドに慣れてもらうこととか、彼の良いところやダメなところを見つける作業、今までの曲をまずちゃんとやってもらうこと、そこにちょっと時間がかかったような気がしていて。曲を作るという頭よりも、まずは今いる4人がどれだけまとまれるか、ライブをまとめられるかというところにウェイトを置いてましたね。だから、先があまり見えていなかったというか、目の前のことにいっぱいいっぱいだった気がします、その期間は。
──従来の曲もアレンジを変えたり、再構築をしていたじゃないですか。そうする中で、今作に向けて自分のやりたいものが明確になっていったりもしたんですか?
アレンジしていく中というよりは、会場限定で出したシングルを作っている最中にやりたいことが明確になったような気がします。シングル2枚あわせて6曲を録るにあたって、やりたいことは明確だった。けど、それをちゃんとアウトプットできていなかったという感覚があって、それを踏まえて、やりたいことのベクトルに向けてアレンジを変えていくような作業が多かったですね。
──やりたいことって、今の趣味趣向の部分も含めてですか。
そうですね、うん。趣味趣向も大きいし、あとは自分の声にあう音をずっと探していて。で、好きな音楽の中からハマったのが今作のような音像だった感じです。
──ちょっとアンビエントぽいというか、声もサウンドを構成する一部みたいな使い方というか。
そうですね。楽器の一部だと思ってやりました。
──インプットも増えました?
増えましたね。やりたいことをするにあたって、今作みたいな音像のバンドをたくさん探して、一日中聴いてました。その作業が楽しかったですね。今までで一番音楽を聴いていた期間なんじゃないかなって。まあ、まだまだ全然、もっと聴いている人はいると思いますけど。
──でも、今の日本の音楽を見渡しても、あまりこういう音を出しているバンドはいないと思うんですよ。となると、探していく中で触れたのは、昔の音だったり、海外の音だったり。
そうですね。あまり日本からインスピレーションを受けていないような気がします、今作は。
──これまではあった?
全然ありました。別に、嫌いなバンドというか、ハマらないバンドはたくさんいたけど、日本のバンドにも好きなバンドはたくさんいるし。だから全然ありましたね。
──今回はより洋楽の方向に耳がいったと。特にこれに影響を受けた、みたいな存在はありました?
レコーディングの手法を得るためにインプットしたので言えばマイブラだけど、そんなにこれ!っていうのはなくて、満遍なく聴いていた感じでしたね。アルバム単位で聴くんじゃなくて、好きな曲だけをピックアップしたプレイリストを作って流して聴くとかだったかな。
あ、リンゴ・デススターっていうバンドが多かった気がする。あと、ラグジュアリーレコードっていうスウェーデンのレーベルがあるんですけど、そこから出しているバンドがすごい好きで、そこら辺ばっかり聴いてました。ドラムのリズムのはめ方とか、アルペジオの入れ方とか、そういう部分はすごく勉強になるんですよ、メロディーもいいし。日本とスウェーデンってすごい近いようなイメージがあって、日本の人たちが結構スウェーデンにウケているみたいな話も聞いていたし。
──初めてアルバムをフルサイズで制作するにあたって、どういうものにしたいかのイメージは出発地点からありました?
ずっと担当スタッフに話していたのは、モノクローム。モノクロっぽいイメージが原点だったんですけど、作っていく中でやっぱり変わっていくじゃないですか。あとは浮遊感だったりとか、繊細さ。歌詞でいえば、どれだけネガティヴなものを抽象的に書くかとか。陰の部分……温度感の低い冷たい音像を目指していて、まとめていえば、人肌をあまり感じないような作品にしたかったんです。
──それは主にサウンド面において?
歌詞も意外とそういうイメージで書いてはいるんですけど。まあ、人間が文字を起こすというだけでも、もう人肌じゃないですか。
──なるほど。「フルアルバムを出す」ということ自体に関しては、やっと出せるという感覚なのか、満を辞してさあ出すぞという感覚なのか。
ずっとフルアルバムを出したいと思ってたんで、やっと作れる、ですね。
──出したかったというのは、10曲以上の楽曲群によって表現したいイメージが、ずっとあったということですか。
そうですね。シングルを出したぐらいから、出したいなってずっと思っていて。フルアルバムが元々好きだから、それもあるのかな。まったく聴いたことのないバンドやアーティストの音源を聴くとなったら、フルアルバムを聴くことが多くて、シングルとかEPとかはあんまり最初は聴かないような気はします。バンドの脳みそというか、そういうものを知れるのがフルアルバムだと思っているので。あとは、散歩しながら音楽を聴くと時間的にハマるのがフルアルバムで、一石二鳥というか。
■他人の生き方に対してどうこう言う作品にはしたくなかった
──制作自体はどれぐらいのタイミングで?
出そうというのが決まったのが、いつだったけな。……11月ぐらいから録り始めているんで、もうちょっと前ぐらいなのかな。たぶん夏ぐらい。最初は2枚組で出そうという話をしていたんですよ。言ってしまえば、青と赤みたいな。
──「愴」と「想」みたいな。
そういう感じで出したいねっていう話をしてたんですよ。シングルの流れもあるし、そっちのほうが面白いのかなって。結局は1枚になったんですけど、だから長かったですね。長かったあ……(笑)。
──(笑)。
その間、すごいイライラしてましたね。何に対してイライラしてたのかわからないですけど。
──アルバムに対して根詰めて向き合っていくような期間がずっと続いていたと。
そうです。その期間中にバンドやめようとも思ってましたし。やっぱこう、集中すると一つのことしか見えなくなってしまうので、そこで違うものに対して悩みが増えると、結構パニックになっちゃうというか。
──今くるなよ、みたいな。
今これかよ、と。でも、今作はすごく、前よりも自分が責任感を負いたかったというか、そういうものにしたかった。だからイライラしたり、怒ったりすることはたくさんあったんですけど、メンバーに対して期待はしなかったんです、いい意味で。自分で全部やるというか。昔みたいなイライラはしなくなったような気がします。
──昔のイライラというと?
俺がこんなにやってんだから、お前らもやれよって思ってたんですけど、よくよく考えたらフロントマンとして当たり前のことなんじゃないかなっていうのを感じ始めて。だから、違うところにイライラしよう、みたいな(笑)。
──イライラ自体はするんだ(笑)。
はい(笑)。で、作品に対して、もう全部自分でやらせてくれっていうのは伝えて。今作はデモからドラム、シンセ、ノイズまで全部自分で作って、それをまず覚えてもらって。音色とかもこれで、とか。
──それぞれのメンバーにもやりたい方向性だったり、出したい音とかもあると思いますけど、そこのやりとりは?
やりとりはしてないです。相談もしてないな。やりたいことではなくて、この曲をどうしたいか考えて、みたいな。細かいところを変えたかったら変えてもいいしっていう。
──エゴは排除した上で、アプローチしてほしいということですね。
そうですね。自分がやるべきものに対して、ちゃんとやってくれっていう感じではありました。
──そのやり方はうまくはまった感じはありました?
どうだろう……彼らからしたらはまったかどうかはわかんないですけど(笑)、自分からしたら一番やりやすいやりかたではあります。
──その結果、前回のインタビューで「自分のマインドに沿ったものはできるけど、想像を超えてこない」という話をしていた部分を、今回は乗り越えられました?
そのときよりも全然、そういうストレスを感じないし、やりたいことをちゃんとアウトプットできるようなことを身につけた気はする。けど、想像を超えるか超えないかでいえば、たぶん想像を超えることってないんじゃないですか? 結局、すごく理想が高いので、たぶんないと思うな。
だから絶対落ち込むんですよね、作った後に。やりたいことができたアルバムではあるけど、やっぱりどこかに録り直したいという気持ちもある(苦笑)。でも、今まで出した作品よりもそういう気持ちが少ないし、コンプレックスもない。今まで出した音源って自分で聴けないんですけど、これは聴けるような気がするし、わからないけど、なにか変わるような気がしています。先が見える感じがする。だから以前インタビューで話したようなモヤモヤ感ではないし、だから「健全」なんだと思います。
──すっきりこそしてないけれども――
すっきりはしていないけど、愛着はすごくある。あるし、他のバンドやいろんな人から「この作品がよくない」とか「ダサい」とか言われても気にしないアルバムではある。今回、自分自身が好きでいれるから、この作品ができてから外を向くようになった気がします。
──今回はやりたいことが今まで以上に明確にできた。では逆に、こういう風にはしたくなかったというイメージはありましたか?
歌がすごく近い音源――コンプがガンガンかかっていて、歌がもうすぐ側で鳴ってるみたいなものにしたくなかった。あとは暑苦しいものにしたくなかった。なんていえばいいんだろう……押し付けがましい音源にはしたくなかったですね、リリックの面では。なんか、それこそ絵画展とか、そういう作品にしたかったので。説明文みたいなものはいらない作品に。
──あからさまなメッセージ性とかも要らない。
メッセージ性自体は欲しいけど、「生きろ!」とか「俺が救ってやるから」感はやりたくない。
──うんうん、わかります。
絶対やりたくない。「俺がお前らの人生を変える」みたいなのは本当にクソだと思っているんで。他人の生き方に対してどうこう言う作品にはしたくなかったですね。自分が今まで生きてきた中で感じたものだったりとか、インプットしてきたものを、出すだけ。
──自分なりのメッセージは根底にあるんだけど、それを押し付ける感じではなく、イマジネーションに委ねるというか。
そういう感じかなあ。だから、映画でいえばセリフもBGMもなくて、ただ映像がバーッと流れている中にも感じるものってあるじゃないですか。そういうものにしたかったのかな。
──今回、リード曲でいうと?
1曲目の「生活」です。「生活」だけは、これは一番多く世に出さなくちゃいけない曲だなというのが、スタッフ、メンバー含め共通意識であって。
──龍馬くん的に、特に推しでいうとどれですか?
うーん、自分の中ではどれもシングルカットできるようなクオリティにはなっている気がしていて、全部推しではあるんですけど、個人的に好きなのは「Wednesday」かな。リリックに関してはすごく抽象的にしているんですけど、サウンドに関してはもう本当にやりたいものはこれだ!っていう。でも、聴く時期によってというか、生きていく中、生活をする中で、「この曲いいな」って思う感覚は結構変わってくるから、どれも好きですね。あ、でも今聴けないのは、最後の「717」ぐらいですね。あんまり聴けないです。
──今の気分とかモードとはちょっと違うんだ?
はい。
──「東京」はどうですか、言ってしまえばちょっと弱さを歌っている曲ですけど。
「東京」という曲を書くつもりはなかったんですよ、ずっと。名曲ばかりだから。だから「東京」なんて絶対に書かねえって言ってたんですけど、いつのまにか書いていて。自分が本当に弱っている時期だったし、言ってしまえば、バンドをやめようかっていう時期で、もうこれができたからやめようっていう感じの曲ではあったんだけど。
──東京に出てきてから感じたことが色々と、ずっと積もってできたみたいな?
でも、東京は好きですし……好きというか、嫌いでもないし。強いて言うなら電車が嫌いなぐらいで。どっちかというと地元に対して思うことに近いのかな。実家から離れて一人暮らしを始めて、ひとりでいることが増えて。あとはこういう世界なんで、いつ切られるかわからないじゃないですか、今までやってきた人たちから。そういう焦りは今でもずっとあるし、そういう弱い部分、ナイーブな部分を書きたかったのかな。
──なるほど。そのモチーフとして湧いてきたのが東京だったと。
そうですね。ダジャレみたいな、よく言えば言葉遊びみたいな感じなんですけど、一日を更新することの難しさというか。そこからどんどん発生してくるネガティヴから生まれた気がします。だから、最後のサビの頭の「問う今日」で、今日に対してどう感じるのか?みたいな、その積み重ねを書いた。そういうタイトルにしようと思ってたんで、ずっと。
■これはどういう作品なのかっていうのをメモして……「おにぎりだな」って
──そういうネガティヴさみたいな部分というのは、他の曲にも出ていますよね。
全部ネガティヴですよ。なんか、陰の部分にしか美しさを感じないので。だからすごく悩んだ時期でもあります。レコーディング期間中に地元の先輩バンドと対バンしたら、「そうやってネガティヴなことを書いているけど、自分自身は救われてるのか?」っていうことを、お酒の場で説教気味に言われて。「そんなものがリスナーだったり周りの人に響くわけねえぞ」って言われたときに、そうなのかな?、ボジティヴなものを書いて発信して、自分で救われる人なんているのかな?って思って。救われないから書いている気がするのに。
そういうことを言われて悩んで、スタッフに相談したら「それを聴いて救われている人もいるから、それでいいんじゃないか」って。それからそういう悩みが消えたし、さらに深い部分というか、ネガティヴとされるものを追求したくなった。そうじゃないと説得力がなくなってしまうから。全然明るい部分もあるんだけど、やっぱり落ち込むときも絶対にあるから、そういう部分をたくさん拾いたい。
──自分的に抱え込んでいたものを曲にするじゃないですか。救われるとまではいわないけど、出したことによってスッキリしたりとかはあります?
ないです。全然ない。なったことないな。
──元になった感情は自分のなかにあり続ける?
うん……そうですね。それを曲に書いたことで昇華されることはないです。ただ、「作品ができた」ということに対してのポジティヴな気持ちはあります。けど、それに対して自分がどうこうとかはない。
──なるほど。聴く人がどう捉えるかや、響く/響かない、救われる/救われないっていう部分も、受け取る側に委ねる感覚なんですね。
そうです。俺が一番好きな小説家の安部公房さんが、インタビューの映像でそういうことを言ってたんですよ。具体的である必要はない、抽象的であることが芸術だ――みたいな、受け手が考えるものであるっていう。それに共感して、今作を作った気でいます。
──そういう性格の作品であることは間違いないと思います。徹底的にネガティヴを歌詞にしていく一方で、メロディーはすごく普遍性のあるキャッチーなものですが、その辺のバランス感覚とかは考えます?
意識はしてます。音楽をやるにあたって、やっぱり売れたいという気持ちがすごいあるし、音楽で生活したい気持ちしかないので、そこは譲れないというか。メロディーはメロディーとして、ちゃんといいものをというか、耳に入りやすいものにしたいという意識は変えたくなくて。ただ……そうですよね、バランス感覚ですね、そこは。なんか、輸入雑貨的な食器におにぎりが乗っているイメージですね。そういう作品なのかな。
──でも、「なんだこれ?」って作品にしたかったわけじゃないでしょう?
「なんだこれ?」にしたかったわけじゃないです。
──洋モノの食器とおにぎりって、一見するとありえない組み合わせじゃないですか?
いや、そんなことないですよ。違和感ないと思うんです。もし、実家とかに帰って、おにぎりが出たとして、それが日本人が作らなさそうな皿に乗っていても、あんまり違和感ないと思うんですよ。
──……ないかなぁ(笑)。
俺は気にしたことないですね。だから、なんて言えばいいんだろ?
──たとえば普通の皿に乗っているおにぎりと、昔話に出てくるような葉っぱの包みに乗ってるものと、海外のおしゃれ食器に乗ってるものがあったとして、どれにしっくりくる人が多いか――
あ、それは比べるからですよ。もし仮に、世に俺らの作品しかなかったら、これがスタンダードになるわけですよ。他に比べるものがあるからそうなるだけで。
──ああ。だから「ん?」ってなる人がいると。そうじゃないものを普通だと思っているから。
作品の提示の仕方と一緒で、「これは洋楽を意識してどうこうの作品です」と言われたら、そういう意識をして聴くかもしれないけど。お皿に関する説明をすればお皿に目がいくけど、でも、普通におにぎりをそこに乗せたら、意外と大丈夫というか、そういう作品だと思うんですよ。
──うんうん。
俗にいう地上波のテレビ番組で今作の音源を流しても、俺は違和感はないと思っているんです。それがもう錯覚なのかもしれないけど(笑)。だから別にアバンギャルドなことをしたとは思ってない、結果的には。
──全体としてはそういう、ポップなものだぞと。
ポピュラリティはある。だって、岡崎京子さんの作品が映画化されたりして、絶対的な人気があるじゃないですか。暗い世界観が根底にあるのに多くの人に共感されているから、このアルバムも同じように受け取ってもらえると思っています。
──あとは、そういうものが好きな人のところにちゃんと届くかっていうところですよね。pollyの存在ももちろんそうだし、作った音がこれですっていうのがしかるべきところまで。
そうすれば、他の違う層にも響くような気はする。
──初めて洋モノのお皿に乗っているおにぎりを見た人が、いいじゃねえか!って。
うん。結局、みんな「おにぎり=メロディー」を聴くじゃないですか。
──歌が乗っている時点でね。
そう。だから、どれだけ歌をなじませても、絶対に歌を耳で追うと思うんですよ。だから、結局おにぎりを食うんだから変わんねえだろ?みたいな。でもあえて、その皿にこだわりたかった作品です。
──おにぎりの味付けは?
そこはどうでもいいんです。おにぎりを食べること自体、味はあんまり気にしてない。おにぎりは結局、「おにぎりを食べる」という作業がいいと思うので。
──つまり歌を聴くっていうことに置き換えると、それがとんでもなく奇抜なおにぎりじゃなく、おにぎり自体はわりと普通でいいってことですか。
そうそうそう。そういうことです、言いたかったのは。だから、今日はコンビニでおにぎりを見てきました。
──え?
今日、何を話そうかなって思いながら、昨日の夜に自分の作品を聴いて、これはどういう作品なのかっていうのをメモして……「おにぎりだな」って。だから今日はコンビニに行っておにぎりを見ました(笑)。
──ははははは(笑)。でも、おもしろいですよ、今の話。なんとなく今作で何がしたかったのか、わかる気がする。
わかりやすいですよね? それこそキャッチーじゃないですか、おにぎりなんて。
──みんな知ってるし、食べたことない人いないし。
そうそう。だからそういうことです。おにぎりを選んだのは。
■自分が心底思っていることを、言葉を選ばず話さなくちゃいけない
──リリースした後には東名阪ツアーがあります。ライブにおいては、何か変化は生まれそうですか?
いま、ツアーに向けてモチベーションがあがっているというか。まずはこの作品に対して負けないライブをしなくちゃいけないけど、ライブって必ず妥協点が必要だから、その妥協点をどれだけ底上げできるか、ポジティヴなものに変えられるか。で、ライブを観て感じる「こういうバンドなんだな」っていうイメージが分散しないライブにしたい。ちゃんとこのバンドスタンスとして確立するような、このバンドはこういうライブをするんだっていう、見せることに対してもぶれないようなライブをしたいです。
──そこにフォーカスできているのは、自分的にも「pollyはこういうバンドだ」っていう意識が、前よりもハッキリしたから?
そうですね。こういうバンドが後から増えればいいなっていう。カルチャーを作りたいっていうわけではないけど、俺らに対して、乱暴に言うと憧れとかを抱いて、下にそれが続けば、スタンダードになるかもしれないと思っているので。そういうキッカケになるようなツアーにしたいです。
──ここ1年、須藤くんが入ってからのライブ、前以上に面白いなって思うんですよ。
バンド的にもよかったですよ。もちろん音楽的に変わった部分はたくさんあるんですけど、それよりもバンドとしての見られ方がよくなったんじゃないかなって。あとは雰囲気がよくなりましたね。ああいう能天気なやつが入ったおかげで、コミュニケーションが増えた気がします。だからバンド的にも、メンタル的にもすごい助かってる部分がある。
──後輩でしたっけ?
後輩というか、何度か対バンしてはいて、すごい苦手なバンドだったんですけど。
──(笑)。
いや、本当なんですよ、それが。
──でも、明らかに毛色が違うじゃないですか。持っている美学の種類が違うというか。見た目もそうだし、プレイスタイルも。
そうですね。
──でも、そういう人がいることがむしろおもしろいなって思うんですよ。
今まで観てくれている人たちからの、あんまり受け入れがたいような空気もバチバチ感じてるんですけど、その反面、ちゃんと彼のことを肯定してくれる人も増えた気がするから、全然いい気がします。
──先に向けてのビジョンや意識の面でも、以前とは変化がありますか?
ああ、どうだろう。たぶん、みんなが思うことですけど、一番の目標はバンドを続けること。それが夢というか、目標になってて。そのためにはちゃんとライブの動員を増やさないといけないし、CDのセールスをあげないといけない。それがビジョンなのかな。近い目標で言えば、まずツアーを成功させることと、次はちゃんと大きいところでワンマンをしたい。で、ワンマンツアーをやって――っていう、そういう数字の部分でストレスのないバンドになりたいなと思います。あと、個人的な目標でいうと、ネガティヴなものを知りたい。そこかな。それはもうちょっと追求できれば。
──もっとアウトプットの種類を増やすために?
そうです。やっぱりまだ自分の手の届く範囲のものばかりをアウトプットしているので、もっとギリギリぐらいまで見ていって、それを知らなきゃいけない。
──それって精神の暗部だったり、奥深いところまでいって向き合うことになっていくと思うんですよ。つらくはないんですか?
つらいですよ。つらいけど……つらいですよね。でも、人と関わることってやっぱりつらいじゃないですか。だから、今までは人を選んで接してきたんですけど、もっとつらくなるためには、周りにいる人を増やして、裏切られたり裏切ったりして――もうちょっと深い話というか、自分が心底思っていることを、言葉を選ばず話さなくちゃいけない。だから、嫌なもの、望んでないものにも手を出さなくちゃいけないなって。
──この先音楽を、バンドを続けていくためにはそれが必要だと。
うん、そうですね。バンドをやめたら死んでもいいくらいのメンタルに今いるので。だから、死なないために動く。死なないために生きていくような感覚ですよね、言ってしまえば。バンドを続けるために、身も心も削らなくちゃいけないなと思っています。
取材・文・撮影=風間大洋