吉田 秀 コントラバスの音の“色”や“肌触り”を表現したい

コントラバスの音の“色”や“肌触り”を表現したい

 オーケストラの縁の下の力持ちとしてアンサンブルを力強く支えるコントラバス。NHK交響楽団の首席奏者としてその重要なパートを牽引する吉田秀が、約2年ぶりにソロ・アルバムを発表した。深く艶やかな響きが魅力の無伴奏作品集で、重要作品かつ難曲揃いのプログラムだ。
「編曲ものも考えたのですが、やはりコントラバスの“素の音”にこだわりたくて。オーケストラで絨毯のような役割を果たす、この楽器の音の“色”や“肌触り”のようなものを表現できればと思いました」

 冒頭のドラゴネッティ「6つのワルツ」は、3部形式の舞曲風音楽。これに続くのが、チェコ出身の名コントラバス奏者ガイドシュの「カプリッチョ第2番」だ。
「ベートーヴェンと親交のあったドラゴネッティのワルツは、様々な技巧を駆使しますので、練習曲にも適していますね。コントラバスに精通しているガイドシュの作品は、難曲なのに弾き手に無理な技巧を強いないのが流石。美しい中間部は、同郷のドヴォルザークに似たチェコの田園風景を彷彿とさせます」

 後半のトゥレツキー「ポエム、ポートレイト、バラード、ブルース」と、ビバロ「舟なき船旅」は、コントラバスと人間の声とのコラボレーションが聴きどころだ。
「アメリカ人のトゥレツキーは、古典、ジャズ、現代音楽と幅広く手がけるコントラバス奏者。彼が敬愛する作曲家や演奏家に捧げたこの作品(全6曲)は、演奏者の語りが出てくるのですが、私は原文の英語を知人に頼んで日本語訳して貰ったものを使用しています」

 一方、イタリアのビバロによる作品は、ソプラノ歌手と独奏コントラバスのためのシアター・ピース(全4曲)。共演は日本が誇る名歌手・天羽明惠だ。
「天羽さんとはN響でも度々共演していて、彼女の洗練された色気のある歌声と表現力をずっと尊敬していました。『4つの絵画による4つの夢』が描かれているこの作品の真の姿を伝えられるのは、彼女しかいないと思ってお願いしたんです。録音のための準備期間が折りしも夏の音楽祭シーズンと重なってしまい、僕のいた軽井沢と彼女の滞在する草津を互いに往復しながら練習を重ねたので、思い入れもひとしおです」

 そして当盤は、チェロの巨匠カザルスの愛奏曲として知られるカタロニア民謡「鳥の歌」でしめやかに結ばれる。
「様々な編曲があるので、コントラバスで演奏してもいいのかなと思って。実は、チェリストが協奏曲などの後アンコールとしてこの作品を無伴奏で弾くのを、ずっと格好いいと思っていたのです。今回はその“長年の夢”を密かに叶えることができました(笑)」

取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)

 

CD
『鳥の歌〜無伴奏コントラバス作品集』
マイスター・ミュージック
MM-3061
¥3000+税
10/24(土)発売

WEBぶらあぼ
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