山種美術館『琳派 −俵屋宗達から田中一光へ−』展レポート 江戸時代から近代・現代へ、受け継がれる日本の美意識

2018.5.23
レポート
アート

右:鈴木其一 《四季花鳥図》(江戸時代) 19世紀 山種美術館蔵 左:速水御舟 《翠苔緑芝》 1928(昭和3)年 山種美術館蔵

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山種美術館にて、『【特別展】琳派 −俵屋宗達から田中一光へ−』(2018年5月12日〜7月8日)が開幕した。本展は、俵屋宗達尾形光琳酒井抱一を中心とした琳派が、江戸時代から近代・現代にいたるまでどのように継承されたかを辿り、その造形の魅力に迫るもの。

血縁や師弟関係による結びつきではなく、間接的に先人を模範として学び慕う私淑(ししゅく)によって受け継がれてきた琳派。世代的にも隔たりがあり、出自もさまざまな琳派の画家たちによる優品約60点が、時を越えて共演する。その中には、明治から昭和にかけて日本画壇で活躍した菱田春草や速水御舟、「20世紀の琳派」とも言えるグラフィックデザイナー・田中一光のポスターも含まれている。プレス向け内覧会より、本展の見どころを紹介しよう。

会場エントランス

会場風景 右:伝 俵屋宗達 《槙楓図》 17世紀(江戸時代) 山種美術館蔵 中央:尾形光琳 《白楽天図》 18世紀(江戸時代)〔前期:5/12-6/3展示]

酒井抱一 《月梅図》 19世紀(江戸時代) 山種美術館蔵

山下裕二「切れ味の質が違う」宗達・光琳・抱一の特徴

第1章「琳派の流れ」では、宗達、光琳、抱一の作品をはじめ、鈴木其一や神坂雪佳へつながる琳派の作品26点を展示(会期中、一部展示替えあり)。17世紀、京都で絵屋を営む俵屋宗達による装飾性に富んだ作風は、平安時代以来の料紙装飾や、やまと絵の伝統をふまえたものであった。宗達が絵を描き、本阿弥光悦が書を担当した《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》(山種美術館)や《四季草花下絵和歌短冊帖》(山種美術館)では、平安時代の料紙装飾のように、画面の中で文字と画が見事に調和している。

俵屋宗達(絵)・本阿弥光悦(書) 《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》 17世紀(江戸時代) 山種美術館蔵

俵屋宗達(絵)・本阿弥光悦(書) 《四季草花下絵和歌短冊帖》 17世紀(江戸時代) 山種美術館蔵

なお、明治学院大学教授で山種美術館顧問の山下裕二氏によると、現在は画帖形式の《四季草花下絵和歌短冊帖》だが、改装前は屏風に貼り混ぜられていたことが、美術雑誌『國華』によって確認されているそうだ。また、伝 俵屋宗達とされる《槙楓図》(山種美術館)は、修復後初披露となる作品。こちらも併せてチェックしたい。

伝 俵屋宗達 《槙楓図》 17世紀(江戸時代) 山種美術館蔵

18世紀には、高級呉服屋の子息である尾形光琳が、宗達の画風を発展させていく。《白楽天図》では、平面的な山や極端に傾いた舟、大胆にデフォルメされて生き物のようにうねる波など、光琳らしいデザイン感覚が際立っている。

尾形光琳 《白楽天図》 18世紀(江戸時代)[前期:5/12-6/3展示]

19世紀になると、京都から江戸へ場所を移し、大名家出身の酒井抱一が光琳のスタイルをさらに洗練した「江戸琳派」を形成する。抱一は、《秋草鶉図》【重要美術品】(山種美術館)のように、細い線を使った繊細な描写で自身の画風を確立させていった。

右:酒井抱一 《秋草鶉図》【重要美術品】 19世紀(江戸時代) 山種美術館蔵 左:鈴木其一 《牡丹図》 1851(嘉永4)年 山種美術館蔵

宗達、光琳、抱一それぞれの特色について、山下氏は以下のように語る。

「宗達は野蛮な人で、古典の絵巻からかなり強引にモチーフを持ってきて、元の文脈とは関係ない形で大画面の中に放り込む。それが光琳になると、とびっきりセンスが良くて、自由自在にデザイン感覚を発揮している。抱一は、光琳から今ひとつ線が細くなる。琳派の画家を刃物に例えると、宗達はナタ、光琳はものすごく良く切れる柳刃包丁、抱一になるとカミソリというように、切れ味の質がそれぞれ違う感覚を僕は持っています」

鈴木其一や神坂雪佳、幕末から明治へと受け継がれていく琳派

幕末には、抱一の弟子である鈴木其一が、緻密な描写と鮮やかな色彩で個性を生かした作品を制作した。山下氏は、《四季花鳥図》(山種美術館)に描かれたヒマワリについて、江戸中期に活躍した伊藤若冲との影響関係を指摘している。

鈴木其一 《四季花鳥図》 19世紀(江戸時代) 山種美術館蔵

「ヒマワリは、江戸絵画でそれほどポピュラーな画題ではありませんでした。しかし、若冲の『動植綵絵』の中では、ヒマワリと朝顔の組み合わせがある。この花は、江戸時代の中頃から日本に入ってきた植物のようです。当時としては目新しく、若冲はいち早くそれを絵に描いた。おそらく其一も、若冲に感化されたのではないでしょうか」

さらに明治期に入ると、京都でも琳派の造形を強く意識した画家・神坂雪佳が登場する。先に塗った絵具が乾かないうちに別の色を加えて、にじみを生かす「たらしこみ」は、琳派が得意とした技法だ。雪佳による《蓬莱山・竹梅図》にはたらしこみの技法が使われ、金銀泥で描かれた竹や梅は、料紙装飾的な表現を用いている。

神坂雪佳 《蓬莱山・竹梅図》 20世紀(大正-昭和時代)

雪佳は木版画集『百々世草』(芸艸堂)で、光琳によるカキツバタの図様を木版にしたり、酒井抱一の画集の装丁も手がけたりしている。

神坂雪佳 『百々世草』より、上:牧童 右:八橋 左:住の江 1987(昭和62)年(初版1909(明治42)年)、1988(昭和63)年(初版1910(明治43)年) 芸艸堂蔵

近代・現代の画家たちに取り入れられた琳派的エッセンス

幕末から明治にかけて海外に紹介された日本美術の中でも、特に光琳の装飾的表現やデザイン性は高く評価された。こうした光琳ブームは国内でも盛んになり、宗達や光琳を中心とした琳派は、明治から昭和初期の画家たちにも刺激を与えてきた。第2章「琳派へのまなざし」では、琳派に影響を受けた作品23点がそろう。

菱田春草 《月四題》 1909-10(明治42-43)年頃 山種美術館蔵

速水御舟 《翠苔緑芝》 1928(昭和3)年 山種美術館蔵

菱田春草の《月四題》(山種美術館)による、水墨で月と四季の草花を組み合わせて描く表現は、江戸琳派に先例があるもの。速水御舟による《翠苔緑芝》(山種美術館)は、モチーフを平面的に描き装飾効果を出す表現のほか、山下氏は、画面内の2匹のウサギの形に注目する。

速水御舟 《翠苔緑芝》(部分) 1928(昭和3)年 山種美術館蔵

「ウサギの背中の丸みや、足がピンと後ろに跳ね上がっている様子は、宗達が養源院の杉戸絵に描いた動物《白象図》《唐獅子図》の表現や、宗達が描いたとされる《平家納経 願文》見返しの鹿の背中の丸みを意識したものだと思われます」

ほかにも、葉の部分にたらしこみ技法を用いて、琳派的な表現をした安田靫彦の《朝顔》(山種美術館)や、抱一の絵手紙を参照した奥村土牛の《南瓜》(山種美術館)など、構図だけでなく、図様やモチーフのトリミング、装飾性など、あらゆる角度から琳派にインスパイアされた作品が並ぶ。

安田靫彦 《朝顔》 1932-37(昭和7-12)年頃 山種美術館蔵

奥村土牛 《南瓜》 1948(昭和23)年 山種美術館蔵

「20世紀の琳派」を代表する田中一光

戦後に活躍したグラフィックデザイナーの田中一光は、「琳派は<日本のかたち>の原型だ」と述べ、自らの作品にも、積極的に琳派のエッセンスを取り入れている。中でも、シルクスクリーン版のポスター《JAPAN》(東京国立近代美術館)は、宗達が描いたとされる《平家納経 願文》見返しの鹿の形をそのまま引用し、スタイリッシュに仕上げている。

田中一光 《JAPAN》 1986(昭和61)年 東京国立近代美術館蔵 (C)Ikko Tanaka 1986/licensed by DNPartcom

また、花をテーマにした個展で発表されたポスター《田中一光グラフィックアート植物園#1》(東京国立近代美術館)では、尾形光琳の《燕子花図屏風》を思わせるカキツバタの花が、切り絵のような直線的な表現に置き換えられている。こうした一光の代表作は、17世紀の宗達からはじまり私淑によって結ばれた琳派の伝統を継いでいると言えるだろう。

『【特別展】琳派 −俵屋宗達から田中一光へ−』は2018年7月8日まで。会期中は、1階エントランスロビーにある「Cafe椿」にて、本展出品作をモチーフに旬の素材を用いた和菓子も味わえる。江戸時代から現代まで続く、琳派のロマンを堪能できる本展に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

Cafe椿で味わえる和菓子5種

イベント情報

【特別展】琳派 −俵屋宗達から田中一光へ−
会期:2018年5月12日(土)〜7月8日(日)※会期中、一部展示替えあり(前期展示は5月12日〜6月3日、後期展示は6月5日〜7月8日)
休館日:月曜日
会場:山種美術館
開館時間:午前10時〜午後5時 ※入館は午後4時30分まで
入館料:一般1200円(1000円)・大高生900円(800円)・中学生以下無料 ※()内は20名以上の団体料金
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