【動画あり】ミュージカル『シークレット・ガーデン』ゲネプロレポート~今日の嵐を耐えれば、明日はきっと芽が生える
ミュージカル『シークレット・ガーデン』(ゲネプロ) [写真撮影:福岡諒祠]
ミュージカル『シークレット・ガーデン』日本版が2018年6月11日(月)より東京・日比谷のシアタークリエにて初上演される(7月11日まで。その後、神奈川・福岡・兵庫を巡演)。初日に先立つ6月10日(日)にはゲネプロ(最終総通し稽古)の第一幕が報道関係者に公開された。そのレポートをお届けする(まずは下記動画をご覧あれ)。
【動画】ミュージカル『シークレット・ガーデン』ゲネプロより
この作品は、フランシス・ホジソン・バーネットの小説「秘密の花園」(1911年発表)を原作として、1991年にブロードウェイ初演、同年のトニー賞で脚本賞、助演女優賞、装置賞の3部門を受賞し、またドラマデスクアワードではミュージカル作品賞、ミュージカル脚本賞を受賞した。日本版では石丸幹二・花總まり・石井一孝・昆夏美・松田凌ら実力派俳優陣が顔を揃えるが、物語の鍵を握るのは2人の子供、インドで両親を亡くし、ひねくれていて気性の激しい少女メアリー(10歳)と、身体が弱く寝たきりのワガママな少年コリン(10歳)である。それぞれWキャストで、ゲネプロではメアリーを池田葵、コリンを大東リッキーが演じた。なお、別キャストではメアリーを上垣ひなたが、コリンを鈴木葵椎がそれぞれ演じる。
舞台は1906年。イギリス領インドでワガママ放題に育った10歳のお嬢様メアリー(池田葵)は、両親がコレラで死亡したことに伴い、イギリス・ノースヨークシャーに渡り、叔父であるアーチボルド(石丸幹二)の屋敷に引き取られる。アーチボルドは10年前に最愛の妻・リリー(花總まり)を亡くし、以来ずっと塞ぎこんでいた。屋敷には重く暗い空気が漂っており、時おり誰かが泣いているような声が聞こえる(「I Heard Someone Crying」)。
インドでは洋服の脱ぎ着さえもアーヤ(乳母の意)にやらせていたメアリー。しかし引き取られ先の屋敷で働くヨークシャー訛りのメイド・マーサ(昆夏美)は、メアリーをお嬢様扱いせずに接してくれた。メアリーは初めて笑顔を見せる。また、屋敷では気難しいアーチボルドが、リリーの幻とは楽しそうに戯れる。2人の若き日を歌う美しいデュエット曲「A Girl in the Valley」 では、石丸が若々しく明るい笑顔となる。
マーサからのアドバイスで、屋敷の庭に出てみるメアリー。そこで庭師ベン(石鍋多加史)からとある秘密を聞く。ここにはリリーが大切にしていた「秘密の花園」があったが、彼女の死後、アーチボルドが鍵をかけて閉ざしてしまったというのだ。
屋敷の庭で、メアリーの最初の友だちとなるのがコマドリ。植物や動物の心がわかるマーサの弟・ディコン(松田凌)は、コマドリと話すために、ヨークシャー訛りを教えてくれる。ディコンが歌う「Winter's on the Wing」は優しい歌声で、冬のあとに来る春を祝福するかのように清々しい。コマドリはやがて、メアリーを「秘密の花園」の鍵のもとへ導く。
不機嫌の塊のようだったメアリーの心は徐々にほぐされていた。ディコンからオダマリとポピーの種をもらったメアリーは、自身の誕生日プレゼントとして、「大地を少しいただけますか」とアーチボルドにお願いする。生命を育てたいと言うメアリーに、亡き妻リリーの遺伝子を見出すアーチボルド(「A Bit of Earth」)。メアリーは、アーチボルドにも笑顔を向けるほどに変化していた。
メアリーの目の中に亡きリリーの面影を想うアーチボルドと、兄の妻リリーを密かに愛していた弟・ネヴィル(石井一孝)が歌う「LiLy's Eyes」が観る者の心を震わせる。主に子どもの世界が描かれた原作のエッセンスに、大人たちの心情描写が加わった。
メアリーは屋敷で、アーチボルドとリリーの息子コリン(大東リッキー)に出会う。医師の叔父・ネヴィルの言いつけで車椅子生活を送るコリンは、足が不自由で、卑屈な少年に育っていた。突然現れたメアリーに驚いて叫び、メアリーと言い争いになると癇癪を起こすコリン。屋敷の王様のようにふるまうコリンだが、メアリーのほうが口喧嘩は一枚上手だ。自分たちは同い年のいとこ同士だと気づいた2人は打ち解けはじめる。コリンは、夢の中で「猫背の男」、つまりは背中にコブを持つパパが自分を馬に乗せてくれたり、秘密の花園へ連れ出してくれるのだと歌う(「Round-Shouldered Man」)。
メアリーはインドで、自分以外が全員死ぬという悪夢を体験している。メアリーの母(ローズ)を思わせるバラの花が印象的にあらわれるが、それはときに血に見え、死の象徴にも見える。しかし、母・ローズ(笠松はる)と父・アルバート(上野哲也)、そして今は亡き人々は、「ドリーマーズ」としてメアリーの成長を見守っている。
死者と生者、過去と現在が融合する展開が、このミュージカル最大の持ち味だ。特に大田翔が演じる、インドで霊力を持つものとして信じられているファキール(苦行僧)に注目したい。肉体は死しても、生命の芯である霊魂は死しても消えることはないと考えれば、同じ大地に死者と生者が混在することが違和感なく理解できる。さりげなくオリエンタルなオーケストレーションも、インドとイギリスをシームレスに結んでくれる。蔦を思わせる美術(松井るみ)、木漏れ日や心情を映す照明(高見和義)も、観る者のイマジネーションをかきたて、どんなところにも生命があるのではないかと思わせる。
隠されていた「秘密の花園」の扉は、リリーの導きで見つけられる。枯れ果てたように見える庭に生命の芯はあるのか? この先は劇場でぜひご体感いただきたい。今日の嵐を耐えれば、明日はきっと芽が生える。そんな力を鮮やかに描いたミュージカルだ。
演出は、2016年の25周年記念公演、2018年のカナダ版も担当したスタフォード・アリマ。祖父母が日本生まれのアリマは、2015年に演出したブロードウェイ・ミュージカル『アリージャンス(Allegiance)』で世界的な注目を集めた。これはローズベルト大統領が発した「大統領令9066号」により第二次世界大戦時、在米日系人が強制収容所送りとなった実話に基づくストーリーだ。だが、それ以前からアリマの演出手腕は高く評価されてきた。そのきっかけとなったのは、2004年のミュージカル『ラグタイム(Ragtime)』ウエストエンドプレミアや、2005年よりオフ・ブロードウェイで2000回以上も上演されたミュージカル『アルター・ボーイズ(Altar Boyz)』だった。筆者も2006年に『アルター・ボーイズ』を観たが、具象セットに頼らずにステージングする演出が印象深かった。今回の『シークレット・ガーデン』にもその流儀は生きている。
本作主演の石丸幹二・花總まりから開幕に向けたコメントが届いたので紹介しよう。
アーチボルド役:石丸幹二 コメント
舞台稽古に入り、演出の“アリマ・マジック”に掛かりながら『シークレット・ガーデン』の世界観がより深まっていくのを感じています。原作小説は子供の目線で描かれていますが、このミュージカル版は大人の物語でもあり、人生の喜び、哀しみを味わえる作品になっています。 アーチボルドという一人の男が、伴侶の喪失から再生していく……。誰しもが経験する肉親との別れ。人生最大の危機を乗り越えるための鍵穴が、ここにあります。アーチボルドに心を添わせて観てください。皆さんの心の中に堅く閉ざされた扉があるなら、きっと鍵を見つけて頂けると思います。
リリー役:花總まり コメント
原作の「秘密の花園」を子供の頃に読んだことのある女性は多いと思います。 ミュージカル版も観れば観るほど心に響いてくる作品になりそうだなと、お稽古をしながら日々感じています。 一度だけではこの作品の全貌を知ることが難しいかもしれません(笑)。ぜひ何度でもご覧ください。そして、皆様それぞれの人生と重ね合わせて、何かを感じていただけるととても嬉しく思います。劇場でお待ちしております。
ミュージカル『シークレット・ガーデン』は、2018年6月11日(月)~7月11日(水)東京・シアタークリエ(日比谷駅A11番出口から日比谷シャンテまで地下通路で直結)、その後は神奈川・福岡・兵庫に巡演。イープラスの貸切は、6月16日(土)12:00開演(メアリー:上垣、コリン:大東)、6月27日(水)18:00開演(メアリー:池田、コリン:大東)、6月30日(土)12:00開演<半館>(メアリー:池田、コリン:大東)、7月4日(水)18:00開演<半館>(メアリー:池田、コリン:鈴木)、7月5日(木)13:00開演(メアリー:池田、コリン:鈴木)、シアタークリエにて。上演時間は第一幕70分、休憩20分、第二幕70分の2時間40分。
取材・文:ヨコウチ会長
写真撮影:福岡諒祠
動画撮影:安藤光夫
公演情報
■音楽:ルーシー・サイモン
■原作:フランシス・ホジソン・バーネット「秘密の花園」
■演出:スタフォード・アリマ
■キャスト:
メアリーの叔父・アーチボルド:石丸幹二
アーチボルドの妻・リリー:花總まり
アーチボルドの弟・医師ネヴィル:石井一孝
屋敷のメイド・マーサ:昆夏美
マーサの弟・ディコン:松田凌
メアリー:池田葵・上垣ひなた(Wキャスト)
コリン:大東リッキー・鈴木葵椎(Wキャスト)
屋敷の庭師ベン、ホームズ少佐:石鍋多加史
メアリーの母・ローズ:笠松はる
メアリーの父・アルバート:上野哲也
ファキール(行者・托鉢者。このミュージカルでは苦行僧の意):大田翔
ライト中尉:鎌田誠樹
屋敷の召使頭ミセス・メドロック:鈴木結加里
アーヤ(乳母の意):堤梨菜
女子校の学校長ミセス・ウィンスロップ:三木麻衣子
クレア:三木麻衣子
■音楽監督:前嶋康明
■振付:岡 千絵
■美術:松井るみ
■照明:高見和義
■音響:山本浩一
■衣裳:太田雅公
■ヘアメイク:宮内宏明
■歌唱指導:満田恵子
■演出助手:豊田めぐみ
■舞台監督:宇佐美雅人
■制作:清水光砂
■プロデューサー:小嶋麻倫子
■宣伝美術:川岸涼子
■宣伝写真:宮崎健太郎
<東京公演>
■日程:2018年6月11日(月)~7月11日(水)
■会場:日比谷 シアタークリエ
■公式サイト:http://www.tohostage.com/secretgarden/
■日程:2018年7月14日(土)~7月16日(月)
■会場:厚木市文化会館
■公式サイト:http://atsugi-bunka.jp/
<福岡公演>
■日程:2018年7月20日(金)~7月21日(土)
■会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール
■公式サイト:http://kurumecityplaza.jp/
<兵庫公演>
■日程:2018年7月24日(火)~7月25日(水)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
■公式サイト:http://www1.gcenter-hyogo.jp/