舞台『野球』飛行機雲のホームラン ~Homerun of Contrail 主演の安西慎太郎にインタビュー「今回、“型破りできてるな”って実感があるんです」

インタビュー
舞台
2018.7.26
安西慎太郎

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甲子園への夢を捨てきれずに予科練に入隊した少年たちが“最後の一日”に選んだのは、出身校同士での紅白戦だった──夢や希望、「生きたい」という願いを野球の試合を通じて普遍的な物語として描く西田大輔作・演出の舞台『野球』 飛行機雲のホームラン ~Homerun of Contrail 2018年7月27日(金)からサンシャイン劇場にて上演。本作で主人公の穂積均を演じる安西慎太郎が、本番直前の熱い思いを語ってくれた。

ーーまずは出演が決まったときのお気持ちからおきかせください。

嬉しさと、光栄だなっていう気持ちですね。やはり西田作品で主演をやらせていただくというのは、ある意味西田さんに信頼してもらっていないと任せてもらえないポジションだと思うので。また、自分もかつて熱中していた野球を題材にした作品だというのと、1940年代前半の物語だというのも大きかったですね。僕はその時代のお芝居をまだやったことがなく、役者としてはやはり演じてみたい年代でもありましたから。

ーー戦時中の物語。

はい。でも、演じてみたいとはいえ、 そんな簡単にはやれない。ちゃんと本質を見つめて演じていきたい、という対峙していく怖さも感じています。

ーー主人公の穂積均を演じるにあたり、西田さんとはどんなお話をしましたか?

話して……ないですね、なにも(笑)。ただ、最初の顔合わせのときに「どんな役かわからない役を創ってくれ」とは言われました。僕としてはその西田さんの言葉をどう受け取っていいのかまだ明確に見えてないんです。というのも、台本を読んでいると僕も……分かんないんです、キンちゃんのことが。それは彼の人間性が見えないとかいうことじゃなくて……わかりやすく言うと、やさしくてあったかくて懐が深くて、誰かが泣いているとき悲しんでいるときになにも言わずそっと側に居てくれるような人間なんです、彼はね。“我が我が”って前に出るタイプでもないし、後ろから客観的に静観しているというのでもない。“譲れないものはぜってぇ譲れねえぞ”っていう強い情熱もあって……不思議なんですよね、これだけ人間性は掴めているのに、でもなんか“分からないよなぁ”っていう感覚があって……なぜ自分は彼をわかんないんだろう? それが西田さんがおっしゃっていることなんだろうなとも思ってはいるんですけど……。

安西慎太郎

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ーー“こう”と限定することが似合わない人物。“人物”というよりも、観る人それぞれの心に寄り添っていくような“存在”というか……。

そうなんでしょうね。西田作品はわりとキャラクターがハッキリしている人物像が多いですし、今回も周りはみんなそうなんですけど、キンちゃんは“すごくハッキリしてない”ことがハッキリしてる(笑)。僕から見ると、なぜか真ん中にいるんだよなっていう人間なんですよ。ピッチャーやってるからってこともあるんでしょうけど、僕ら会沢商業高校だったら、普通に考えると嶋田(内藤)大希くんと(松田)凌くんがやる役なんですけど、彼とか(永瀬)匡くんがやっている岡とかがそういう真ん中に居てくれるポジションの人なように思う。でもいつもチームの真ん中にいるのはキンちゃんで……それがなんだか不思議な感じだし、面白いなぁって思います。なので稽古ももう仕上げにかかっていく時期で僕も“こうしようかな”っていう最終的なプランはいくつかあるんですけど、僕が今心がけていることは、みんながそれぞれの役を固めて明確になってきたところにハマるヤツにしようということだけですね。

ーー最後のひとピースとして、来るべきタイミングに仕上げの一手を打つ、と。

キンちゃんは本当に周りを見ている子なので、自分もそこに没頭することで周りのみんなのお芝居も見えてくる、という感覚もあるから心配はないです。西田さんはどう思っているのかなぁ。なにしろ西田さんはね、台本を読んでも作品を観ても分かるんですけど、言わないんです、大切なこと。「それはもうそれぞれで感じ取ってください」って。なので西田さんとやるときはホントに頭を使うというか、台本も、普通の台本と違う感じがあるんですよ。書いてあることが西田さんにしか書けない言葉過ぎて(笑)なかなか読み取れないこともあって……。あ、だから自分は西田さんとやるときは特にある意味自分のことを考えないというか、むしろ人のことを見たり、人がダメ出しされているのを聞いて“あー、なるほどね”って思って創っていくことが多いですね。

ーー全体を捉え、見つめ、そこから細部をあぶり出していく。

そうなのかもしれないです。

ーー安西さん自身も野球少年だったんですよね。

はい。でも僕はライトでしたし、ピッチャーは向いてないなぁと思ってました。憧れてもいなかったですし……っていうと変だな(笑) でもホントに自分がピッチャーをやるのは想像つかなかったです。人によって違うのは当たり前なんですけど、でも基本、ピッチャーができる人って、“ピッチャーができる人間”なんですよね、やっぱり。

ーー“ピッチャーならではのメンタル”は絶対あると思います。

そう、そういう部分でもキンちゃんは……やっぱりピッチャーなんだよなぁ。素の自分は全然ピッチャー気質じゃないです(笑)。まあクサいですけど、現役時代はがむしゃらにひたすらに白球を追いかけるのが好きだったって感じでしたね。なにより野球というスポーツを通して仲間や監督、たくさんの出会いがありましたし、“野球は楽しいスポーツだ”って教わってきたので……厳しいこともたくさんありましたけど、そういう自分にとって楽しいスポーツだった野球をまたこうして舞台でやれることがスゴく嬉しいです。

ーー今回野球監修をしてくださったのはあの名選手・桑田真澄さん。みなさんは実際にグラウンドで野球の指導も受けることができました。

桑田さんは僕らのことを「みんなホントに高校球児のようだし挨拶もしっかりするし超ちゃんとやるし。すごいなぁ」っておっしゃっていました。僕が見てもみんなホントにがむしゃらにやってましたよ。だからこそグラウンドで教えてもらったことを吸収するのも早かったんだと思います。もちろん、僕自身もすごく勉強になりましたし、桑田さんとお会いできたことで人間としてもちょっと価値観が変わったような気がします。佇まいというか生き方というか、ホントに野球を素直に愛している方で……だからこそ僕らもそれを感じて相当気合いが入ったし、入れていかなきゃって思いになれた。なにより自分にとって一番の収穫は、時間を空けて再び野球をやったことで、また一層野球が好きになれたことです。

安西慎太郎

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ーー劇中の少年たちも、どんな状況にあっても大好きな野球をあきらめられなかった。好きという気持ちはなににも負けないモノなんでしょうね。

僕がこの作品で一番大切にしなくちゃいけないって考えているのは、やはり“全力プレーをする”ということ。物語には戦時中という時代の重さも確かにあるんですけど……そこに捕らわれ過ぎないで、というか、まずは“なにかに必死になること”の素敵さを忘れたくないなって思うんですよね。だって、出撃の前日を……人生最後の時間を野球に注ぐことを選んだヤツらの“野球”なんて、そりゃあ手を抜くわけないですよ! だから全力プレーが作品のキーになってくると思うので、僕はそこを徹底していきたい。それはもちろん戦争を深く描いていないということではなく、シンプルにね、大好きな野球を全力でやっている姿っていうのが、一番この作品のステキなところだと思うので。

僕は……24歳がなにを言っているんだって感じですが(笑)、やっぱり時代とその環境がそのときを生きている人間の価値観を生むなって思っていて、舞台『野球』の時代、1944年の夏〜秋にかけてと、2018年の今僕たちが生きているこの時代とでは、あたりまえだけどすべてのカタチが違っている。価値観も違えば生き方も違えば「しあわせってなに?」っていう問いかけも違いますし。時間をかけて日本の中のいろいろなことが変わってきているんですよね。でもね、「ただひとつ変わっていないことはなに?」って思うと……それもまた絶対ある。だから僕はこの作品で“時代を経ても変わらないモノ”を大切にしたいとすごく思っています。それがお客様の共感も生むでしょうし、戦争を知らない自分たちがじゃあこれからどう生きていこうかというヒントにもなると思うので。今僕らがこの現代に生きているからこそ、物語で語られる過去に対して「変わっちゃったよね〜」と思うんじゃなく、「変わらないモノもあるよね」っていうことをね、僕は伝えていきたいんです。

ーーかつての日本人が命をかけて見つけたモノ、守ったモノ、遺してくれたモノへの尊敬の念。

僕がすごく思うのは、戦争ってとても哀しいイメージですよね。実際に国も死んだし大勢の人が亡くなっているから当然なんですけど……でも同時にね、今僕たちがここにいるのは、戦争を生き抜いてこられた人たちがいるからなんですよ。これ、スゴく変な言い方ですが、「万歳!」って言うのであれば、そこなんじゃないのかなぁ……感謝の気持ちというか。「戦争ってイヤだよね」っていうマイナスの気持ちだけじゃなくて、当時の人たちが守り伝えてくれているモノを大事にする、感じ取ることの大切さ、プラスの思いもたくさんあります。野球だって、当時の人たちが守ってくれたからこそ、こうやって今もプレーできてるわけですし。

ーー1944年時の野球は敵国の競技。審判のコールや専門用語もすべて横文字禁止という厳しさでした。

あと、当時はボールを避けちゃいけなかったらしいです。今ならデッドボールを投げたほうが危険球で即退場ってルールもあるくらいなのに、あの頃は「ボールを避けるな」。日本男児としてそんなダサイことできるかっていう精神ですよね。桑田さんがそういうこともすごく詳しく知ってらして、その頃の野球がどういう扱いだったかっていうのも僕らにいろいろ教えてくださいました。そういうところからも現代にはない当時の空気感を想像していますし、そこを野球を通して語ることで、“絶望”じゃなくて“希望”を与えていく作品になればいいし……僕はこの作品は観ても決して気持ちはマイナスにならないと思います。僕らの希望があり、野球があり、戦争がある。そこから “変わらないモノ”を受け取ってもらいたいです。

安西慎太郎

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ーー舞台上で表現する野球。その光景にも興味が募ります。

やっぱり不可能なんですよ、舞台上で野球をやるっていうのは(笑)。ただ、演劇はいろんな魔法を使えるから……西田さんの演出の魔法もあるし、音響・照明の魔法もあるし、それこそ役者の演技の魔法もあるし。そして最終的にはやっぱりお客様という最大効力の魔法ですよ! そのすべてが集まったときにやっとお見せ出来るモノがある。僕たちだけでは絶対この『野球』は完成しなくって、お客様もひっくるめて“完成”なんです。そのために西田さんがフォーメーション的なことや見え方のことをやってくれているけれど、それだけじゃなく、僕たちも本当にそこにいて……例えば誰かがレフトオーバーを打ったってなったら全員がそこを見る、みたいにちゃんと共通認識を持って白球を追うということをやるだけで、見え方伝わり方も全然変わって来るんですよ。もしそこでひとりでもちょっと遅れたり方向がズレたりしたら……たぶんもうこの舞台は終わってしまう。それくらいデリケートな作品でもあるんです。

ーーやはりチームワークは欠かせませんね。

僕ら、普通にいいですよ(笑)。誰かがなにかミスしたりしてもお互いに「違った! 次ちゃんとやるわ!」って言い合える空気感があるし、みんなすっごい楽しそうでね、スゴくいい笑顔が稽古場にあふれている。それがまた大きな輪を創っていくというか……全員が心底楽しんで稽古をしているので、流れが負のほうに一切行ってないところが僕は好きだし、ステキだなぁって思いますね。もう、あの笑顔を見られることが嬉しい(笑)。あの笑顔がそのまま舞台上からお客様に届いて欲しいって、強く思います。そしてすごく個人的なことを言うと……今回は自分にとって久しぶりの舞台でもあり、今、こうして稽古をやれてることがすごくしあわせなんです。演じる役があって、作品があって、いろんな人と出会って、さらに観てくれるお客様が居るっていう状態を、僕は普通だとは思わない。これはなんてしあわせなことなんだろうって、しみじみと感じています。

安西慎太郎

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ーー久しぶりの舞台出演となります。出ていない間の渇望感は強かったかと思いますが、その思いは今十二分に満たされている。

今の現場での僕の作品に対しての向き合い方が、全然違うんですよ! なんか今回は単純に「型破りできてるな」って実感があって……たぶん時間、ですね。舞台は自分がずっとやってきたことなので、やっぱりどっかで自分の経験であったりとか、やったことある部分に頼ってしまっていて……。そんなのほんの数年でしょうもない経験ですよ(笑)。でもそこに頼ってしまっている自分が今まではいたりして。いい意味でそういう自分の中での感覚、経験に頼るやり方みたいなモノがなくなったんです。

ーーそれは、意識的ではなく?

気づいたら、あれ? って感じですね。でもそうやって今まで頼ってたモノがなくなったってことはまたゼロからのスタートをしていくのだから、今回はみなさん“新しい僕”が観れる可能性があるんじゃないかなぁとも思うんです。もちろん自分自身が見る景色も変わると思うし、今までみなさんが抱いていた“安西の演技”っていうイメージみたいなモノがあると思うんですけど、そこが……お客様が実際どう感じるかはわからないですけどね(笑)、表現とかアプローチとか、僕の中ではそこがちょっとびっくりするくらい違う、と、思ってて。やっぱり引き金は年齢的なことや人生経験なのかなぁ。おそらく自分にとってはここがひとつのタイミング、ターニングポイントなのかもしれないです。自分でも自分が楽しみだなぁ……ってこんなこと言ってるけど、結局「お前なんにも変わってないじゃん」てなったらあれですけど(笑)。この新鮮な自分で挑む『野球』、ぜひみなさんにも試合を見届けてもらえたら嬉しいです。

安西慎太郎

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取材・文=横澤由香 撮影=岩間辰徳

公演情報

舞台『野球』飛行機雲のホームラン 〜 Homerun of Contrail
 
出演:安西慎太郎/多和田秀弥 永瀬匡 小野塚勇人 松本岳 白又敦 小西成弥 伊崎龍次郎 松井勇歩 永田聖一朗 林田航平 村田洋二郎 田中良子
/内藤大希(友情出演・Wキャスト)/松田凌(友情出演・Wキャスト)/藤木孝
※内藤大希の出演は7月27日(金)〜7月31日(火)の東京公演となります。
※松田凌の出演は8月1日(水)〜5日(日)の東京公演と25日(土)・26日(日)の大阪公演となります。
 
公演日程:
東京 2018年7月27日(金)〜8月5日(日)サンシャイン劇場
大阪 2018年8月25日(土)〜26日(日)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
作・演出:西田大輔
野球監督:桑田真澄
音楽:笹川美和(cutting edge)
席種:全席指定8,900円(税込)
チケット:一般発売中 ※詳細は、公式HPにて。
 
企画制作:エイベックス・エンタテインメント/Office ENDLESS
主催:舞台「野球」製作委員会
公式HP www.homerun-contrail.com
公式Twitter @Contrail_St
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