親子で観たい、一糸座(脚本・演出:天野天街)の人形音楽劇『泣いた赤鬼』稽古場レポート

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2018.7.23
天野天街、結城一糸

天野天街、結城一糸

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7月27日より29日にかけて、一糸座の人形音楽劇『泣いた赤鬼』が再演される。脚本・演出は、少年王者舘を主宰する天野天街。音楽は、ブレヒト『コーカサスの白墨の輪』(2012年)に続き園田容子が手掛ける。

【動画】糸あやつり人形一糸座「泣いた赤鬼」CM vol.1

 

一糸座は、1635年(寛永12年)より続く江戸糸あやつり人形 結城座から、結城一糸が独立して旗揚げした人形芝居の一座だ。両国・シアターX(カイ)での開幕を前に、稽古を取材した。一糸、天野、そして園田のコメントとともに、見どころを紹介する。

 
あらすじ
山の中に、心の優しい赤鬼が住んでいた。人間たちと仲良くなりたいという思いから、赤鬼は「心の優しい鬼です どなたでもおいでください おいしいお菓子がございます お茶もわかしてございます」という立札を出し、人間たちを自宅に招待しようと考える。
しかし人間は、赤鬼の言葉を疑い、誰も赤鬼の家に近づこうとしない。それを悲しみ悔しがる赤鬼は、自ら立札をぶち割ってしまう。事情を知った青鬼は、ある作戦を提案する。

心の優しい鬼です、どなたでもおいでください

『泣いた赤鬼』は、1933年(昭和8年)に発表されて以来、長く読まれてきた童話だ。絵本や教科書で読み、結末を知る方も多いだろう。世の中には、話の結末を知ってしまうとまったく面白くなくなってしまう作品もある。しかし、本作の場合(特に観劇者が大人の場合)、結末を知るからこその味わいがあるように思う。赤鬼と青鬼の二人が、和気あいあいとするほどに、切ない気持ちにさせられるからだ。

稽古場では、まさにそのようなシーンの稽古中だった。赤鬼(田中英樹)と青鬼(古市裕貴)が、お互いの似顔絵を描きっこする。青鬼が描いた赤鬼は、青い顔。赤鬼が描いた青鬼は、赤い顔。赤い青鬼と青い赤い青鬼。君が僕で、僕が君で、君が僕が君が僕が…。

言葉の意味と台詞のリズムに引き込まれていく。

本作では7名の人形遣いが、のべ50体近くの人形をつかうという。舞台には人形、人形遣い、さらに役者が登場。人形遣いたちは、まず自分の操る人形と心を重ね、セリフを言い、その先の他の人形や生身の人間と息を合わせて演技しなければならない。複雑なプロセスがありながら、一糸をはじめとした人形遣いたちが、あまりにも自然にやってみせていたことに驚かされる。ぜひ親子で見てほしい作品だ。

美しいものとカオスのものの両方を

「人形音楽劇」と冠される通り、本作はミュージカル仕立てとなっている。下手には楽器のおかれたエリアがあり、トイピアノや太鼓が配置されている。ここで楽器を演奏するのが、ミュージカル女優としてキャリアを積んできた王子菜摘子。役者や人形遣いとしての出演がメインだが、合間に、リコーダーを吹き、アコーディオンを弾き、打楽器を鳴らし、かと思えば役者として、あるいは人形遣いとして舞台に戻り、美しい歌声を聞かせてくれる。

音楽を作ったのは、園田容子。どこかノスタルジックなメロディが、無機質な稽古場を鮮やかに彩っていた。聞きどころを尋ねると、園田は次のようにコメントをくれた。

「演出・脚本の天野さんの作品は、美しいものとカオスのもの、その両方が印象的です。ゴシャーっと化け物の顔のようにみえたり、カオスになったり、そしてものすごく美しいところが見えたり。それについていける音楽を意識しました」

青鬼が村で暴れるシーンにあたっては、打楽器だけでなく、湯たんぽや鎖も使って騒がしい音を作っていた。当初は王子が1人でやっていたところを、3人に増員。太鼓の音からはじまり、人形たちの台詞、青鬼の台詞が次第にテンポアップしていく。刻まれる音にグルーブが生まれたかと思えば、たちどころに足並みのズレた騒音となり、舞台上の村人も楽器ブースもてんやわんや。

「ステージ上の皆さんが、どれだけ楽しんで、忙しくガシャガシャやってくれるかです」と園田は笑い、「赤鬼の家に、すごい数の村人が押しかけてくるシーンでも音が満杯になり、カオスになります。赤鬼の心の中も、きれいだったりカオスだったり、人がいっぱいいるところからスコーンと孤独になったり、そういった落差を音楽で出せたら」と語った。

一糸座は、古典のレパートリーももつことから、作品の後半には、竹本綾之助が義太夫を語り、鶴澤津賀榮が三味線をひくのだそう。

左から、鶴澤津賀榮、王子菜摘子、園田容子。

左から、鶴澤津賀榮、王子菜摘子、園田容子。

紆余曲折の人形音楽劇『泣いた赤鬼』

稽古取材の後、人形遣いであり、人形の作り手でもある主宰の結城一糸と、脚本・演出を手がける天野天街に話を聞いた。

——今回の『泣いた赤鬼』は、2016年の初演以来2年ぶりの再演ですが、2014年にも座・高円寺で上演されたそうですね。

一糸 2014年は、あくまで稽古という形で、正式な上演ではありません。原作者である浜田さんのお嬢さんに、上演許可をいただくのが間に合わなかったんです。台本のできあがりが開幕ぎりぎりだったため、天野さんの手書きの台本をそのままお送りしたんです。するとお嬢さんが、ご高齢だったこともあり「これでは読めない。許可できない」というお返事をいただきまして…。公演を中止するのも悔しいので、お客さんには無料で入っていただき、舞台稽古という形式で上演。これが実質の初演ですね。その後、お嬢さんとやりとりをし許可をいただき、2016年にREDシアターで正式な初演を迎えます。

——天野さんが演出を引き受けた経緯を伺えますか?

天野 これにも紆余曲折がありまして、当初、脚本・演出は僕がやる予定ではなかったんです。

一糸 はじめは文学座の高瀬久男さんにお願いしていた。ところが、高瀬さんがご病気でできなくなってしまい、天野さんに演出をお願いしたんです。ただ天野さんには天野さんの世界があります。舞台にのせるためにも「最初のところだけ書き換えましょう」という話になりました。そして書きかえはじめたら、バーっと……。

天野 全部書き換えちゃいまして。僕はいつも台本が遅いと言われるのですが、この時の遅れは、本当に本当にしょうがない遅れだったんです(笑)。

一糸 時間がない。とはいいながら天野さんは、これほど面白い作品を作ってくれた。あらためてすごいことです。

激動の時代は続いている

——原作・浜田廣介『泣いた赤鬼』を、一糸座の演目に選んだ理由をお聞かせください。

一糸 『泣いた赤鬼』は名作だと言われていますが、とても短い物語です。実際に読んで興味がわいたのは、何が浜田さんにこんな物語を書かせたのかということでした。発表された頃の時代背景や浜田さんの生い立ちをおってみると、激動の時代だったことが分かりました。『泣いた赤鬼』は、太平洋戦争に入る直前という時代に書かれた、優しい鬼が出てきて、村人たちと仲良くしたいというお話だったんです。

——見え方が、変わりますね。

一糸 日本では太平洋戦争が終わり何十年も経ちますが、世界各地では、今も色々なことが起きている。戦争の連続であり、激動の時代は今も続いている。僕たちが生きている今も、激動の時代であり、危ない時代だなという思いがあります。「浜田さんはなぜこの物語を書いたのかな」という点については、天野さんが書いてくださった台本を読んだことで納得できたところも、ずいぶんあるんです。

——音楽は、園田容子さんです。

一糸 『コーカサスの白墨の輪』(2012年)の時に、「なんて音楽を作る人だ!」と衝撃を受けまして、『泣いた赤鬼』も園田さんの作る音楽で、音楽劇をと決めていました。

大きさの差異に必然性を出す

——天野さんは、結城座、一糸座、ITOプロジェクトと、複数の人形芝居の脚本演出に関わった経験をお持ちです。一糸座は、どのような点が特徴的だと思われますか?

天野 以前に脚本・演出をさせていただいた『ゴーレム』(2016年初演、2017年再演)でもそうでしたが、人形遣いと人形と、人形を使わない生身の役者が出る。一糸座さんは、この形式で毎回上演されていますね。演出にあたっては、人形だけをみるのか、人間と人形の両方をみせるのか。そこは利用すべきだと考えています。今回でいえば、舞台上の人形が人間サイズだとしたら、生身の役者が鬼の大きさになる。人間に対し、人間より大きな異形のものという関係の上で見せることができる。大きさの差異に、必然性を出せるんです。

一糸 命あるものと、命ないものが、一緒に舞台に立つ。その面白さは、今回の作品にも出ていると思います。

——人形芝居には、時々よく分からない恐さを感じます。『泣いた赤鬼』にも恐い要素はあるのでしょうか?

天野 具体的に「これが恐い」というものは、出てきません。でも人形を扱う限り、何かが存在することの恐さ、普遍的な恐さは孕んでいる。それは人形芝居では、絶対に表さなくてはいけないことだと思っています。

一糸 メーテルランクという人は「人形には生命はないけれども、生命を感じさせるものだ」と言っています。そういう存在である人形に、僕たちは人形遣いとして影のようにつく。糸あやつり人形に生命を与えられるかという問題も含め、人形遣いは死の問題というのをずっと引きずるんです。

天野 たとえば、動いていた人形の糸を、人形遣いがフッと緩めたら……。

——なるほど……!

天野 いつから動いていて、いつから生命が宿っているんだろう。そういう瞬間も、人形芝居でならば表すことができますね。今回の『泣いた赤鬼』にも、そういうシーンがあります。

——劇場での本番を楽しみにしています。

一糸 本当におもしろいですよ。これだけは見逃してほしくありません。役者さん、人形、音楽、歌の全部で、一つモノを作り上げています。こんな舞台は他にありません。ぜひお越しください。

取材・文・撮影=塚田史香

公演情報

糸あやつり人形一糸座『泣いた赤鬼』
 
■日程:2018年7月27日(金)~29日(土)
■会場:シアターX

 
■原作:浜田廣介
■脚本・演出:天野天街
■作曲:園田容子
■人形遣い:結城一糸、結城民子、結城敬太、金子展尚、根岸まりな、森仁美、鄒思楊
■出演:田中英樹、古市裕貴、王子菜摘子
■義太夫:竹本綾之助
■三味線:鶴澤津賀榮
■公式サイト:https://www.isshiza.com/blank-9

<子どもと舞台芸術大博覧会 2018参加公演>
■日時:2018年7月31日(火)13:00開演
​■会場:国立オリンピック記念青少年総合センター カルチャー棟小ホール
■問い合わせ 子ども舞台芸術大博覧会実行委員会事務局 TEL:03-3351-2131
■公式サイト:http://www.kodomotobutai.net/
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