山種美術館の涼やかな企画展『水を描くー広重の雨、玉堂の清流、土牛のうずしおー』開幕レポート

2018.8.1
レポート
アート

川端龍子《鳴門》 1929(昭和 4)年 山種美術館

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2018年7月14日(土)、東京・山種美術館で企画展『水を描くー広重の雨、玉堂の清流、土牛のうずしおー』が開幕した。この展覧会は、山種美術館のコレクションより水を描いた作品55点を紹介する試みで、「波と水面のイメージ」、「滝のダイナミズム」、「雨の情景」の全3章で構成される。目にも心にも涼しい企画展『水を描く』の見どころを、18日(水)に行われたプレス向け内覧会より紹介する。

恵比寿駅より徒歩10分、清涼感溢れる水の展覧会へ

内覧会では、開幕に向けて山種美術館館長の山﨑妙子氏が登壇。日本は豊かな水源に恵まれていることに触れながら、「水は常に人々の生活とともにあり、美術作品においても様々に表現されてきました。この展覧会では山種コレクションのうち、歌川広重などの浮世絵から、近代・現代の川合玉堂から奥村土牛、奥田元宋、千住博といった名だたる画家によって描かれた作品をご紹介します。波や滝、きらめく水面など多様な水の姿をお楽しみください」と挨拶をした。

深呼吸したくなる、東山魁夷《緑潤う》

山﨑氏の言葉のとおり、第1章「波と水面のイメージ」は、森林に足を踏みいれたような涼やかな作品からはじまる。東山魁夷の《緑潤う》だ。山種美術館の顧問をつとめる明治学院大学教授の山下裕二氏によれば、この作品は《京洛四観》という連作のひとつ。魁夷は、作家の川端康成と付き合いがあり、「京都は今描いといていただかないとなくなります、京都のあるうちに描いておいてください」と言われたことに心を動かされ、この連作に着手したのだそう。水面は静かで、緑が映し出されている。

東山魁夷《緑潤う》1976(昭和 51)年 山種美術館

小林古径の《河風》では、女性が川の水に足を浸し涼をとっている。「この時期の古径は、非常に柔らかみのある、少しポップな感じの人物画も描いています」と山下氏。このモデルの女性が持つ団扇は、美術館ロビーにあるカフェで、オリジナル和菓子のモチーフになっている。鑑賞後のお楽しみのために、ぜひ覚えておいてほしい。

小林古径《河風》1915(大正4)年 山種美術館

左から 今村紫紅《富士川》1915(大正4)年 山種美術館、小林古径《河風》1915(大正4)年 山種美術館、平福百穂《清渓放棹》1925(大正14)年頃 山種美術館

奥田元宋の、紅葉に燃える奥入瀬

会場には、壁一面を埋める大きな作品も展示されている。突き当りの壁を飾るのが、幅546cm×高さ182cmもある奥田元宋の大作《奥入瀬(秋)》だ。スペースの関係で今回は《秋》の展示のみだが、春と秋で対になる作品なのだそう。ベンチに腰をかけて作品と向き合うと、川の流れる音が聞こえてきそうな迫力を感じる。

奥田元宋《奥入瀬(秋)》1983(昭和 58)年 山種美術館

それを上回る大きさを誇るのが、6曲2双の榎本関雪の《生々流転》。荒波に雨が降りつける様子が描かれている。

山下氏は「《生々流転》というと、この作品の20年前に、横山大観が同名の超大作を発表している」「雨を描くのに、幅の広い刷毛を使っているが、その筆致は割とやけっぱちにもみえる。完成しているのかな? 途中じゃないのかな? と言いたくなる謎めいた大作」とコメントした。

奥:橋本関雪《生々流転》1944(昭和19)年 山種美術館

ふたつの《鳴門》で、波しぶきを感じる

この展覧会には、《鳴門》というタイトルの、別の画家の作品が2点出品されている。まず奥村土牛の《鳴門》。制作時のエピソードとして、土牛は、後ろから妻に帯をつかんでもらい、船上から鳴門の渦潮を覗き込むようにして、何十枚もスケッチを描いたのだそう。

奥村土牛《鳴門》1959(昭和34)年 山種美術館

もうひとつの《鳴門》は川端龍子によるもの。鮮やかな青色が目をひく作品で、展覧会期間中は、来場者も写真撮影がOK。「群青は、宝石のように一番高価な色。龍子はそれを6斤(3.6kg)も使い、ダイナミックで躍動感のある画面をつくり出しています」と紹介された。

川端龍子《鳴門》 1929(昭和 4)年 山種美術館

美術館で名瀑巡り

第2章は「滝のダイナミズム」。滝は古くから信仰の対象として崇められてきたこともあり、描かれる機会も多かったのだそう。様々に描かれた滝11作品に、ぐるりと囲まれる体験は貴重かもしれない。

左から 横山操《滝》1961(昭和36)年 山種美術館、奥村土牛《那智》1958(昭和33)年 山種美術館

川合玉堂《 松間飛瀑》1942(昭和17)年頃 山種美術館

千住博の代名詞ともいえる《ウォータ―フォール》のシリーズより、1995年制作の作品が展示されている。1995年は、千住がベネツィア・ヴィエンナーレで金賞を受賞した年。エアブラシを使って表現される繊細な水しぶきに、新しさと神秘性を感じる。

千住博《ウォーターフォール》1995(平成 7)年 山種美術館

千住博《フォーリングカラーズ》2006(平成 18)年 山種美術館

斬新な構図がかっこいい、広重の雨

第3章は「雨の情景」と題し、雨粒から霧がかった空気まで、幅広い表現方法で描かれている。

山下氏が「《東海道五拾三次》の中で、最も好き」だというのが、歌川広重(初代)《東海道五拾三次之内 庄野・白雨》。

「雨の斜めの線と地面の斜めの線が、ほぼ直角に交わっている斬新な構図です。歩いている人は、足と手の出る方向が同じでナンバ走りというものでしょうか。現代の、普通の歩き方と違うところも面白いです。このような絵を見て、ヨーロッパの人たちは『日本美術はなんてカッコいいんだ!』と驚いたのでしょうね」

なお、《庄野・白雨》は8月5日までの展示。8月7日からはゴッホの模写でも有名な《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》が公開される。

歌川広重(初代)《東海道五拾三次之内 庄野・白雨》1833-36(天保4-7)年頃 山種美術館

最後の展示室には、平山郁夫《ロンドン霧のタワァ・ブリッジ》、奥村土牛《雨趣》などが展示される。下の写真は、左が川合玉堂《水声雨声》、右が川端玉章《雨中楓之図》。中央の川合玉堂《渓雨紅樹》には、鮮やかに紅葉する秋の渓谷が描かれている。画面右下の傘を差した2人組や遠くの山は、水墨で描かれている。

左から 川合玉堂《水声雨声》1951(昭和26)年頃 山種美術館、川合玉堂《渓雨紅樹》1946(昭和21)年 山種美術館、川端玉章《雨中楓之図》19-20世紀(明治時代) 山種美術館

山種美術館のロビーにある「Cafe椿」では、昭和10年創業の青山の和菓子店「菊家」によるオリジナルの和菓子をいただける。小林古径《河風》の作中で、女性がもっていた団扇をかたどる練切りや、川端龍子《鳴門》から着想をえた羊羹入り淡雪羹など、作品をモチーフにした和菓子は全5種類。テイクアウトも可能(510円)。

ミュージアムカフェ「Cafe 椿」ではオリジナルの和菓子を提供。テイクアウト可(1個510円)

山種美術館の企画展『水を描く』は、9月6日までの開催。描かれた水の冷涼感に浸り、夏の暑さを忘れるひと時を過ごしてほしい。

手前:奥田元宋《奥入瀬(秋)》1983(昭和58)年 山種美術館 奥:川端龍子《鳴門》1929(昭和4)年 山種美術館

イベント情報

[企画展] 水を描く ―広重の雨、玉堂の清流、土牛のうずしお―
会期:2018年7月14日(土)~9月6日(木)
*会期中、一部展示替えあり(前期: 7/14~8/5、後期: 8/7~9/6)
会場:山種美術館
主催:山種美術館、朝日新聞社
開館時間:午前10時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日 [但し、7/16(月)は開館、7/17(火)は休館]
主な出品作品:歌川広重(初代)《東海道五拾三次之内 江尻・三保遠望》[後期展示] 《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》[後期展示]、 小堀鞆音《那須宗隆射扇図》、 川合玉堂《渡頭の春》《渓雨紅樹》、 小林古径《河風》、 川端龍子《鳴門》、 奥村土牛《鳴門》《那智》、 小野竹喬《沖の灯》、 速水御舟《埃及土人ノ灌漑》、 東山魁夷《緑潤う》、 奥田元宋《奥入瀬(秋)》、 平山郁夫《ロンドン霧のタワァ・ブリッジ》、 宮廻正明《水花火(螺)》、 千住博《ウォーターフォール》ほか 約55点 
※すべて山種美術館蔵 ※ 「廻」の本来の表記は「廽」です 
※出品作品および展示期間は都合により変更される場合があります。
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