時代を超えて蘇った大倉式尺八「オークラウロ」~開発者・大倉喜七郎男爵の夢実現に向かって、若手尺八奏者らが熱演

ニュース
クラシック
2018.8.3
 左から、元永拓(バス管)、大河内淳矢(ソプラノ管)、小湊昭尚(ソプラノ管)、松下尚暉(アルト管)

左から、元永拓(バス管)、大河内淳矢(ソプラノ管)、小湊昭尚(ソプラノ管)、松下尚暉(アルト管)

画像を全て表示(5件)


昭和初期に、ホテルオークラ創業者の大倉喜七郎男爵(1882~1963)が、理想の尺八として考案・制作した「オークラウロ」が本格的に復活! コンサートや楽器の再製作、10月にはCDアルバム『オークラウロ~蘇る幻の笛 はるかな旅路』(ビクター)がリリースされる。8月9日のホテルオークラ東京でのコンサートに向けて、都内のスタジオで練習する奏者たちに話を伺った。

新たに製作した、シルバーのソプラノ・オークラウロ。今は受注生産

新たに製作した、シルバーのソプラノ・オークラウロ。今は受注生産

オークラウロは金属製で、尺八の歌口とフルートのキー装置を合わせ持つ。音楽の支援者だった喜七郎男爵は尺八を嗜んでいたが、楽器の特性として発音が不揃いで、音域も狭く2オクターブ半ほど、5孔を5指で操作するだけで使わない指があることなどに疑問を抱いていた。ならばと理想の尺八開発に乗り出し、孔を増やして正確なピッチや均一な音色で音階を吹けるように改良すれば、和洋の音楽を無理なく奏でられると判断。ソプラノ、アルト、バスなど音域の違う大倉式尺八5種が、1930年代半ばに出来上がった。これならアンサンブルも楽しめる。1935年にオークラウロの名で公表し、教本を作り、奏者を養成して定期演奏会を開くなど、本気で改革普及を進めた。だが、戦争と戦後の財閥解体で敢えなく頓挫し、長らく「幻の楽器」状態に……。

オークラウロを演奏する大倉喜七郎男爵。ピアノ伴奏は伊庭孝(1936年)

オークラウロを演奏する大倉喜七郎男爵。ピアノ伴奏は伊庭孝(1936年)

ところが2011年、喜七郎没後50年の節目を前に再生プロジェクトが発足。大倉集古館で展覧会が開かれ、コンサートも開催すると、オークラウロの温かくて心に優しい独特のサウンドが好評を博し、状況が一変した。

オークラウロを演奏したのは、尺八奏者の小湊昭尚だ。「手探りの連続でした。フルートの素養はなく、運指も知らなかったし、楽器の資料も限られる。でも運指が分かると音楽を自由に吹けるのが楽しくなってきて、今日に至っています。音色に統一感があって、吹きやすく、歌う感じで、音にニュアンスを付けていくのも楽しい。コンサートは、まずピアノと始めて、アルト管やギター、バス管などが加わってトリオでやったり。作曲家も工夫してくれて、5人、7人、オーケストラなどいろんな譜面が出来て、さまざまな編成で演奏しています」

小湊は東京藝術大学卒業後、邦楽の枠にとらわれない活動を続けていただけに、仲間も多彩。同じ大学の後輩で、在学中から味わい深い響きのアルト管を吹いている松下尚暉は、「僕は運指は問題なかったです。大学では尺八を学んでましたが、中学高校とフルートをやっていたので、構造もすぐに分かって、すうーっと入れました。いい音でよく鳴るので、吹いてて楽しいです。皆のメンテも引き受けてます(笑)。今後の楽器製作に関しては、歌口のスタンダードの形をどうするかなど、皆といろいろ相談しているところです」

ヴァイオリニストで心にしみるオリジナル曲を作る土屋雄作

ヴァイオリニストで心にしみるオリジナル曲を作る土屋雄作

 叙情に富みロマンチックな音色を紡ぐヴァイオリン奏者で作曲も受け持つ土屋雄作は、「僕が仕事でオークラウロを使ったのは、結構早い時期でした。安倍晴明を題材にした舞台で、曲を作って小湊さんに演奏してもらおうと決めていたのですが、尺八や篠笛だとなぜかしっくりこない。それがオークラウロだとピタッとハマった! ハイブリッドな楽器の醸し出す雰囲気が、晴明の不思議なイメージに合って、サイコーでした!」

昨年からソプラノ管を手がけ、小湊とツインで旋律パートを務めるようになった尺八奏者の大河内淳矢は「最初、運指を知らなくて、いとこがフルートを吹けるので、いろいろ教えてもらいました。もっと音楽のみに入って演奏できるようになりたい」という。

小湊は「大河内くんは七孔尺八も吹いてて小指を使ったりしてたから、慣れもあってか上達が早い。とにかく皆と演奏していると『こんな音あるのか!』という瞬間がいろいろあって、子供みたいに『スゴイね~!』とか言い合いながら楽しくやっています」

  小湊と大河内は歌口などを改良した最新のソプラノ管で演奏している。9日のコンサートは5人編成。小湊と大河内のソプラノ、松下のアルト、土屋のヴァイオリン、野津永恒のピアノで、ポップスの名曲を披露する。

CD『オークラウロ~蘇る幻の笛 はるかな旅路』(10月3日発売予定)。ホテルオークラテーマ曲「旅標」は大曽根浩範作曲、土屋の作曲は「航海日誌」「いけばな」など。シャレを効かせた曲名の「BOLEuRO」は、ラヴェルの「ボレロ」をオークラウロ用に編曲

CD『オークラウロ~蘇る幻の笛 はるかな旅路』(10月3日発売予定)。ホテルオークラテーマ曲「旅標」は大曽根浩範作曲、土屋の作曲は「航海日誌」「いけばな」など。シャレを効かせた曲名の「BOLEuRO」は、ラヴェルの「ボレロ」をオークラウロ用に編曲

秋のCDは、大きな船で世界を航海しているかのような構成で、ホテルオークラのテーマ曲「旅標」やナポリ民謡「サンタルチア」など8曲を収録。奏者は7人で、小湊と大河内のソプラノ、松下のアルト、元永拓のバスに、齋藤純一のギター、土屋のヴァイオリン、永田ジョージのピアノが加わり、さまざまな編成で演奏。

プロジェクトを牽引する大倉集古館の田中知佐子主任学芸員は、「オークラウロのアンサンブルは、弦楽四重奏のような趣きのある音色です。多くの人にコンサートで生音を味わってもらって、CDも聴いていただきたいです」

 今後の展開が楽しみだ。

文=原納暢子

公演情報

第24回アートコレクション展 併催イベント
幻の笛 オークラウロ・コンサート 〜ポピュラー名曲の夕べ〜


■日時:2018年8月9日(木)18:30〜19:30(受付18:15〜)
■場所:ホテルオークラ東京 別館B2階 アスコットホール
■出演:
小湊昭尚(ソプラノ・オークラウロ)
大河内淳矢(ソプラノ・オークラウロ)
松下尚暉(アルト・オークラウロ)
土屋雄作(ヴァイオリン)
野津永恒(ピアノ)
■料金:5000円(全席自由・絵画展のご観覧券付き)
■電話予約:ホテルオークラ東京イベント予約係 03-3224-7688 ※平日10:00〜17:00


オークラコレクション~古今の美を収集した、大倉父子の夢~展 関連イベント
「オークラウロ」カクテルコンサート

■日時:2018年11月3日(土)コンサート17:00~ カクテルパーティー18:00~
■場所:ホテルオークラ福岡6階
■出演:
小湊昭尚(ソプラノ・オークラウロ)
大河内淳矢(ソプラノ・オークラウロ)
土屋雄作(ヴァイオリン)
齋藤純一(ギター)
■料金:5000円(定員50人限定)
■問い合わせ:ホテルオークラ福岡 092-262-2602 ※平日9:00〜19:00

オークラコレクション~古今の美を収集した、大倉父子の夢~展 関連イベント
オークラウロ・コンサート

■日時:2018年11月4日(日)14:00〜15:00
■場所:九州国立博物館1階ミュージアムホール
■出演:
小湊昭尚(ソプラノ・オークラウロ)
大河内淳矢(ソプラノ・オークラウロ)
土屋雄作(ヴァイオリン)
齋藤純一(ギター)
■料金:無料(本展観覧券または半券の提示が必要)
■問い合わせ:西日本新聞イベントサービス「オークラコレクション展」係 092-711-5491 ※平日9:30〜17:30
 
シェア / 保存先を選択