福岡弁の切ないゾンビもの?! 舞台『帰郷』企画・作・演出の入江雅人にインタビュー
入江雅人
福岡県出身の俳優・作家・演出家の入江雅人による企画公演『帰郷』が、2019年1月と2月に東京と福岡にて上演される。“福岡出身の役者による本当の福岡弁で、ゾンビものに福岡弁のおかしみ・グルーブ感を添えて、青春の終わりをセンチメンタルに描く”というのがこの舞台のコンセプトだという。一体どんな作品になるのだろうか、入江に詳しく聞いてみた。
ーーまずは、ご自身についてお聞かせください。映像でのご活躍はもちろんですが、劇団SHA.LA.LAのインパクトがとても強かったのもありますし、やはり入江さんといえば舞台の人、という印象です。これまで、新感線やノダマップ、プロデュース公演といった大きなものをはじめ、ナンセンス、小劇場系など、ジャンルや形態を問わずに様々な舞台にご出演されています。
劇団☆新感線やNODA・MAPとかは、自分自身も出たいと思っていたらタイミングよく出演できて、気づいたら一通り出たいところには出ちゃったんで(笑) それ以降は自分で企画して一人芝居とかに力を入れてやっています。
ーー一人芝居は2010年から定期的に上演されていますが、それ以前からも断続的にやっていた。
それこそ劇団SHA・LA・LAで深夜番組をやっていた時にコーナーがあって、そのころは一人芝居というよりもコントとか笑い寄りの短いものでしたが、それきっかけで一人芝居を始めました。劇場で初めて上演してからもう20年以上経っていますね。途中休みつつ続けてきて、2010年からは“グレート一人芝居”という名前で、映画のようにいろいろな場面のあるストーリーをセットなしで一人で演じる、ということを追求しています。
ーーこれまで数多くの舞台にご出演されてきた入江さんにとって、一人芝居とは?
一人芝居は、とにかく「自分」を出す場。他の舞台に出るときは、求められている役に応えられるようにしつつ、自分も楽しめるように、と思ってやっていますが、一人芝居はもろに自分自身と直結しています。同じ舞台ですけれど、全然違うものですね。
ーー『帰郷』について詳しくお聞かせください。この作品は、一人芝居でこれまで何度もやってきた作品を長編化して、しかも出演者を6名に増やすという、大幅な改変を加えての上演になります。
元々は、池田成志さんと出会ったのが90年代の後半なんですが、その頃から福岡出身の役者さんで、本物の福岡弁で舞台をやりたいな、という思いがあって、成志さんと舞台で共演したときとか、会うたびに「やりましょうよ!」という話はずっとしていました。それから実際に動き出して、「とにかく福岡弁でくだらない作品をやろう!」と思いながら最初は違う脚本を書いていたのですが、書いているうちに、くだらないだけじゃないものにしたいな、と思い始めまして。いろいろ考えた挙句『帰郷』をやってみたい、という思いに行きつきました。一人芝居の方は地元の男友達同士の話で20分強と短いのですが、本公演ではさらに彼らの高校時代からの前日譚も付けて、最後のシーンで一緒にドライブに行くまでの物語に仕立てました。ゾンビものを当て込んだ脚本になっていますが、ゾンビものは一人芝居でも十本近くやっているし、あとSHA.LA.LAでやってた幽霊の話なども加えて、これまで自分がやってきたことの集大成みたいなものにしようと思って書きました。
入江雅人
ーー出演者はご自身含めて、福岡出身だったり、福岡育ちだったりという方が6人揃いました。
脚本が出来る前から、成志さんと「福岡出身者誰がいるかな?」という話をして、脚本を書きながら、同時進行で出演者が決まって行ったんです。福岡出身の俳優さんって結構多いんですけど、男性陣は年代的に同じくらいの、同級生に見える人という縛りがある中でのキャスティングでした。
ーーその縛りがある中でも、舞台や映像で大活躍の魅力的な俳優がずらりと揃ったのはすごいですね。
そうですね。派手さはないですけど、すごくいいメンバーだと思います。普段は彼らとも福岡弁で会話をすることはないので、稽古からどんな感じになるんだろう? と自分でも楽しみです。田口浩正くんとは『サラリーマンNEO』(NHK総合)という番組で「博多よかばい食品物語」という福岡弁でしゃべるコントで共演したことがあるんです。そのときに福岡弁で演じる面白さを経験できたんですけど……福岡弁って、面白いんですよね。
ーー脚本を文字で読んでいるだけでも、語感とか音の響きが、とても可愛らしかったり、なんともいえないおかしみが伝わってきました。福岡弁を知らない人間には意味のわからない言葉も出てくるのですが、なんとなく響きのニュアンスで意味が伝わってくる感じもしますし、意味がわからなくても音として楽しめるな、と。
一人芝居で福岡弁シリーズを4本くらい作っているんですが、わからない部分はあるけどなんとなくわかる、という感じで、観客がすごく好意的に受け止めてくれました。可愛くて、テンポがあって、グルーブ感があるんですよね。悲しいことも面白おかしく言うけれど、それがなおさら哀愁を感じさせたりもして、すごく魅力的な言語だと思います。
ーー池田さん、田口さんとはそれぞれ舞台とテレビで共演経験があるとのことでしたが、他の3人とはこれまで共演されたことは?
坂田聡くんも尾方宣久くんも、共演はしたことがないです。岡本麗さんは、以前テレビ番組でご一緒したときに、お互い福岡でしかも場所も近くだね、という話をしていたので、お母さん役をやってもらうなら岡本さんだな、とイメージしていました。なので、舞台で共演したことがあるのは、成志さんだけですね。
ーーこの作品は、高校生が文化祭で上映する映画を撮るシーンがあったり、ゾンビ映画ネタが出て来たりと、映画への愛を感じます。
基本映画が好きなので、脚本の中にすぐ映画の話とか、オマージュ的なものとか入れちゃうんですよね。
入江雅人
ーー中でもゾンビ映画は特にお好きですか?
さっきも言いましたけど、これまでゾンビものの芝居は十本くらい書いていて、しかも今度、ゾンビフェスというのをやるんですよ。だから、すごいゾンビ好きな人みたいになっちゃってて。もちろん、好きは好きなんですけど、ここまでくると、最早好きなのかどうかよくわからなくなってきました(笑)
(※8/27に入江をホストとして『ゾンビフェス THE END OF SUMMER 2018』を開催。このインタビューは開催以前に行われた。)
ーー本公演は、東京公演と福岡公演があります。本場・福岡で福岡弁の芝居をやることになりますね。
福岡の役者で、福岡弁で、福岡で芝居をやりたい、と思っていました。一人芝居も福岡でやりましたが、純粋に楽しいという気持ちと、知り合いが多くてやりづらいというのもあります(笑) 変な緊張をしちゃうんですよね。
ーー福岡時代、演劇はやっていたのでしょうか?
高校の時、本当は映画研究部に入りたかったんですけどなくて。今思えば、自分で作ればよかったんですがそのときは思いつかなかったので、演劇部に入りました。裏方として入って、そのうち出演もするようになって、でも当時は、卒業後は映画学校に行くつもりだったから演劇を続ける気は全然なかったんです。
ーーかなり早い段階から映画の道に進もう、と思われていたんですね。
映画の道に行って何をするか、というところまではまだ漠然としていましたけれど、映画の仕事をする、と思っていました。結局、今自分がやっている活動は、その頃に味わった映画の感動とか、映画を見て自分が受け取ったものを舞台で再現すること、なんですよね。映画に負けない面白い物を舞台でもやる、という思いを抱いています。
ーーグレート一人芝居のときは、舞台装置等は基本なし、とのことですが、この公演では?
同じく、基本なしです。場面転換が結構あって、いろいろなシーンを作っていくので、せいぜいイスや机を置くくらいですね。やっぱり演劇の基本は何もないところでお客さんの想像力で楽しんでもらうものだと思っています。映画は場面や背景などいくらでもリアルに提示できるけれども、演劇はどんなにセットを作り込んでも“嘘”なんですよね。そこを思うと、なくてもいいんじゃないかな、と。観客の想像力を喚起するのに、かえってセットが邪魔なときもありますし。これまで一人芝居で経験して学んできたことを、今回の芝居でも活かしたいと思います。
ーー本公演に向けて意気込みをお願いします。
最近はテレビなんかでも福岡弁を聞く機会があると思いますが、舞台でここまでガッツリとネイティブの人たちがしゃべることはそうそうないと思うので、劇場で福岡弁のグルーブ感を体験して欲しいのと、この作品は福岡の物語ですけれど、自分の故郷であったり、友達であったりを思い出すような作品だと思います。ゾンビ、という部分で抵抗ある方もいらっしゃるかもしれませんが、リアルな怖いゾンビ物ではないですし、笑えるし泣ける、切ない話なんです。“福岡弁の切ないゾンビ物”ってなかなかないと思うので(笑) ぜひ見に来て欲しいです。
入江雅人
取材・文=久田絢子 撮影=福岡諒祠
公演情報
<東京>2019年1月25日(金)~2月3日(日) 俳優座劇場