『コウノドリ』話題のピアニスト・清塚信也にインタビュー

インタビュー
クラシック
2015.11.3
清塚信也

清塚信也

『コウノドリ』テーマ曲含むアルバム発売&記念コンサート開催

ジャンルにとらわれることなく“ピアノ”という楽器の魅力を様々な形で届けてくれるピアニスト・清塚信也。数々の映像作品で「劇伴音楽」を手がけてきた彼が、TBS系で放送中の連続ドラマ『コウノドリ』(綾野剛主演)では、劇中のピアノテーマ曲とピアノ監修を担当し、さらに役者としても出演している。2015年11月4日(水)にはNEW ALBUM「あなたのためのサウンドトラック」を発売、さらにその発売記念として11月14日(土)に清塚信也リサイタル『K’z Piano Show 2015』も開催する。

多才な活動を続ける彼に、ピアニストとして、作曲家として、俳優として、そして新しいアルバムに込めた想いを聞いた。

■いずれ絶対関わると決めていた映像音楽

――清塚さんが最初にピアノに触れた時のお話をお聞かせ頂けますか?

清塚:当時家には、ボロボロだけど凝った装飾が施されたアップライトのピアノが置いてありました。昔のピアノってバブル期の名残りで、足が馬の脚になっていたり、たくさん装飾がされていたんですよ。僕はそれが結構好きで。2歳上の姉がバイオリンをやっていたんですが、それを真似するようにピアノに触れて、遊ぶように弾いていた…というのが最初でしたね。

――では、自然にピアノに親しんで始められた感じだったんですね。

清塚:きれいに言うとそうなんですけど(笑)。…現実を言うと、母が子どもを音楽家にすることにものすごい憧れを持っていまして。続けてきたのは母の希望が8割ぐらいで、大きかったかな。

――ご自分の意思でピアニストとして生きていこうと決められたのはいつぐらいだったのでしょうか?

清塚:自分の意思でピアノを、アイデンティティとしてやりたいと決めたのは18歳くらいでしたね。高校を卒業する頃かな。卒業後ロシアに留学するんですけど、その間にいろいろ考えて決めたという感じです。それまでは“(ピアニストに)ならなきゃいけない”と思っていて。周りの大人に刷り込みのようにずっとそう言われていたのでね。

――そこから、クラシック一本ではなく、映像にまつわる劇伴音楽などを手がけられるようになったのは、どういったきっかけがあったのでしょうか?

清塚:僕、18歳まですべてピアニストになるためだけに生きていたんです。ちゃんとした“人”としての人生を生きていなかったんですね。小学校も3年間ぐらいしか行っていなかったので、そういう生き方をしていると、心のバランスがやっぱりおかしくなってしまうんです、子どもだと特に。その心のバランスを取るために、僕にとって大事だったのが映画やゲームでした。特に映画は、中学生ぐらいからたくさん観ていましたね。主人公に感情移入して観ている約2時間は、今のきつい人生を忘れることができるから。映画は僕にとっては娯楽ではなく、救いの存在だったんです。だからこそ、映像に関してはいずれ絶対に関わってやるぞという想いを持っていました。

――音楽と同じぐらい、清塚さんにとっては映像が身近で興味のあるものだったんですね。ちなみに、好きな映画監督さんとかいらっしゃいますか?

清塚:最近は、クリストファー・ノーランが好きです。『ダークナイト』(2008)の監督として有名な方ですね。最新作は『インターステラー』(2014)かな。彼は映画を撮るだけじゃなくて、脚本を書いたり、プロデュースしたりもするんですよ。一部に関わるだけじゃないっていうところも、好きなんです。

清塚信也

清塚信也

■劇伴音楽作りに求められることは“単にいい曲ではない”ことと“洞察力”

――映画を見ていると音楽の重要性をしみじみ感じるんですが、普通に曲を作るのと、劇伴音楽を作るというのはどのような違いがあるんでしょうか?

清塚:一番の違いは「単にいい曲じゃいけない」ということです。それから、音楽性も大切ですが、それ以上に洞察力が求められますね。

――洞察力、とは?

清塚:今、シーンを見ながら曲を作れることはほとんどないんですよ。台本を見ながら、撮影と同時進行で作らなきゃいけない。自分の中でイメージを作りすぎてしまうと、そのイメージが違った時にミスマッチが生まれてしまうので、映像の作り手のイメージする方向と同じ方をどれだけ向けるかっていうのがすごく大事。打ち合わせをする1~2時間の中で監督の言動を見ながら、この人はどういう言葉の使い方をするのかをまずはじっと観察するんです。遠回しな言葉を使う人もいれば、ダイレクトに使う人もいる。どういう傾向のある人なのか。求めているものを見極める洞察力が、劇伴を作る作曲家には求められるのだと思います。

――放送中の連続ドラマ『コウノドリ』でも劇中のピアノテーマ曲を手がけられていますが、この曲はどのように作られたのですか?

清塚:『コウノドリ』のメインテーマとして作った『Baby,God Bless You』は、依頼された時に「赤ちゃんが誕生したことを祝福する感じ」とイメージを伝えられたんです。それはさぞ幸福感のある…!と考えて、デモテープを作ったんですね。ところが、聴いてもらうと「全然違うんだよね…」って。何がそんなに違うのかと会議を重ねるんですけど、雲を掴むような話ばかりで2時間聞いてもさっぱりわからない。その後、監督やプロデューサーと呑みに行ったんですが、その時に監督が、こんな話をしてくれたんです。「赤ちゃんが誕生した時っていうのは、今後この赤ちゃんに訪れるたくさんの試練や、つらいこと悲しいこと、人生の辛さもひっくるめて愛おしいと思う気持ちが総じて涙として出てしまう雰囲気だと思うんだよね」と。聞いてたのと全然違うじゃん!ってなりました(笑)。

清塚信也

清塚信也

■役者としての活動は、必然だった

――『コウノドリ』には、綾野剛さん演じる主人公・サクラの幼馴染み役としてご出演もされているんですよね。役者として活動されることについては、どのようにお考えなのでしょうか?

清塚:僕は桐朋学園の音楽科に通っていたのですが、隣りが演劇科の校舎だったんです。演劇科は蜷川幸雄さんが校長をなさっていたんです。音楽科と演劇科ってタッグ組めそうなものなのに、何も繋がりがなかったんですよ。もったいないと思い、演劇科に遊びに行き、友達を作り、催し物を見たりしていました。だから個人的に演劇をすごく身近に感じていたんですね。高校卒業後には、役者のワークショップみたいなものに参加しました。映画が好きだったということもあり、実は自分の中では芝居というものに徐々に近づいていったのです。

――ピアニストの方がお芝居をなさるというのは、とても意外性を感じました。

清塚:それ、よく言われるんですよ。「ピアニストなのに芝居ってすごいね!」って。でも、僕としてはピアニストを目指しつつも、(役者は)いつかできたらいいなと思っていたことだったんです。突然変異的に出来ちゃうことってないんですよ、芸の世界って。その断片だけを見る人からは、突然出来るようになったように見えるかもしれないけれど、本人としては最初から目指していることなんですよね。当たり前のように。

――映像へのご出演というと、ドラマ『のだめカンタービレ』(2006)や映画『神童』(2007)では手の吹替演奏をされていましたが、あれは“手”の演技を求められるのですか?

清塚:手の吹替演奏に関しては、演技よりも正確性が求められますね。演技に関しては、芝居をする役者の方にきちんと演奏指導をして、手はめちゃくちゃだろうと演技面はそちらを使った方がいい。手に関しては、正確性を見せるために抜いて使うので、あえて芝居じみたことをしない方が効果的です。

――ちなみに、俳優としての活動を広げていきたい思われますか?

清塚:僕の人生の中で、ピアニスト、作曲家、俳優、この3つを目標としているので、これを実現していけるようにやっていきたいと思っています。目標の中でピアニストと作曲家が先行して、俳優って目標が一番遅れをとっているから、これに今後力を入れてやっていきたいなとは思っています。

清塚信也

清塚信也

■リスナーの方それぞれの人生に寄り添う音楽でありたい

――11月4日(水)にはNEWアルバム『あなたのためのサウンドトラック』が発売されます。こちらのアルバムはどんな内容ですか?

清塚:リスナーの方それぞれの人生に寄り添う音楽でありたい、あなたの人生のBGMにしてほしい、という想いを込めて制作しました。クラシックというと、すごい崇高な世界で、ピアノの曲だとしたらピアノそのものが主人公ということになっています。でもね、僕はそのスタンス、スタイルに時々疑問を感じる。もちろん、そういうのもあっていいと思うんですよ。ピアノって、300年前はものすごくハイテクなものだったけど、今となってはものすごく原始的なもの。もう古いんです、正直。だけど、古いながら、ピアノにしかない良さがもちろんある。その良さをどう伝えていくかということを考える上で、主人公だ!って弾き方ばかりしていると、古くささがつきまとってしまって、ズレている感じがするんですね。だから、ピアノに限らずなんですが、器楽は一線から一歩退いて、1.5列目ぐらいからのところから「あなたの人生に付き添っていきます」というスタイルを、もう少し確立すべきだと思うんです。その人の感情や空気感を音にする。これは歌詞のある歌にはできないことなんですよね。

――たしかに。歌は、個人の主観や主張を含みますね。

清塚:そうなんですよ。歌詞やその意味に本当に同調できないと、寄り添うことはなかなか難しい。だけど、器楽の音楽は絶対に意味を断定しないから、それぞれの受け取り方で正解なんですね。その強み、特性を、もっと生かしていくべきだと僕は思うんです。通勤や通学の時に、誰にも慰められないもやもやした気持ちを抱えた時とかに、器楽の音楽に手が伸びる。そんなひとつのライフスタイルを提示したいなと考えています。

――収録曲の中に、ドラマ「ロングバケーション」(1996)の曲が入っていますよね。聴いていたら、母と一緒にドラマを観ていた当時のことをいろいろ思い出しました。“人生に寄り添う”ってそういうことなのかなと思ったのですが…。

清塚:ロンバケの曲(『CLOSE TO YOU』)を入れたのは、まさにそういう意味合いがあって。ドラマとか映画も、その人生の節々の記録なんですよね。その人にとっての幼い頃の記憶や、恋をした時期なんかを思い出すきっかけになったりするじゃないですか。そういう節々にあった名曲っていうのをもう一回聞いてもらうことで、心のよりどころにしてほしい。そういう想いを込めて、自分の曲だけでなく他のサウンドトラックも入れてみました。

清塚信也

清塚信也

――アルバム発売記念のコンサートも開催されるということですが、どんなコンサートにしたいとお考えですか?

清塚:『K’z Piano Show』は毎年秋から冬にかけて行っていて、その時できることの集大成として全部やろうという目標を裏に掲げています。今回は、‟クラシックをもっと身近に感じてもらいたい”ということと、“ピアノの新しいスタイルを提示したい”ということがポイントになるかな。サウンドトラックに収録した『コウノドリ』の曲は、初めて聴いてもらう場になるので、それも楽しみにして頂きたいですね。

――最後に、アルバム、コンサートを楽しみにしていらっしゃる方へメッセージをお願いします。

清塚:なぜかわからないけど、疲れてる時に会いたくなるヤツ、みたいな雰囲気のアルバムやコンサートにしたいですね。CDとライブの違いというのも、これひとつ芸術性の違いとして増える楽しみもあると思うので、是非足を運んでほしいなと思います。コンサートって、聴く方にとってはすごいストレス溜まる場所だと思うんです。知らない人と隣り同士で詰め合わせられてね(笑)実は現代の形に会ってないんですよね、コンサートって。でも、それでも来てよかったなって思ってもらえるようなパフォーマンスをしなきゃという覚悟はあるので、ぜひ、気負いなく聴きに来ていただきたいと思います。

(文・撮影:松崎玲)

▼清塚信也さんより動画メッセージをいただきました▼


▼清塚信也『あなたのためのサウンドトラック』ダイジェスト映像

 
公演情報
清塚信也リサイタル『K’z Piano Show 2015』
 
■日時:2015/11/14(土)13:30
■会場:第一生命ホール (東京都)
■出演:清塚信也(ピアノ)
■問合せ:東京音協 TEL:03-5774-3030
■公式サイト:http://shinya-kiyozuka.com/​

 

CD情報
清塚信也『あなたのためのサウンドトラック』


■2015/11/04 RELEASE
■COCQ-85272 ¥3,000+税
■曲目
1.ポプラの秋 ~Piano Version~ 映画『ポプラの秋』メインテーマ
2.日々
3.恋 ~山口県下松市市制施行75周年記念 映画『恋』メインテーマ
4.悲しみのとき ~山口県下松市市制施行75周年記念 映画『恋』より
5.遠い約束 ~TBS系ドラマ「遠い約束~星になったこどもたち~」メインテーマ
6.星になった想い ~TBS系ドラマ「遠い約束~星になったこどもたち~」より
7.なぐさめるということ ~連作ショートフィルム「Life works」vol.3『なぐさめるということ』より
8.二人の音
9.Close to you ~セナのピアノI ~フジテレビドラマ系「ロングバケーション」より
10.ピアノ・マン
11.Calling To The Night ~「METAL GEAR SOLID PORTABLE OPS」より
12.Minor Heart ~TBS系 金曜ドラマ「コウノドリ」より
13.Baby, God Bless You ~TBS系 金曜ドラマ「コウノドリ」メインテーマ
14.Brightness ~TBS系 金曜ドラマ「コウノドリ」より
15.もしもピアノが弾けたなら
収録:2015年8月 横浜リリスホール
■公式サイト:http://columbia.jp/kiyozuka/​
シェア / 保存先を選択