中村芝翫親子の連獅子がハワイで再び!『2019ホノルル歌舞伎』制作発表会見レポート
「2019ホノルル歌舞伎」制作発表。報道陣のリクエストに答え、小指と親指をたてるハンドサインも。「相当はずかしい」と芝翫。
『2019ホノルル歌舞伎』制作発表が、10月10日に都内で開催され、八代目中村芝翫、四代目橋之助、三代目福之助、四代目歌之助が登壇した。この公演は「ハワイ日系移民150年記念事業」であると同時に、4名の襲名記念特別公演でもあるという。
日程は、2019年3月2日(土)から6日(水)までケネディシアターにて、3月8日(金)はハワイコンベンションセンターにて。演目は『連獅子』と、歌舞伎長唄の鳥羽屋三右衛門の『音で観る歌舞伎 黒御簾音楽演奏』。会場となるケネディシアターは、ハワイ大のキャンパス内にある施設で、収容人数は1200名。ハワイコンベンションセンターも同等の規模で、あらゆるエンターテインメントショーが行われる施設だという。
会見には、出演者4名の他、ホノルルフェスティバル財団理事の渡辺達夫氏、株式会社JTB常務取締役の皆見薫氏、松竹株式会社取締役副社長の安孫子正氏が出席した。
左から、松竹(株)安孫子正氏、中村歌之助、中村福之助、中村橋之助、中村芝翫、(株)JTB皆見氏、ホノルルフェスティバル財団 渡辺氏。
追悼と供養と、アイデンティティのために
『2019ホノルル歌舞伎』発起人でもある鳥羽屋三右衛門は、名古屋御園座の顔見世公演に出演中のためビデオレターでコメントした。三右衛門によれば、日本人約150人が、初めてハワイで移民となったのが1868年。明治元年だったことから、ハワイでは、その最初の移民の方々を『元年者』と呼ぶのだそう。
「日本語が流暢ではない日系4世、5世の方々に、正座で『おはようございます』『ありがとうございました』と挨拶をされたことがあります。聞けば、おじいさん、おばあさんから『日本人は礼儀をとても大事にする』『大事な挨拶だから必ず覚えておくように』と教えられたのだと。彼らのアイデンティティのために、そして、艱難辛苦の中、持ち前の勤勉さで日本人の社会をつくり、文化を伝えた元年者の方々の、追悼と供養のために歌舞伎公演をしたいと考えました」
52年ぶり、3度目のハワイ公演
ハワイでの歌舞伎公演は、1964年(六世歌右衛門、現・猿翁、五世富十郎が参加)、1967年(十七世勘三郎、七世梅幸、十七世羽左衛門、現・菊五郎が参加)に行われて以来、52年ぶり3度目となる。
渡辺氏は「私事で恐縮ですが」と前置きをした上で、自身が横浜からハワイへ移住した年が、ハワイで初めて歌舞伎が上演された1964年であることを明かした。
「まさか移住から54年後に、このようなご挨拶をできるとは。ハワイ移民と歌舞伎の引き合わせに、単なる偶然と思えない縁を感じます。歌舞伎公演が、日本の心の継承になるよう、そしてさらなる文化交流の活性化になるように」と思いを語る。
ホノルルフェスティバル財団 理事 渡辺達夫氏
皆見氏は、芝翫親子が千秋楽の3月8日に、「ホノルルフェスティバル」のフィナーレを飾るカラカウア通りでのパレードにも参加することを紹介した。このフェスティバルは、ハワイ最大級の文化交流イベントであり、今年で25回目を迎える。イベントを通し「新たな文化交流の創造、活性化につとめたい」と皆見氏は述べた。
(株)JTB 常務取締役 皆見薫氏
歌舞伎の情報をチェックしている方の中には、「最近、海外公演が多いな」と感じる方もいるかもしれない。「それぞれの公演に、それぞれ異なる意義がある」と切り出したのは安孫子氏。
「今回はハワイ日系移民150周年にあわせた公演。歴史的にも重いものを感じます。そこで芝翫さんご一家にとって大事な狂言、親子の情を描く『連獅子』を上演できることは、素晴らしいこと。見守る親獅子の苦悩や、這い上がってくる子獅子の思いは、ハワイに移民された大勢の方の思いに通じるものがあるのでは」
松竹株式会社 取締役副社長 安孫子正氏
歌舞伎は動く大使館
芝翫親子の襲名披露公演は、2016年10月に歌舞伎座ではじまり、今年7月、地方巡業も無事に幕をおろした。そこへ「はからずもハワイでも、襲名記念公演をさせていただけることとなりました。夢のような話」と、芝翫は明るい表情。
「ホノルルは、家族で羽を伸ばしに伺う大好きな場所。日本人にとって憧れの場所でもあります。この公演が成功したら、毎年ハワイで公演をしたいくらいです(笑)。今はちょうど高麗屋のお兄さん(松本白鸚)が、襲名披露をされていますので、襲名披露の最後はホノルル公演というのが、定番になればいいですね」
芝翫が初めて海外公演に参加したのは、二十歳の時。富十郎達とバンクーバーやロス、シアトルを巡り、『連獅子』を披露したのだそう。
「当時は『なぜ海外でやるのだろう?』と思ったこともありました。でもロスに伺った際、客席に日系の方が多くいらっしゃって、その方々には日本への憧れ、日本への強い思いがあり、舞台に向けられる皆さんの目に、ものすごく熱いものを感じました。その時、海外でやってよかったと思いました」
過去にはニューヨークで「歌舞伎は動く大使館だ」と、称賛の言葉をもらったことに触れ、「ホノルル歌舞伎でも、現地の多くの方に歌舞伎をご覧いただき、歌舞伎をもっと感じていただく役回りができれば」と意気込みを語る。
中村芝翫
中村橋之助は、「ハワイで歌舞伎をさせていただけることと同じくらい、家族そろっての『連獅子』を、またやらせていただけることが喜びです」と言葉を弾ませる。
「家族で連獅子をやらせていただくのは、(歌舞伎座、博多座以来)ホノルル歌舞伎が三度目ですが、やるごとに課題は増えています。はじめは兄弟三人で息を合わせるだけでしたが、お互いにがんばってみたいところが出てきたり、『もっとこうした見せ方をしよう』というディスカッションもできた、思い出深い作品です。もちろんハワイに行くことも楽しみです。その楽しい気持ちがお客様にも伝わり、気持ちよく観てかえっていただければ」
福之助は、印象深い海外公演として、平成中村座のニューヨーク公演を振り返る。
「小学校一年生の時でした。勘三郎のおじや父といかせていただいた時に、日本の歌舞伎ではあまり見たことのなかったスタンディング・オベーションをみました。あの時の舞台からの光景は、今でも目に残っています」
また去年の北京公演では、日本と中国で反応のあるポイントが違うことに刺激を受けたよう。「日本の公演で当たり前にやっていたところで笑っていただけれると、『当たり前にやらず、しっかりやらなきゃ』という気持ちになりました」
現在、高校在学中の歌之助は、最終日のみの出演となる。
「はじめて海外公演に参加させていただきます。四人連獅子を、ハワイで再現できることをとてもうれしく思います。海外のお客様の前で演じることは僕にとっては未知の世界ですが、『連獅子』は海外の方にも楽しんでいただける演目だと思います。一生懸命がんばりますので、どうぞよろしくお願いします」
中村歌之助
芝翫によれば、襲名の時には四人連獅子をやるよう言ったのは、十八世勘三郎だったという。
「『うちは三人だけど、お前のところは四人だから賑やかでいいぞ!』と大声で笑っていたのが、今でも耳に残ります。2016年に博多座で『連獅子』をやらせていただいた時と比べ、3人の子どもたちは肉体的にも精神的にも大きくなりました。親獅子の僕が子獅子に崖に落とされないように、気を付けないと」と姿勢を正してみせ、会場の笑いを誘った。
帽子のHは、橋之助のH
会見ではそれぞれが、ハワイの思いでも語られた。芝翫は「結婚後にはじめて、妻(三田寛子)に連れられ、はじめてハワイに行き、こんな素晴らしいところがあるのか、と感動をしました。すると同時期に歌右衛門のおじもハワイにいらっしゃいまして(笑)」と振り返る。
橋之助によれば、一家にとってハワイへの家族旅行は、忙しい父・芝翫といっしょに過ごせる「豪華な時間」だったという。芝翫(当時・橋之助)が、ハワイ大学のロゴ入りキャップを「この“H”は橋之助のHだ」とずっとかぶっていたことを思い出す。
福之助は、芝翫と二人だけでハワイにいったとき、「泊まっていたホテルで、名球会の集まりがあったようで、父とロビーのソファに座りひたすら野球選手をみていました」と語る。さらに歌之助は、家族でのハワイ旅行の最後の夜は、浜辺で投げ合う相撲大会(母も参加)が恒例となっていることを明かした。ハワイでの思い出を問われ、家族のエピソードを明かす三人。その一言一言に、芝翫は「そうそうそう!そうだったそうだった!」と、楽しそうに大きく頷いていた。
公演は3月2~6日と3月8日。特別協賛のJTBでは、オフィシャルツアー等の商品発表もあるという。後日発表されるという詳細情報を待ちたい。
公演情報
Kabuki in HAWAII 2019 supported by JTB
2019年3月2日(土)~6日(水) ケネディシアター(米国・ハワイ)
2019年3月8日(金)ハワイコンベンションセンター(米国・ハワイ)
■演目:
「連獅子」中村芝翫、橋之助、福之助、歌之助
「音で観る歌舞伎 黒御簾音楽演奏」鳥羽屋三右衛門