『塩田千春展:魂がふるえる』が森美術館で開催 作家の全貌を明らかにする、過去最大で最も網羅的な個展
塩田千春 《不確かな旅》 2016年 鉄枠、赤毛糸 展示風景:「不確かな旅」 ブレイン|サザン(ベルリン)2016年 撮影:Christian Glaeser
『塩田千春展:魂がふるえる』が、2019年6月20日(木)〜10月27日(日)まで、森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)で開催される。
塩田千春 《内と外》 2009年 古い木製の窓、椅子 展示風景:ホフマン・コレクション(ベルリン)2009年 撮影:Sunhi Mang
ベルリンを拠点にグローバルな活躍をする塩田千春は、記憶、不安、夢、沈黙など、かたちのないものを表現したパフォーマンスやインスタレーションで知られている。しばしば個人的な体験を出発点にしながらも、その作品はアイデンティティ、境界、存在といった普遍的な概念を問うことで世界の幅広い人々を惹きつけてきた。なかでも黒や赤の糸を空間全体に張り巡らせた圧倒的なインスタレーションは、彼女の代表的なシリーズとなっている。
塩田千春 《集積―目的地を求めて》 2016年 スーツケース、モーター、赤ロープ 展示風景:「アート・アンリミテッド」アートバーゼル(スイス)2016年 Courtesy: Galerie Templon 撮影:Atelier Chiharu Shiota
本展は、塩田千春の過去最大規模の個展だ。副題の「魂がふるえる」には、言葉にならない感情によって震えている心の動きを、他者にも伝えたいという作家の思いが込められている。大規模なインスタレーション6点を中心に、立体作品、パフォーマンス映像、写真、ドローイング、舞台美術の関連資料などを加え、20年にわたる活動を網羅的に体験できる初めての機会になる。「不在のなかの存在 」を一貫して追究してきた塩田の集大成となる本展を通して、生きることの意味や人生の旅路、魂の機微を実感できるだろう。
塩田千春の過去最大、最も網羅的な個展
塩田千春 《どこへ向かって》 2017年 白毛糸、ワイヤー、ロープ 展示風景:「どこへ向かって」ル・ボン・マルシェ(パリ)2017年 撮影:Gabriel de la Chapelle
世界各地で精力的に作品を発表している塩田千春は、美術館、国際展、ギャラリーなどで、これまでに250本以上の展覧会に参加しており、近年では年間20本前後の展覧会に参加するなど、国際的にも高い評価を得ている。日本では2001年の第1回横浜トリエンナーレに出展した《皮膚からの記憶》にて注目を集め、2008年には国立国際美術館(大阪)で『精神の呼吸』、2012年に丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川)で『私たちの行方』、2013年に高知県立美術館で『ありがとうの手紙』など数々の個展を開催。2015年には第56回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展(イタリア)の日本館代表として《掌の鍵》を展示した。本展は、1990年代の初期作品やパフォーマンスの記録から、代表的なインスタレーション、最新作までを網羅的に紹介する、過去最大規模の個展となる。
大規模な没入型インスタレーション
塩田千春 《静けさの中で》 2008年 焼けたピアノ、焼けた椅子、黒毛糸 展示風景:「存在様態」パスクアートセンター(ビール/ビエンヌ、スイス)2008年 撮影:Sunhi Mang
塩田千春の20数年にわたる実践のなかで、彼女の作品を最も特徴づけるのは黒や赤の糸を空間全体に張り巡らせる没入型のインスタレーションだ。観客は糸が張り巡らされた空間の中を歩きながら、目に見えない繋がりや、記憶、不安、夢、沈黙などかたちの無いものを体感的、視覚的に意識させられる。糸の色について塩田は、黒は夜空とも宇宙とも捉えることができ、赤は血液、あるいは「赤い糸」といった、人と人の繋がりと考えることもできると言っている。本展では、移動や旅を連想させる舟やトランク、沈黙を示唆する焼けたピアノなどが組み合わされた、没入型インスタレーションを展示する。
「不在のなかの存在」、魂や生きる意味を考える新作
「不在のなかの存在」をテーマに作品を制作してきた塩田千春は、記憶や夢のなかだけに存在する、物理的には存在しないものの気配やエネルギーなどにかたちを与えてきた。塩田は自身の身体と作品を分かちがたい一体のものとして捉えているが、初期のパフォーマンス以降、自身が演じた限られた映像作品を除けば、身体が作品に現れてこなかったのは、そこに「不在のなかの存在」を意識させるためでもあるだろう。しかし、一昨年に癌の再発を告げられ、病院の治療プロセスに機械的に従う時間のなか、「魂はどこにあるのか」という問いが浮かんだという。その過程で、身体がばらばらになるような感覚に襲われた塩田は、壊れた人形のパーツばかりを集め、再び自身の手足を鋳造した作品を作りはじめた。本展のための新作インスタレーションでは、身体の断片が糸で繋げられ、観る者に魂や生きる意味を問いかける。
初期作品からの発展と一貫性を辿るアーカイブ展示
塩田千春 《時空の反射》 2018年 白いドレス、鏡、鉄枠 所蔵:アルカンターラ 展示風景:「時間を巡る9つの旅」 パラッツォ・レアーレ(ミラノ)2018年 撮影:Sunhi Mang
塩田千春は京都精華大学では絵画を専攻したが、1993年から1994年のオーストラリア国立大学留学中にはすでに、《One Line(一本の線)》という並行線のみの大規模なドローイングや、空間に「絵を描くように」糸を張った作品も制作している。また同時期には、「絵のなかに自分が入っている夢をみた」ことをきっかけに、身体に絵具を塗り、シーツを使ったパフォーマンス《Becoming Painting(絵画になる)》も実施した。その後ドイツに留学した塩田は、本格的に身体を使ったパフォーマンスを始め、以降ベルリンを拠点にさまざまな試みを続けてきた。本展のアーカイブ展示では、初期のドローイングから、インスタレーションやパフォーマンスの記録を通して、彼女の実践の発展とそこに通底する一貫性を辿る。
舞台美術の仕事に関する資料展示
塩田千春 オペラ公演「松風」のステージデザイン ベルリン国立歌劇場2011年 撮影:Bernd Uhlig
塩田千春は、2003年にウヤズドフスキ城現代美術センター(ポーランド、ワルシャワ)で発表された『オール・ア・ ローン』(可世木祐子演出)以降、ダンスやオペラなど数々のステージデザインに携わってきた。ドイツでは、キール歌劇場で上演された『トリスタンとイゾルデ』(2014年)、『ジークフリート』(2017年)、『神々の黄昏』(2018年)などのワーグナー作品。国内では、岡田利規演出による『タトゥー』(2009年、新国立劇場)や、サシャ・ヴァルツ監督、細川俊夫が音楽を手掛けた、2011年初演のオペラ『松風』(2018年、新国立劇場)などの作品がある。塩田の空間芸術が舞台公演とどのように関係づけられ、いかに活かされてきたのか。本展では、記録映像や模型を通してその様子を再現する。
イベント情報
会期 : 2019年6月20日(木)〜10月27日(日)
入館料:一般 1,800 円、学生( 高校・大学生 )1,200 円、子供(4 歳―中学生 )600 円、シニア(65 歳以上 )1,500 円