METライブビューイング2018-19《椿姫》公開記念、鬼才演出家 マイケル・メイヤーにNY現地インタビュー

動画
インタビュー
クラシック
舞台
2019.1.28
《椿姫》〈乾杯の歌〉より (c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

《椿姫》〈乾杯の歌〉より (c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

画像を全て表示(9件)

 

ニューヨークはメトロポリタン歌劇場(MET)における世界最高峰の最新オペラ公演を大スクリーンで楽しむMETライブビューイング。今シーズン第5作目《椿姫》が、2019年2月8日(金)~2月14日(木)に全国公開となる(ただし、東京の東劇のみ2月21日までの2週間上映)。

【動画】MET《椿姫》予告編


パリの社交界を魅了する病身の高級娼婦がめぐり逢った真実の愛を描いたアレクサンドル・デュマ・フィスの小説を基に、フランチェスコ・マリア・ピアーヴェが台本を書き、ジュゼッペ・ヴェルディが作曲して1853年に発表されたのが《椿姫》である。心弾む〈乾杯の歌〉から誰もが涙する幕切れまで心を捉えて離さない大傑作だ。この「人生で一度は観るべきオペラ」とまでいわれる名作を人気実力絶頂の歌姫ディアナ・ダムラウ、"世紀のテノール"フアン・ディエゴ・フローレスら豪華キャストが競演し、不滅の恋を歌い上げる。本来は19世紀の物語だが、今回のプロダクションでは装いも新たに、時代設定を18世紀に変えた。その演出を手掛けるのは、ごぞんじマイケル・メイヤー。ミュージカル『春のめざめ』や、最近ブロードウェイで大評判を収めた『ヘッドオーバーヒールズ』などをはじめ、トニー賞常連の鬼才ミュージカル演出家。METでは、ヴェルディの《リゴレット》そして、つい先頃上映されたニコ・ミューリーの《マーニー》も手掛けている。

そんなマイケル・メイヤーの現地NYインタビューがこのほど届いたので紹介する。

マイケル・メイヤー (C)小林伸太郎

マイケル・メイヤー (C)小林伸太郎

“オペラの伝統がなければ、ミュージカルは存在しない”

演出家のマイケル・メイヤーにとってこの秋は、オペラの秋だった。自らオペラ化のアイディアを作曲家ニコ・ミューリーに持ちかけ、5年越しでメトロポリタン・オペラ初演が実現した《マーニー》から息をつく暇もなく、12月にはヴェルディ《椿姫》MET新制作の初日を迎えた。2013 年秋にMETが新制作した《リゴレット》の演出でオペラを初めて演出したメイヤーにとって、今回の《椿姫》は 2 作目のヴェルディにあたる。

1983年、俳優としてニューヨーク大学の大学院プログラムを修了し、ニューヨークのシアターシーンに乗り出した頃、メイヤーは今の自分を想像することができただろうか? 2007年にロック・ミュージカル『春のめざめ』で演出家としてトニー賞を受賞したときでさえ、ヴェルディの傑作オペラを続けて2本、クラシックの牙城METで演出することになるとは思っていなかったに違いない。《リゴレット》では16世紀のイタリアのマントヴァから 1960 年代のラスべガスに舞台設定を移して多くの支持者を掴み、そして同じくらい多くの敵を作り出したに違いないメイヤーは、今回の《椿姫》では打って変わり、ヴェルディが作曲した時代である19世紀のパリという、ごく一般的な舞台設定を選択した。

《椿姫》 (c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

《椿姫》 (c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

「今回は、これまでMETで上演されていた、モダンで少しディコンストラクトされた(脱構築的なところのある)ヴィリー・デッカーのプロダクションの後に続くものであることを承知していました。今回ヴィオレッタを歌ったディアナ・ダムラウがこの演出でヴィオレッタを初めて歌った時に、私も観ましたが、とても素晴らしい演出でした。しかし今回私が演出するにあたって、同じように現代的なプロダクションを繰り返すことは観客の益にならないと思いました。私はオペラのエキスパートではありませんが、《椿姫》は傑作のひとつだと思います。そういう傑作を新鮮かつ意味あるものに保つには、作品として異なる解釈が生きられるようにするべきだと思います。芝居であろうが、ミュージカルであろうが、オペラであろうが、原作者のインパルスだと私が理解するものに、常に忠実でありたいと思っています」

「今回の《椿姫》は、ロマンティックで、よりビジュアルが豊かなものにしたいと考えました。そしてその美は、自然から得られるのではと考えました。ヴィオレッタのアルフレードとの愛を辿ると、4つの章になる。プロローグは冬で、結末がどのようになるかがそこに見られるかもしれない。その間が春、夏、秋になると。人生のフラッシュバックを、四季を通じて辿るわけです。装置のクリスティーン・ジョーンズと、死の直前のエクスタシーについて語り合いました。ヴェルディはそれを、非常に美しく描いています。オペラ全体をフラッシュバックとして語るのは、コンセプトとして新しくないかもしれませんが、四季を通じて描けば、ヴィオレッタのドリームをもう少しリアリスティックに展開できると思ったのです。それに前のプロダクションはモダンでしたので、今回はヴェルディ作曲当時の現代であった19世紀パリに舞台を設定しようと思いました。舞台の中央に常にベッドを置くことは、テクニカルリハーサルの時に思いつきました。生まれてから、高級娼婦として生き、死ぬまで全てベッドが人生の真ん中にある。それなら、舞台からベッドを片付けずに常に置いてみようということになったのです」

マイケル・メイヤー (C)小林伸太郎

マイケル・メイヤー (C)小林伸太郎

初めて知る純粋な愛に心を震わすヒロインの高級娼婦、ヴィオレッタを今回歌ったディアナ・ダムラウとは、《リゴレット》に続いて2回目のコラボレーションとなる。

「私は彼女から非常に多くのことを学びました。彼女の演技は非常に素晴らしいので、歌が演技の自然な延長のように感じられます。彼女はすでにいろいろなところでヴィオレッタを歌っていますが、そんな彼女と新しい解釈に取り組むことはとても楽しいことでした。今回のヴィオレッタは、自分の運命を常に意識していると思います。そこに私はとても心動かされました」

ディアナ・ダムラウ (c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

ディアナ・ダムラウ (c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

ヴィオレッタを真正面から愛する青年、アルフレードには、この役に今回初めて取り組んだフアン・ディエゴ・フローレスがキャストされた。フローレスは、ロッシーニやベッリーニ、ドニゼッティといった作曲家たちによるベルカント・オペラの難曲を華麗に歌い上げる、現在最高のベルカント・テノールである。

「ベルカントのテノール役の多くは、ちょっと自己中心的な役が多いと思うのですが、アルフレードはヴィオレッタという女性を遠くから眺め続け、彼女に会う機会を心待ちにするナイーブさがある。だからこの役を若く純粋なキャラクターにしたいと思いました。フアン・ディエゴはこの解釈に、とてもオープンに取り組んでくれました」

フアン・ディエゴ・フローレス (c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

フアン・ディエゴ・フローレス (c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

「指揮のヤニック・ネゼ=セガンは、ストーリーにとても関心があるので、音楽がどの部分でストーリーに対してどんな影響を与えるかについて、真の対話を持つことができます。歌手との信頼関係も素晴らしい。彼との仕事は、とても楽しいものでした」

前回の演出の《椿姫》は休憩が1回だけだったが、今回は歌手の負担を考慮するネゼ=セガンが主張して2回に増やされた。

ヤニック・ネゼ=セガン (C)Jonathan Tichler/Metropolitan Opera

ヤニック・ネゼ=セガン (C)Jonathan Tichler/Metropolitan Opera

「正直言うと、休憩を入れるのが私だったら、第2幕第1場の後を選んだと思います。しかしヤニックは、歌手のために第3幕の前に休憩が必要と考えました。それは私にとって妥協かもしれませんが、それほど気にしていません。ミュージカルだったら、演出家として私の仕事は、クリエーションに関わるチームメンバーの全てが同じ考えで確実に作品に取り組めるようにすることだと考えています。音楽から振付、衣装、照明、全ては演出家に責任があります。しかしオペラは、音楽のサウンドが最も重要な要素なのです。だから指揮者が《椿姫》〈乾杯の歌〉より最終的な決断を下し、全ては音楽との関係において解決されなくてはならないのです。音楽を自分の演出に合うように変えることは、許されない。それがオペラです。ストーリーはステージングやリブレット(台本)に存在するのと同じように、オペラの場合、音楽にあるものだと信じています。私はヤニックのように、ストーリーに関心がある指揮者と取り組むことができて、とてもラッキーだと感じています」

演劇の世界からオペラに踏み込んだメイヤーだが、演劇ファンにもオペラを積極的に見て欲しいという。

「オペラの伝統がなければ、ミュージカルは存在しないんですよ。パティ・ルポンやクリスティン・チェノウェス、バーバラ・ストライサンドの歌に感動する人は、オペラの歌唱の素晴らしさに圧倒されると思います。それにディーヴァの元祖は、オペラ歌手ですからね。今回の《椿姫》には、歌手はもちろん、バレエにも素晴らしい才能が揃っています。この作品は、史上最も美しい音楽で最も素晴らしいストーリーを語っています。あなたの人生を変貌させるパワーを持つ、愛に対するラブレターなのです。ぜひご覧いただきたいと思います」

マイケル・メイヤー   (C)小林伸太郎

マイケル・メイヤー   (C)小林伸太郎

ヴェルディは最高のオペラ作曲家というメイヤーだが、将来はベルクの《ヴォツェック》《ルル》といったアヴァンギャルドな作品、クルト・ヴァイル、ブリテン、ストラヴィンスキーといった作曲家の作品にも取り組んでみたいという。オペラ演出家として、いきなりオペラ界の頂点METから歩を踏み出したメイヤー。今後の活躍に、大いに期待したい。

(c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

(c)Marty Sohl/Metropolitan Opera

【マイケル・メイヤー Michael Mayer プロフィール】アメリカを代表する演出家のひとり。大胆な読み替えで古典を刷新する才能で注目を浴びる。1960 年メリーランド州ベセスダ生まれ。2007年『春のめざめ』でトニー賞受賞。12 年《リゴレット》でMETにデビュー、60年代のラスベガスに置き換えた新鮮な設定で絶賛された。今シーズンは《マーニー》も手がける。

(インタビュー/音楽ライター小林伸太郎)

上映情報

MET ライブビューイング 2018-19
ヴェルディ《椿姫》新演出

 
■上映期間:2019年2月8日(金)~2月14日(木)
※東劇のみ2月21日(木)までの2週上映
■上映劇場:
北海道 札幌シネマフロンティア 10:00~
宮城 MOVIX仙台 10:00~
千葉 MOVIX柏の葉 11:30~
埼玉 MOVIXさいたま 11:20~
東京 東劇《椿姫》 14:30~/18:30~
東京 新宿ピカデリー 10:00~
東京 MOVIX昭島 10:00~
東京 109シネマズ二子玉川 10:00~
東京 T・ジョイPRINCE品川 11:00~
神奈川 109シネマズ川崎 11:20~
神奈川 横浜ブルク13 11:00~
神奈川 109シネマズ湘南 10:00~
愛知 ミッドランドスクエアシネマ 《椿姫》 10:00~/18:30~
京都 MOVIX京都 10:00~
大阪 大阪ステーションシティシネマ 09:50~
大阪 なんばパークスシネマ《椿姫》 10:00~/18:30~
兵庫 神戸国際松竹 12:00~
広島 109シネマズ広島 10:00~
福岡 福岡中洲大洋 10:00~
※座席指定券の発売スケジュールは各上映劇場にお問合せ下さい。
※確定時間とタイムスケジュールは各演目の公開直前に最新情報に掲載します。
※すべて日本語字幕付き。
 
■指揮:ヤニック・ネゼ=セガン
■演出:マイケル・メイヤー
■出演:ディアナ・ダムラウ、フアン・ディエゴ・フローレス、クイン・ケルシー

■上映時間:3時間25分(休憩2回)
■MET上演日:2018年12月15日
■言語:イタリア語
■公式サイト:https://www.shochiku.co.jp/met/program/856/
シェア / 保存先を選択