熊川哲也がKバレエ創立20年の節目に『第九』を再演 初演『アルルの女』も必見の公演 中村祥子、宮尾俊太郎、荒井祐子が公開リハ

レポート
クラシック
舞台
2019.1.29
宮尾俊太郎、荒井祐子

宮尾俊太郎、荒井祐子

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Kバレエカンパニーが『ベートーヴェン 第九』・『アルルの女』を2019年1月31日(木)~2月3日(日)、上演する。それに伴いこのほど公開リハーサルが行われた。『ベートーヴェン 第九』(以下『第九』)では芸術監督の熊川哲也とともにダブルキャストで第4楽章を踊る中村祥子が踊りを披露。今回バレエ団で初演となる『アルルの女』は20世紀を代表する振付家、ローラン・プティの名作のひとつで、フレデリ役の宮尾俊太郎とヴィヴェット役の荒井祐子が振付指導のルイジ・ボニーノが見守る中、3つのパ・ド・ドゥを、さらに宮尾がクライマックスのソロを踊った。バレエ団は今年で設立20周年。いずれもその節目となる公演に期待が感じられるリハーサルであった。

カンパニーの歴史・マイルストーン的作品『第九』

ベートーヴェンの世界的に有名な交響曲に熊川監督が振り付けた『第九』の初演は、カンパニー設立10周年を迎えた2008年のこと。その後15周年のシーズンであった2013年に再演され、今回は20周年という記念の年の上演となる。この『第九』は第4楽章の音楽『歓喜の歌』に象徴されるように、新しい時代の扉を開くような祝祭感と力強く荘厳なエネルギーに満ち溢れ、カンパニーの歴史の節目にはぴったりだ。

熊川監督の『第九』は、ベートーヴェンの音楽に「母なる星・地球」の誕生の歴史を投影したという。第1楽章「大地の叫び」、第2楽章「海からの創世」、第3楽章「生命の誕生」から続く、第4楽章「母なる星」という構成で、壮大かつ荘厳な宇宙とそこに生きる命の歓喜、エネルギーが若々しい力に溢れたダンサーたちによって踊られる。

中村祥子

中村祥子

今回のリハーサルで中村が披露したのは第4楽章の冒頭部分だ。長身の中村は、登場した瞬間から存在感と貫禄を感じさせ、熊川監督が自身のダブルキャストとして彼女を選んだのも納得する。合唱が加わる前までのオーケストラ部分を一通り踊ったのち、指導の遅沢佑介と渡辺レイらとともに立ち位置や動きのタイミング、目線や表情などを確認していた。自身も母親である中村が、この「母なる星」をどう踊るのか、実に興味深い。

中村祥子

中村祥子

中村祥子

中村祥子

ボニーノ氏「ダンサーの表現力がすばらしい」と語る『アルルの女』

『アルルの女』はプティが1974年に発表した作品で、「アルルの女」の幻影を追い求める青年フレデリと、その婚約者ヴィヴェットの哀しい恋の物語が描かれる。ビゼーの有名な音楽『メヌエット』で踊られる終盤のパ・ド・ドゥや、『ファランドール』の音楽とともにフレデリが踊るクライマックスはガラ公演ではお馴染みの作品で、熊川監督自身も2014年の「オーチャードホール25周年ガラ」で踊ったほか、2016年Kバレエカンパニー公演でも抜粋上演されているが、バレエ団での全幕上演は今回が初となる。

リハーサルでは宮尾と荒井が、振付指導のルイジ・ボニーノが見守る中、3つのパ・ド・ドゥを踊った。1つ目は「アルルの女」と現実の許嫁ヴィヴェットの間で揺れるフレデリ、2つ目は心がすでに遠くへ行ってしまったフレデリ、3つ目はとうとう誰の手にも届かないところへ行ってしまったフレデリを、宮尾が踊り分ける。荒井が踊るヴィヴェットはそうしたフレデリを思い、優しい心で包み込もうとするが叶わない。とくに3つ目のパ・ド・ドゥは『メヌエット』の音楽が、フレデリを思いつつ去るヴィヴェット切ない気持ちを切々と伝え、またベテランの荒井ならではの細やかな表現力に改めて感嘆する。続く『ファランドール』では宮尾が炸裂する狂気を纏って一気に駆け抜ける。抜粋とはいえ圧巻のリハーサルで、「(この作品を踊る上で重要なのは)スタミナ。これがなければ踊りはもちろん、フレデリの気持ちも表現できない」とリハーサル後に答えてくれた宮尾の言葉にも、なるほどと強く納得する。それほどまでにエネルギッシュであった。

宮尾俊太郎、荒井祐子

宮尾俊太郎、荒井祐子

『アルルの女』は宮尾&荒井のほか、遅沢佑介中村祥子、初主演となる益子倭と毛利実沙子が配されている。振付指導のボニーノ氏は「今日踊った2人(宮尾・荒井)はもちろん、このカンパニーのダンサーたちは、技術はもとより気持ちを表す表現力もすばらしい」と絶賛していた。

バレエ団の新たなマイルストーンとなる公演、歴史の証人として、ぜひ目に焼き付けたい。

(左から)宮尾俊太郎、ルイジ・ボニーノ、荒井祐子

(左から)宮尾俊太郎、ルイジ・ボニーノ、荒井祐子

取材・文=西原朋未

公演情報

Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY
Winter 2019『ベートーヴェン 第九』・『アルルの女』
 
【日程】2019年1月31日(木)~2月3日(日)
【会場】Bunkamuraオーチャードホール
【指揮】井田勝大
【管弦楽】シアター オーケストラ トーキョー
 
■『ベートーヴェン 第九』
【振付】熊川哲也
【音楽】ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
【合唱】藤原歌劇合唱部

■『アルルの女』
【振付】ローラン・プティ
【音楽】ジョルジュ・ビゼー
【振付指導】ルイジ・ボニーノ
 
【出演】
1月31日(木)18:30~
『ベートーヴェン 第九』第4楽章/熊川哲也、ソプラノ:幸田浩子、アルト:諸田広美、テノール:山本耕平、バリトン:坂本伸司
『アルルの女』/フレデリ:遅沢佑介、ヴィヴェット:中村祥子
 
2月1日(金)14:00~
『ベートーヴェン 第九』第4楽章/中村 祥子、ソプラノ:山口安紀子、アルト:諸田広美、テノール:山本耕平、バリトン:坂本伸司
『アルルの女』/フレデリ:宮尾俊太郎、ヴィヴェット:荒井 祐子
 
2月2日(土)13:00~
『ベートーヴェン 第九』第4楽章/熊川哲也、ソプラノ:幸田浩子、アルト:諸田広美、テノール:山本耕平、バリトン:坂本伸司
『アルルの女』/フレデリ:益子 倭、ヴィヴェット:毛利実沙子
 
2月2日(土)17:30~
『ベートーヴェン 第九』第4楽章/中村祥子、ソプラノ:山口安紀子、アルト:諸田広美、テノール:山本耕平、バリトン:坂本伸司
『アルルの女』/フレデリ:宮尾俊太郎、ヴィヴェット:荒井祐子
 
2月3日(日)13:00~
『ベートーヴェン 第九』第4楽章/熊川哲也、ソプラノ:幸田浩子、アルト:諸田広美、テノール:山本耕平、バリトン:坂本伸司
『アルルの女』/フレデリ:遅沢佑介、ヴィヴェット:中村祥子
 
K-BALLET COMPANY公式サイト http://www.k-ballet.co.jp/index.html
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