中村鴈治郎&中村扇雀が兄弟で全国巡業へ　『松竹大歌舞伎』西コース製作発表会見レポート

8月から9月に全国の会場で上演される『松竹大歌舞伎』西コースの製作発表会見が2019年5月10日、東京都内で行われた。今回の演目は「恋飛脚大和往来（こいびきゃくやまとおうらい） 玩辞楼十二曲の内 封印切（ふういんぎり）新町井筒屋の場」と「蜘蛛絲梓弦（くものいとあずさのゆみはり）」。会見には出演する中村鴈治郎と中村扇雀らが登壇した。会見の様子を写真とともにお伝えする。

中村鴈治郎

今回の巡業にあたって、鴈治郎は「『封印切』は私の家の芸ですし、扇雀がやります舞踊も、父（※坂田藤十郎）が得意としたもの。兄弟二人でゆかりのものを持って、巡業できることは大変嬉しいことだと思っております」と挨拶。
　
そして「地方を巡業で回りますと、それぞれの土地で歌舞伎を待ってくださる方がいらっしゃるのだとつくづく感じることがございます。そういう方々のためにも歌舞伎を堪能していただきたいと思っております」と話す。
　
昨年は豪雨被害で公演中止になった地域があることに触れつつ、「2年分待ってくださるお客様がいると信じております。それぞれの土地でそれぞれの皆様に楽しんでいただいて、歌舞伎としての面白さを味わっていただけるような公演にしたい」と思いを述べた。

中村扇雀

扇雀は出演する「蜘蛛絲梓弦」を選んだ理由を「大都市の本興行でお見せできる内容のものを、各地の皆様にもご覧いただきたいと思いました」と語る。
　
今年4月は「四国こんぴら歌舞伎大芝居」（香川県琴平町）に出演していた扇雀。「地元の方が本当に歌舞伎を愛して待ってくださることを肌で感じられました」と振り返り、「地方に行くと年1回の歌舞伎を心待ちにしてくださる方が随分いらっしゃいます。歌舞伎をずっと引き継いでいく中で、日本の伝統文化として、大都市だけではなく、全国の方に歌舞伎を生で楽しんでいただけるこの機会を本当に大切にしたいと思っております」と抱負を語った。

中村扇雀、中村鴈治郎（左から）

会見には出席できなかったが、尾上松也が『封印切』で丹波屋八右衛門を演じる。鴈治郎は「この話が決まった時に『兄さん、どうしましょう』と言われましたが、どうしましょうと言われてもねぇ（笑）。きっと愛ちゃん（※片岡愛之助）に習ったり、彼なりに工夫していると思います」と話し、「八右衛門が突っ込んでくれる役ですが、（鴈治郎が演じる）忠兵衛が2、3箇所突っ込んでもいいかなと思って。目が狼狽える松也くんを見てみたいなと思います（笑）。台本があるようでないような芝居なので、どういう風になるのか逆に楽しみですね」。
　
また、同じく『封印切』で傾城梅川を演じる市川高麗蔵について、鴈治郎は「きっちりとお芝居なさる方。スチール撮影の時に『大丈夫かな？』と言っていたので、『十分、若くて綺麗ですよ』と答えておきました」と話していた。

松竹の安孫子正・副社長/演劇本部長

松竹の安孫子正・副社長は、戦後まもなく歌舞伎の興行が厳しい時代のことを語りながら、「（公文協の協力があって）日本全国で歌舞伎の公演ができる礎を作ってくださったことを本当にありがたく思っております。こちらからみなさんのところへ行かしていただいて、歌舞伎を上演することがどんなにありがたいことか。地方の公演こそ、大都市でやる歌舞伎と同じレベルのものをお届けしないといけません」。
　
そして「一期一会で、ひょっとすると人生に一度しか歌舞伎をご覧にならない方もいるかもしれない。そういう人のところまで届くような芝居をしなくてはいけない」と熱く語った。

公文協の松本辰明専務理事

公文協の松本辰明専務理事は「歌舞伎はまさに先人が絶え間ない努力と情熱を傾けながら受け継がれてきた伝統芸術。歌舞伎は歌もあり踊りもあり、人間の奥深い真義や人間ドラマが描かれていると思います」と歌舞伎の魅力を語りつつ「地方では鑑賞機会の少ない、質の高い本物の歌舞伎を届けて参ることができますよう最善を尽くしていきたい。昨年度は災害の影響で中止になった公演もございましたが、今回の公演が最後までつつがなく実施できるよう願っています」と述べていた。