“世界のニナガワ”が遺した舞台『海辺のカフカ』が開幕へ 公開舞台稽古&囲みインタビュー
『海辺のカフカ』公開舞台稽古
TBS赤坂ACTシアターにて2019年5月21日(火)より、舞台『海辺のカフカ』が開幕する。初日に先立ち行われた公開舞台稽古と囲みインタビューの様子をお伝えする。
2002年に刊行された村上春樹の長編小説「海辺のカフカ」を蜷川幸雄が舞台化した作品で、初演は2012年。その後、ワールドツアーなどを含む再演を経て、今年2月にパリ・国立コリーヌ劇場で上演、今公演はその凱旋公演となる。
『海辺のカフカ』公開舞台稽古 左から寺島しのぶ、古畑新之
公開されたシーンは2つ。まずは、カフカ(古畑新之)が訪れた高松の図書館で、カフカと司書の大島(岡本健一)が、館長である佐伯(寺島しのぶ)について話しているシーンだ。大島は、佐伯の悲しい過去や、彼女が19歳のときに作った曲「海辺のカフカ」について語る。すると、舞台上には水槽に入った少女(寺島・二役)が現れてその歌を歌い出す。
『海辺のカフカ』公開舞台稽古 寺島しのぶ
水槽は舞台上を浮遊するように動き、寺島はその中に身をかがめた姿勢のまま歌う。カフカたちのいる現在と、水槽の中の少女が時空を超えて交錯する、幻想的で美しいシーンだ。寺島の入っている水槽だけでなく、その他の舞台装置もすべてアクリルケースに入っており、カフカと大島のいる部屋や、図書館の本棚が、それぞれ独立した空間として存在している。それが現実離れした雰囲気をもたらしており、この作品のファンタジー性をより高めている。
『海辺のカフカ』公開舞台稽古 寺島しのぶ
続いて公開されたのは、佐伯を探してカフカが森の中へと入っていくシーン。迷宮の森とも呼ばれる木々深い中を互いに探し合い、ついに2人は再会する。森の木々が入った大きなアクリルケースが舞台上をあちこち動き回り、その間を縫うように走り回るカフカと佐伯、そして先ほど公開されたシーンに登場した少女の姿も一瞬登場する。
『海辺のカフカ』公開舞台稽古 左から古畑新之、寺島しのぶ
互いを求め合ってやっと再会できたカフカと佐伯の、恋とも愛ともつかない切ない思いがあふれ出す。この二人の関係性は村上春樹の原作にも答えが書かれていないが、カフカが父にかけられた“呪い”はギリシャ悲劇のオイディプス王を彷彿とさせるなど、母子ではないかと思わせる描写が多々出てくる。しかしこのシーンでの二人のやり取りも、まるで禅問答のようで真実は判然としない。
『海辺のカフカ』公開舞台稽古 左から寺島しのぶ、古畑新之
しかし、佐伯が誰であるのか、もっと言ってしまえばカフカが誰であるのかさえ、この物語においては取るに足らないことなのかもしれない。答えは見る人が感じるままに導き出せば、それが各々にとっての正解なのだろう。
『海辺のカフカ』公開舞台稽古 左から寺島しのぶ、古畑新之
寺島の凛とした美しさが、カフカを引き付けるミステリアスな魅力を感じさせる。古畑は、迷い猫のような瞳に15歳の少年の危うさを宿しながら、自分の思いに正直に追求する意志の強さも見せる。カフカを優しく見守る大島を演じる岡本からは、優しい包容力が感じられる。
続いて、囲みインタビューが行われ、先ほどの2シーンに出演していた寺島、岡本、古畑が登壇した。
『海辺のカフカ』囲みインタビュー 左から古畑新之、寺島しのぶ、岡本健一
2月に行われたフランス公演について問われると、岡本は「村上春樹さんのファンが非常に多くて、ものすごく盛り上がりました。公演中は笑いも起きていて、カーテンコールはスタンディングオベーションで、泣いている人や歓声を上げる人もいて、その反応に驚きました」寺島は「感動的なカーテンコールでした。それを自信にして明日からの公演を迎えたい」とそれぞれ答えた。
村上氏もフランス公演を観劇しており、村上ファンの岡本は「楽屋に来てくださった村上さんに、台本にサインしてもらいました」と興奮気味に語り、古畑は、村上氏と会った印象はどうだったか、という質問に「変な人だと思いました。とてもシャイな、でも優しい人」と屈託なく答え、インタビュアーのマイクを借りて村上の物まねを披露する一幕も。
『海辺のカフカ』囲みインタビュー 左から古畑新之、寺島しのぶ、岡本健一
今作品の演出、蜷川幸雄に話が及ぶと、岡本は「稽古場や劇場に置いてある蜷川さんの写真がものすごく存在感があって、一緒にいたとき以上に見られている気がします。蜷川さんがいたら怒られてるんだろうな、このままじゃダメだ、と思いながらやっています」寺島は「あの長編小説を、蜷川さんがゾクゾクするくらい美しい舞台にしたので、私たちはそれに負けないように世界観を表現したいです」と蜷川への思いを述べた。古畑は、蜷川に言われて覚えている言葉はあるか、という質問に「『お前は基本的に自分の問題から逃げてるんだよ』と言われました」と、これまた蜷川の物まねを交えながら話した。
最後に東京公演への意気込みを聞かれ、岡本は「主人公の15歳の少年も、彼が旅の中で出会う人たちも、それぞれ悩んでいることや抱えている問題があって、でも人との出会いよってそれが癒されていく、解消されていく。みなさんの心の中に何かを提示するような舞台になると思います」寺島は「蜷川さんはこの世にはもういないけど、作品自体はこうして残っていくし、蜷川さんが作り上げた舞台だという幸せを感じながらやりたいと思っています。お客様にも、蜷川さんという世界的な演出家が遺した舞台をぜひ観て頂きたいです」と語り、最後に古畑が「頑張ります、見に来てください!」と力強く答えてインタビューは終了した。
『海辺のカフカ』囲みインタビュー 左から古畑新之、寺島しのぶ、岡本健一
蜷川演出の今作品を見ることができるチャンスは、これが最後になるかもしれない。岡本は「劇場に来ないと体験できない。記事や映像では絶対伝わらない」と力強く語っていた。蜷川幸雄が生み出し世界中を魅了した今作品を観に劇場に足を運び、“時代の目撃者”になって欲しい。
取材・文・撮影=久田絢子
公演情報
脚本:フランク・ギャラティ
演出:蜷川幸雄
出演:
寺島しのぶ、岡本健一、古畑新之、柿澤勇人、木南晴夏、高橋努、鳥山昌克、木場勝己
新川將人、妹尾正文、マメ山田、塚本幸男、堀文明、羽子田洋子、多岐川装子、土井ケイト、周本絵梨香、手打隆盛、玲央バルトナー
主人公の「僕」は、自分の分身ともいえるカラスに導かれて「世界で最もタフな15歳になる」ことを決意し、15歳の誕生日に父親と共に過ごした家を出る。そして四国で身を寄せた甲村図書館で、司書を務める大島や幼い頃に自分を置いて家を出た母と思われる女性(佐伯)に巡り合い、父親にかけられた“呪い”に向き合うことになる。一方、東京に住む、猫と会話のできる不思議な老人ナカタさんは、近所の迷い猫の捜索を引き受けたことがきっかけで、星野が運転する長距離トラックに乗って四国に向かうことになる。それぞれの物語は、いつしか次第にシンクロし……。
■パリ公演(ジャポニスム2018公式企画) ※公演終了
2019年2月15日(金)~2月23日(土)
会場: 国立コリーヌ劇場
■東京凱旋公演
2019年5月21日(火)~6月9日(日)
会場:TBS赤坂ACTシアター
主催:TBS/ホリプロ
協力:新潮社/ニナガワカンパニー/ANA
企画制作:ホリプロ
公式サイト:https://horipro-stage.jp/stage/kafka2019/