市川海老蔵が1人13役に挑む『七月大歌舞伎』囲み会見レポート

レポート
舞台
2019.6.12
市川海老蔵

市川海老蔵

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2019年7月4日(木)~28日(日)にかけて歌舞伎座で開催される『七月大歌舞伎』。公演に先駆け11日、都内で市川海老蔵が囲み取材に応じた。

昼の部は、新歌舞伎十八番の内『高時』、『西郷と豚姫』、新歌舞伎十八番の内『素襖落』、そして歌舞伎十八番の内『外郎売』。夜の部は、通し狂言『星合世十三團(ほしあわせじゅうさんだん)』。海老蔵は『素襖落』、『外郎売』、『星合世十三團』に出演する。『外郎売』では長男の勸玄が、貴甘坊(きかんぼう)役で出演し、売り文句の早口の長台詞(言立て)に挑む。

「13役の中で自分に近いキャラは?」と問われ、いがみの権太を指す海老蔵。理由は顔が肌色だから(他はほぼ白塗り)。

「13役の中で自分に近いキャラは?」と問われ、いがみの権太を指す海老蔵。理由は顔が肌色だから(他はほぼ白塗り)。

『星合世十三團 成田千本桜』とは? 

夜の部『星合世十三團』は、副題「成田千本桜」の通り『義経千本桜』に沿った内容となる。『義経千本桜』は、源平の戦いで命を落とした平知盛が、実は生きていたという設定で展開する物語。多くの人物が登場する中で、渡海屋銀平実は新中納言知盛、佐藤忠信実は源九郎狐、そしていがみの権太の3人が主人公となる。主人公を1人3役で演じたケースは過去にもみられるが、海老蔵はその3役に10役を加え、合計13役を早替りで勤める。しかも夜の部だけで「発端」「序幕」から四段目の「川連法眼館」(通称「四ノ切」)まで通して上演するのだ。

「大変ですよ。おかしくなるくらい大変。『義経千本桜』は、『菅原伝授手習鑑』『仮名手本忠臣蔵』と並び歌舞伎の三大狂言といわれる1つです。忠信、知盛、権太の一役やるだけでも本当に大変な演目なので、心身ともに充実させ、気合を入れ直しています」

タイトル『星合世十三團』の「星合」は、初代市團十郎が残し、その後の『勧進帳』のベースとなった『星合十二段』に由来する。「十三團」は、海老蔵の役の数、そして来年襲名する十三代目團十郎の「13」にかけたネーミングなのだそう。海老蔵は、『義経千本桜』の十三役早替りは「いつかやってみたい」と温めていたアイデアだと明かす。

「『忠臣蔵』や『伽羅先代萩』を何役もやられた先輩方もいますが、『義経千本桜』は三役までしかいませんでした。古典を大事にしつつ新しい挑戦をするということが、七月のテーマでもありますので」

記者から「これほど苦労する演目になぜ挑戦し続けるのか」と質問があがると、海老蔵は事もなげに「歌舞伎役者だから」と答え、「それに”苦労”ではないですね」と続ける。

「多くのお客様に楽しんでいただける。観にきていただける。今後『僕もやってみたい』という俳優さんが出てくれれば、努力をすることになります。まず忠信をやり、次は権太をやる。知盛もやり、小金吾もやり、入江丹蔵も維盛もやりました。そして、いざこれ(13役)を! と。そういってくれる人の目標になるものを作らなくてはいけないし、私自身、それができるようになりたい。だから苦労とは思いません」

あえて今『外郎売』をやる理由

海老蔵と勸玄が共演する、昼の部『外郎売』も注目を集めている。見どころは、売り口上をノンストップで聞かせる“言い立て”。海老蔵が七代目新之助として初舞台に立った時(1985年、当時7歳)の演目であるが、勸玄は今回、6歳で挑戦する。

稽古に取り組む姿は常に前向き。自身が6歳のときよりも「勸玄の方が、大人。責任感もある」と評価し、次のように語る。

「彼は歌舞伎が好きだし、やらなくてはいけないことだという認識もある。やりたいことでもある。パパには負けたくないという気持ちも、彼の中にあると思う。これは娘の中にもあるんじゃないかな。だから稽古は、意外と嫌がりません。体調が悪い時には嫌がりますが『風邪をひいても舞台は休めないんだよ』『体調が悪い時に稽古するのも、稽古なんだよ』と言うと、彼はウンと(頷いて)」

海老蔵が新之助、父が團十郎を襲名した時の興行でつとめた演目なだけに、来年に控える海老蔵自身の十三代目團十郎襲名披露興行で『外郎売』をみることを想像していた方も多いはず。

「あえて来年は『外郎売』をせず、1年早くやらせることにしたのは、私の思いと彼(勸玄)の思いが合致したからです。『色々なことをパパよりも早くやってもらいたい、という気持ちがだよ』と伝えると『分かった』と」

では来年の襲名披露興行では、何の演目をするのだろうか。これに対し海老蔵は「それはだいたい決めました。私の心の中で」と答えてニヤリとしてみせた。

自身の6歳の時の記憶を問われると「父からは早口のことより目の置き方(みる場所)を言われました」と回想する。

自身の6歳の時の記憶を問われると「父からは早口のことより目の置き方(みる場所)を言われました」と回想する。

東銀座で隠れ「可愛い勸玄くん」を探せ?!

『外郎売』のメインビジュアルの勸玄は、凛々しい立ち姿。それを見た記者が期待に声を弾ませると、海老蔵は「写真というものは、良い瞬間を撮るもの。ファミレスの料理も写真のまま出てくるわけではないでしょう?」「彼もお子様ですから、どうか温かく鷹揚な気持ちで見守ってください」と笑顔を見せる。ちなみにポスターのデザインは、キリっとしたもの(A)とニコっとしたもの(B)の2パターンから、海老蔵のブログで開催されたファン投票で(A)に決定した。

「Aが約6000票、Bが約4000票。投票でAに決まりましたが、「Bの可愛い感じは、今しかない」という声もあり、歌舞伎座か地下鉄のどこか1か所でも、隠れキャラとしてBを用意したいですね。Bをみつけにいくと、もれなく笑顔がまっています(笑)」

夜の部は出ずっぱりの海老蔵。舞台上に姿がみえない時は「裏を駆けずり回っていると思ってほしい」と笑っていた。「三役はもちろん大事ですが、早替りの中に『どうなってるの?!』というところを見つけて」と呼びかけ、会見は締めくくられた。忠信役では宙乗り、知盛役では大きな碇を海に投げ自らも後ろ向きに飛び降りる大技を控えている。権太役では維盛、弥左衛門をいかに早替りで演じるか。

昼夜を通し期待が高まる『七月大歌舞伎』は、7月4日(木)より28日(日)まで歌舞伎座で上演。

公演情報

『七月大歌舞伎』
 
■日程:2019年7月4日(木)~28日(日)
■会場:歌舞伎座
■演目
 
<昼の部>
一、新歌舞伎十八番の内 高時(たかとき)
 
北条高時 右團次
愛妾衣笠 児太郎
安達三郎 九團次
渚 梅花
秋田入道 寿猿
大佛陸奥守 市蔵
 
二、西郷と豚姫(さいごうとぶたひめ)
 
お玉 獅童
大久保市助 権十郎
芸妓岸野 児太郎
舞妓雛勇 梅丸
仲居頭おふく 歌女之丞
廻しの男留吉 橘三郎
中村半次郎 歌昇
西郷吉之助 錦之助
 
三、新歌舞伎十八番の内 素襖落(すおうおとし)
 
太郎冠者 海老蔵
次郎冠者 友右衛門
姫御寮 児太郎
鈍太郎 市蔵
三郎吾 権十郎
大名某 左團次
 
四、歌舞伎十八番の内 外郎売(ういろううり)
堀越勸玄早口言立て相勤め申し候
 
外郎売実は曽我五郎 海老蔵
貴甘坊 堀越勸玄
小林朝比奈 獅童
小林妹舞鶴 児太郎
遊君亀菊 梅丸
遊君喜瀬川 廣松
梶原平次景高 九團次
茶道珍斎 市蔵
梶原平三景時 家橘
化粧坂少将 雀右衛門
大磯の虎 魁春
工藤祐経 梅玉
 
<夜の部>
通し狂言星合世十三團(ほしあわせじゅうさんだん)
成田千本桜

市川海老蔵十三役早替り宙乗り相勤め申し候
 
左大臣藤原朝方、卿の君、川越太郎、武蔵坊弁慶、渡海屋銀平実は新中納言知盛、入江丹蔵、主馬小金吾、いがみの権太、鮨屋弥左衛門、弥助実は三位中将維盛、佐藤忠信、佐藤忠信実は源九郎狐、横川覚範実は能登守教経
(以上、13役)海老蔵
静御前 雀右衛門
相模五郎 右團次
若葉の内侍/小せん 児太郎
伊勢三郎 男寅
亀井六郎 鷹之資
お里 梅丸
鷲尾十郎 市川福太郎
片岡八郎 廣松
駿河次郎 九團次
猪熊大之進 市蔵
お米 齊入
百姓吾作 家橘
尼妙林 萬次郎
お柳実は典侍の局 魁春
梶原平三景時 左團次
源義経 梅玉
 
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