「だかいち」の劇中劇『紅葉鬼』を舞台化、陳内将と菊池修司が運命に翻弄される兄弟を演じる　囲み取材＆ゲネプロレポート

原作コミックスは累計発行部数300万部を突破し、2018年放送のアニメも好評を博した「抱かれたい男No.1に脅されています。」。

芸能界を舞台とする本作で描かれた劇中劇『紅葉鬼』が、リアル舞台となって6月28日(金)に品川プリンスホテル クラブ eX にて開幕した。それに先駆けて行われた、前日の囲み取材とゲネプロの様子をお届けしよう。

囲み取材に登場したのは、主演を務める陳内将と菊池修司、演出の町田慎吾の3名。

ーーまずは、初日を迎えるにあたって、心境をお願いします。

陳内：稽古を始めて、約1ヶ月。何もなかった稽古場から、セットが出来て、照明、音楽とみなさんのお力をいただいて、場当たりを経て、町田さんが作りたかった世界を改めて実感できました。原作はありますが、その中で『紅葉鬼』が描かれるのは数シーンです。その中で、皆さんが一つの台本を作り上げてくださいました。気持ち的には、原作付きの2.5次元舞台というか、オリジナル作品を一緒に作ることができたという気持ちです。あとは怪我なく、お客様に囲まれたこの舞台上で、一緒に作れたらと思っています！ 原作ファンの方もそうじゃない方も、「舞台『紅葉鬼』ってどんなものだろう？」と思っているはず。観終わった時に「これが『紅葉鬼』だったんだ！」と言ってほしいですし、僕らは「これが『紅葉鬼』だ」と自信を持って演じます。

菊池：稽古が始まってから、陳内さんとの立ち位置の中で、僕自身もがき苦しみつつ全力でやってきました。この作品はもともと、先生が書いてくださった原作があり、アニメがあって、それぞれに魂が宿ったものです。それを僕らがまたやらせていただけるというのは、なかなかないことですから、一つの強みだと思いますね。原作やアニメを好きな方にも、別ベクトルで、僕らが作る『紅葉鬼』を披露できるというか、魂を込めて作ったものをやらせてもらえることにワクワクしています。想像以上にいろんな方の力を借りてここに立っているので、感謝の気持ちを込めて繁貞として生き抜きたいです。それから、360度、いろんな角度から見ることができて、席によっては見えない表情があるのも魅力。すごく素敵な作品ですし、稽古中に一つも嘘はなかったと思うので、みんなで作り上げて形になったものをお客さんに届けたいという強い志で明日を迎えようと思っています！

町田：僕はこれが初めての演出で、すごくドキドキしたところから始まりました。まだ未熟なのでみんなに迷惑をかけたこともあったんですが、役者の皆さんもスタッフさんたちも素晴らしくて、本当に一つひとつ、みんなで作ったと感じています。稽古場で不安だったものがだんだん楽しみになってきて、今は最初のドキドキとは違う、ワクワクした気持ちです。この作品は劇中劇なので、全部の話を知らずに観に来られるお客様の心にガツンとくるような作品にしたいと思ってみんなで頑張ってきました。この劇場ならではの見せ方などもしていますので、楽しみにしていただけたら。

ーーキャストのお二人はお互いの印象、町田さんは演出家として見た2人の印象を教えてください。

菊池：僕の役者人生2本目に、トリプルキャストでご一緒したことがあります。一緒に舞台には立っていませんが、稽古場で色々お世話になりました。当時僕は台本の読み方とか役作りの基礎とか、本当にわからない状態の中で、陳内さんや先輩たちに本当にお世話になりました。それから約3年ぶりで、こうして隣にいるのが不思議です。あの時の経験が一つの糧になっているので、3年経て、陳内さんの目に、僕がもっといい役者に映っていたらいいなと思います。その辺は打ち上げでどうだったか聞いてみようかなと（笑）

陳内：え、ここで言っちゃダメなの？（笑）

菊池：だめだめ！（笑）まだこれからです！

陳内：えー、そうですねぇ……（笑）。久し振りに共演して、ビジュアル撮影の日に話しかけてくる感じとか、昔から人懐っこいところとか独特の空気感は変わっていなくて安心しました。時代物もあまりやったことがないって話だったんですけど、日に日に逞しくなっていく姿が嬉しくもあり、僕も負けないで頑張ろうと思えましたね。

町田：菊池くんはすごく真っ直ぐで感情のままに演技をするので、見ていて素晴らしいなと思います。陳内くんは包容力があるし、深いところまで台本を読み込んで考えて演技している。繁貞、経若に二人ともぴったりだと思いますね。あと、笑顔がかわいいです（笑）初演出の舞台でこのお二人と一緒に出来るのが本当に光栄です。

ーー役作りについて、気をつけた点はありますか？

陳内：原作･アニメでも、何シーンか『紅葉鬼』が描かれています。ただ、それに囚われ過ぎないよう、誰も観たことのない戯曲を読んだ上で、原作ファンの方にも「あのシーンの経若だ！」と思ってもらえるように。「でもそれ以外のシーン違うよね」とならないように気を付けましたね。

菊池：原作があって、その中で切り取られたページをもとに、舞台『紅葉鬼』というものを作り上げました。僕と陳内さんだけじゃなくみんなが、原作へのリスペクトを持ちつつ、僕らができる僕らなりのストレートのお芝居をしようという意思疎通ができていたと思います。あとは、あまり気負わず、目の前で起きることに素直にお芝居することを心がけました。

ーー円形劇場という特殊な環境で、演出に関するこだわりは。

町田：この劇場ならではの空間ということで、客席も使います。その方が臨場感がありますし、殺陣が多いので、熱量を感じてほしいなと思って。役者のみんなにも、嘘をつかずに心でやってと頼みました。ただ、怪我にだけは絶対気をつけてと。お客様が観た時に本当に心が震えるような作品にできるように演出したつもりです。

ーー最後に、ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

町田：僕らが全身全霊かけて必死に作り上げた舞台です。初めて舞台を観る方、原作が好きな方、お芝居が好きな方、本当にどんな方が観ても心が震える作品になったと思っています。自信を持ってお届けしますので、楽しみにしていてください！

菊池：稽古スタートから約1ヶ月、全力で作り上げました。町田さんの言う通り、原作ファンの方にもそうでない方にも幅広く楽しんでいただけるような作品になっています。そして何より、360度というこの舞台。お客さんを巻き込むというか、客席も一つのステージだと思って僕らはやっていますので、その辺の熱量もひしひしと伝えられたらいいなと。経若と繁貞という対になる二人の物語がどういう結末を迎えるか、最後まで見逃せない作品になっているので、注目していただけたらと思います！

陳内：舞台『紅葉鬼』を楽しみにしてくださっているお客様が多い中、僕らも本当に初日が楽しみです。登場人物一人ひとりがクライマックスにかけて欠かすことのできないキャラクターです。殺陣衆も、危険なことや派手なことをやってくれていますし、見えないところでも僕らに力を貸してくれています。楽しみにしてくださっていた方が観た時に、「待ってて良かった！」と思えるはず。胸を張って「これが僕らの『紅葉鬼』です」とお届けしますので、ぜひ楽しみにしていてください。

※以下、ゲネプロの写真と主に一幕に関するネタバレあり。

冒頭は、帝（山﨑晶吾）と鬼の頭目･呉葉（小野川 晶）がお互いの子を交換するシーンから始まる。

平和のためだと説得されて尚、生まれたばかりの我が子・繁貞（菊池修司）と離れたくないとすがる呉葉の姿は、種族は違えど一人の母親。呉葉に理解を示す帝の思いやりが心に染みる。一方で、幸せそうな二人を見る陰陽師・摩爬（富田翔）の表情は禍々しく、これから起きる悲劇を予感させる。

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

繁貞と交換に鬼の里にやってきた帝の子・経若（陳内将）を、呉葉は我が子として慈しみ育てるが、穏やかな生活は突如一転。神聖な存在である帝が鬼と子を成したことを良しとしない摩爬は、呉葉を愛していると言って憚らない帝を傀儡にしてしまう。そして、和平協定を一方的に破って兵に攻め込ませ、呉葉をはじめ多くの鬼を殺害。この様子を間近で見ていた経若は、人間を憎み、戸隠に住む鬼たちの頭目として生きるようになる。

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

円形ステージに加え、通路も使って繰り広げられる殺陣は迫力満点。各陣営が入り乱れ、所狭しと動き回る様子をどの席からでも臨場感たっぷりに見ることができ、非常に贅沢だ。ただ、通路を使うシーンも多く、遅刻すると中々会場に入れないことになるかもしれないので注意してほしい。

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

また、物語や殺陣を引き立て、世界観に引き込んでくれる音楽も素晴らしい。場面転換が多くあるが、和楽器を用いた多彩な楽曲により、雅な雰囲気が粋で楽しい祭りの様子に、さらには不穏な空気へと一瞬で自然に切り替わり、物語に没頭することができた。

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

さて、呉葉が殺されて以降、兄弟は真逆の道を歩み続ける。

経若は人間ながら鬼たちのための世を作ろうと奔走し、対する繁貞はかつて呉葉を討った維茂（今井靖彦）の子として育てられ、まっすぐな青年に成長していた。冷徹だが仲間思いな経若と、心優しく人懐っこい繁貞の対比が見ていて楽しい。また、「鬼は倒さねばならない」という仲間たちに異議を唱え、憎しみの連鎖を断ち切ろうとする繁貞の姿は、鬼と人が共に生きられる世界を望んだ帝と呉葉に重なり、思わず胸が熱くなった。

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

全体を通してシリアスな物語ではあるが、所々に笑えるシーンや微笑ましさに口元が緩んでしまうようなシーンもあるのが嬉しい。経若の身の回りの世話をしている小鬼・おまん（鎌田英怜奈）と繁貞のシーンや、鬼の頭目の右腕である熊武（髙木俊）や伊賀（中村太郎）とおまんのコミカルな会話は緊張感がありつつほのぼのとしてかわいらしいし、繁貞の幼い頃からの友人で良き理解者でもある頼政（鐘ヶ江洸）との兄弟のようなやりとりにも心が和む。

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

だが、鬼たちと和解したいという繁貞の願いは朝廷・戸隠双方の策略により裏切られる。

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

『紅葉鬼』ゲネプロ風景 (C)DO1 PROJECT／舞台「紅葉鬼」製作委員会

彼の中に眠る鬼の血を目覚めさせるため、経若は自らの血を繁貞に飲ませ、目論見通り本能を解放するが……。

ここから先は、ネタバレを控えるために詳細は控えさせてもらう。

正反対の境遇で育った経若と繁貞だが、策略のために利用され、多くのものに見捨てられ、苦悩を背負いながらも誰かを救おうとする強さと優しさはよく似ている。きっとこれは、育ての親である呉葉や維茂、そして傀儡となりながらも呉葉と我が子を想い続けた帝、傍にいてくれた頼正やおまんといった人々の深い愛情があったからなのだろう。二人に本気で向き合い、彼らのために心を砕いた人々の言葉はどれも深く胸に染み込んできた。

そして、彼らを利用し、悲劇を引き起こす人々にもまた強い信念や理想があるのが本作の大きな魅力だと感じた。特に富田演じる摩爬は物語を引っ掻き回す様子が非常に憎たらしく、段々と見えてくる純粋さすら感じられる狂気が物語にカタルシスを与えていた。

運命に翻弄された兄弟、そして彼らを取り巻く人々がどのような結末を迎えるかは、ぜひ自らの目で確かめてほしい。本公演は、6月28日（金）～7月7日（日）品川プリンスホテル クラブ eX  にて上演。

取材・文・撮影（囲み写真のみ）＝吉田 沙奈