3部作で描く福島原発の半世紀~DULL-COLORED POP主宰の谷賢一インタビュー

インタビュー
舞台
2019.6.28
谷賢一

谷賢一

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ドレスコーズの志磨遼平とのコラボレーションでブレヒトの音楽劇を再構築した『三文オペラ』や、マラソン選手・円谷幸吉の悲哀を描いた『光より前に』など、話題作を次々と手がける谷賢一。自らが率いる劇団「DULL-COLORED POP」の第20回本公演は「福島3部作」の一挙上演だ。福島県いわき市で幕を開け、3部作すべてが東京芸術劇場シアターイーストで上演される。大阪公演もおこない、いわき市で閉幕するという本公演に向けて、着々と稽古が進んでいる。自作について、谷賢一に話を聞いた(編注:本稿では作品の内容が一部明らかになっています)。

◆芝居に大きなうねりを生む実在の政治家をモデルに

――今回の「福島3部作」の着想はどこから得たのですか?

僕は福島の出身で、母親も福島の人間です。ただ、生まれは福島なんですけど、過ごしたのは4歳くらいまでです。物心がついたころはもう千葉県の柏市に移っていました。父は原発の技術者でした。父の専門は排気や排熱に関係することで、その機械の設計と納入とメンテナンスがおもな仕事でした。2011年の「3・11」で原子炉建屋の爆発が起きたときから、このことをいつか演劇にしようと思っていました。

――3部作の第一部『1961年:夜に昇る太陽』は2016年に初演されました。3年近い取材期間があったということですが、関係者の取材はどういうふうに手繰り寄せていったのですか。

調査を始めたのは2016年の7月からで、最初は書籍や文献にあたりました。そこから11月から12月にかけて、福島への取材旅行に出かけました。

――3部作のモデルとして主軸になっているのは、福島県の双葉町長だった岩本忠夫氏ですね。社会党出身で反原発の活動家だったものの、原発推進側に転向し、町長としてプルサーマル計画を推進した人物です。かなり毀誉褒貶ある人をモデルとしたのは……。

やはりその評価はなかなか微妙な人ではあると思います。当初から、僕はフォーカスを定めずにランダムに取材を進めていました。出会った先で得たエピソードや、ある意味で向こうから近づいてきた話を大事にしようと思っていたので。僕にも先入観があるはずだから、最初から決めてかかると、視野の狭いものになると思ったんです。

福島で会った人のなかには、ただ雑談しただけの方もいました。震災や原発のことを聞かずに何気ない話をしているなかで、岩本忠夫という人にぶち当たりました。詳しく調べてみたら、とんでもない経歴の人だった。3部作を貫く登場人物として、芝居に大きなうねりを生む人が必要だと思っていたので、岩本忠夫さんの出発と転向と晩年が、劇のうねりを作り出すと思うようになったのがきっかけです。

福島3部作・第1部先行上演『1961年:夜に昇る太陽』より(撮影:田子和司)

福島3部作・第1部先行上演『1961年:夜に昇る太陽』より(撮影:田子和司)

◆原発はなぜ地域社会に根差していったのか

――第一部は双葉町の住民たちが原発誘致するまでの過程を描きました。第二部『1986年:メビウスの輪』は岩本氏のモデルである穂積忠が、町長選に立候補するまでの紆余曲折を主眼としています。第三部『2011年:語られたがる言葉たち』は、どういうシノプシスですか?

地元テレビ局で報道局長として震災や原発事故の製作を指揮していた穂積忠の弟の真の話が軸になります。そこにはマスコミの苦悩もあり、また兄である忠の壮絶な晩年も描きます。実際に岩本忠夫さんは、原発事故のあとショックで痴呆状態になり、発狂して、うわごとばかり繰り返すようになったそうです。自分がまだ町長だと思って朝礼を始めたり、何かぶつぶつ言ったり……。忠は第三部の主人公ではありませんが、そういう部分も作品にしていくつもりです。岩本さんの晩年については、どこにも書かれていないと思います。僕がご子息から直接聞いた話です。

――原発事故を題材にしたのは、谷さんが「知りたい」と思ったからですか。それとも、「怒り」から発動しているのですか?

「怒り」から発動していますね。ただ、事故そのものに対する怒りというより、自分自身に対する怒りのほうが強いかもしれないです。

2007年にチェルノブイリ原発事故をテーマにした『Caesiumberry Jam』を劇団公演で上演しました(編注:2011年に再演)。チェルノブイリ原発事故で多くの人が亡くなり、避難生活を余儀なくされました。ひとたび原発事故が起こるとどういうことになるのか、それを僕は知っていたはずなのに、警鐘を鳴らしたり訴えたりしてこなかった。そこに罪悪感があるんです。見過ごしてきたという責任があるというか……。

もちろん、福島の原発事故において僕は加害者でありませんが、極端に言えば東京電力の電気を使って暮らした人間は、みんな同様に罪を背負っているとすら思う。けれども、それをヒステリックに叫ぶのではく、なぜ原発は受け入れられたのかを描くべきだと考えました。なぜ、日本に原子力発電所が40基以上もできてしまったのか、原発の存在が日本中の地域社会に根差していったのか。その経緯を解き明かす作業がなければ、問題の根本が見えないと思った。それで人物の関係を取材で紐解いて、時代軸を設けて作品にしてみようというのが、3部作にした大きな理由です。

福島3部作・第1部先行上演『1961年:夜に昇る太陽』より(撮影:田子和司)

福島3部作・第1部先行上演『1961年:夜に昇る太陽』より(撮影:田子和司)

◆対立し、葛藤し、困惑する人々を描く

――3部作にすることで、演出上で加えている点があれば教えてください。

たとえば第一部では人形劇が挿入されていたり、つかこうへいのパロディような絶叫芝居が入っていたり、ある特徴的な演出が組み込まています。第二部ではミュージカルの要素も入れています。ある意味、演劇的なジャンプを意識していますね。それは3部作だからでなく、いつもそうなんです。演劇表現固有のやり方でなければ演劇である意味はないと思うので、いつも何かしら入れようとしています。でも、自分でも悪い癖だとわかっているんです。つい盛りたくなっちゃう(笑)。毎回トゥーマッチになるのをどう抑えるか、悩みます。

――DULL-COLORED POPにしてもプロデュース公演にしても、谷さんが好きな役者さんに、ある種の共通点があるように思うんです。東谷英人さんが外部に出演している舞台を観ても「やっぱり谷さんの好きそうな役者さんだな」と思うことがあります。それを最適な言葉で言えなくて申し訳ないのですが……。

好きな役者の要件ということですよね。そういうことで言えば、飲み屋に行ってしゃべって楽しいヤツが好きです。

――そこですか(笑)。

でも大事なことなんですよ。雑談していてつまらないヤツって、アイデアを出せないということだし、ユーモアもない。たぶん頭も固いと思う。雑談でなんの反応もできない人には、舞台でいろんな反応を求められる役者の仕事は厳しいんじゃないかと思うんです。

あと、どうしたって役者というのは人に作用して、人を変えようとする存在でないとならないんです。たとえば会話劇のプロセスでも、もちろん演技上のことだけど、自分の言葉で相手を説得して、相手を変えさせるわけです。コメディーにしても自分の言動によってお客さんを笑わせる。やっぱり人を変えさせることが求められるから、人を何も変えようとしないのは表現ではないと思いますね。どう相手を変えるかに興味がない人は、表現者は務まらないと思います。

谷賢一

谷賢一

――ひと筋縄ではいかない人物をモデルに描く福島3部作ですが、反原発を声高にうたうわけではない、ということですか?

はっきり言ってしまうと、僕は反原発のスタンスです。だけど、ワンフレーズを繰り返す「反原発」の主張をしたいわけでも、シュプレヒコールをしたいわけでもない。あのとき、内部でどういったねじれと矛盾が起きていたのかを描いていきたい。劇作家としてイロハのイに忠実なだけですけど、反原発のメッセージを前に出すだけでは人の胸を打たない。原発という大問題のなかで、人々は対立し、葛藤し、困惑してきた。それを描きたいと思って取材を重ねてきました。

――3部作に挑むことで、何か新しい取り組みはありますか?

いやもう、まさに3部作ということが僕にとって圧倒的な冒険です。だから今、ものすごい大変なんです(笑)。

撮影・取材・文/田中大介

公演情報

DULL-COLORED POP第20回本公演
「福島3部作・一挙上演」
■作・演出:谷賢一
 
第一部『1961年:夜に昇る太陽』
■出演:東谷英人、井上裕朗、内田倭史(劇団スポーツ)、大内彩加、大原研二、塚越健一、 宮地洸成(マチルダアパルトマン)、百花亜希(以上DULL-COLORED POP)、阿岐之将一、倉橋愛実

 
第二部『1986年:メビウスの輪』
■出演:宮地洸成(マチルダアパルトマン)、百花亜希(以上DULL-COLORED POP)、 岸田研二、木下祐子、椎名一浩、藤川修二(青☆組)、古河耕史

 
第三部『2011年:語られたがる言葉たち』
■出演:東谷英人、井上裕朗、大原研二、佐藤千夏、ホリユウキ(以上 DULL-COLORED POP)、 有田あん(劇団鹿殺し)、柴田美波(文学座)、都築香弥子、春名風花、平吹敦史、森 準人、山本 亘、渡邊りょう

 
■日時・会場
<東京公演> 東京芸術劇場シアターイースト
【第2部上演】8月08日(木)~11日(日)
【第3部上演】8月14日(水)~18日(日)
【第1部~第3部連続上演】8月23日(金)~28日(火)

 
<大阪公演> in→dependent theatre 2nd
【第1部~第3部連続上演】8月31日(土)~9月02日(月)

 
<福島公演> いわき芸術文化交流館アリオス 小劇場
【第2部上演】7月06日(土)~07日(日)
【第3部上演】9月07日(土)~08日(日)

 
■料金
<東京公演>
指定席
4,200円(一般)3,500円(学生)2,000円(高校生)
通し:10,000 円(各日100枚限定)
当日券:4,500円
※未就学児入場不可。
※8月28日は通し券のみ発売します。

 
<大阪公演>
整理番号付自由席
3,800円(一般)3,300円(学生)
通し:9,800円(各日80枚限定)
※未就学児入場不可。
※9月2日は通し券のみ発売します。

 
<福島公演>
全席自由
3,000円(一般)1,000円(高校生以下)
第二部&第三部セット券:4,500円(一般)1,500円(高校生以下)
※未就学児入場不可

 
■問い合わせ:MAIL info@dcpop.org
■公式HP:http://www.dcpop.org/
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