劇団壱劇屋『Pickaroon!』竹村晋太朗×竹下健人(劇団Patch)にインタビュー~「竹下君の真面目さを上手く使いたいし、ぶっ壊したいです」
(左から)竹下健人(劇団Patch)、竹村晋太朗(劇団壱劇屋) [撮影]吉永美和子
大阪の劇団「劇団壱劇屋」の名物となっている、台詞の一切ないアクション芝居「WORDLESS×殺陣芝居」(以下WORDLESS)。「ジャパンアクションクラブ」出身の竹村晋太朗による、多数のアクションモブを使った荒唐無稽な殺陣の数々と、無骨なほどひたむきに生きる人間の姿を描き出す世界観が人気を博している。しかし新作『Pickaroon!(ピカルーン!)』では、ついに台詞を入れたアクション芝居に挑戦! 一人の少女をめぐって七人の戦士が戦うという、まさにアクション版「白雪姫と七人の小人」という趣の舞台だ。
さらに今回は、大阪の演劇集団「劇団Patch」から竹下健人が客演。最近まで再放送されていた、NHKの朝ドラ『あさが来た』の丁稚・弥七のトボけた印象が強いかもしれないが、実は特技が空手というPatch屈指のアクション俳優でもある。そんな彼にとって「出たくて仕方がなかった」というWORDLESSの舞台。竹村と竹下という「竹×竹コンビ」に、今回の舞台についていろいろと話してもらった。
■自分の中の空手イズムを、殺陣の時に抜くのがすごく大変
──竹村さんは『磯部磯兵衛物語』(2016年)に出演するなど、Patchとの関わりはもともと深かったですよね。
竹村 『白浪クインテット』(2013年)の頃に(作・演出の)末満(健一)さんに「殺陣を教えてあげて」と言われまして。そこから殺陣の指導をしながら、作品の殺陣にもちょこっと関わるようになりました。
竹下 当時のPatchの作品は殺陣が多かったんで。『磯部……』の時は、いっぱい(役を)やっていただきましたよね。
竹村 そうそう、末満さんの無茶振りで(笑)。八役ぐらいやったんかな? だから舞台裏では、ずっと走ってました。給水ポイントみたいな感じで、カツラを外してって。
──竹下さんは特技が空手とのことなので、殺陣の飲み込みも早かったのでは。
竹村 ああ、そうですね。殺陣をやると、だいたいみんな体重移動でとまどうんですよ。でも基本ができてるので、早いですねやっぱり。
竹下 でも空手の癖を抜くのが、すごく大変です。殺陣には殺陣のやり方があって、それはやっぱり空手とは全然違う時がある。それで「あ、ヤバイ。空手の動きが出ちゃう」ってなって、余計な力が入ったりするんです。どうしても無意識のうちに、自分の中に刻み込まれた空手イズムが出てしまうというか(笑)。
劇団壱劇屋『独鬼〜hitorioni〜』再演(2018年) [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)
──空手をやってたら逆に不利、みたいな殺陣があるんですか?
竹村 部門が変わったらヤバイですね。中国武術とか、動きが露骨に変わるから。エンタメの殺陣芝居だったら、多分それを上手く使って行くんでしょうけど、ゴリゴリのカンフーアクションを目指したら、やっぱり空手の基盤が使えなくなっちゃうので、かなり難しいと思います。逆にカンフーの人が、空手のアクションをするのもしんどいんとちゃうかなあ。
竹下 全然違いますよね、きっと。
──一つ武術を体得しておけば、アクション全般が不自由なくできると思いきや、そうではないんですね。
竹村 有利ではあるけど、全然違う部門に行けないという感じですね。僕は基盤がヒーローアクションの時代劇で、そこに少林寺拳法や中国武術が加わってるんですけど、できるだけクセなくやるというのが、自分の中でのモットーなんです。そのためにはあまり(一部門だけを)極めすぎず、できるだけオールマイティでいるのがいいかなあと思ってます。
──とはいえアクションに自信がある分、WORDLESSには興味を持っていたのではないですか?
竹下 そうですね。Patchのメンバーが何人か出たことがあるんですけど、それを観て「なんで僕は向こう側におらんのやろう?」って、すごいジェラシーを感じてました(笑)。それで「いつか呼んでほしい」というアピールを、ずっと影でしていたんです。だから今回出られたのは、めちゃくちゃ嬉しいですね。
竹村 ただこれまで出てもらったPatchメンバーは、サブで走り回ってもらう役割だったんで。中心でガッツリ殺陣をする形での参戦は、Patchでは初めてです。
劇団壱劇屋『猩獣-shoju-』チーム獣(再演)版(2019年) [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)
竹下 今回初めて壱劇屋の稽古に参加させていただいてるんですけど、すごく空気感が好きですね。アットホームな感じというか、全員がちゃんと意見し合えるという、すごくいい関係性だからかもしれない。劇団の皆さんだけでなく、ゲストもアクションモブも全員が意見を出し合えるのが、すごく新鮮というか、刺激的です。
──私も一度稽古を見学したことがあるんですけど、俳優が演出にダメ出しするとか、あまり他の現場では見ない風景が……。
竹村 もう言いたい放題です、お互いに(笑)。僕も大熊(隆太郎/壱劇屋座長)が演出の時は、言いたいこと言いますし。それが基本ですね。
──決して演出からのトップダウンではない。
竹村 そうですねえ、普通演出ってトップダウンですよね?「これやって」と言われて「嫌です」とは言えない。取りあえず「はい」と言ってから、死ぬほど考える(笑)。
竹下 そうそう。取りあえず「はい」。
──でも壱劇屋なら「えー?」と言えるという。
竹村 言えますね。でも逆に演出の時は「えー? って言うな。やって!」って、説得から始まることになります(一同笑)。
劇団壱劇屋『猩獣-shoju-』チーム猩(新作)版(2019年) [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)
■マリオカートみたいに、真面目と不真面目がぶつかって進んでいく
──なぜこのタイミングで、竹下さんをお呼びしようと思ったのでしょう?
竹村 七者七様に個性が分かれた、今回の登場人物たちの配役を考えた時に、竹下君のどストレートな真面目さがいいなと思ったんです。しゃべらんでも「この人真面目やな」ってわかるのが、ちょっと変わった特殊能力みたいな(笑)。そこを上手く使いたいし、上手くぶっ壊したいと思ってオファーしました。実際にご一緒しても、見事に真面目です。
──その真面目さを、どうぶっ壊そうと?
竹村 七人の中でもペアみたいなものがあるんですけど、その相手を真面目じゃない奴にしてみました。壱劇屋で一番不真面目な、山本(貴大)を(一同笑)。彼は彼で引かない所があるんで、真面目と不真面目がいい具合に、マリオカートがぶつかり合いながら進んでるような感覚になっていってます。たまに小林(嵩平)が絡んでトリオみたいになるんですけど、そうなると竹下君の真面目さがどっか行って、三馬鹿になるんですよ(笑)。どうなってるのかなあ? そのシステムがわからん。
竹下 楽しくなっちゃうんだと思います。山本さんも小林さんもすごく面白いから、一緒にやってると……飲まれるというわけじゃないけど、自分の中で「あ、これもっと乗ったら楽しいなあ」と、何か爆発しちゃう時があって。
──普段使わない馬鹿スイッチが入るとか。
竹下 あ、そうだと思います。自分では全然自覚ないけど「真面目すぎて馬鹿」って、よく言われたりしますし。「お前天然やろ」みたいな。
竹村 むしろ、自覚がないからこそやろうなあ。
竹下 『あさが来た』の頃も、SNSで「弥七の中の人、ホンマにアホなんとちゃう?」って書かれたりしてましたからねえ(一同笑)。
劇団壱劇屋『二ツ巴-Futatudomoe-』(2018年) [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)
──そういう個性の強いキャラがたくさん出るとして、全体の話はどんな内容ですか?
竹村 一人の女の子を中心に進むんですけど、七人全員がその女の子に気持ちの矢印が向いてるんです。そのせいで、七人がずっと同じ距離感で物語が進んでいくという感じ。七人の顔ぶれは、竹下君と山本と小林と、ゲストの立花(明依)さんと劇団員の西分(綾香)、そして墨絵師の御歌頭(おかず)さんと僕です。
──御歌頭さんはT.M.Revolutionの『RAIMEI』のジャケットなどを手がけた方で、WORDLESSでは宣伝イラストや舞台美術などで関わってますが、今回は役者で出演するんですか?
竹村 そうです。さっきの竹下君の話じゃないですけど、御歌頭さんもパッと見て「いい人」というのがわかるんで(笑)。今回は舞台初というか、役者自体が初なんですけど、もともとテコンドーをやってはったんで、全然周りに負けずに頑張ってくれてます。絵も描いてもらおうと思ってるんですけど、既存の絵を出すか、ライブペインティングにするかを、今ちょっと迷ってる所です。
──今回の殺陣の中で、取り分けトリッキーなものはありますか?
竹村 西分が「円刀」という、でっかいフラフープみたいな刀を使います。漫画とかには結構出てくる武器ですね。『幽遊白書』の「燐火円礫刀」とか。このアクションが結構難しいんですけど、なぜ僕は劇団で一番身体が動かない奴に、これを振ったんやろう? と(笑)。でも西分は完ぺき主義者なんで、そこに不安はないですね。
竹下 僕は武器が短刀なんで、割とオーソドックスな戦闘スタイルですけど、他の六人の殺陣を見てたら「うわあ、何このやり方?」って、すごく思いますね。Patchが今までやってきた殺陣では、見たことがないような動きが多くて。毎晩その日の稽古の動画がLINEで送られてくるんですけど、それを確認するだけでも楽しい。それを見ながら「じゃあ、僕もここでもっと動いてみよう」と考えることもできますし、今は家に帰ってもずっとモチベーションが続いてる状態です。
劇団壱劇屋 東阪二都市ツアー2019『Pickaroon!』公演チラシ。 [墨絵]御歌頭 [デザイン]河野佐知子
■言葉というのは、身体の力を抜いたりするのにも使ってるんだと
──あと今回はWORDLESSに、初めて台詞を入れるとのことですが。
竹村 だから「WORDLESS」じゃなくて、ただの芝居です(一同笑)。何となく自分の中で、台詞を使わない芝居には一つ区切りが付いた感じがありまして。もうWORDLESSをやらないというわけじゃないですけど、次に自分がやることを探す時期に入ったんだと思います。役者って、自分の個性は持ちつつも、何でもできるのがいいなあと僕は思うんで、じゃあ演出も何でも演出できた方が最良なのかな? って。だったら次は、台詞がある作品を演出しようってなったわけです。
──やっぱり台詞があると、要領が違いますか?
竹村 最初は「邪魔やなあ、台詞」と思ってました(一同笑)。そんなの言わなくてもわかるのに、言わなあかんの? って。でも最近は「あ、台詞があった方がいいな」と思うことが多くなりました。たとえば戦い終わって疲れたことを表現したい時に「あー、疲れた」って言うだけで済むんや、とか。
──ああ、WORDLESSだったらしばらく肩で息をするとか、「疲れた」ことを割と動作でじっくりと見せないといけない。
竹村 そうなんですよ。その一言ですぐ次に行けるから、展開を早くしたり熱くするには、やっぱり台詞は有効なんだなあと思うようになりました。あと説明台詞みたいなものも、自分で書いた時は「めっちゃ説明してるなあ」と思ったんですけど、役者にやってもらうと案外スルッと行ったりするんで、そこもビックリしましたねえ。説明台詞すごいなあと思いました(笑)。でも今はちょっとずつ台詞を削って、必要最小限にしようとしてる所です。
竹下 僕も、初めて呼んでいただいた作品が完全なWORDLESSだったら、めっちゃとまどったやろうなあと思うんです。最初の稽古で、言葉なしで動くシーンをやったんですけど、やっぱり言葉が「ああ!」とか出ちゃうんですよね。でもそれを我慢しようとすると、すごく自分に変な力が入るんです。だから言葉ってやっぱり、気持ちを伝えるとかだけじゃなくて、身体の力を抜いたりするのにも使ってるんやっていうのがわかりました。
劇団壱劇屋『独鬼〜hitorioni〜』再演(2018年) [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)
竹村 でも殺陣自体は、基本的に今までやってきたことは変わってないです。複雑にアクションモブを入れて、人間でできる最大級のしんどさを出すというのは。そこに言葉を乗せる時に、戦いながらしゃべるということができないかなあ? ということを考えてます。(劇団☆)新感線さんでもそうですけど、殺陣の合間にしゃべるというのがベースじゃないですか? そこが何とかならんかなあと、今考えてる所です。
──また昨年から東京でもWORDLESSを上演するようになりましたが、関西との客層や反応の違いを感じたりしますか?
竹村 前回は村木(よし子/劇団☆新感線)さんが出てたのもあって、新感線関係の役者さんが結構観に来てくださったんですよ。その人が何か言うと、一気にネットワークがつながる感じがありますね、東京は。いきなり観客層が変わったりとか。あとは何か、新しいものを観に行こうというテンションが高い気がします。「この劇団のファン」という一定層はあるんでしょうけど、もっと大枠で舞台を観に行く人たちが結構いるんだろうなあと。そういう方がわざわざ大阪だけの公演を観に来たり、あるいは「東京で待ってます」とSNSでつぶやいたりしてくれるので、なかなか世界が広がったという気がします。
──では最後に、今回の舞台の意気込みなどを。
竹村 「頑張ってる人が頑張って報われる」という、WORDLESSのテーマみたいなものはもちろんそのままなんですけど、今回はそこに家族的な感情みたいなもの……厳密には家族ではないけれど、家族のように思う人に対して人間が持ちうる、すべての感情を表現したいと思います。それが七人もいるし、台詞も使えるならば、もう全部ぶちまけちゃおう! みたいな気持ちです。あと僕が高校生の時に、ピースピットの『呪いの姫子ちゃん』(2007年)を観て「うわー、演劇やっていこう!」と思ったように、ぜひ高校生とかに観てもらって、演劇の世界を目指してもらえたらいいなあと思います。
竹下 僕はPatchも他の現場も含めて、本格的な殺陣芝居をやるのが初めてなんで、僕の新しい一面を観てもらいたいという気持ちはもちろんあります。でもそれ以上に、今回は念願かなって竹村さんとご一緒させていただけるんで、竹村さんが新しい挑戦として行っている作品に、少しでも色を添えられたらなあと思っているので、頑張ります。
竹村 華やかさ担当として期待しています。壱劇屋は地味メンしかいないから(一同笑)。
(左から)竹下健人(劇団Patch)、竹村晋太朗(劇団壱劇屋) [撮影]吉永美和子
取材・文=吉永美和子
公演情報
■作・演出・殺陣・出演:竹村晋太朗
■出演:岡村圭輔、柏木明日香、小林嵩平、谷美幸、西分綾香、丹羽愛美、長谷川桂太、日置翼、藤島望、松田康平、山本貴大(以上、劇団壱劇屋)/竹下健人(劇団Patch)、立花明依、池未来実、池ヶ谷明杜、石黒さくら、豊田真丸、西辰蔵、御歌頭(墨絵師)
《大阪公演》
■日時:2019年7月5日(金)~7日(日) 14:00~/19:00~ ※7日…12:00~/17:00~
■会場:ABCホール
※全ステージで日替わりゲスト出演あり。また一部アフターイベントを開催する回もあり。詳細は公式サイトでご確認を。
《東京公演》
■日程:2019年7月26日(金)~29日(月 26・27日…15:00~/19:00~、28日・29日…13:00~/17:00~
■会場:シアターグリーン BIG TREE THEATER
※一部アフターイベントを開催する回もあり。詳細は公式サイトでご確認を
■料金(両都市共通):一般4,000円、学生3,000円、高校生以下1,000円
■お問い合わせ:080-6188-2546(劇団壱劇屋)
■劇団公式サイト:https://ichigekiyaoffice.wixsite.com/ichigekiya