まもなく10周年を迎える和楽器ユニットWASABIのこれまでの集大成となるアルバム「WASABI3」に迫る

インタビュー
音楽
2019.7.5
WASABI

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吉田良一郎(津軽三味線)、元永拓(尺八)、美鵬直三朗(太鼓・鳴り物)、市川慎(箏・十七絃)の和楽器が集結した、純・邦楽ユニットWASABI。アジア、ヨーロッパ、南米ツアーなどを行い海外でも大きな注目を集め、国内でもライヴ、学校公演を精力的に行い、和楽器の音が重なった時に響き、グルーヴの素晴らしさを伝えている。6月26日には3rdアルバム『WASABI 3』を発売。まもなく10周年を迎えるWASABIのこれまでの集大成でもあり、“これから”進んでいく道を明るく照らす、光のようなアルバムになっている。このアルバムについて4人にインタビューした。

 

――WASABIは“バンド”として、和楽器だけで作り上げるバンドアンサンブルを、ずっと大切にしてきました。2008年の結成当時に比べると、和楽器を主体にしたバンドも増えてきましたが、和楽器だけで構成されているバンドは、なかなかいないですよね。

元永 和楽器でアンサンブルを作りあげるのって、例えば一流の方たちを集めて音を出しても、一筋縄ではいかないというか。聴く人の好みや指向性があるので、難しいのかもしれないですが。凄腕の人たちだけが集まったらできるのかっていうと、そういうわけでもなく。

美鵬 フュージョンとは違いますよね。そこは、他と比較しても仕方ないかもしれないけど、我々にしか出せない、できないものがあると思っています。海外ツアーを重ねてきて、お客さんのレスポンスを感じて、フィードバックを聞いて、もう一回アレンジし直したり、その場で修正したりしてきて、自分たちもアンサンブル感を高めてきた積み重ねがある。そこは元永さんの話でもあったように、試行錯誤を重ね、進化してきた自負があるから、10年の中身は濃いはず。学校公演もやったし、老人ホームでもやってきたし、海外でも、現地の人だけではなく、日系の方たちだけの前でやってきて、そうすると普段日本にいるときには感じないことが、海外で色々お話を聞きながらコンサートすると、感じることができて、それがまたエッセンスとして加わるというか。

吉田 どんな場所、場面ででも、そこで足りないものは4人でちゃんと埋めながらやってきた10年なので、どんな場面でも対応できるのがWASABIです。

――色々なシーンで培ってきた感覚から生まれたものが、この『WASABI 3』というアルバムには詰まっているということですね。

吉田 この4人だとどんな形でも、バンドとして曲を作れば、いい感じのもになるというのは意識した上で作れるようになっています。一曲目の「AZUMA」は僕らの新しい代表曲になる、インパクトがある曲は欲しいなと思って作りました。

――1曲目にこの曲をこれからの決意表明として置いたという感じがします。

吉田 MUSIC VIDEOを絶対に作りたかったので、そこも意識した曲です。

――曲順はライヴを軸に活動しているWASABIとしては、やはりセットリストのような感覚で考えていったのでしょうか?

元永 基本はライブに向けて作った曲ばかりです。

吉田 WASABIは学校公演を中心にやっているので、お客さんというか生徒さんに楽しく和楽器を聴いてもらうことを意識してるので、ライブ映えというか、学校映えというか、和楽器の素晴らしさをどう伝えるかというのが変わらないテーマなんです。海外だと尚更そこが大切になってきます。どんな楽器なのか、情報ないしで全く知らずに聴いていますから。それを一つの音楽として聴いてもらうというのは、和楽器業界でも珍しい存在だと思います。

――和楽器だけという唯一無二の素晴らしさがありますが、やっぱりアルバムを聴いていると、ちゃんとメロディが立っているというか、ポップスのメロディと同じように、スッと入ってくる曲を全員が書けるが、強みだと思います。

市川 僕らの音楽を初めて聴くお客さんにも、すぐにわかってもらいたいという部分は、全員同じだと思います。

真夜中、ひっそりと開かれている宴をイメージした曲です

美鵬直三朗 / WASABI

美鵬直三朗 / WASABI

――2曲目の「Over View」はクールで、でも切なさがあって、まさにポップスという感じです。

美鵬 前からあった、元永さんが書いた曲で、ライブではやっているんですけど、今までアルバムには選ばれなかったんですよね。これいい曲だよっていっても元永さんが「ふーん」って言うから(笑)。

元永 自分では推しじゃなかったんですよ(笑)。でも今回レコーディングするにあたっては、尺八にも色々な長さがあるんですけど、今まで使っていたのものとは違う長さのものを使ったので、雰囲気が変わっていると思います。ライヴで聴いたことがあるという人も、また違って聴こえてくると思います。

――吉田さんが書いた、どこか盆踊りを想起させる、古典的なリズムの太鼓が印象的な「雄気堂堂」は、タイトルもインパクトがあってすごくいいですよね。

吉田 このタイトルは美鵬さんが考えてくれました。タイトル作りに関しては全幅の信頼を置いています。

美鵬 曲のイメージありきですが、あとは作った人のキャラクターでしょうか。割とそれに引っ張られるかもしれません。

吉田 タイトルが決まると、曲に命が入って、より強くなると思うので、タイトルはすごく大切だなと思います。

元永 「子字の宴 Neji no Utage」も、絶対浮かばないタイトルだね。

美鵬 不思議なもので、自分で書いた曲のタイトルは自分では思い浮かばないんですよ。だから、奥さんから言われた、子字の刻という言葉ヒントになっていて。子字の刻というのが、真夜中の1時頃のことで、人里離れた森の中で、真夜中、ひっそりと開かれている宴をイメージした曲です。

――ヒーリングミュージックというか、真夜中をイメージした曲なのに、どこか清々しいというか。

美鵬 私はそう思ってるだけで、聴いてる人は癒しとか、清々しいとか、清涼的な感じを感じて下さる方が多いので、だから面白いなって。一人一曲というテーマが1stアルバムからあって、今回も見て見ぬふりをしていましたが、みつかってしまって(笑)。

――20~30種類に鳴り物や吹きものを駆使して、一人多重録音に臨んだとか。

美鵬 そうなんです。

吉田 誰もジャッジができない、誰も何も言えないような感じで(笑)。

市川 録りながら実態が見えてきた。

元永 徐々に明かされて。この曲は曲順も悩んだよね、最後かな、真ん中かなって。で、箸休めだなみたいな感じになったよね。

美鵬 WASABIの曲は物語性、指向性がしっかりしてるものが多いので、せっかくのソロ曲なので、逆にアンニュイな、人それぞれ全然感じ方が違う、振り幅がある感じのものにしようと思いました。元永さんがおっしゃったように、隙間というか合間というか、箸休め的な感じで入って、ここからまた次に行くという感じにしました。

――確かに他の曲と温度感が違うので、それで逆に清々しいと感じたのかもしれません。

美鵬 割とどの曲も熱さやパワーを感じるので、一人でやったのがよかったのかもしれません。

――ライブもソロコーナーでこの曲をやるということですか?

美鵬 ここではっきり言いますけど、やりません(笑)。

元永 やろうよ。

市川 やろうよ、我々が打楽器できるようになったら(笑)。

ライブでは勢いがある曲が本当に大切で、海外は特に1曲目がすごく大事

吉田良一郎 / WASABI

吉田良一郎 / WASABI

――「アガイティーラ」は沖縄音階を使った曲が欲しいという吉田さんからのリクエストに、市川さんが応えて書いた曲だそうですね。

吉田 これは本当にいい曲。三味線のルーツは三線なので、沖縄音階、この音色で作れたらいいなって思って。

市川 2ndアルバムが出る前からあった曲です。

吉田 メンバーが沖縄でライブをやりたいねって言ったから作った曲でもあって。願望で作った歌です(笑)。

――この曲のタイトルも美鵬さんがつけて、「刹雷」もそうですか?

美鵬 沖縄の言葉で「昇る太陽」とか「朝日」のことです。「刹雷」は、哀愁が漂う空気感の中で、一瞬明るく煌めく光をイメージしています。

市川 この曲も元々ライブ用に作ろうって作った曲で、勢いもありつつ、ちょっと日本的な音階も混ぜたような雰囲気のやつが欲しいと思って。

――これもすごく“ポップス”です。

市川 ポップス的な要素と和の要素と両方盛り込んだような感じ、そういうのでライブで勢いよくできる曲があったらいいなと思いました。

吉田 ライブでは勢いがある曲が本当に大切で、海外は特に1曲目がすごく大事で、ここでこけると、後半に響いてきます。そこからグッと引き上げるのが大変で、1曲目、2曲目でガッと掴んでしまえば、盛り上げやすいというか、最後まで勢いが落ちないので、そこは結構いつもこだわっていて。

――吉田さんは吉田兄弟としても海外公演が多いですが、吉田さんにとって吉田兄弟とWASABIという2つの存在は、自身の中でどう変化してきていますか?

吉田 難しいですけど、WASABIはこの4つの楽器にこだわって、どこまでいけるかという感じで、吉田兄弟はコラボレーションを重ねて、チャレンジしてる感覚です。

――常に開拓していってる感じですよね。

吉田 吉田兄弟も20周年、WASABIも間もなく10周年で、それをどう線引きしながらやっていくかっていうのがあって、実は吉田兄弟では、僕はメロディアスで優しい曲ばかり書いてるんです。WASABIでは激し目の、攻撃的な曲を書いていて、そこは自分でも不思議なんです。弟が結構激しい曲を作るので、僕はメロディアスな方へいくのかもしれません。だから僕はWASABIでは、メロディアスな曲はほぼ書いていないはずです。

元永 ここでパッと発散してね。

吉田 それから吉田兄弟の時は着物を着て、WASABIでは洋服です。時代は僕は和楽器業界も洋服というか、普段がこういうカジュアルな格好で練習してるので、これが自然だと思っていて。そんなナチュラルな感じを、僕は子供たちに伝えたいっていうのが、WASABIでのテーマでもあります。着物を着て、あまり敷居を高くしたくないんですよね。

和楽器ではあんまりなさそうなノリのものを作りたいと思いました

元永拓 / WASABI

元永拓 / WASABI

――「この道~星の行方」は、元永さんが山田耕筰先生の曲をモチーフにして、曲を広げていっているという珍しいタイプの曲ですね。

元永 基本的にカバーはやらないのですが、学校公演で「ふるさと」のような唱歌もやるので、そういう曲がもう一曲あってもいいかなと思って。「この道」はメロディがポップなので好きなこともあって、作ってみました。

吉田 学校公演で、一曲くらいみんなが知っている曲があった方が、キャッチーかなって意識した上での一曲ですね。自信作です。

元永 イントロと間奏と後奏が、全く別の、合作のような感じになっています。これは元々のメロディを展開したり、変奏するというより、「この道」からインスピレーションを得て生まれる、また違う自分のメロディによって、この曲の世界がひとつになるという感覚です。

――「World Tour」は、まさに海外公演を行う際、パンチがある曲が欲しいという思いから生まれた曲ですか?

吉田 オーディエンスが参加できる、ハンドクラップものが欲しかったんです。

元永 それぞれの楽器の紹介的な部分も入れつつ、バンドとしてやってきたので、和楽器ではあんまりなさそうなノリのものを作りたいと思いました。

――ライヴで聴くとより世界が広がる曲です。

吉田 一曲目の「AZUMA」以外は、ライブから育ってきてる曲たちなので。

――8月にはこの作品の発売記念ライヴが、名古屋(ブルーノート)・大阪(ROYAL HORSE)・東京(LIVING ROOM CAFÉ&DINING)です。

吉田 ブルーノートはいわずもがなの老舗のハコで、老舗といえばROYAL HORSEもコテコテのジャズのハコだったりするので、楽器の鳴りはバンド編成だと熱量が伝わりやすいというか。だからジャズではなく和楽器なんですけど、違和感なく演奏できます。お客さんもそう感じてもらえるはずです。LIVING ROOM CAFÉ&DININGは、何度かやらせていただいていますが、僕の意見ですけど、自分の音色がはっきり聴こえるんです。コンサートホールは音がパーンといってしまいますが、LIVING~は自分の音がわかりやすくはっきり聴こえるので、やっていて楽しいです。

4人の関係性、空気感は全く変わらないですね

市川慎 / WASABI

市川慎 / WASABI

――しかも至近距離で、寛げる空間でお客さんは聴けます。

元永 そこがいいですよね。

吉田 和楽器は会場によって音の違いが生々しく変わるので、面白いし、難しいところです。でも僕らにはWASABIの5人目のメンバーというべき、絶対的な信頼を置いているエンジニアの方がいるので、音の部分は心強いです。

市川 箏は音色が小さく、太鼓は大きいので、音のバランスをとるのがすごく難しいんです。

――でもどんな会場でも、それぞれの楽器がちゃんと心地よく聴こえてくる音を作りあげることができるんですね。

吉田 そうです。コード感をきちんと出してくれるので、そこがすごく大切な部分なんです。

――まもなく10年を迎えます。

吉田 あっという間だったけど、本当に色々なことをやった気がする。

元永 言われてみれば色々なことたくさんやってきたけど、感覚としてはあっという間。

美鵬 ひとつずつを思い返すと、言うほどあっという間じゃなかった気もしますね。

市川 4人の関係性、空気感は全く変わらないですね。

――初期衝動が色褪せないということですよね。

吉田 そこは全く変わらないです。

元永 吉田さんからの「WASABIっていうバンドやりたいんだけど」って言われて、「いいんじゃないですか」っていう何気ない会話から10年。

吉田 それぞれが色々な活動をしているので、これからもストレスなく、それぞれが自分のやりたいことができるWASABIであってほしいなって思っています。

WASABI

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取材・文=田中久勝 Photo by林信行

ライブ情報

新アルバム「WASABI 3」発売記念LIVE

8/5(月) 名古屋ブルーノート
ミュージックチャージ¥6,900- 
[1st ] open 3:00pm start 4:00pm 
[2nd] open 6:00pm start 7:00pm  

https://www.nagoya-bluenote.com
問い合わせ:名古屋ブルーノート 052-961-6311(平日11:00~20:00)
一般発売日:5/22(水)

新アルバム「WASABI 3」発売記念LIVE

8/6(火) 大阪ROYAL HORSE
ミュージックチャージ¥5,000-(別途料金1ドリンク+1フード)
開場 17:30 開演18:30

http://www.royal-horse.jp/
問い合わせ:大阪ROYAL HORSE 06-6312-8958~9(15:00~)
一般発売日:5/28(火)

新アルバム「WASABI 3」発売記念LIVE

8/8(木) eplus LIVING ROOM CAFE &DINING(東京 渋谷)
ミュージックチャージ¥4,500-(別途料金1ドリンク+1フード)
開場 18:30 開演19:30

https://eplus.jp/wasabi/
問い合わせ:eplus LIVING ROOM CAFE &DINING 03-6452-5650(平日11:00~18:00)
一般発売日:6/16(日)

 

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