清元斎寿と尾上右近の兄弟対談! 記念すべき第10回目の『清道會』への想いを聞く

インタビュー
舞台
2019.9.7
(左から)清元斎寿、尾上右近

(左から)清元斎寿、尾上右近

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歌舞伎の伴奏音楽、浄瑠璃の一種としても馴染みの深い清元節。その清元の三味線方として日々研鑽を重ねる清元斎寿が自らの勉強会として続けているのが『清道會』だ。ほぼ年1回のペースで続けてきたこの会も、2019年秋、記念すべき第10回公演を迎える。上演する演目は『隅田川』と『三社祭』で、『隅田川』では父である清元延寿太夫、弟である尾上右近こと清元栄寿太夫が登場、『三社祭』では尾上右近と中村種之助が舞踊も披露することになった。着々と準備を進めている稽古場を訪ね、斎寿と右近に公演のこと、清元への想いなどを語ってもらった。

ーーまずは斎寿さんが『清道會』を始めようと思われた、そもそものきっかけからお聞かせいただけますか。

斎寿:邦楽の業界ではどうしても10代、20代の若さでは自主公演を行うことは難しいのですが、タテ三味線、わかりやすく言うと“リード三味線”みたいなものですね、そのタテ三味線をやらせていただく機会というのも少なくて。そんな中、自らの会を作って演目を決めたり、チラシを作ったり、出演してくださる方に依頼を出すことなども含めて、ひとつの会を自分でやるという経験はやはり早いうちにやっておいたほうがいいと思ったんです。

清元斎寿

清元斎寿

ーー歌舞伎でもよくやられている、個人の勉強会のような形ですね。その清道會を立ち上げてから11年が経って。

斎寿:ですから、本当なら11回になる計算なんですけれどもね。その間に僕、病気になって1年だけお休みさせていただいたので、それで今年が第10回ということになりました。

ーーその記念すべき第10回目となる今回は『隅田川』と『三社祭』を上演されますが、この演目を選ばれたのは会場が浅草だからですか?

斎寿:いえ、実は演目のほうが先に決まっておりまして。そのあとで会場をどこにするか検討していたら、たまたまご縁がありまして浅草公会堂さんでさせていただけることになったんです。

ーー呼ばれたんでしょうか?(笑)

斎寿:本当ですよね。そんな気もします(笑)。

ーーでは会場を決める前に、この演目をやりたいと思われた理由は。

斎寿:まず『隅田川』は清元の演目の中でも特に大作、大曲と呼ばれるものです。もちろん、人それぞれに好きな演目は違いますが、僕自身としてはこの『隅田川』を演奏できるということは三味線弾きとしてとてもありがたく感じるんです。ですから、がんの手術後に復帰する時にも演奏させていただきましたし、その他にも何かと節目のタイミングで演奏する曲だったので、第10回を迎えてここでまた新たなスタートという今回も『隅田川』がいいかなと思ったんです。『三社祭』のほうも、もともと僕が好きな演目で。うちの師匠に稽古にあがらせていただくことになって初めてお稽古していただいた曲が『三社祭』だったんですよ。そして清道會ではこれまで舞踊はやったことがなかったんですが、毎年何かしら新しいことに挑戦してきた会でもあるので、この節目の会では踊りの演奏を勉強するという意味も兼ねて、弟と種之助さんに『三社祭』を踊っていただくことにいたしました。

「目線を合わせてください」という要望に応えてくださったが…(笑)

「目線を合わせてください」という要望に応えてくださったが…(笑)

ーーそれで、弟である右近さんに声をかけたんですね。

斎寿:そうです。清元の名前も弟は襲名させてもらっていますので『隅田川』でも一緒に並んでもらい、父親がタテを唄いまして、ワキを弟が唄います。実は、僕が参考にさせていただいている音源のひとつに、五世延寿太夫のものがあるのですが。

右近:高祖父っていうんだよね。

斎寿:いわゆる、ひいひいおじいさんですね(笑)。稽古場にも写真が飾ってありますが、その高祖父の五世と、祖父が親子で『隅田川』を演奏しているレコードがあり、僕はそれをしょっちゅう聴いて勉強しているんです。そんなこともあって今回、時代を越えて、父と弟にタテとワキとして『隅田川』を語ってもらい、僕が弾かせていただくというのはとても記念にふさわしいように思ったんです。

ーー思い入れのある演目をご家族でできるというのは、とりわけうれしいことでしょうね。今回、声をかけられた時に右近さんはどう思われたんですか?

右近:「僕が唄って踊って目立っちゃうけど、兄貴の会なのに僕がそんなに活躍しちゃっていいの?」と思いました(笑)。

尾上右近

尾上右近

ーーなんだか、大暴れされそうです(笑)。

斎寿:ハハハ、大丈夫ですよ!

右近:まあ、それは冗談ですけど(笑)。でも僕も昨年から、歌舞伎と清元の“二筋道(ふたすじみち)”になるという、ひとつの大きいターニングポイントを迎えておりますので、こういった機会はひとつでも多く経験したほうがいいですし。とはいえ、どういうタイミングで出るかということも慎重に選んでいかなければならない中、兄の演奏会という場は僕としても経験が積みやすく、のびのびと勉強しやすい環境でもありますから、心して受けさせていただきました。ちなみに『三社祭』は比較的軽妙な踊りで、『隅田川』みたいな大曲、重たい演目に比べるとニュアンスとしては楽しく観られるものだと思います。それに対する『隅田川』は、題材自体が能楽からとっているもので、死後の世界というものを扱っているんですね。死生観というのは人間にとってはヘビーなものに直結しますが、それを清元のメロディアスな聞き心地の良い音に乗せつつ、死を見つめたり生を見つめたりする時間を過ごせるというのは貴重な体験になるはずです。そこで僕は、ワキで唄えるわけですからね。ワキはタテの隣に座る、つまり二番手ということで。僕はまだまだ清元での経験は浅いのにこの重たい曲の中でも重たい役割を担わせていただける、ということになりますので。唄と踊り、両方できるということにおいても、今回はとても貴重な経験になると思っています。

ーーそれは確かに、とてもいい機会になりそうですね。改めて、ご兄弟で一緒にできるということについて、いかがですか。

斎寿:昨年、二人して襲名させていただいていることもあって、より心強いと言いますか。弟の自主公演の1回目の時も清元の演目をやったんですが、それに僕も出演していまして、あの時、舞台上でその姿を目にした時にも、身内が同じ舞台に立っているというのはとても安心感がありました。今回は、そういう意味では清元の中でも同じことを感じられるはずなので。やはり、とてもうれしいですね。

お兄さんの襟を直してくださる右近さん。仲の良いご兄弟です

お兄さんの襟を直してくださる右近さん。仲の良いご兄弟です

右近:僕も自主公演をやっていますから同じことを感じるんですが、こういう勉強会って本人はやりたいことをやっているだけなんですよね。でも、それに付き合ってもらう人たちの存在がいて。つまり、やりたいことをやるというのは童心で、子供が欲しいオモチャに手を伸ばすのと同じような、純粋無垢な気持ちでやらなきゃ逆にいけないことだとも思うんです。でもそれに付き合ってくれる人たちに対しては、大人としての責任をしっかり感じていなければならない。だから“分別ある子供”みたいな気持ちで挑むというのがこういう会での正しい心構えだと思うんですよ。たとえば、僕なんかは役者としては父が歌舞伎役者ではないという状況で菊五郎のおじさんに預かっていただいていますから、ある意味単品で歌舞伎界でやってきたというところがあって。家の中では甘やかされて大事に育てられていたけれども、そうやって歌舞伎界ではとても揉まれてきたところもあるので、すごくいいバランスだったとは思うんです。この、豊かな気持ちで厳しい道を歩けるというのは、芸道の上ではものすごく大事なことで。そういう意味では安心できる清元の世界にいる兄にもぜひ、ひとさまと一緒にやっていくことの責任を感じてもらいたいというのも、ひとつ思っていることでもあります。だって家族なんて放っておいても結束しているものですから(笑)。

ーーまた、お客様にとっても歌舞伎を観る時と、こういった個人の勉強会、演奏会に行く場合では心持ちが違うのかなと思いますが。もしかしたら敷居が高いと感じ、二の足を踏んでいる方もいるかもしれません。

斎寿:それは、自分が会を始める時にも考えました。歌舞伎は観たことがあるけれど、邦楽の演奏会に足を運ぶという習慣があまりないというか、むしろ「え、そんなのがあるの?」と思われるレベルかもしれないと思ってもいたので。それで、料金的にもちょっと映画でも行こうかという気持ちで観ていただける設定にしたりもしました。こちらとしても、なるべく初めてご覧になる方が来やすいようにと心がけてもおりました。でもそうやって実際に来ていただけると、いつもは歌舞伎を観る時には芝居をしている俳優さんだけをご覧になっていたんだけれども、この会を体験したあとでは「この演目では清元はこういう演奏をしていたんだと、視野が広がって面白かった」とか「自分の中で、新たな発見がありました」という声もいただきました。ただ、やはり歌詞が難しいということもあるので、僕は一回目から曲をやる前に歌詞の解説をさせていただいてるんです。それでストーリーをざっくりとわかっていただいた上で、聴けばより内容が伝わりますからね。あと、あまり邦楽家でこういうことをしている方はいないかもしれないですけど、終演後はお客様のお見送りをして、ご挨拶して直接感想をうかがったりもしています。こういうことも、実は自分の会でしたかったんですよ。

清元斎寿

清元斎寿

ーー右近さんのお客様も、歌舞伎の演目をやられる時とはまた違う面を知ることができるチャンスだと言えそうです。

右近:そうですね。役者の角度から見るとなると、これは松本白鸚のおじさん、大先輩からの言葉なのですが「歌舞伎役者というのはなんでもやる必要はないけど、なんでもできなきゃいけない」とおっしゃっていて。僕、まさにそうだと思うんです。清元はもちろん家のことだし、僕も二筋道として歌舞伎と同じスタンスでやっていくことだと思ってはいますけど。それ以外にも昨年、挑戦した現代劇であったり、新劇であったり、今後はさらにもっといろいろな活動もしていくと思うのですが、そういった中で何をやったとしても応援していただける役者にならないといけないと思っているんです。ですから役者として清元もやっているというのではなく、清元に関してはやっぱり清元の太夫として観ていただきたくて。そのためには「唄っている右近さんを観に来た」ということを忘れさせるくらい、清元栄寿太夫としてしっかり筋を通しておかなければというのがひとつ。とはいえ、そうなるまでにはまだ時間がかかると思うので、それまでにお客様にいろいろな自分を観ていただきたいし、そのひとつの面を今回は提示できることがとてもうれしいです。どんなことに挑戦していても、それを応援していただけるような存在になることは、僕のテーマのひとつですからね。

ーー生で迫力ある演奏が聴けるというのも、こうした会の大きな魅力だと思います。特に、清元の音楽に触れるにあたってコツのようなものはありますか。

斎寿:清元というのは、三味線は中棹(ちゅうざお)三味線といって、ちょうど中間なんですよ。三味線は棹の太さで大きく三つに分かれていて、細棹は長唄さんですとか音楽的要素が強い楽器として、太棹は津軽三味線のようにどちらかというと物語の要素が強いジャンルとして。そしてわれわれが使うのは中棹で、その両方の要素があるんです。音楽は音楽でも、BGMとして弾いているわけではなくてその情景描写をしていたり、素演奏、つまり演奏だけの形でも物語が浮かんでくるような演奏をしなくてはならない世界なので、そういうことも意識して聴いてみてほしいです。それと清元というのは邦楽、古典の音楽の中では最新にできたものでもあり、できて200年以上経ってはいますけれど最新のものなんですね。だから当時の、いろいろなジャンルのいいところを取り入れていて。

ーーいいとこどりなんですね(笑)。

斎寿:そう、いいとこどりです(笑)。だから、その時代の最先端の音楽だったんだということも知っていると、さらにお楽しみいただけるかもしれません。あとは呼吸にも気をつけて聴いてみてください。清元の世界では三味線弾きというのはコンダクターのように全体を仕切っている面もありますが、でもやはり唄がメインですから。唄の人が唄いやすいように演奏した上で、自分の世界観も表現していかなければならない。となると、大事なのは唄の方との呼吸なんです。呼吸が合っていると、すごくいい演奏になりますから。お互いに同じテンションでなるべく最後まで演奏できるように、と僕はいつも思っています。

ーー阿吽の呼吸、みたいな。

斎寿:そうです。楽譜の通りにただ淡々と弾くのではなく、今日はここはたっぷり唄いたいんだなと思えばそこを見計らって一緒に乗っからなければいけないし、逆に三味線弾きがこういう風に弾いているならと、唄の方がその音に気持ちを乗せてくださったりする時もあります。やはりなんでもそうなんでしょうけれど、息が合ってるか合ってないかというのは、とても大事なことだと思います。

右近:さっきも少し言っていましたが、歌詞が聞き取れないと唄う側のテンションしかわからないじゃないですか。明るいのか、悲しいのか、怒ってるのかくらいの大きいカテゴライズの中でしか理解できなくなってしまう。だからやはり、歌詞を少しでも理解していただかないと楽しみにくいものではあると思うんですよね。さらに、そこに情緒を乗せたり情景描写を作るために節回しがついてくるものだから、ますますわかりづらくなってしまう。でも、そこを台詞ではなく唄で表現するというのは、台詞で言うよりも情緒や風情がより味わえるから、なんです。三味線があって唄があるものの中でも、特にその醍醐味が一番詰まっているのが清元だと僕は思います。そこをきちんと楽しんでいただくためには、まず歌詞が少しでもわかればだいぶ違いますから。

尾上右近

尾上右近

斎寿:ちなみに歌詞カードは事前に配るんですよ、配るんですけど、唄になると母音で引っ張るところがあったり、何かのものにたとえる掛詞(かけことば)みたいになっているところがあったりもするので「あれ、今どこやっているんだろう?」ってなっちゃったり。

ーーでも、それがわかってくればますます面白くなりますね。チラッとでも開演前に歌詞カードを眺めておくと、いいかもしれません。

斎寿:まあ、でも今回の演目『隅田川』と『三社祭』というのはいずれもわかりやすい歌詞ですし、伝わりやすいストーリーではありますから、それほど難しくはないと思います。昔の言葉ではありますけどね。

ーー初めてのお客様でも臆することなく、会場に来てさえいただければ楽しめそうですね。では最後に、お客様へお誘いメッセージをいただけますか。

斎寿:清道會もようやく10回目を迎えることとなり、今回は大きな会場で、父と弟と、もちろん社中の方々とも一緒に公演ができることになりました。『隅田川』は素晴らしい曲ですし、『三社祭』もとても面白い曲です。「この曲を知ることができてよかった」と思っていただけるように演奏したいと思っています。とにかくあまり固くならずに、ちょっと三味線を聴いてみようか、唄を聴いてみようかという気持ちで来ていただければとてもうれしく思います。

右近:第1回の清道會の時には、まさか僕が太夫として出ることになるとは夢にも思っていませんでした。やはり継続は力なりですよね、回を重ねると予期せぬこと、楽しいこと、本当に想像もつかないことが起きるんです。今回は僕も、『隅田川』では栄寿太夫として父と兄と一緒に清元として出させていただきますし、『三社祭』では種之助くんという僕の同志、大切な仲間と一緒に踊ることができるということは、僕自身にとっても大変楽しみです。やはりお客様に楽しんでいただくためには、自分も楽しまなければ何も起きないと思うんですよ。そういう意味では自分がここまで楽しみにしているので、その分みなさんにも大いに楽しく観ていただけるはずだと、僕は確信しています!(笑)

(左から)尾上右近、清元斎寿

(左から)尾上右近、清元斎寿

取材・文=田中里津子 撮影=池上夢貢

公演情報

『清道會』第十回

日程:2019年10月30日(水)
会場:浅草公会堂
 
出演
一、隅田川(すみだがわ)
清元延寿太夫
清元斎寿 他
 
一、三社祭
清元志寿雄太夫
清元斎寿 他
立方:尾上右近
         中村種之助
 
■チケット
1階席 全席指定:5,000円(税込)
2・3階席 全席自由:3,000円(税込)

■お問い合わせ
「清道會」事務局 080-4862-5858
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