THE ORAL CIGARETTES『PARASITE DEJAVU~2DAYS OPEN AIR SHOW~』 オーラルの何たるかを明示した1日目
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle Photography)
PARASITE DEJAVU~2DAYS OPEN AIR SHOW~ DAY1 2019.9.14 泉大津フェニックス
THE ORAL CIGARETTESがバンド初となる野外ライブイベント『PARASITE DEJAVU~2DAYS OPEN AIR SHOW~』を9月14、15日に大阪・泉大津フェニックスにて開催した。初日はTHE ORAL CIGARETTES(以下、オーラル)の野外ワンマンライブとして、2日目にはオーラルと深い交わりを持つアーティストとのイベント形式となり、両日ともに山中拓也(Vo/Gt)と親交のあるアーティストらも出演。音楽だけでなく、アートやファッションなどカルチャーの壁を越えたこれまでにない音楽イベントとなった。まずは初日の模様からお伝えしたい。
と、その前にぜひイベント前に公開された当サイトの記事(https://spice.eplus.jp/articles/253692)を読んでほしい。デビュー5年でベストアルバムをリリースすること、そして新しいシングルではまさかの女性シンガーをフィーチャリング。そして、今回の大型野外ワンマンライブと対バン式イベントの開催。この日、山中はMCでも語っていたが、“もう第2章なの?これまでの音楽と変わるの?”と心配する人も正直、少なからずいたはず。だが、その答えはすべて、この日のステージに示されていた。
オーラルのライブを前に、会場ではヒューマンビートボックス・KAIRI、書道家・万美、ペインター・OLIがコラボパフォーマンスを披露。ATTRACTION AREAのステージではアートが描かれたり、その隣ではアパレルブランド・MUZEが特別に出張ブースを開設。彼らのアートはイベントグッズにも取り入れられ、これまでのロックイベントにはなかった、音楽とアート、ファッションのコラボにオーディエンスらは本編を前に大いに盛り上がっている。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle Photography)
ステージにはイベントメインビジュアルと同じ、鮮やかな緑のツタがからまり、天井には白い花と緑で彩られた大きなシャンデリアのような照明が掲げられている。ステージ上部に掲げられたイベントタイトルが西日に煌々と照らされるなか、いつもの4本打ちが大きく鳴り響く。スクリーンにオープニング映像が映るなか、4人のメンバーが登場。「ロックバンド・THE ORAL CIGARETTES始めます。オーラルの第2章は今日から始まる! お前らが証人だ!」、山中が大きく雄叫びを上げ、「BLACK MEMORY」でライブスタート! 重低音をがっつりと効かせたサウンドのなか、歌詞にある<限界突破>の言葉がぐっと期待感を持たせてくれる。続く「What you want」、地面が大きく揺れるほど観客が高く高く飛び上がり、メンバーが打ち出す音に反応。詰めかけた観客たちを見渡し満面の笑顔を見せる山中は「この光景を、5年前にデビューしたときから思い描いてました」と、堪らず涙を見せる。本人もまさかライブが始まってすぐに感情が溢れるとは思わず、「最初からこんな予定ちゃうぞ……」と苦笑いするも、会場からの大きな歓声に押され、「WARWARWAR」へと続く。2年前に発表されたアルバム『UNOFFICIAL』からの楽曲だが、その世界観はたった数年で大きく成長しているようで、色や表情、感触すべてが違って感じ取れる。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle Photography)
「今日はワンマン。コアな人も集まっていると思うから。過去の曲もどんどんやります」という言葉の通り、「N.I.R.A」「GET BACK」と過去曲も披露。MCでは、いつものようにゆったりのんびりしたトークが展開されるが、これも地元関西ならでは。美しい夕焼け+地元での野外ワンマンという光景に山中は「この景色を見ると、感慨深いものがありすぎてサービス精神旺盛になっちゃうかも」と、「瓢箪山の駅員さん」へ。鈴木重伸(Gt)の怪しげなギターが会場の空気をぐっと惹き込み、中西雅哉(Dr)の心音を跳ねさせるリズムに会場が大いに沸く。この日、楽曲ごとに緻密に作りこまれた映像がスクリーンに映し出されていたが、それもまたバンドと映像クリエイターとのコラボレーションなのだろう。楽曲の世界観をアーティスティックに描いたVJたちの作品は、バンドに、ライブに、より大きな迫力と臨場感をもたらしてくれる。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle Photography)
「ワガママで誤魔化さないで」「カンタンナコト」などでは、あきらかにあきら(Ba)のアッパーなベースが観客の感情をヒリつかせ、“この音についていかなきゃ”“この空気に乗らなきゃ”と、妙な焦燥感まで感じさせるほどに、この日のバンドのパフォーマンスはいつも以上に完成度が高い気がしてならない。それでも、山中はバンドの音楽だけでステージを終えることは望まず、「普通のビートではなく、体から出る、生きてるビートに食らいました。(それを)みんなにも体験してほしい」と、ヒューマンビートボックス・アーティストのKAIRIをゲストに呼び込み、「DIP-BAP」をコラボ。山中とKAIRIが互いに向き合いながら歌い、そこへバンドの音が加われば、あっという間に大きなグルーヴを生み出していく。ベースとドラムの存在を奪うような生のビートに煽られ、あきらと中西もいつも以上に激しいリズムを打ち出していく。ヒップホップとロックだけでない、音のぶつけ合いに魅せられ、会場から大きな歓声が沸き起こる。「カッコイイものはカッコイイと言いたい」、KAIRIが語った言葉がまさにその通りだろう。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle Photography)
「いろんなものを吸収して、人と人とが繋がって今のバンドがある。ベスト盤で“Redone Version”をやることに困惑させたかもしれへん。でもこれからもそれをやり続けるんじゃなくて、色んなこと挑戦していくし、今日みたいなイベントをやっていく。そのなかで、自分のためになることを吸収してください。もし勘違いしている人がいたら訂正させてほしい。言葉じゃなくて、音楽で訂正させてください」
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle Photography)
バンドが挑戦を続ける姿勢を改めて言葉にし、「ハロウィンの余韻」「僕は夢を見る」へ。彼らがベストアルバムで示した“Redone Version”とは、いわばリミックス版。打ち込みを取り入れた横ノリサウンドやテンポを大きく変化させた曲など、オリジナル版とは全く異なる仕上がりも全て含めてオーラルの世界でしかない。“オーラル変わったね”ではなく、“今”のオーラルがそのモードなだけ。ステージで鳴らす音を目の前で体感すると、きっとこの先もまた違った世界観を打ち出してくるんだろうな、という楽しみが沸いてくるばかりだ。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=鈴木公平
新しい挑戦を続け、活動は順調な印象があるが、それでも苦悩は尽きないらしく、山中は正直な気持ちを吐露していく。「オーラルはまだ一回も跳ねてない。ブームを起こしてないねん。順調そうに見えてても、全然そうじゃない。苦しいことばっかり。でもそれでよかったなって思います。流行り廃り、当たり前の世の中。不安やけど、一歩ずつ歩いていくほうがオレらには合ってるんかなって思わせてもらいました。ロックは弱い奴が鳴らすもんやと思う。みんながロックを好きなのはきっと心のどこかに弱い部分があるから。『俺は強いからお前らまっすぐついてこい』なんて言えません。俺は自分が弱いからロックを鳴らしています。だから誰よりも絶望が、苦しみが欲しい。みんなに寄り添えるように、悲しみがわかるように。それが俺らのロックのスタイルです。死だって感じていい……みんなに寄り添えるなら。人と人とで生きている。絶望を感じたときに、何か素晴らしいものを生み出す力を俺は持っています。みんなに寄り添える力を」と、「5150」へ。感情を剥き出しにして鳴らす音に引き寄せられ、涙を流す観客の姿も見える。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=鈴木公平
かと思いきや、ステージ後半は「PSYCHOPATH」からはいつものドSっぷり全開、アグレッシブなライブを展開していく。「狂乱 Hey Kids!!」での鈴木のギタープレイ(表情も)は狂気じみているし、あきらのご機嫌なビートが観客の狂騒感を煽る。「See the lights」、「LOVE」で大きな笑顔と多幸感を生み出すと、「すっげー楽しかったです」と、「容姿端麗な嘘」へ。またも地面が大きく揺れるほどの盛大なジャンプを繰り返し、ライブはアンコールへ。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=鈴木公平
ワンマンライブではおなじみ、いつもの「まさやんショッピング」も経て、メンバーは改めて集まった観客へ感謝の気持ちを伝え、「今までの常識を全部潰していくのが僕らなりのロックなんやろうなって思う。想定外のことをどんどん起こしていきます」と、さらなる挑戦を続けていくことを誓う。そして、先日リリースしたデジタルシングルについて「化学反応の面白さを知ってほしい。常識を壊す第一歩の形」と語り、「Don't you think」をロザリーナとともにライブ初披露へ。大きな月が顔を出し、夜風が吹くなかで鳴る、大らかでいて凛としたサウンド。美しも儚い歌声×力強く愛おしい歌声に魅せられ、思わずため息が出てしまう。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle Photography)
「何を言われようと、初心を絶対に忘れません。俺らが最強のロックバンドだろう!」と、ラスト「起死回生STORY」へ。彼らのライブで何度も何度も聴いてきたデビュー曲。観客たちのハンズクラップがこの日一番の大きな音を鳴らして4人の音を盛大に後押しし、ライブは大団円を迎えた。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=鈴木公平
感情を剥き出しに、苦しみや悲しみを叫び、そして何度も愛を叫んだこの日のライブ。山中が最後に「(今夏の各地での)フェスで冷たくしてゴメン! この日のためやってん!」と叫んだ言葉に思わず笑ってしまった。確かに、筆者が観た『MONSTER baSH』ではクールを越えて、かなり冷酷なキレキレのステージを展開していたし、裏では「今回のフェスはいつもと違うフェーズでやってるんです」と語っていたのだが、まさかそのすべてがこの日のためだったなんて!! そんな飴と鞭な、愛溢れるステージを見せられたら、ついていくしかないじゃないか。『PARASITE DEJAVU~2DAYS OPEN AIR SHOW~』、2日目がますます楽しみになってしまった。
取材・文=黒田奈保子 撮影=各写真のクレジット参照
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle Photography)