紀平凱成の瑞々しく美しいサウンドが響く デビューアルバム『Miracle』発売記念リサイタルレポート
紀平凱成 ピアノリサイタル 「Miracle」
18歳の紀平凱成(きひらかいる)にとって、2019年は飛躍の年となった。2歳で診断された自閉症を凌駕する、彼の瑞々しい音楽的才能が人々に広く届けられる一年だった。4月7日に浜離宮朝日ホールでデビューリサイタルを成功させ、10月23日には待望のCDデビューも果たし、アルバム『Miracle』には自作品4曲と、得意のカプースチン3曲を収めた。
そして12月23日。クリスマス・ムードに華やぐ銀座の王子ホールにて、アルバム発売記念のリサイタルが開催された。
会場の盛大な拍手とともに登場した紀平凱成は、客席に向かって手を振った。そしてマイクを手にして「今年は素晴らしい年になりました。よろしくお願いします」と第一声を届け、ピアノに向かった。腕を高く上げて、大きく深呼吸。その瞬間から、ホールは凱成の音楽的空間となった。
紀平凱成 ピアノリサイタル 「Miracle」
紀平凱成 ピアノリサイタル 「Miracle」
幕開けはカプースチンの「24の前奏曲」から第11番。ジャジーでアンニュイさも持ち合わせた作品での開始だ。続く「8つの演奏会用エチュード」第5番「冗談」では、勢いのある中にも、安定したパルスがもたらすグルーヴ感が冴えわたった。
2曲を弾き終えたところで、凱成の父がMC役として登場。カプースチンという作曲家について、また作品についても簡潔でわかりやすい言葉で説明してくれた。また、たびたび凱成とのやりとりも交わす。
MC(父):小4で初めてカプースチンを聴いたんだったよね。どんなところが好き?
凱成:ロックやポップスやジャズやクラシックなど、色々な音符が並んでまざっていて、ワクワクしまーす!
MC(父):凱成はずっと音楽を耳で聴いてコピーしていたけれど、初めて『楽譜が欲しい』といったのが、カプースチンさんの作品だったね。サンタさんにお願いしたんだよね。
親子二人の対話は、凱成の音楽的な日常を伝えてくれると同時に、どこかコミカルで明るい雰囲気をも生み出した。父のマジメな解説中に、マイペースで伸びをする凱成の姿に、客席からはほっこりと笑い声も起こった。MCで見せる楽しい親子の二人三脚は、凱成のステージにおける大きな魅力のひとつとなりそうだ。
紀平凱成 ピアノリサイタル 「Miracle」
紀平凱成 ピアノリサイタル 「Miracle」
続いては、カプースチンの「ビッグ・バンド・サウンズ」で、キレのあるリズムと、ゴージャスかつクリアな響きを披露。音数の多いカプースチン作品だが、凱成の演奏は決して響きが混濁しない。ペダル操作を実に繊細に行なっているのが、視覚的にも確認できた。
凱成の大好きな音楽ジャンル「ラグタイム」にまつわる父とのMCに続いて、スコット・ジョップリンの「メイプル・リーフ・ラグ」が軽やかに、なおかつダイナミクス豊かに演奏された。そして凱成自身のラグであり、デビュー・アルバムにも収めたオリジナル作品「Tennis Boy Rag」で、リズム語法の豊かさを示した。さらに、ゆっくりと水を飲んでから、爽やかなメロディーの自作品「Taking off Loneliness」を続けた。
紀平凱成 ピアノリサイタル 「Miracle」
クリスマス・イブの前日にあたるこの日。特別なプログラムも用意されていた。凱成アレンジによるクリスマス・メドレーである。サンタ帽をかぶって登場し、「そりすべり〜ジングル・ベル〜赤鼻のトナカイ〜Happy Xmas (War is Over)」を、かなりオシャレなハーモニーで、ジャジーに聴かせてくれた。
後半のプログラムは、クラシックが中心。カジュアルなモノトーンのスーツから白いブラウスに着替えての登場。ショパンの「幻想即興曲」を流麗に響かせ、リストの「愛の夢 第3番」は間合いを大事に味わいながらの演奏。
紀平凱成 ピアノリサイタル 「Miracle」
紀平凱成 ピアノリサイタル 「Miracle」
ラフマニノフの「鐘」は圧巻で、冒頭の3音の深い響きがホール全体に響き渡る。重層的に生み出される和音の表情は実に豊かで、息の長いデクレッシェンドは聴き手の集中力を喚起する。多声的な響きから浮き上がるメロディーは歌心に溢れ、後半はピアノをたっぷりと鳴らし、分厚い倍音に彩られ、まさにロシアの鐘そのもののような響きを生み出した。
ラフマニノフにインスパイアされたという自作品「Rock Deadly Fast」は、主要部の悪魔的な響きと、中間部の甘い表情とのコントラストが鮮やかに表現された。
「今日は、たくさんの人に聴いてもらえました、ありがとう。最後は僕が作った「Winds Send Love」。聴いてください」
紀平凱成 ピアノリサイタル 「Miracle」
プログラムの最後は、デビューアルバムの1曲目に置かれた作品。華麗なオクターヴ使いやアルペジョが随所にあり、素直でロマンティックな音楽だ。ピアノという楽器に対する凱成の愛情が伝わってくる。
温かく、盛大な拍手に応えて、アンコールにはドビュッシーの「月の光」を演奏。声部の整理が行き届いた明晰な演奏で、クリアで清々しい光が降り注いだ。
アルバム『Miracle』発売記念リサイタルは、2020年1月18日(土)大阪のザ・フェニックスホールのほか、名古屋(2020年2月13日(木)電気文化会館 ザ・コンサートホール)と東京(2020年5月9日(土)浜離宮朝日ホール)での追加公演も決定した。爽やかで美しい紀平凱成のサウンドは、これからも多くの人の耳に届いてほしい。
楽屋にて
取材・文 飯田有抄 撮影=富永泰弘
出演情報
2020年1月7日(火)放送時間19:00~22:54※一部地域を除く
https://www.ntv.co.jp/gyoten/
公演情報
ピアノリサイタル 「Miracle」
2019年12月23日(月)18:00開場 18:30開演
銀座 王子ホール
全席指定 3,500円(税込)
2020年1月18日(土)13:00開場 13:30開演
大阪 ザ・フェニックスホール
全席指定 3,000円(税込)
2020年2月13日(木)18:00開場 18:30開演
電気文化会館 ザ・コンサートホール
全席指定 3,000円(税込)
2020年5月9日(土)13:30開場 14:00開演
浜離宮朝日ホール
全席指定 3,500円(税込)