劇団壱劇屋、2020年は勝負の年! 主宰・大熊隆太郎にインタビュー~「どこでも行って、何でもできますという劇団に、ますますなっていくと思います」
大熊隆太郎(劇団壱劇屋)。 [撮影]吉永美和子(人物・稽古場写真すべて)
1月の『TABOO』(作:野田秀樹)上演を皮切りに、今や劇団の大きな看板となった「wordless×殺陣芝居」から若手劇団員のプロデュース企画、そしてオールスタンディングの超体感型演劇など、2019年も精力的かつ多彩な活動を見せてきた、大阪の劇団「劇団壱劇屋」。秋には一部の劇団員が「東京支部」を結成し、移転でも分裂でもない珍しい形での、大阪・東京二拠点運営スタイルとなった。
そして2020年は、1月の『劇の劇』全国4ヶ所ツアー公演を皮切りに、東京支部が第一弾の公演を行ったり、あえてオリンピックの時期に東京で2本立て上演を決行するなど、彼らにとっては大勝負の年となりそうな予感。劇団主宰で、『劇の劇』作・演出の大熊隆太郎に、今回の芝居の内容と、今後の劇団の動きについて語ってもらった。
■『劇の劇』は、演劇ならではの表現で遊び尽くそうとした作品。
──大熊さんは12月に、オールスタンディングで劇空間を360℃楽しめる『空間スペース3D』で、3年ぶりに本公演の新作を書いたばかりです。こんな短期間で立て続けに作品を発表するとか、死ぬような思いをしたんじゃないかと。
いや、『劇の劇』は(2019年)6月に、愛知県の高校演劇の生徒たちを対象にした公演のために、一度作った作品なんですよ。そこでできたVer.1の内容を少しチェンジしたり、動きをテクニカルにしたりして、今Ver.2を作っている所です。
劇団壱劇屋 2020年四都市ツアー「劇の劇」PV
──高校生に見せる作品ということで、何か特別な狙いがあったんでしょうか?
僕も高校演劇出身なのでわかるんですけど、どんな劇がこの世にあるのか? っていうのが、やっぱりその時点ではまだよくわかってないんですよね。そこでいろんな「劇」を、まずは見せてあげたいと思いました。そもそも壱劇屋がやってることって、ストレートプレイでもミュージカルでもダンスでもない、いろんなものがミックスされた、ちょっと特殊なものなんで。だから「演劇には、どういう面白さがあるのか?」を凝縮したというか、その面白さを多角的に描いて、一本の作品にしようと思いました。実際高校生の皆さんからは「体験したことがないものを、見ることができました」とか、すごく反応が良かったです。
──内容としては「劇を辞めた」という男が登場し、その宣言とは裏腹に、様々な劇の世界に巻き込まれていく、ということですが。
そうですね。なんでそんな内容になったかというと、僕は3年間脚本をお休みしている間「自分は演劇で何がしたいんかな?」とか「演劇の何を面白いと思っているんかな?」というのを、ずっと考えてたんです。別に愛とか政治とかのメッセージを発信したいわけでもないし、物語で観る人の感情を動かすことを面白がってるわけでもない。そういうのよりは、本当に見た目が面白いとかカッコいいとか、自分の好奇心をくすぐられるような話や造形を作りたいだけなんじゃないかと。そういう悩みや疑問をいっぱい持ちながら作り始めた時に「じゃあこれ、そのまま一個の演劇にしてみよう」と思いました。
劇団壱劇屋『劇の劇』稽古風景。(左から)高安智美、井立天、大熊隆太郎。
──「演劇の面白さって何?」の自己言及を、そのまま劇にしちゃおうと。
なので一応ストーリーとしては「劇を辞めた男」を通して、演劇にまつわる数々の疑問を立体化していく、という感じです。全部で10シーンあるんですけど、各シーンで毛色が全然違うことを……たとえば3人の俳優が、ペットボトルのお茶をリアルな動きで飲む人と、パントマイムで誇張して見せる人と、ストリートダンス風に激しく見せる人に分かれて、それを繰り返し見せるとか。また観客として観ている側と、演者として見られる側の構造がどんどん変わるとか。普通の会話劇の回想シーンに、さらなる回想がどんどん重なって……ということが起こるとか。そんなシーンがいろいろ展開されて、自分が今どういうものを観てるのかが、わからない所にまで連れて行かれる感じです。だから入れ子構造……でもないな。何だろう?
──映画『インセプション』のようなイメージですかね?
『インセプション』みたいな世界の中で、『トゥルーマン・ショー』をするみたいなシーンもあります(笑)。演劇をやる上で使われるテクニックって、いろいろあるじゃないですか? 急に人が入れ替わるとか、急に場所がチェンジできるとか。そういう演劇ならではの表現で遊び尽くすことに、重きをおいた作品ではあります。だからマイムやダンスやコントなどもあって、目には楽しいと思うんですけど、やってることを改めて観ていくと、すごく思考の迷路に入ってしまうというか。人によっては、実験的な作品に見えるかもしれないです。
劇団壱劇屋『劇の劇』稽古風景。(左から)高安智美、井立天、大熊隆太郎。
──Ver.1と2で大きく変わった点は。
Ver.1は、やっぱり高校生に向けて何か一個渡しておきたいという思いがあったので「演劇には、こういう楽しさと、こういう作業やしんどさもありますよ」みたいなラストに……「劇」というより「劇団」の話みたいになっちゃいまして(笑)。なので今回は、「劇」とか「役」とかの諸々についてどう消化するのかを、観ている人にもっと委ねたものにしようと。「劇を辞めた男」が一体どうやって辞めるのか、あるいは辞めないのか? みたいな所にも、もう少し焦点を絞っています。
──出演者が3人だけで、小道具もパイプ椅子に木枠だけと最小限なので、全国あちこちを回るにはもってこいの作品ですね。
会場もそんなにキャパがなくていいですし、かなりフットワークは軽いです。スケジュールさえ空いてれば「よし、行くぞ!」という感じで行ける作品なんで。学校公演にも向いてると思いますし、何かの機会があればどんどんやっていきたいです。
大熊隆太郎(劇団壱劇屋)。
■オリンピックの外国人観光客向けに、ノンバーバル二本立てを。
──『TABOO』は劇団10周年記念公演の最後の作品でしたが、やはり10年の節目を過ぎたことで、今年は特別気合いが入ったりしたんでしょうか?
そうですね。10年目までやってきたことは「一回ここまで」ということにして、ここから新しい企画や活動の仕方に入りたいなあとは思いました。劇団的に一番大きいのは、やっぱり東京支部を作ったことですね、この秋から。ずっと「wordless×殺陣芝居」を作ってる竹村(晋太朗)など、殺陣を中心にやりたいメンバーは東京に行って、そこで好きに活動をしていくことになります。次の『Pickaroon!』再演も、うちの(主催)公演だけど、早速東京で知り合った方とのプロデュースという形ですし。向こうは向こうで、独自でいろんな活動を展開して、僕は僕で、関西でじっくり好きな作品を作っていこうと思ってます。
あとは9月に『ハツゲキ』という、4名の劇団員がそれぞれの作品を上演する企画があって、その中の何人かは、多分今後も(作・演出を)やっていきたいみたいです。もしかしたら大阪の方も、また新しい作家が劇団から出てきて、活動がさらに多様化していくかもしれません。だから11年目からは、本当に全国どこにでも行って、何でもできますよ……みたいな、さらに枠の広い劇団になっていくんじゃないかと思います。
──東京とその他の地方の二拠点スタイルの劇団運営は、いくつか前例は聞いたことがあります。ただ今の壱劇屋のように、お互いが違うカラーで活動をしつつ、本公演の際は1つの劇団として結束するというスタイルは、かなり珍しいことではないでしょうか。
劇団壱劇屋『猩獣-shoju-』。竹村晋太朗による「wordless×殺陣芝居」の作品。 河西沙織(劇団壱劇屋)
それは本当に、ある種の奇跡でしたね。「東京で活動したい」となったら、普通は劇団まるごと東京に行くか、あるいは東京に行きたい人だけが脱退して別の劇団を作るってなると思うんですよ。そうじゃなくて「支部を作る」という枝葉になったのは、かなりのレアケースだと思います。正直この先どうなっていくのかは、やってみないとイマイチわからないんですけど、取りあえず各々の「自分が好きな芝居を作りたい」「自分が好きな作品に出たい」という希望が叶えやすいわけですし、実際好きな方に出られるわけですからね。
──そして夏の東京公演は、大熊さんと竹村さんの作品の二本立てと聞きました。あえてオリンピックの時期に公演を打つとは、だいぶ思い切りましたね。
それは単純な話で、うちの劇団は身体を使った表現が得意で、セリフのない芝居もよくやってるから、海外の観光客向けにやったらウケるんじゃないか? という。ただ話が現実味を帯びてくるにつれて、はい交通、はい宿泊、はい周りはこんなイベントがありますよ……というので、今さら「これってめっちゃ大変なんちゃう?」ってなってます(笑)。
──でも確かにどちらも、言語の違いに関係なく観てもらえる作品になりそうです。
そうですね。竹村はもともとセリフのないスタイルでやってましたし、僕もこの機会に初めて、シアターマイム作品を作ってみようかと思っています。僕、イベント向けに30分程度の無言劇や、マイム作品を作ったことはあるんですけど、本公演ではやったことがなかったんです。せっかくなので、この機会に長編に挑戦してみようかと。
それで両方とも、ノンバーバル(※言葉を必要としない)の作品を上演することになると思います。外国の方にどれぐらい観てもらえるかは本当に読めないんですけど、それでも何かに引っかかって、次のステップにつながればいいかなあと思いますね。やっぱり言葉に頼らない作品を作ってると、「海外に行ってみたい」という気持ちが大いに出てくるので。
劇団壱劇屋『Pickaroon!』。竹村が初めてセリフの入った殺陣芝居に挑戦した作品。 [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)
──とすると、次の壱劇屋の目標は初海外公演。
ですね。アジアでもアメリカでもヨーロッパでもどこでもいいので、異国でどんな風に観てもらえるかっていうのは、気になる所です。ただ僕の場合は、まだちょっと言葉過多なんで、マイム作品をもっと作ってからかなあと思います。でも12月の『空間スペース3D』は「海外の方がウケるから、売り出したらいいのに」って言われましたね。
──あれは実際、体験型アトラクションからさらに一歩進んで、徹底的なフィクションの世界に迷い込んだみたいになって、かなり楽しかったです。私が行った回は他のお客さんもかなり盛り上がってましたが、全体的にはいかがでしたか?
どの回も、想像した以上にノッてくれましたねえ。稽古の時は「お客さんは絶対ノッてこないもの」と思って、ノッてこさせるような工夫をいろいろ考えてたんですけど、もう初日から「フゥーー!!」みたいなノリでめちゃくちゃ盛り上がってて、(出演者)18人とも「こ、こんなに楽しくやってくれるの?!」って(笑)。でもそれで一気にグルーブ感が出て、結果的にいい公演になりました。
劇団壱劇屋『空間スペース3D』。大熊隆太郎の3年ぶりの新作本公演。 [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)
僕は脚本を書いてない間、野外でお客さんを巻き込んだ出し物をしたり、劇場を一緒に探検するという企画をやってたんです。それを通じて、僕は役者とお客さんがコミュニケーションを取ることを前提とした作品を作るのが好きだし、多分得意なんだろうなあということがわかってきました。それで『空間スペース3D』を作った時に「あ、なるほど。こういう感じか!」という手応えがあって。作るのはかなり難しかったんですけど、何かの鉱脈というか、光が見えたような気がするんで、もう少しこのスタイルを掘っていきたいという気持ちは強いです。
──では最後に、時期が時期ですので「2019年はお世話になりました。2020年もよろしくお願いします」的なコメントをお願いします。
なるほど(笑)。本当に2019年はいろんな公演をしましたが、実は僕自身は『TABOO』以降、大阪で公演をしてないんですよ。京都、静岡、愛知、岩手、神戸といろんな所に行かせてもらい、非常に全国各地でお世話になって感謝しています。そして2020年は東京支部が本格始動するので、今後とも……忙しい劇団ですけど、拾える所だけでも拾って(笑)、観に来ていただけたらなあと思っています。
大熊隆太郎(劇団壱劇屋)。
取材・文=吉永美和子
公演情報
■出演:井立天、高安智美
■日程:2020年1月10日(金)~13日(月・祝)
■会場:インディペンデントシアター1st
■日程:2020年1月18日(土)・19日(日)
■会場:ナンジャーレ
■日程:2020年1月26日(日)
■会場:人宿町やどりぎ座
■日程:2020年1月28日(火)~2月2日(日)
■会場:シアター711
■問い合わせ:ichigekiya_office@yahoo.co.jp 080-6188-2546(劇団壱劇屋)
■公演特設サイト:https://ichigekiyaoffice.wixsite.com/ichigekiya/post/gekinogeki
公演情報
■出演:井立天、岡村圭輔、柏木明日香、小林嵩平、高安智美、谷美幸、西分綾香、丹羽愛美、長谷川桂太、半田慈登、日置翼、藤島望、松田康平、山本貴大(以上、劇団壱劇屋)
柿澤ゆりあ、淡海優、石黒さくら、植松ゆき、川本海紀
■会場:青山DDDクロスシアター
■問い合わせ:ichigekiya_office@yahoo.co.jp 080-6188-2546(劇団壱劇屋)
■劇団サイト:https://ichigekiyaoffice.wixsite.com/ichigekiya
公演情報
■会場:大阪ビジネスパーク 円形ホール
■問い合わせ:ichigekiya_office@yahoo.co.jp 080-6188-2546(劇団壱劇屋)
■劇団サイト:https://ichigekiyaoffice.wixsite.com/ichigekiya