糸あやつり人形一糸座×丸山厚人×川口典成が創り出す舞台『おんにょろ盛衰記』稽古場レポート

レポート
舞台
2020.2.4

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2020年2月5日(水)~2月9日(日)にかけて、糸あやつり人形一糸座が、舞台『おんにょろ盛衰記』を上演する。会場は、座・高円寺1。演出は、演劇実験場ドナルカ・パッカーン主宰の川口典成。一糸座の人形遣いたちとともに舞台へ上がり、人形を相手にタイトル・ロールのおんにょろ役をつとめるのは、俳優の丸山厚人。さらに女義太夫、三味線方、京劇俳優、歌舞伎の鳴物も出演する。開幕に先駆けて、1月末、都内稽古場を取材した。

■糸あやつり人形一糸座とは

一糸座は、『八百屋お七』や​『鈴ヶ森』などの古典演目から、『ゴーレム』、『アルトー24時++再び』などの現代演目までを上演し、国内外で評価されている一座だ。操作盤から伸びる糸で人形をあやつる「糸あやつり人形劇」で、外部の演出家や作家たちとタッグを組むことにも積極的。その取り組みは先進的だが、一座のルーツは、寛永年間から続く「結城座」の糸あやつり人形劇まで遡る。

代表の結城一糸(ゆうき・いっし)は、1948年、結城座の十代目結城孫三郎の三男として生まれる。5歳で初舞台に上がり、1972年、三代目結城一糸を襲名した。

2003年に結城座から独立し、田中純(元十一代結城孫三郎)らと「江戸糸あやつり人形座」を旗揚げ。2015年に「糸あやつり人形一糸座」へ改称し、現在に至る。

『おんにょろ盛衰記』は、劇作家・木下順二の民話劇だ。一糸は26才の時にも、この作品を上演した経験がある。当時おんにょろを演じたのは、緒形拳。今公演では、その役を丸山が担う。

■村人とおんにょろ、そして老婆が

稽古は、村人が、おんにょろに出会うシーンから始まった。

とある村は、虎狼と大蛇に悩まされていた。そこへ、一度は村を出ていった厄介者の熊太郎(丸山)が、十数年ぶりに帰ってきた。熊太郎は、村人(人形)たちが虎狼や大蛇を鎮めるべく用意した供物を、強奪し、困らせ、恐がらせる。そんな熊太郎のことを、村人たちは「おんにょろ」と呼ぶ。「おんにょろ」とは、もともと仁王様をさす方言だ。熊太郎の乱暴さや体の大きさから、その呼び名がついた。

おんにょろが、お酒を飲み、お金を勘定していると、一人の老婆が近づいてくる。そして、おんにょろの背後で何やらしはじめた。おんにょろがドヤしても、老婆は怖がる様子もない。聞けば、木の枝に帯をひっかけたいと訴える。仕方なくおんにょろが手を貸すと、老婆は、枝からぶらさげがった帯で、首を吊ろうとしはじめた。

おんにょろは慌ててそれを止め、老婆から事情を聞くと、"とっつァま"を大うわばみに食われ、"孫息子"を虎狼に食われ、お金も食べ物も尽きてしまったため、首をくくることにしと明かす。さらに、自分がすでに死んでいると思い込んだ老婆は、おんにょろを「あの世の閻魔様」だと勘違いし、とっつァまと孫息子に会わせてくれと迫るのだった。

■人間、人形、人形遣いが一つの舞台に

村人や老婆の人形は、膝の高さほどの背丈だ。それに対して丸山は、身長180㎝の恵まれた体躯。キャストたちは同じ舞台に上がるので、もれなく人形と丸山を見比べることになる。そして無意識のうちに人形と視線を重ね、おんにょろの大きさにドキリとさせられる。

特筆すべき演出は、女義太夫だ。劇中の台詞は、義太夫節で語られるところと、丸山や人形遣いらキャストたちの声で発せられるところに分かれており、この切り替えには、場の空気をがらりと変える力があった。義太夫のシーンになると、村人だけでなく、丸山までもが大きな人形のようにみえた。演者自身が台詞を読むシーンでは、人形の村人たちが生きているかのようだった。村人たちの声には、可愛らしさと親しみやすさがあり、丸山の声には、ある時は深いところから響く迫力が、またある時には、温かみや愛嬌があった。

あまりに自然に動いているため、あやつられている人形であることを忘れそうになる。

あまりに自然に動いているため、あやつられている人形であることを忘れそうになる。

川口は、人形に対しても演出をつける。人形遣いは、無数にある糸を操り人形を自在に動かし、人形ならではの動作やリアクションでリクエストに応える。人形の目線を修正し空間を広げ、動くタイミングをずらすことで、人形たちの心情をクリアにし、さらに一糸がアイデアを出し、丸山も柔軟に段取りを変え、全員がコミュニケーションをとりながら、一つ一つの場面を作っていた。

息をのんだのは、老婆が登場するシーンだ。人形遣いは、結城一糸。出番を控えた一糸が、稽古場の壁際でスタンバイすると、まだ一歩も動いていないにもかかわらず、すでにそこから、人形から、老婆の気配が感じられた。

一糸と老婆が重なり、おそろしささえ覚えたが、台詞を発すると、なんとも愛らしい。おんにょろと老婆の掛け合いは、頓珍漢でありながらも息はぴったり。稽古場では、たびたび笑いが起こっていた。

物語は、虎狼、大蛇に加え、おんにょろという難儀を抱えた村人たちは、おんにょろを利用することを考え始める。おんにょろは、村人たちの話にのり、一肌脱ぐことになる…。

座・高円寺での開幕に向けて

左から、丸山厚人、結城一糸、川口典成。

左から、丸山厚人、結城一糸、川口典成。

稽古中の一糸、丸山、川口よりコメントが届いた。ここで紹介する。

■結城一糸(老婆)
今から45年程前、私は結城座で『おんにょろ盛衰記』に出演している。随分昔の話だが、緒方拳さんのおんにょろと、結城雪斎が遣う老婆が強く印象に残っている。今回は丸山厚人さんのおんにょろと、私の老婆で演じます。戦後12年目に書かれた、木下順二の民話劇を現代に蘇らせる。楽しくてダイナミックなゴチャマゼ民話劇をどうぞご期待下さい。

結城一糸

結城一糸

■丸山厚人(熊太郎・おんにょろ)
糸、に操られているのは僕かもしれません。どちらが人間で、どちらが人形なのか。何が虚なのか実なのか。劇場で、目撃してください!

丸山厚人

丸山厚人

■川口典成(演出)
木下順二の戯曲を演出することになるとは結構な驚きでした。木下順二が民話劇を書いていた背景には「民衆の哀歌(エレジー)」を踏まえた上での劇、ドラマツルギーを作るという切実な思いがあります。その思いを、幾分かでも共有できるかどうか。人形遣い、俳優、義太夫、お囃子、京劇、あらゆる力を味わっていただければと思います。

川口典成

川口典成

舞台の後半には、京劇俳優が登場し、歌舞伎の鳴り物も加わるという。人間と人形遣いと人形。京劇に和の音。異質なものが、一つの舞台でぶつかり、混ざり、創り出す世界を、座・高円寺の客席で見届けてほしい。糸あやつり人形一糸座『おんにょろ盛衰記』は、2月5日(水)~2月9日(日)の4日間7公演の上演。

取材・文・撮影=塚田史香

公演情報

糸あやつり人形一糸座『おんにょろ盛衰記』

■日程:2020年2月5日(水)~2月9日(日)
■会場:座・高円寺1
■原作:木下順二
■演出:川口典成(ドナルカ・パッカーン)
■出演:
<人形>
老婆:結城一糸
村長:田村泰二郎(アルファ・エージェンシー)
村人達:結城民子 結城敬太 根岸まりな 眞野トウヨウ 土屋渚紗 永野和宏 織田圭祐
 篠崎旗江
<俳優>
おんにょろ:丸山厚人(ジェイ・クリップ)

京劇俳優:石山雄太 茶谷力輝
<義太夫>
義太夫:竹本綾之助 竹本越孝
三味線:鶴澤三寿々 鶴澤津賀榮(一般社団法人義太夫協会)
鳴り物:望月太意三郎

 
■演出 :川口典成
■義太夫作曲:鶴澤三寿々
■舞台美術 :伊藤雅子
■衣装 :稲村朋子
■舞台監督 :大山慎一/ 秋成絵美
■京劇振付 :張春祥
■照明 :榊美香
■音響 :幸田和真
■人形製作 :糸あやつり人形一糸座
■企画 :結城一糸
■制作 :結城民子 田中めぐみ
■公式サイト:https://www.isshiza.com/

※「榊美香」さんの「榊」は、正しくは「
木へんに神」。
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