京都の小劇場「THEATRE E9 KYOTO」2020年度プログラムを動画で発表、「オープニングイヤーの流れを、グッと盛り上げていける年に」

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2020.4.13
京都の小劇場[THEATRE E9 KYOTO]外観。

京都の小劇場[THEATRE E9 KYOTO]外観。

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次々と小劇場が閉館・休館した京都の劇場文化を守るため、クラウドファンディングなどの市民の力によって、2019年夏に開館した[THEATRE E9 KYOTO(以下E9)]。その2020年度の劇場スケジュールが、4月7日の会見で発表された。当初は劇場にメディア関係者を集めての会見となる予定だったが、新型コロナの影響を踏まえて、急遽会見の録画を動画配信サイトで流す形に変更。関係者たちの安全を守りつつ、文化の火を灯し続けることをきちんと表明するという、この非常事態ならではの情報発信の形を提示できたと思う。その会見の内容を、動画配信後にE9に送った質問への回答も交えながら紹介する。


会見はE9芸術監督・あごうさとしより、劇場一年目の運営を無事に終えることができたことのお礼の挨拶から始まった。特に、それまで演劇に馴染みのなかったE9近隣の住人たちが、頻繁に通うようになってきて「面白かった」「よくわからなかった」「これくらいやってもらわんと」などの意見を寄せてくることが、大きな喜びと励みになっていると語った。

一般観客向けとしては、劇場初の公演となった、あごうさとし演出作品『触覚の宮殿』(2019年)。 [撮影]井上嘉和

一般観客向けとしては、劇場初の公演となった、あごうさとし演出作品『触覚の宮殿』(2019年)。 [撮影]井上嘉和

この劇場ができたばかりの頃、あごうは以前ディレクターを務めていた[アトリエ劇研]が閉館する時「地域の皆様から惜しむ声が聞こえなかった」のが大きな反省点だったと話していた。それを踏まえて、地域に根ざし、地域とともに成長することで「100年続く小劇場」を目標にしているE9としては、順調な出だしだと言えるだろう。ちなみに地域住人の好む演劇に、何か傾向はあるかと聞いてみたところ「ストレートプレイは受け入れていただきやすい傾向はありますが、ダンスや実験劇においても、回を重ねるごとにだんだん面白さがわかってきたというお声もいただいております」と、E9の登場で市民の鑑賞眼も変化してきていることがうかがわれた。

続いては劇場支配人の蔭山陽太より、ネーミングライツ企業の「寺田倉庫」からの「今、世界が悲しいニュースであふれておりますが、京都を元気に、そしてひとりでも多くの方にこの場所に足を運んでいただきたいという想いをもって、バックアップに努めて参る所存です」というメッセージが読み上げられるとともに、その“悲しいニュース”の大本である新型コロナに対する、劇場の現在の取り組みも報告。3月中は徹底的な除菌対策を行った上で、予定されたすべての公演を上演したものの、4・5月に予定していた演目はすべて中止・延期すると発表した。

発表記者会見の挨拶をする、E9芸術監督のあごうさとし(左)、支配人の蔭山陽太(右)。

発表記者会見の挨拶をする、E9芸術監督のあごうさとし(左)、支配人の蔭山陽太(右)。

そして2019年度は、主催事業5本(内、舞台芸術公演3本)、共催事業8本(内、舞台芸術公演7本)、 貸館公演21本を実施し、観客の総動員数はのべ10,493人だったことを報告。その内、E9の「年間サポーターズ会員」の来場は1,108人(「金サジ個展」来場者を除く)となっており、1公演につき平均約1割。 そのE9サポーターズクラブは、S会員(50,000円/年)7人、一般会員(30,000円 /年)60人、U-26会員(20,000円/年)8人、E9周辺のエリア住民or通勤する人だけが申し込めるエリア限定会員(10,000円/年)46人の、計159 人が入会していたとのこと。このサポーターズクラブの詳細については後述する。

劇場の2020年度プログラムについて解説するあごう。

劇場の2020年度プログラムについて解説するあごう。

そして再び芸術監督のあごうが、現時点で決定している、2020年度の全プログラムについて解説。主催事業は8本で、あごうの新作や、ビジネスパーソン向けのアートカレッジの発表公演などの演劇公演に加えて、毎年1日限りの展覧会を9年間行うアートプロジェクトや映像上映会なども。あごうが「舞台芸術作品を中心に、ジャンルを横断した演目も予定しております」と冒頭で宣言した通り、多彩なラインアップとなっている。4月末にはその第一弾となる、あごう演出の『無人劇』が上演されるが、その詳細は後日お知らせしたい。

主催公演の一つに選ばれた、田中功起監督作品『可傷的な歴史(ロードムービー)』上映会は2021年2月開催。

主催公演の一つに選ばれた、田中功起監督作品『可傷的な歴史(ロードムービー)』上映会は2021年2月開催。

また、5月に行われる予定だったショーケース企画『Continue』についても説明。「舞台芸術を続けること、引き継いでいくとはどういうことか」を参加団体と議論し、上演を通じて考えるという、単なる「若手の顔見せ」にはとどまらない企画だ。たとえば参加団体の一つの京都の劇団「ドキドキぼーいず」は、今後の演劇活動を継続するため、あえて3年間公演を打たなかったことを動画でコメント。その答となるような新作を上演できなくなったのは残念だが、中止ではなく延期なので、必ず日の目を見られることだろう。

そして共催公演については、アソシエイトアーティスト制度と、スタートアップ支援制度の開始という、劇場2年目に向けて大きな変化が。アソシエイトアーティストは、劇場が推薦するアーティストと3年契約を結び、1年に1本新作を制作・発表するというもの。E9は劇場や稽古場の無償提供に加え、プロモーションなどの面で協力する。

動画であいさつを寄せた「ドキドキぼーいず」のメンバー。

動画であいさつを寄せた「ドキドキぼーいず」のメンバー。

全国25組のアーティストから応募があった中、第一期のアソシエイトアーティストに選ばれたのは、演劇作家の村社祐太郎が主宰する「新聞家」。「詩でもありパフォーマンスでもある」と評された、独自の文体と雰囲気で注目される集団だ。彼らを選んだ理由についてあごうは「作品上演そのものにいたるまでの全工程……企画の立ち上げから稽古、受付、上演時間、そして上演が終わった後と、すべての時間に対して改めて“演劇とは何か?”を問い直す視点を持っています。その視野は非常に広くて、深いものがある」と述べた。

またスタートアップ支援の対象となったのは、ダンサーの捩子ぴじんが新たに結成する「neji&co.」の旗揚げ公演。大駱駝艦退団後、ソロで様々な作品を発表してきた捩子が、京都に拠点を移した上で、初のカンパニーを結成。「一体どういうカンパニーを立ち上げるのか楽しみ」(あごう)ということで、稽古場と劇場費の減免という形で、活動をサポートする。また今年の1月に『題名のないオドリ』を上演した田中泯も、共催公演の形で再びソロ公演を行う。「踊りの根源にも迫る、唯一無二の上演」(公演企画書より)が、どういうものになるか楽しみだ。

新聞家『フードコート』(2019年)

新聞家『フードコート』(2019年)

その他の貸館公演に関しては、現時点で28団体の上演が決定(5月中の公演中止or延期が決定した2団体含む)。その中には「ニットキャップシアター」「壁ノ花団」「烏丸ストロークロック」などの地元京都の有力劇団に加えて、沖縄から参加する団体や、上方舞の公演を行う所があったりと、かなりバラエティに飛んだ面々がそろっている。「日本の演劇は多彩だ」ということを、広く市民に伝えたいというE9の狙いに沿った内容だと言えるだろう。

そして最後に蔭山が、先に触れたサポーターズクラブの今年度の会員募集について告知。現時点では50名の応募があるということだが、これが資金的・精神的にも劇場運営を支える大きな力となるだけに「神様仏様すべての皆々様にお願いしたいと、天を仰ぐ気持ちです」と、加入を強く訴えた。このサポーターズクラブの会員になると、E9だけでなく「こまばアゴラ劇場」など全国5つの劇場&青年団ツアー公演を無料観劇できる(1公演につき1回のみ・エリア限定会員のぞく)という特典が付いている。関西在住の演劇好きなら、ぜひ申し込んでおきたい所だ。

蔭山は劇場のすぐ外にある、桜が満開の遊歩道でサポーターズクラブの解説をした。

蔭山は劇場のすぐ外にある、桜が満開の遊歩道でサポーターズクラブの解説をした。

世間が一斉に自粛ムードという、なかなかハードな時期に2年目の船出を迎えようとしているE9。しかし今回の記者会見では、芸術監督のあごうがもともと現代アートに近い舞台を数多く手掛けてるということもあり、よりジャンルレスな取り組みに意欲を見せていることがうかがわれた。このコラボが上手く進んで、一般市民にも広く伝われば、京都の演劇界だけでなく、アート界をも大きな活性化を見せるのではないだろうか。まずはこの事態が早く収束して、1日も早く観客が劇場に足を運べる日が来ることを祈りたい。

取材・文=吉永美和子

公演情報

THEATRE E9 KYOTO 2020年度プログラム一覧
 
【主催公演】
◎あごうさとし『無人劇』2020年4月29日(水・祝)
◎THEATRE E9 KYOTO× 京都舞台芸術協会 ショーケース企画『Continue』2020年5月15日(金)~18日(月)※公演延期
◎『E9 2030』2020年6月27日(土)
◎『E9アートカレッジ第1期公演』2020年7月10日(金)~12日(日)
◎八木良太 山城大督 op.1/9『Op-US』2020年8月1日(土)
◎黒川創 やなぎみわ 朗読とトーク『いつか、この世界で起こっていたこと』2020年10月6日(火)
◎あごうさとし『ペンテジレーア』2020年10月17日(土)~26日(月)
◎田中功起 映像上映『可傷的な歴史(ロードムービー)』2021年2月11日(木・祝)~14日(日)  

 
【共催公演】
◎《スタートアップ支援》neji&co.『(カンパニー新作)』2020年11月20日(金)~22日(日)
◎Madada Inc.『田中泯ソロ公演 タイトル未定』2021年2月5日(金)~9日(火)
◎《アソシエイトアーティスト》新聞家『合火』2021年3月3日(水)~3月7日(日)

 
【貸館公演】
◎地球とヒトが‘kissする’映画祭 実行委員会 プレイベント 2020年5月2日(土)・3日(日・祝)※公演中止
◎エルファ設立20周年記念公演 劇団石(トル)ひとり芝居『在日バイタルチェック』2020年5月21日(木)~25日(月)※公演延期
◎ニットキャップシアター『カレーと村民』2020年6月18日(木)~23日(火)
◎竹川和裕・うめもと  うめきぬ華『千夜語り-おもしろ上方舞と越前琵琶』2020年7月3日(金)・4日(土) 
◎スペースノットブランク『フィジカル・カタルシス』2020年8月7日(金)~9日(日) 
◎劇団三毛猫座『アンドロイドは毒をも喰らう』2020年8月14日(金)~16日(日) 
◎トーチカ×村田峰紀×山路敦司『憑依するエミール・レイノー#1』2020年8月26日(水)・27日(木) 
◎『京都学生演劇祭2020』2020年9月3日(木)~6日(日) 
◎壁ノ花団『タイトル未定』2020年9月11日(金)~13日(日) 
◎笑の内閣『タイトル未定』2020年9月20日(日)~22日(火・祝) 
◎mimacul『katastroke(カタストローク)』2020年9月25日(金)~27日(日) 
◎劇団FAX『SANSO』2020年10月2日(金)~4日(日) 
◎ブルーエゴナク『眺め(sad case3)(仮)』2020年10月2日(金)~4日(日) 
◎『KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2020』2020年10月下旬 
◎エーシーオー沖縄『レ・ミゼラブル』2020年11月6日(金)~8日(日) 
◎山田せつ子ダンス公演『そして  なるほど  ここにいる(仮)』2020年11月27日(金)~29日(日) 
◎ 児玉北斗『新作ダンス作品』2020年12月4日(金)~6日(日) 
◎烏丸ストロークロックと祭『祝・祝日 2020 (仮)』2020年12月11日(金)~13日(日) 
◎ tuQmo『タイトル未定』2020年12月18日(金)~20日(日) 
◎お寿司『土どどどど着・陸』2020年12月25日(金)~27日(日) 
◎劇団あはひ『流れる-能“隅田川”より』2021年1月16日(土)・17日(日) 
◎サファリ・P『“砕かれた四月”-プロトタイプ-』2021年1月22日(金)~24日(日)  
◎キノG-7『さいごのきゅうか』2021年1月28日(木)~31日(日) 
◎ 辻本佳『洞 (仮)』2021年2月18日(木)~21日(日) 
◎若だんさんと御いんきょさん 安部公房作『棒になった男(予定)』2021年2月27日(土)・28日(日) 
◎童司カンパニー『ヒャクマンベン』2021年3月12日(金)~14日(日) 
◎StarMachineProject『未定』2021年3月17日(水)・18日(木) 
◎NPOスウィング  展示『Swing ×成田舞(仮)』2021年3月20日(土・祝)~28日(日) 

 
■会場:THEATRE E9 KYOTO
■劇場サイト:https://askyoto.or.jp/e9

 
※これは4/11時点での情報です。新型コロナの状況により、スケジュールが急遽変更となる可能性があります。劇場サイトや各団体の公式サイトなどで、最新の情報を随時ご確認ください。
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