イッセー尾形が一人芝居で文豪作品を独創的に描く「文豪シリーズ」第3弾ーー「大阪はネタを育ててくれる貴重な場所」

レポート
舞台
2020.4.20
「雪子の冒険 満州編」(2019年『イッセー尾形の妄ソー劇場』)

「雪子の冒険 満州編」(2019年『イッセー尾形の妄ソー劇場』)

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俳優のイッセー尾形による一人芝居の「文豪シリーズ」第3弾『イッセー尾形の妄ソー劇場~文豪シリーズその3~日替わりプラス1』が5月27日(水)より大阪・阿倍野の近鉄アート館で幕を開ける。本公演では、文豪作品にまつわる5の一人芝居作品を上演した後、毎日、日替わりで新作を1作品、追加上演する。

モチーフは文学作品をはじめ詩、フォークソングと多様に

「謝罪会見」(2019年『イッセー尾形の妄ソー劇場』)

「謝罪会見」(2019年『イッセー尾形の妄ソー劇場』)

演目は5つ。1つは、サルトルの『嘔吐』にかけた『謝罪記者会見』。2つ目のフランツ・カフカ『変身』から着想した『地下駐車場』は新作のようなものだと話す。「カフカの『変身』は働いている男が虫になって、もう外に出ないと引きこもる。そこで彼のお父さんが「息子が引きこもりになったから俺が働く」と警備員になるんですが、家に帰っても制服を脱がない。すでに仕事を引退していたお父さんは、制服を着ることで昔の父権を取り戻せたかのように思っているんです。その存在感がむしろ主人公よりも印象的で、そういった部分に挑戦してみたくて。家に帰っても制服を脱がないという部分に注目した方が自分の本当にやりたいネタに近づけるのかなと思ったんです」

ほかには川端康成の『浅草紅団』を舞台化した立体紙芝居『雪子の冒険 満州編』、アメリカの詩人、リチャード・ブローティガンの作品に惹かれて作った『605号室』。こちらは以前、大阪で上演した際も反響が大きかったという人気作。そして『いまさらフォークシンガー』に関しては「フォークギターは僕の人生を形成した大事なものです。四畳半フォーク、反戦フォークなど、いろんなフォークのジャンルをピックアップして、それらを今のお客さんが聴いたときに、どんなことを思うか、あるいは想像できないか、ちんぷんかんぷんになるのか、それが気になりますね。是非聴いてもらいたい」と話す。

新ネタは谷崎潤一郎の『細雪』から想起したものを予定している。「『細雪』は人間関係が非常に細やかに描いてあって。読んだときに、カズオ・イシグロの小説『私を離さないで』と共振するようなイメージがありました。その細やかさから何かネタを作りたいと思います」と語る。

「文豪シリーズは僕の好きなスタイル」

「605号室」(2019年『イッセー尾形の妄ソー劇場』)

「605号室」(2019年『イッセー尾形の妄ソー劇場』)

約30年、自分でネタを考え、8年前には二人三脚でやってきた演出家と別れたことで、演出家との関係で生んできたものができなくなったが、「やるだけのことをやった」という境地にもなった。そんなころ、夏目漱石を題材にした一人芝居をやらないかというオファーを受けたことで、2018年からこの『文豪シリーズ』が始まったという。

「自分からではなくて、初めて文豪の意図したところから刺激を受けてネタを作ったんです。それは「無責任だけど責任を取る」という、非常にはっきりした僕の好きなスタイルでした。ある程度「漱石さんの世界をやっているんだ」と言えるし、「僕の世界だ」とも言える。二股をかける感じで、それがすごくよかったんです(笑)」

明治の文豪から現代に近づくにつれて変化する文学作品をカバーするにあたって、「夏目漱石さんは主人公以外の人間も生き生きと描かれているから、割とカバーしやすかったんですが、それ以後は、主人公は魅力的だけど、他の登場人物の印象が薄くなってしまってるように思います。人物1人を内向的に彫り下げていく時代に入ったということでしょうね。掘り下げ方が水平から垂直になったイメージ。漱石さん時代は水平。それからだんだんと井戸を掘るように垂直になりました。だから想像するのが難しい印象です」

「大阪はネタを育ててくれる貴重な場所​」

「地下駐車場」(2019年『イッセー尾形の妄ソー劇場』)

「地下駐車場」(2019年『イッセー尾形の妄ソー劇場』)

会場となる近鉄アート館についても「僕を育ててくれた劇場」と話す。「かつては渋谷ジァン・ジァンという小劇場で新ネタをかけて、それが終わってすぐ大阪に来ていました。渋谷ジァン・ジァンは狭い空間でお客さんは僕の顔しか見えない。だから、顔の表情だけを作っていればお客さんは笑ってくれたのですが、大阪のお客さんはシーンとしているんです。あ、これは全身を見ているんだと、初めてぎょっとした空間でした。それから足の先まで人物を作ろうと心掛けました。何十年も前です」

以来大阪は、東京で作ったネタを育てる場所という感覚になり、やがてネタおろしをする場となった。相変わらず大阪の観客は厳しいらしく、「おかしいものはおかしい。おかしくないものはおかしくないという空気を、舞台から肌でつぶさに感じます。だから、公演中も部屋に帰ってすぐ作り直します(笑)。スリリングだけれども楽しいですね。ネタを育ててもらえる関係というのは本当に貴重ですから、大事にしたいと思います」

イッセー尾形の妄ソー劇場~文豪シリーズその3~日替わりプラス1』は5月27日(水)~31日(日)まで近鉄アート館で上演される。

取材・文=Iwamoto.K

公演情報

『イッセー尾形の妄ソー劇場 ~文豪シリーズその3~ 日替わりプラス1』
■会場:近鉄アート館
■開演時間
2020年5月27日(水)開演時間19時
2020年5月28日(木)開演時間19時
2020年5月29日(金)開演時間19時
2020年5月30日(土)開演時間14時
2020年5月31日(日)開演時間14時
※開場は開演の30分前
一般発売中
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