『FM802弾き語り部 リモート編♪vol.3』テレン松本大、9mm菅原卓郎、TOSHI-LOWが、感動は距離を越えると証明した最高の一夜

レポート
音楽
2020.7.2
FM802弾き語り部

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『FM802弾き語り部 リモート編♪vol.3 -at #オンラインライブハウス_仮-』2020.6.22(MON)オンライン_心斎橋BIGCAT

アコースティックライブイベント『FM802弾き語り部 リモート編♪vol.3 -at #オンラインライブハウス_仮-』が、6月22日(月)にオンライン_心斎橋BIGCATにて開催された。

今年のFM802弾き語り部は、新たな試みとしてリモート公演を実施。新型コロナウイルス禍への打開策としてこの春に設立され、自宅にいながら仮想のライブハウス空間が体感できる『#オンラインライブハウス_仮』プロジェクトとコラボレーションし、これまでに2公演を開催。オーディエンスとの双方向的なコミュニケーションをチャットで楽しめるライブ配信は、STAY HOMEな時期の1つの選択肢としても好評を博し、大盛況のうちに終了した。

第3回目となるこの日の出演は、FM802弾き語り部の部長でもある松本大(LAMP IN TERREN)、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)、TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)の3組。回を追うごとにブラッシュアップされていく「リモート編♪」は、入場=ログインすると本来のBIGCATへの道のり同様、心斎橋BIGSTEP 4Fの会場へと向かう映像が、軽快なBGMとともに画面上に映し出されていく。手書きの立て看板も通常のライブさながらに用意され、公演に関するインフォメーションはもとより、新たに発売されるFM802弾き語り部オフィシャルグッズの案内など、「開場時間前のワクワクも体験できて素晴らしいですね」とチャットにも声が上がる構成。

そして、今回は「リモート編♪」3回目にして初めてMCのFM802 DJ樋口大喜が実際にBIGCATへと出向き、同会場ほか多数のライブハウス運営に携わる岸本優二氏(HEADLINE)とオープニングトークを展開。公演終了時に設けられるスクショタイムや、後日改めて視聴できるアーカイブの説明などに加え、出演者3組が自宅からの配信ではなく渋谷のライブハウス7th FLOORに集うことがアナウンスされると、「会場からのライブ。嬉しいです。」「セッションあるかもですね」「モッシュはどうやればいいんですか?」と(笑)、チャットもにわかに色めき立っていく。

TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)

TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)

まずは『部長とヒグチのオンライン部室♪』と称し、松本が樋口にFM802弾き語り部のジングルを弾き語り指南する映像が流れ、先輩後輩のような微笑ましいやりとりに思わず顔がほころぶ。そこからTOSHI-LOW先輩の指令によりウイスキーをたしなみながらトークする松本に映像がスイッチし、「このご時世だからこそ先輩に来ていただいて」と松本が言えば、「卒業したけどいつまでも部活に来る先輩みたいで嫌じゃん(笑)」と返し、登場するなり場を沸かせるTOSHI-LOW。そして、自粛期間中にヒゲをたくわえたTOSHI-LOWが、業界屈指のトークスキルを発揮した過去最長のオープニングを経て(笑)、乾杯の音頭からついにライブがスタート!

そのままの流れでトップバッターは、TOSHI-LOW。「持ち時間が25分って、俺のMCが長いと過ごせちゃう時間だからね?」と笑いつつ、「コロナの中でも何かね、こうやってパソコンの中に閉じ込められて歌を歌え、みたいな機会が結構多くて。『#うたつなぎ』というので一生懸命に歌を披露したところ、みんなにものすごく褒められて。ただ、全然嬉しくなかったのは、「菅田将暉につないでくれてありがとう!」と言われて。「てめぇふざけんなよ、そこかよ!」となった歌を歌います(笑)」と、ド頭からさすがのMCで盛り上げ歌い始めたのは、「今夜」。例え何百キロ離れようともまっすぐに届く歌声の力に、しょっぱなから胸ぐらを掴まれるような強烈な感動が押し寄せる。曲の途中で「見てくれてねーと寂しいな」と、弾き語りユニットthe LOW-ATUSとしても活動を共にする盟友・細美武士(ELLEGARDEN/the HIATUS/MONOEYES)の画像をとっさに背景にする機転も見せるなど、鬼(=TOSHI-LOWの愛称)はオンラインでもいったいどこまで最強なのか。

TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)

TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)

「「ホントに渋谷でやってんの?」と思ってると思うんだけど、今コーラスの人たちが来てくれて……」と、今度はガン黒ギャルを背景に写し出すTOSHI-LOW。「ザワザワし始めたと思うんだけど、俺を呼んだヤツが悪いんだよ?」と、ここでは載せられないこともバンバン話していく、歌にユーモアに壁紙芸にという独壇場はもう最高! そして、TOSHI-LOWはこうも続ける。

「さっき(菅原)卓郎が「この曲いいっすね」と言った曲があるからやろうかな。これは(忌野)清志郎さんの曲で、こういうすごい時代になってしまったけども、それを予言してるような、今聴いてみると「何でこの人は全部分かってたんだろうなぁ……」みたいな曲があって。それをちょこっとだけ現代に寄せて、歌ってみたいと思います」

「善良な市民」のカバーでは、<善良な市民は コロナの中で オンラインライブで遊ぶしかない>と歌詞の一節を変え熱唱。1993年にリリースされた曲ながら、今の時代にも怖いぐらいにフィットする痛烈なメッセージと、それを歌い継いでいくTOSHI-LOWという歌い手の頼もしさが相まった絶妙な選曲で、音楽は人生を変えるという幸福な現実を見る者に心地よく突き付けていく。

TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)

TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)

「皆さん大変だと思いますけど、むしろコロナがあったからこそ、「自分たちの国ってこうなんだなぁ……」とか気付いた人もいると思うし、それはそれで悪いことばっかりじゃなかったのかなぁと。そういう気付きが1つ1つあったらいいなぁと思っていて。ただね、コロナがあろうが震災があろうが何があろうが、我々は歌っていくだけで。悲しかったら悲しい歌を歌えばいいし、楽しかったら楽しい歌を歌えばいい。そういうものがすごく見えてくるだけで、もちろんやらなきゃいけないときはやるし、でも、傷つく人たちが多い今の時期はまだやらなくていいのかなと思うし……。結局、ずーっと何があろうと歌を歌っていく、みたいな曲を……これもパソコンの中から歌わせてもらった曲なんだけど、1曲歌います」

誰も答えを知らない時代に、1つ1つ言葉を選んで想いを伝えたTOSHI-LOWが切々と歌い上げたのは、金子由香利の「時は過ぎてゆく」(1980年)のカバー。前述の「善良な市民」といい、この曲といい、全ては歌が教えてくれるかのように、先人たちが遺した名曲をTOSHI-LOWがその声で届けていく。

「まぁでもね、絶対に生の歌とかバンドにはかなわないから。俺たちが本当に望んでるのは、やっぱり同じ空間で、同じ空気が震えてる振動をみんなで音として確認してそこにいる、ということだから。そのためにも、こうやってパソコンやスマホに映ってる中で、もう1回音楽がみんなにとってどれぐらいの位置にあるか考えてもらいたいと思って今日も出てるし、今後も出ていかなきゃいけないと思ってるし。変な話、ライブハウスだって密にならなきゃいいんだったら、まずはこうやって俺たちみたいな弾き語りの形態を持ってる人たちから……この3人で今だからこそオンラインから飛び出してBIGCATに行くのも手じゃないかなと俺は思っているので。どうやったら自分たちの遊び場が保たれるのか、みんなで考えて、みんなでケアして、一致団結協力していけたらいんじゃないかなと。その最後に、俺たちが見たい幸せがあるんだと思います。というわけで、最後の曲にいきます。これはね、全然人前で歌ってもないし練習もしてないけど、何か新しいことにチャレンジしないとつまらないので。バンドの曲をここで初めて卸してしまっていいのかは分からないんだけど、いい曲なので聴いてください」

TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)

TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)

そう言って歌ったのは『NHKみんなのうた』にてオンエアされている、OAUの「世界の地図」。この曲が備えた、日々のささやかな幸せを愛でるような優しいメロディと歌声が、今だからこそより沁みてくる……。最後の最後まで、その音楽と言葉で観る者に力をくれたTOSHI-LOWのステージだった。

菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)

菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)

「早くTOSHI-LOWさんと生で戦える世界が訪れて欲しい……!」「次はライブハウスで会いたいです」とチャットも賑わいつつ、転換中のトークでは出番を控える菅原が、喉を気遣って今年はここまで呑まずにやってきたが、今日は特別に乾杯したと吐露。そして、「年齢的には(部長・松本より)先輩なのに、部員というのは不思議な感じですが、よろしくお願いします!」と場を和ませながら、鉄板の「ハートに火をつけて」でライブはスタート。画面越しにでも胸を貫く歌声に、元来なら「888888888」と表す拍手の表現も、菅原の場合は「999999999」と9mmならではのチャットのリアクションで、そんなオーディエンスの粋な計らいも楽しい。

「さっきTOSHI-LOWさんにリクエストを聞いてもらいましたけど、昔、初めてBRAHMANとUNISON SQUARE GARDENとで対バンしたとき、「アルバム(=『Revolutionary』)聴いたよ、何かマーシー(=真島昌利・ザ・クロマニヨンズ/ましまろ)のソロみたいだったわ」と言ってくれて……。俺はマーシーが好きですから嬉しいなと思ってたんですけど、さっき歌ってもらった清志郎さんの曲も、マーシーのシニカルな視点に通じるものがあるよねという話をしてたんですよ。政治だけでもダメだと思うし、ロマンチックなだけでもダメだと思うし、ちょうどいいところを見つけたいですよね。あと、9mmも15年活動してきて、何と桜の歌を初めて作ってしまいまして。ホントは3月の間にいっぱいライブして歌おうと思ってたのに全部ぶっ飛んでいっちゃったんで、今ここで歌おうと思います」

菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)

菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)

チャットにも桜と拍手の絵文字が舞った「君は桜」は、少し遅れてやってきた春の歌が心をそっと駆け抜けていくように響く。バンドの持ち味である激しい音像でなくとも、きっちりと歌が刺さるのは、まさに声とメロディの力だと言えるだろう。

「ライブハウスは当然大好きで、1日も早くライブがしたいし、さっきTOSHI-LOWさんが話してたこともずっと頷きながら聞いてたんですけど、バンドマンがライブができない間も、じゃあ今のうちにギターを練習しようとか、楽譜を読めるようになろうとか、音楽に関わることをする時間があったから……余計に音楽が好きだなというか、音楽の力が増してるなと感じることがたくさんありました。9mmは去年、J-POPの空いてるピースを埋めていくかのように桜ソングに続いて応援ソングを作ったんですけど、新型コロナウイルスで自粛してる期間に、みんなが頑張ってる間に、「頑張れ!」という言葉だけではなく応援する曲を作ることができてよかったなと感じていて。その曲を聴いてください」

艶やかな歌声から放たれる「名もなきヒーロー」に込められた、心が奮い立たされるような理解と闘志に、9mmがシーンで確固たるスタンスを築いている理由を思い知らされる。ここでハーモニカホルダーをセットし、「部長は大変ですよね。俺、大学の軽音部で部長をやってたことがあって。9mmのギターの滝くんとベースの(中村)和彦が配下にいて(笑)、ドラムのかみじょうくんは先輩だったんですけど。部員でいられる方が気が楽なんで、これからも呼んでほしいと思います」と松本に呼びかける菅原。続けて、「さっきTOSHI-LOWさんが「マーシー感あるね」と言ってくれたアルバムのタイトルトラックを聴いてください」と「The Revolutionary」のイントロを奏でるも、思いがけず失敗。そこで現場から「よっ!」と冷やかしの声が上がったのも出演者が同じ空間を共有してるからこそで、そんな何気ないシーンにもライブの醍醐味を改めて感じる。その後は気を取り直しエモーショナルに歌い切り、いよいよ最後の曲へ。

菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)

菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)

だが、「前回、弾き語り部でTOSHI-LOWさんと大と一緒にやったとき、俺が中島みゆきさんの「糸」を歌ってたらニョキッとTOSHI-LOWさんがステージに現れたんです。TOSHI-LOWさんにはずっとそうやって後輩たちには、好きなように言ったり、自由に登場したりしてほしいですね」というMCが、まさか大いなるフリになるとは……(笑)。ラストの「Black Market Blues」で突如TOSHI-LOWが飛び入りし、菅原の背中に歌詞を貼り付け歌唱する光景には、「さすがwww」「息ぴったりですね!(笑)」とチャットも大盛り上がり。FM802弾き語り部ならでは、そして、ライブハウスならではのハイライトと言える嬉しい共演となった。

松本大(LAMP IN TERREN)

松本大(LAMP IN TERREN)

「よく考えるとすごいところにいるんだなと。9mmもBRAHMANもコピバンとかをやってるときから聴いてたんで」と転換中のトークでしみじみと語ったトリの松本が、グランドピアノの前に座り奏でた1曲目の「I aroused」から、「久しぶりにピアノバージョン聴けた気が。」「贅沢だ……」「耳が幸せ」とチャットが反応するのも納得。自宅からの配信ではなくライブハウスだからこそ実現したグランドピアノの弾き語りは、真横から松本を捉えたカメラワークも含めて最高に絵になるオープニングに。続く「花と詩人」でも美しい旋律を響かせ、まじりっけなしの楽曲の力に、息を呑むように画面に釘付けになってしまう。シーンをサヴァイブしてきた偉大なる先輩たちを前に、真摯に音楽で対峙する松本の姿には、部長として誰よりも弾き語り部のステージに立ち、1本1本経験を積んできたミュージシャンの誠実さを感じる。

そこからステージ中央に移動し、ギターを手にする松本。「今日はちょっと渋めの選曲になっちゃいますけど」と、今度はユーミン(=荒井由実)の名曲「翳りゆく部屋」(1976年)のカバーを披露。自身の楽曲を含め、静寂の中に確かな力を秘めた楽曲の連続に心が揺さぶられる。この日は全編通してそれぞれのカバーの選曲も見事で、イベントのドラマ性を増幅させるのに抜群に機能していた。

松本大(LAMP IN TERREN)

松本大(LAMP IN TERREN)

「ゲストは変わっても僕はずっと一緒なんで、「部長は見飽きたよ!」っていう方も中にはいらっしゃると思うんですけど、僕はこの弾き語り部でものすごくいい勉強をさせてもらっていて。ライブをやってても、普段はあんまりホーム感がないんですよ。でも、卓郎さんもTOSHI-LOWさんもありがたいことに会うと話せる仲になったので、最近は音楽をやってても孤独を感じません。居場所があるなと思います。感謝してます、ありがとうございます!……いいよね、仲間に入りたいと思っちゃった。さっきの「Black Market Blues」、俺も行った方がいいのかなと思ったけど、ちょっと行きそびれました、すいません。次は行きます……頑張ろ(笑)。今日はあともう1曲、自分の歌を歌って終わります、ありがとうございました!」

松本大(LAMP IN TERREN)

松本大(LAMP IN TERREN)

最後の「BABY STEP」で、<幼い僕は孤独を知っている いつも誰かと比べてしまうから>と歌っていた彼が、今こうやって居場所を感じられている。オンラインでもしっかりと伝わるぬくもりと意志を宿した素晴らしいパフォーマンスに、「ほんとに今回100人の中に入れてよかった!」「今日は“弾き語り部”という特等席に参加出来て感謝です。」「めちゃくちゃ元気出ました」とオーディエンスも感無量のリアクション。

FM802弾き語り部

FM802弾き語り部

そして、せっかく同じ場所にいるということで、「リモート編♪」としては初のセッションも実現。「グッときたね、モテるよ」とのTOSHI-LOWの絶賛に照れる松本。まさに放課後的な自由過ぎるフリートークを展開しつつ、「子供の頃に聴いたときと、全然違う気持ちになるんだろうなと。これを歌う2人も見たかったですし」と、松本セレクトで坂本九の「見上げてごらん夜の星を」(1963年)を演奏することに。松本のピアノ伴奏をベースに、3人が歌声を重ねていく絶品カバーは、まさにこの日限りのスペシャルなワンシーン! オーディエンスに向けたスクショタイムが終わるなり、「今年中にこの企画やらない? このメンツで。今日、日程を決めよう!」とTOSHI-LOWから声が上がるほどの充実感×最後の最後までログアウトしない親密感で見せた、『FM802弾き語り部 リモート編♪vol.3』。90分の予定が2時間半にも及んだ感動のライブが、リアルBIGCATで再び観られる日もそう遠くないかも!?

取材・文=奥“ボウイ”昌史 撮影=FM802提供(渡邉一生)

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