wasabi(谷口鮪×津野米咲)インタビュー KANA-BOONと赤い公園のソングライターが初の共作を語った
wasabi
KANA-BOONの谷口鮪と、赤い公園の津野米咲によるユニット・wasabi(谷口鮪×津野米咲)が始動した。一見「それって有りなの?」という意外な組み合わせが、曲を聴いたあと「これしかないね」に変わる、それは確かに音楽による小さな奇跡だ。二人だけの共同作業で作り上げた「sweet seep sleep」は、先の見えないコロナ禍の中、ゆっくりと眠れずにいる人々の心にそっと沁み入る優しい優しい音楽。出会いについて、初めての共作について、そして今を生きる音楽家のやるべきことについて、二人の思いをリモートで繋いで聞いてみよう。
――そもそもなぜwasabiなのか?と思ったんですけどね、このビジュアルを見てわかりました。あ、なるほど、「鮪と米だからワサビか」と。
谷口:はい。あんまり紐解くと恥ずかしいですけど。
津野:恥ずかしい……。
――めっちゃキャッチーですよ。どっちが言い出したんですか。
谷口:津野さんじゃなかったっけ?
津野:私でしたっけ。なんか本当に、つらつらとやり取りしてて、どこかで決まりました。データのやり取りの時に、曲のタイトルがないから、「鮪と米」ってずっと書いてたんですよね。それに引っ張られちゃったのかな。
谷口:二人とも、「鮪と米」が気に入ってたもんね。
――そもそも、今回一緒に曲を作ろうというのは、どんなきっかけが。
谷口:もともと1年とかもっと前ぐらいから、普通に会話の流れの中で、「一緒に曲作ってみたいな」という話はしてたんですよね。けっこう長い企画でした。
津野:1年前とかは、どういうふうに作るとか、全然話してはいなかったので。漠然と「一緒に作りたい」みたいな感じだったんですけど、今回漠然とやる時間があったので、できました。
――せっかくなので、もっとさかのぼって。初対面の話とか。
谷口:初対面は、フェスなんですよね。確かライジング(『RISING SUN ROCK FESTIVAL』)。北海道やったから。まだ友達も全然いなくて、僕がひとりぼっちでいたんです。「誰か話しかけてくれんかな」ぐらいの感覚で、一人でたたずんでいたところ、津野さんが声をかけてくれて、最初はそこですね。その時は本当に挨拶程度なものでしたけど。
津野:私は「KANA-BOONのボーカルが一人でいる!」と思いました(笑)。だだっ広いところにふたりっきりになって、挨拶しとかないと思って、先輩だし、挨拶しました。緊張しました。
谷口:そこからずっと津野さんは、「めちゃくちゃ優しい人」という印象があります。
津野:良かったです(笑)。
谷口:そこからは、そんなに会うことはなかったんですけど。『VIVA LA ROCK』がでかいよね。
津野:うん。私が毎年参加している、J-ROCKをカバーするバンドに、鮪さんが歌を歌いに来てくださって。ワンコーラス丸々、二人っきりで演奏するところがあったんです。
――曲は何を?
津野:「歌うたいのバラッド」です。私が鍵盤で、鮪さんが歌で。あれ緊張しましたね。
谷口:緊張したね。
津野:それを乗り越えたら、その前の日よりすごく仲良くなれた気がしました。
谷口:それ以前とそれ以後でだいぶ違ったよね。そこから、何人かで遊んだりとかあったり。
津野:共通の友達がいることが発覚して。
谷口:そこからやね。「一緒に曲を作ろう」という話が出てきたのは。
――でもどうなんだろう。お互いのファンって、けっこう意外な組み合わせに思うのかな。バンドのスタイルや音楽性とかを考えると。
津野:対バンもないし。「同世代」ぐらいの感じですよね。
谷口:公の場の接点があんまりないから。どういう二人なんやろ?という不思議はあるかもしれない。
「sweet seep sleep」
――そのへんを少し掘っていくと、たとえば友達とわいわいやってる中で、二人でいるときは音楽の話もする?
谷口:まあ、しますね。でも、あらためてちゃんと話してないかな。
津野:お互いの音楽の話というよりは、鮪さんはよく音楽を聴いてらっしゃるから、「最近これいいね」とか。君島大空くんの話をしたの、覚えてます。
谷口:ああー。しましたね。
津野:そういう感じ。
――ざっくりと、共通点は?
谷口:特に、音楽の趣味が近いとかでもないんじゃない? けど、同世代だから自然と耳にする音楽は……。
津野:近いかも。
谷口:自然とテレビから流れてた曲とか、いわゆるポップソングは、同じものを聴いてきてるから。曲作りに繋がるところは、あるんじゃないかなとは思います。
津野:年は一個しか違わないんで。
――それで、「これは一緒に作ったら面白そうやな」と。
津野:そう。作ってみたいと思った。
谷口:「一緒に作る」なのか、何かしらの形で音楽で関わりたいなと。すごく尊敬しているソングライターの一人なんで。
――でも谷口くんって、あんまり共作したことってないでしょう。
谷口:ボーカルでゲスト参加はありますけど。共作はないですね。
――そういう興味もあった? シンプルに、誰かと一緒に作ってみたいという。
谷口:そうですね。数年前から曲の作り方が変わって、ずっとバンド・セッションで、スタジオでみんなでやっていたのを、一人で自宅で曲を作るやり方にシフトしてから、曲作りに対して、バンドでやるものという制限がなくなったから。その中で、いろんな人と作ってみたいということは思っていたし、そういう流れは何年か前からあって。まあでも、最初が津野さんで良かったなと思いますね。お互いにストレスなく曲作りが出来たと思うし、あと、曲ができた時の喜びの噛みしめ方がかなり近い。
津野:そうですね。
谷口:曲が出来たときのうれしさの表現とか、たまらない気持ちとか、その喜び具合が我々は非常に高い(笑)。1曲できた時の喜びがすごく強いと思うんですけど。
津野:恥ずかしいな。
谷口:それをお互いに、「あ、同じ気持ちで喜び合ってるな」というのを感じましたね。
――それは「やったー!」って感じ? それとも噛みしめる感じ?
津野:噛みしめて、漏れちゃう感じですかね(笑)。
谷口:ずっとニヤニヤしてる。
津野:何回も何回も聴いちゃうんですよね。
――津野さんもあんまり共作ってないでしょう。
津野:たぶんないと思います。
――津野さんの側には、共作に関して、どんなモチベーションがあったんだろう。
津野:誰かと一緒に音楽を完成させることは、もともとすごく好きなんですけど。今までは、たとえばある程度完成したものを編曲家さんに投げて、編曲してくださったりとか、そういうことは多かったけど、ある程度完成しないまま投げるという、柔らかい状態から人と一緒に作るというのは、自分にとってはすごく勇気のいることなんですけど。鮪さんはすごく魅力的な音楽家だし、鮪さんがどういうふうに曲を作ってるのか、見当もつかないという興味と、安心感と、あとは、鮪さんとだったら誠実に音楽が作れるような気がするという予感と、という感じでした。
――じゃあ、具体的に曲の話に入っていこうと思いますけど、最初に恥ずかしい話をすると、「sweet seep sleep」って、seepを羊だと思い込んで、昨日までそう思ってました(笑)。
津野:そうなんです。Hは入ってないんです。
谷口:俺も最初のほう、ずっと羊やと思ってた(笑)。
津野:seepは沁み込む、浸透する、みたいな意味で。音はほとんど一緒なのに、面白いなあと思って。初めて見た単語でした。
――まず、曲の最初の種はどっちが蒔いたのか。
谷口:津野さんからですね。
津野:コードループと、リズムが入ってるやつを送りつけました。16小節とか、長めのものを。
――送り付けられた谷口くんはどう思ったのか。
谷口:「本当に送ってくれた!」と思った(笑)。その少し前に、何人かでオンライン飲み会をやったんですよ。そこでも曲作りの話は出て、そこからわりとすぐに最初のデモを送ってきてくれて、すごいうれしかったんですよ。「あ、いよいよ始まるな」と思って。僕もすぐメロと、歌詞も同じタイミングで書いて、送りつけ返して(笑)。
津野:それでオケをいじって、ループだったのをやめて、再度オケを作って。を繰り返して、往来でできました。
谷口:現在の完成形に至るまでに、違うパターンが何パターンかあって。最初はギターも入ってなかったんで。
津野:入ってなかった。もうちょっと怪しげな感じのサウンドとかも、通過しましたよね。
谷口:あんまりカラッとしてない感じのやつ。それを聴けるのが楽しかったです。いろんなアレンジを。
――アレンジは津野さん担当で、アイディアをばんばん出していったと。
津野:できるだけ出しました。でもいろいろやってみたけど、わりと素朴な感じに落ち着いたと思います。
――一番穏やかバージョンがこれですか。
津野:一番最初のやつが、一番穏やかかな。
谷口:そうね。もっと眠りのイメージが強い段階があったけど、完成形は、それに体温が加わったような感覚がありましたね。
――津野さん、送り付けたループに谷口くんのメロディが乗って、戻ってきたときには?
津野:めちゃくちゃうれしかったです。「何と申し上げたらいいのか」という感じでした。私は、コードのループを渡されて曲を作ったことがないから、「こんなにいい曲書けるんだ」と思って感激したのと。コードとリズムだけですけど、優しい気持ちで選んだ音が、もっともっと優しいメロと歌で返って来たから、すごくうれしかったです。
――谷口くんは、津野さんの選ぶリズムや、音色や、音の積みとかに、どんなことを思ったのか。
谷口:アレンジを重ねていってる段階では、すごく多彩な人やなと。一個一個手を抜かない、と言うと当然なんですけど、ちゃんと音に愛情を感じるというか、「今好きな音楽を作ってる」というのが伝わってくる感覚はありましたね。最初の段階からそれを感じてたので、あったかみというか、それにふさわしいものを返したいなという気持ちで僕も取り組みました。
――歌詞は、眠りがテーマというか、楽しい夢を見て、また明日君に会いたいという、とても素直な気持ちを綴ってます。
谷口:この状況の中で、歌いたいこととか、自分のしたいことを素直に書こうと思ったんで、わりとすぐ書けたというか、ずっと思っていたことでもあったから。(コロナが)早く収束してほしいという願いと共に、それぞれの暮らしが荒んで行ってることを感じるから、そこに癒しのような、逃げ場のような、窮屈なところから少しでも心をゆるめることができたら、と思いながら詞は作りました。
――今の情勢を、本当に飾らずそのままに。「暇つぶしの映画」というフレーズとか、みんなそうなんだろうなって、共通項をすごく感じます。
谷口:そういう中でも、先の楽しみは消してしまいたくはないので。その歌詞の部分もそうですよね。今を耐え忍ぶためのものでもあったりはしますけど、でもこれから先、また友達と会ったり、好きな人と会ったり、また未来が開けたときに楽しめるように、今を過ごしたいなと思って、それが健全やなと思うので。
――「なるだけ楽しい夢を見て」というのはすごくいいフレーズ。実際、良くないときには良くない夢を見るものだし。
谷口:自分の気づかないところで、摩耗していく感じはありますよね。
――こういうふうに、社会情勢を踏まえた歌詞って、今まで書いてなかったでしょう。
谷口:やっぱりバンドで歌うとなると、何て言うんですかね、ちょっとしょい込むようなところもあるから。あんまり素直には書けないところも、ものによってはあったりすると思うんですけど。「すべて素直に書くことが正しいのか」と思うところもあるし。まあでも今回は、一個人としての、一人のミュージシャンとしての伝えたいこととか、表現したいこととか、そういうことをやるフィールドだと思ったから。
――すごく新鮮でしたね。津野さんは、谷口くんの歌詞を見て何を?
津野:今だから、というのももちろんあるけど、想像しきれない部分があるんですね。みんながどういうふうにおうちにいなきゃいけないのか、それでも働きに行かなきゃいけない人、働きに行きたいのに行けない人とか、いっぱいあるんだろうなと思ったら、想像が全然追いつかなくて。その頃、私も自分で新曲を作ろうと思って書き始めてはいたけど、言葉は何を言ったらいいかわからなくて、なるべく関係のないことを書く時間が続いていってたんですけど、鮪さんから歌と歌詞が返ってきて、聴いて、言葉を選んで詞にするというセンスや、アイディアの持ってる力みたいなものに、すごく心を楽にしてもらいました。こうやって話すと、これくらい長くなっちゃうようなことを、たった数文字でメロディと一緒に伝えてくれるんですよね。「今だからだけど、これからもだよ」って。昔からあるし、これからもある、寂しい夜とかやるせない夜とかに、すっと沁み込む詞が書ける力に、すごく感動しました。
――seepですね。
津野:seepですね。
――作詞作曲は二人の名前になってるけれど。津野さんも手を入れたりしたのかな。
谷口:えっと、最後のサビの前に、津野さんがさらに構成を足してくれて、そこの歌詞は津野さんが書いてくれたので。オケに関しては、全部津野さんがアレンジしてくれました。
津野:主メロはほとんど鮪さん。
谷口:今回はそういうことになりました。
wasabi
――津野さんのハモリ、とっても素敵。
津野:ぶっ。
谷口:そうなんですよね。
――バンド以上にはっきり声が聴こえるから、すごく新鮮で……なんで顔伏せるの(笑)。ほめてるのに。
谷口:すごく素敵な声でした。
津野:ありがとうございます。
――歌は、楽しめました?
津野:はい。恥ずかしかったですけど、心を込めて歌いました。……照れちゃう。
――いい曲ですから。胸張ってください。
津野:はい。胸張れます。
谷口:津野さんボーカルの曲も、作りましょうよ。
――それいい。だってこれ、ちゃんとユニットだから。続くんでしょう。
谷口:まあ、ゆるやかに。
――そのうち出ますよ。津野さんボーカル。
津野:鮪さんが上手にそそのかさないと。
谷口:そそのかします。
――楽しみにしてます(笑)。津野さん、今回作り終えて、新しい発見はありました?
津野:はい。バンドと、自分個人でほかの方に書かせていただくものとは違う感じでした。音楽を好きな人と、音楽を作るという素晴らしさは、どこでもありますけど、二人っきりだったこともあって、より濃く感じられるなあと思いました。
――この曲の最後、心臓の鼓動みたいなビートで終わっていくでしょう。あれがすごく良くて。
津野:良かった。
――人肌のぬくもり感というか。
津野:そう。音楽を、眠れないときから再生するとして、最後はもう体に沁み込んで、自分と音楽が溶け合ってきたら、最後は心臓の音が聴こえるのかな?と思って、入れてみました。
――すごくいいと思います。そしてタイトルの「sweet seep sleep」も、津野さんが。
谷口:そうですね。
津野:どうやって決まったんでしたっけ。
谷口:一番最初に出たから。
津野:iPhoneのメモ帳に、最近手書きできるじゃないですか。ペンの色を選んでいて、薄い水色が合うなあと思って……あ、「sleepは入れたいね」というのは、話してましたよね。
谷口:うん。
津野:ほかに「sleep」みたい響きの言葉ないかな?って探してて。「sweet」も入れたいと思ってたんで、パズルしてたんだと思います。最初、羊のsheepもいいなって思ったんだけど、曲が、ふんわりした中に、欲しい人にとってはちゃんとピリッとした意味があるような気がして。もうちょっと単語を探してみて、Hのないseepを見つけました。
――確かに、羊だとメルヘンすぎるかもしれない。これは、もっとリアルな現実だから。
津野:でも、「羊だと思ってた」というのは成功です(笑)。
――途中経過の、怪しいバージョンとかもいつか出してください。聴いてみたいんで。そしてとりあえず、今はライブはできない状況だけど、谷口くん、クリエイター魂はちゃんと元気ですか。
谷口:はい、もちろん。wasabiがあったおかげで、ずいぶんやる気に火が付きましたし、ありがたいことに、KANA-BOONのほうでもいろいろ制作をしていて、この期間にも音楽を作る理由はちゃんとあって、その中でもちろん火は絶えることはなく。津野さんと一緒に作るというのも、穏やかだけど刺激のあるやり取りで、さらに音楽を作ることの喜びをあらためて感じたし。憩いの場というかね。普段だったらガーっと、全身全霊で、鬼のような形相で曲を作るから(笑)。
津野:ふふふ。
谷口:その達成感と喜びと、もちろん疲労も伴うというか。身を削ってるから。wasabiの場合は、そういうんじゃない音楽の生まれ方というか、そういう存在があってすごく僕は救いでした。
――津野さんも、クリエイター魂は燃えてますか。
津野:燃えてまーす。赤い公園は、先を見て、けっこう前に録り終えて、アルバムに入れてないものもあったりして。急ぎの作業が最近はあまりなかったんですけど、鮪さんとの共作があったので。私も穏やかに、でもかなり強めに背中を押してもらえたような気がしています。
――ワサビのように、ピリリと刺激のある。
津野:ピリリと……。
――違うか(笑)。うまいこと言ったかと思ったのに。
津野:いえ、今の、私の反応が悪いですよね。自分たちでwasabiと言ってるのに。
谷口:もっと乗って来いよって(笑)。
――いやいや(笑)。でも強引に持って行くと、ワサビって、お寿司には絶対必要だし。ありすぎても困るけど、ないと引き立たない。すごく重要なスパイスで。
谷口:お互いにとっても、人としてそういう存在ですよ。
津野:ですよ。
谷口:刺激的な存在だと思いますよ。
――いい曲をありがとうございます。近々また、対面でお会いできることを願ってます。
谷口:はい。ぜひ。
津野:ありがとうございました。
取材・文=宮本英夫