神田伯山、 新春連続読み『寛永宮本武蔵伝』完全通し公演 令和三年、あうるすぽっとにて開催が決定
2021年1月6日(水)〜16日(土)あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)において、講談師 神田伯山 新春連続読み『寛永宮本武蔵伝』完全通し公演 令和三年が開催される。
2020年2月11日、真打昇進とともに大名跡を襲名した神田松之丞、改め、六代目神田伯山として、初の連続読み通し公演は『寛永宮本武蔵伝』。“真打の武芸物”を模索する第一歩となる。
東京都豊島区出身の伯山は「あうるすぽっと」と縁があり、初出演は、2018年、同劇場の人気企画“みんなのシリーズ”で、日本の伝統語り芸を代表する旬の実力派を集めた『みんなの演芸』だった。
伯山は「講談を集中してじっくりと聴くには、あうるすぽっとのような300 席規模のブラックボックスの劇場空間が大変優れている」と感じたとのこと。自身の活動のなかで最も重きを置いている“連続物”の上演に同劇場が適した環境であるとして、2019年1月に『慶安太平記』全19 席、2020年1月には『畔倉重四郎』全19席の“連続読み完全通し公演”に挑んだ。いずれも5日間の通し券のみであったにもかかわらず、即日完売。伯山の「連続物の楽しさを伝えたい」という強い思いに応えるかのように、多くの観客が、緊密した贅沢な空間で気鋭の講談師の一言一句を堪能しようと、連日足を運び大盛況となった。
『畔倉重四郎』完全通し公演2020 より 撮影:橘 蓮二
『畔倉重四郎』完全通し公演2020 より 撮影:橘 蓮二
『畔倉重四郎』完全通し公演2020 より 撮影:橘 蓮二
伯山と、彼が敬愛する師匠の神田松鯉が“講談の醍醐味”として強くこだわり続けている“連続物”は、時代の変化にともない上演の機会が少なくなっているが、あうるすぽっとは、演劇専用ならではの劇場の特性を活かして客席との一体感や高揚感、加えて5日間をともに完走する充実感を最良のかたちで演出し、伯山のパフォーマンスをよりいっそう輝かせる。
『寛永宮本武蔵伝』は伯山が初めて覚えた連続物で、あうるすぽっとに初登場したときの読み物も本作の一席「狼退治」(『武蔵』第4話)だった。「狼退治」は一席物としても人気だが、連続読みの中で聴く機会は少ないため、その点もファンにとっては楽しみのひとつとなる。
緩急自在な語り口と巧みな張り扇のリズムで物語を引っ張り、演劇的とも言える演技性の高い会話表現によって登場人物に息を吹き込む様が魅力で、客席は情熱的でドラマチックな迫真の語りに息をのみ、物語にのめり込んでいく。真打として、伯山の名では最初の連続物の通し公演となる本作では、どのような舞台を見せてくれるのか。
また、今回は東京だけではなく、あうるすぽっとに似た環境をもつ名古屋と福岡の劇場でも上演が決定している。
伯山は本作について、「宮本武蔵は、江戸から東海を通って九州に向かう旅の話です。物語も西へ西へと旅するので、各地のお客様には、武蔵が近づいてくる感じも皮膚感覚で楽しんでいただけるものと思います」と話し、また、「連日、同じところに通って話を聴くというのは、この忙しい世の中では大変なこと。でも、特殊な会に参加するのはワクワクするもので、生涯に一度あるかないかという方もいらっしゃるでしょう。お客様が、通ってよかったと思っていただけるような大団円を迎えられるよう努力したいです」と意気込みを語っている。
講談人気の復活のために先陣を切り、歴史に名を刻む“伯山のいま”を、ぜひ堪能したい。
神田伯山 メッセージ
「襲名後初の連続読み完全通し公演を前に」
今回の連続読みは、初心に立ち返って挑戦しようと思います。稽古をし直すつもりで、改めて言葉を大事にして、一言一言に何か発見があると良いと思います。全編を読み返すと発見がいっぱいあります。途中、これは必要がないのでは、と感じるエピソードなども、最終話で「あの話があるからこそ、最後がこんなにもドラマチックになるんだ」ということがわかります。お客様のなかには、5 日間にわたって連続物の会に通うことなんて生涯に一度の経験となる方もいるかもしれません。僕も全力で一生懸命にがんばろうと思います。伯山の名を継いだ今、このライフワークについては、お客様にも連続物の会だけは特別というか、「連続物の時の伯山はちょっと違う。鬼気迫るものがあるね」と思っていただけるよう、“真打としての芸”を突き詰めていきたいと思っています。 [談] (2020 年10 月)
二刀流の伝説の剣豪が死闘を繰り返し西へ西へと旅する17 席の物語
豊前小倉藩の家臣宮本伊織の子で、江戸の藩邸で生まれた宮本武蔵は、父について剣術を学び、工夫を重ねて二刀流をあみ出した。武蔵の妻の父であり、白山下に道場を構える石川軍刀斎巌流(いしかわぐんとうさいがんりゅう)の評判をねたんだ肥後熊本の剣豪、佐々木小次郎岩柳が弟子を「偽岩柳」に仕立てて江戸に送り、巌流に果し合いを申し込む。病身のため宿敵の挑戦を受けられぬ巌流は無念の自死。武蔵は「偽岩柳」を討って義父の仇を討ち、真の小次郎岩柳を倒すため、江戸を後にする。箱根の山中で狼を退治し、名古屋で御前試合をし、老いたる柳生十兵衛と戦い、天狗退治に名乗りを上げ、熱湯風呂で窮地に陥るなど、名だたる武芸者、武術家と巡り合い、あるときは教えを乞い、またあるときは死闘を繰り返しながら、西へ西へと旅を続ける。ついに下関で小次郎岩柳の足跡を見つけ、武蔵は関門海峡の船上で小次郎岩柳に出くわし、豊前小倉の灘島(巌流島)での最後の決戦で首尾良く宿敵小次郎を倒す。
(本文は、神田松之丞 著「神田松之丞 講談入門」河出書房新社 より)