MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第二十五回目のゲストは藤田ニコル 仕事とは与えられた機会をこなすものではなく、自ら果敢に挑んでいくもの
MOROHAアフロの逢いたい、相対:藤田ニコル 撮影=森好弘
MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第二十五回目のゲストはモデル・タレントの藤田ニコル。2人の出会いは去年の夏、SUPER BEAVER・渋谷龍太の紹介で友達として親交が始まった。初対面の日、藤田に「俺たち一緒に曲を作るんだけど、ニコちゃんMVに出てくれない?」と誘って「magic」と「blue」の出演に至る。今回の対談は藤田が出演したMVの話、仕事における両者のスタンス、人生が変わった日のことなど、仕事からプライベートまでたっぷりと語られている。放課後に仲の良い先輩・後輩が話し込んでいるような、まるで旧友と楽しい時間を過ごしているような、終始温かい時間が流れていた。
MOROHAアフロの逢いたい、相対
●世間が新しいものに食いついて、興味を失うまでって1年くらいじゃん●
アフロ:俺と(藤田)ニコちゃんの出会いは、渋谷(龍太)くんに紹介されて友達の関係から始まったよね。
藤田ニコル(以下、ニコル):そうそう。出会ってそんなにですもんね。何ヶ月くらい?
アフロ:夏に会ったから、まだ半年くらいじゃない?
ニコル:初めましての日には、もうMVの話をしてましたよね。
アフロ:渋谷くんと「MVはどうしようか?」「曲の雰囲気的に女の子に出て欲しいよね」と話していたら、ちょうどその場にいたんだよね。
ニコル:「ニコちゃん、俺たちのMVに出てくれない?」と言われて、最初は冗談だと思ったんですよ。他の友達でも音楽をやっている人はいて「MVにいつか出てよ」と言われるものの、実現しないことは何度もあったから。その場で誘われて本当に実現しているのはすごいことだよね。
アフロ:俺達だけが厚かましかったというね。あはは。でもさ、自分たちの生きがいというか、本当に一生懸命やっているものに対して口にした「いつかやろう」という言葉が、ふわっと消えてしまうなんて悲しいじゃん。
ニコル:でも、そっちの方が多いですよね。
アフロ:「一緒に仕事しようね」と希望的な言葉だから実現するか分からないとしても、どんどん言った方が良い、という考え方もできるもんね。ただ渋谷くんとの曲作りにしても、ニコちゃんとのMVにしても「一緒にやろう」と話した時、これは実現しなかったら互いを見損なっちゃうなと思ったんだよね。舐められたくない、というか。
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ニコル:曲を作る案が上がって「いつから動き始める?」みたいな話はどっちからしたんですか。
アフロ:どっちだろう? 話をした翌日にはトラックが送られてきたんじゃないかな。
ニコル:それはお互いのフィーリングが合致して、本気でやりたいと思ったからこそ、ラリーが早かったんでしょうね。
アフロ:いざ曲を作りだせばメロディ、歌詞の送り合いの中で熾烈な闘いが始まったけどね。ほら、お互いに自分が一番目立ちたいタイプだから。
ニコル:ハハハ。そういえば『スペシャのヨルジュウ♪』観ましたよ。あんなに仲の悪い人たちが一緒に曲作りをできるのが良いなと思った。
アフロ:『スペシャのヨルジュウ♪』ね。楽しかったなぁ。俺、テレビの現場に行くと「番組の製作費はいくらだろう」と頭の中で計算しちゃうの。自分達のMV撮影の予算とかも、把握しつつバンドを動かしている手前、これだけの人を動いてもらうのにどれだけお金がかかるんだろうって。そういう大きな現場にニコちゃんは日々いるんだもんね。
ニコル:毎日いるね。だけど、お金のことは考えたことない。考えたら期待に応えなきゃいけないプレッシャーを感じすぎちゃうから、あんまり気にしないようにしてる。
アフロ:でもニコちゃん、人の気持ちとか場の空気をめちゃめちゃ考える人だよね。その中で、その思考はあえてオフにしているんだ?
ニコル:時には気にしなきゃいけない場面もあるけどね。ただ、お金のことばっかり考えちゃうと楽しくなくなるタイプだから、テレビでは気にしたことないかな。
アフロ:その方が自分の能力を発揮しやすいってことだよね。それで言うと、早い段階で自分の取り扱い説明書を見つけたでしょ?
ニコル:早めに見つけたね。でも、自分の中では意外ではあるの。ぶっちゃけ、もっと早く終わっている予定だったから、22歳になって5年以上もテレビに出られているのは予想外なんだよ。
アフロ:自分の予想を反してテレビに出られてるわけだ。
ニコル:うん。世間が新しいものに食いついて、興味を失うまでって1年くらいじゃん。だから、まだ出られているのは不思議。昔はもっとキャラクターちっくだったのね。「にこるんビーム」とか出してたけど、ああいうのはもう消えてるし。
アフロ:消えてるというか消したでしょ?
ニコル:求められた時に出なくなっちゃったの。
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アフロ:言ってることは分かるよ。ライブ中、ギタリストって感情が高まると床に寝転がったりするじゃん。多分、最初は感情のままに転がっていたんだけど、他人に「あの動きが見たい」と思われて、お金を払ってライブに来られると、その偶発的なところが仕事になってきちゃう。
ニコル:そうなった時は、自分の楽しみでやれなくなるよね。
アフロ:責任感が生まれちゃうってことだよね。
ニコル:ウチもある時から台本に「登場して最初に、「にこるんビーム」を出す」と書かれるようになったの。もちろん制作スタッフさんの気持ちも分かるよ。ただ、それを書かれちゃうと出来ないんだよね。
アフロ:書いたら出ないんだよ! と思うよね。
ニコル:そうなの! 求められたら出ない。
アフロ:だけど求められて出した、にこるんビームも過去にあったわけでしょ?
ニコル:そうだね。嫌々だけどやってた時期はある。その時はめちゃくちゃ棒読みだったと思う。だけど、今はそういうのもなくなって。本当に自然体でテレビ出られるようになった。
●濃い気持ちで応援してくれている人たちに囲まれている環境が羨ましい●
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アフロ:そういえば今、好感度を下げるキャンペーンをやってるらしいじゃん。
ニコル:良い年齢になってきて、自分が本当に普通の人だとバレてきちゃってるから好感度を下げておきたい。それで何か良いコメントをしたら「おお~! 意外とすごい」と言われるから。
アフロ:それで言うと、千鳥の大悟さんのポジションは良いよね。不倫のニュースが出てもノーダメージだもんね。
ニコル:そうそう。ああいう立ち位置は本当に羨ましいと思う。無理に良いイメージを発信しているんじゃなくて、素の姿を受け入れられているわけだから。
アフロ:それは俺も心がけてるな。やっぱりお客に喜んでもらおうと思うと「ここにいるお客さんはみんな友達だ」とか、好感度高い事を言いたくなるよね。でも、それは世迷言。結局ぶっちゃけた言葉しか通用しない世界だから、グッとそれを飲み込んで「全員が他人だよ」と言わなくちゃいけない。そうすると、他人にも関わらず皆が同じ音に夢中になっている事がすげえな、という純度の高い実感に近づくと思うんだよね。そういう意味では、大悟さんのように良いも悪いも曝け出して、剥き出しの人間性で愛されている人の方が本当の意味での好感度は高いのかもね。
ニコル:実際そうだと思う。だからウチも綺麗事だけで見られたくないんだよね。
アフロ:ニコちゃんが等身大以上に良く見られたくないのは、話しててすごく感じるよ。
ニコル:初めて会った日に「お互い性格悪いよね」という話をしたじゃん。ウチは優しい心もあるけど性格は悪いと思う。
アフロ:渋谷くんだってそうだと思うよ。
ニコル:渋谷くんは優しいでしょ!
アフロ:その優しさが刃だよ!
アフロ:「俺は俺だ」というスタンスを私生活でも貫いていないと、ステージでそれがバレるという信念が根っこにあると思う。さっきの好感度の話と同じように、芸能人らしく振る舞ったところに、自分の真実はないと知ってるんだろうね。それからあいつはよく「悔しい!」と言うのよ。自分が尊敬する名の知れた人達がいる場所に飛び込んで、まだ自分は何者でもないんだ、と悔しさを体に取り入れてるフシがある。だから「俺はまだまだ全然だ」と言うよ。
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ニコル:ウチはそう思わないんだよね。例えばInstagramのフォロワー数が300万人以上いるけど、渋谷くんやアフロくんをフォローしてくれている人の質は、圧倒的に2人の方が良いもん。……質というか、本当に応援してくれている人たちがギュッと集まってる。濃い気持ちで応援してくれている人たちに囲まれている環境が羨ましいと思う。
アフロ:ただ、ニコちゃんが言ってる分母の数って。
ニコル:見栄えだけだと思うよ。
アフロ:フワッといるんだよ。それってスゴいことじゃない?
ニコル:でも、フワッとした数が多すぎてイライラする。雑誌とか洋服とか何か発売しても、本当に買ってくれているのは、ウチのことを本当に好きな人だけ。残りのみんなはどこにいるの? ってなる。知ってもらうキッカケはいっぱい作れるけど、固定のファンとなると……。もちろん、それでもファンは沢山いる方だけど、ないものねだりだからもっと応援されたいと思っちゃう。
アフロ:俺もフワッと好きだけど、いてくれるだけでありがたいなと思う存在は沢山いるんだよね。それこそSMAPなんて、ずっといるものだと安心しちゃってたの。いざ解散したら、すごい寂しかった。じゃあコンサートに行ったのか? グッズは買ってたのか? と聞かれたら全然買ってないけど、すごい喪失感があったんだよ。小さくとも確実に生活の一部だったんだよ。それってすごいことだなと思う。きっと嵐が休止した後だって、喪失感をめちゃくちゃ感じると思うんだよね。
ニコル:そういう考え方もあるのか。だけど推せる時に推して欲しいじゃん。
アフロ:俺、ニコちゃんとは初対面でも割と距離近めに話せたんだ。というのも、前からテレビで観ていた人だから、勝手に近い存在に感じていたんだよね。もしも俺が木村拓哉さんと会ったら、同じように距離近めにいっちゃうと思う。
ニコル:ウチは人見知りだから、距離を詰めてくれると嬉しい。ただ、心を開く人と開かない人の差は激しいけど。
アフロ:どういうふうに人のことを見るの?
ニコル:会った時に「こいつは悪い奴だ」と思うかどうか。アフロくんは……ギリ大丈夫。
アフロ:ギリかよ!
ニコル:ハハハ、うそうそ。仲良い人の友達は大体大丈夫。見た目とかじゃないんだよなぁ。喋った瞬間に波長が合うか合わないかは分かる。
アフロ:その選球眼が合っているんだろうね。
ニコル:そもそも周りに悪い人がいない。騙された経験もないしね。
アフロ:それは男選びに関しても?
ニコル:それは別だね(キッパリ)。まあ10代の頃の話だけど。
●思いやりと見透かしは似てる●
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アフロ:前にみんなで『ラストキス~最後にキスするデート』を観たよね。
ニコル:渋谷くん、アフロくんと18歳の時の映像を鑑賞するという、アレは本当に地獄の時間だった。
アフロ:初めましての人とデートをして、最後にキスをする番組だよね。あの時のニコちゃんはプリッップリだったね。
ニコル:ハハハ。デートなのに白いリュックを背負って、服装から本当にヤバかったよね。そう考えたら大人になったなと思うよ。あの時と今の恋愛の価値観は違う。だからこそ「magic」の内容はめちゃくちゃ共感できるもん。あのクソ男を待っている感じもそうだし、女も女だったじゃん。
アフロ:女も女だった?
ニコル:「結局自分が可愛いだけでしょ? それはお互い様か」というセリフがめちゃくちゃ共感できる。
アフロ:それ! そういえば曲が完成した後に渋谷くんと俺の中で、作中の女の子像が食い違ってたのよ。俺の中ではあの子はめっちゃ一途なの。だから男が遊んでても、彼女は遊んでないと思ってた。それを話したら渋谷くんが「え? あの子も遊んでる子でしょ」と言うわけ。だから「お互いに全く違う女の子で曲を作っちゃってたんだねぇ」なんて話してたら、その場にいたエンジニアさんが「違うよ。それ同じ女の子なんだよ」と言ったの。つまり同じ女の子に対して、盲目的に一途だと信じ込んでいた俺と、この女の子も他の男と遊んでいるなという達観した目線を持ってた渋谷くん。一人の女の子を違う思いで見つめていたんだよ。俺はあの子に理想を押し付けてるだけだった。
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ニコル:それもアリじゃない? そういう見方もできるよ。
アフロ:だけど、ニコちゃん的には……。
ニコル:渋谷くんの想像している通りの女の子を演じてた。
アフロ:まじかー。やっぱり現実はそうだよねぇ。勝手な願望でした……。
ニコル:家に帰ってきた男の目線だよね。ただ、女の子も男と会ってない時はめちゃくちゃ遊んでいると思う。その男を待っている時はちゃんと待つし、一直線になっているけど、その人のものでもないし、別に私の自由に遊ぶ日もあるよという。そう思いながら演技してた。だけど一途に見えているなら、それは正解なんだよ。
アフロ:男が帰ってくるじゃん。その瞬間「お帰り」と言う前に、素の表情で足元から頭まで目視したじゃん。あのチェックがめっちゃ怖かった。
ニコル:あれは演技というよりも自然とやっていたかもしれない。実体験でもあるね。
アフロ:あの瞬間に「女の気配がないか」データを集めているだよね。
ニコル:そうだね。酔っ払って帰ってくる時点で、他の女と会っていたのは分かるじゃん。男同士で飲んで酔っ払うなんて、そんなことないでしょと思っちゃう。ウチも女だけで無駄なアルコールは飲まない。だって太るだけだし、飲んで帰るだけならノンアルで良いじゃんと思う。だけど、そこに何かキュンとしたり楽しい予感がありそうだなと思ったら、めちゃくちゃ飲む。
アフロ:いやー、別の世界もあるって。男4人でサイゼリアでワインのデキャンタ空けてる、俺の愛すべき雑魚友達が存在するわけだから。
ニコル:ハハハ、それはまぐれタイプだと思う。いや、どうなんだろう? やっぱりウチ、性格が悪いのかもね。
アフロ:悪いというか、察する能力が高すぎて不安になっちゃうのかもね。思いやりと見透かしは似てるから。
●与えられた仕事にしないために●
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アフロ:そういえば、今日のためにニコちゃんが『情熱大陸』に出てた回を見てきたんだよ。あれって二十歳の頃でしょ? 2年で何があったの? と思うくらい顔つきが違うよね。
ニコル:仕事や周りの環境もそうだし、恋愛も大きかったんじゃないかな。最近、テレビで自分を観てて思うけど、本当に目が死んでる瞬間がある。ニッコリしているはずなのに、全然笑ってない時があって怖いの。世の中の、良い部分も嫌な部分も一通り見たのが大きいかもしれない。
アフロ:俺も聞かれたら困る質問なんだけど、夢ってあるの?
ニコル:年表みたいなのは何となくあるけど、夢は全部叶えちゃったかな。10代のうちにSHIBUYA109のシリンダーに出たのもそうだし、自分のブランド(NiCORON)もそうだし、コスメのブランド(cimer)を始めたのもそうだし、テレビもそうだし……全部叶っちゃった。細かいのはあるけど、莫大な夢はないかもしれない。
アフロ:仕事を続けてきて良かったことはある?
ニコル:自分の意見も聞いてもらえる環境になってきたのは嬉しい。二十歳を超えてそれが一番嬉しいかも。前までは与えられた仕事だけをただこなしていく感じだったけど、それこそ外へ出るようになって芸能の友達も増えてきたし、そこから生まれる仕事があれば自分からマネージャーに相談して、それが形になるのが嬉しい。
アフロ:俺たちと逆の動線だね。俺たちは自らライブをさせてくれ、と手を挙げるところから始まって、そこで映像を作れたり写真を撮ったりする人と繋がって、ちょっとずつ輪が広がっていく。仲間内で仕事を作っていくというか。そこからある日、音楽レーベルの人がライブを観にきて、活動のスケールがデカくなって、少しずつ向こうからも仕事がやってくるようになる。
ニコル:そこから与えられた仕事に向き合うんだね。本当にウチと逆だね。いきなりMVの仕事が入るとか、そういうのめちゃくちゃ楽しい。いつもと同じサイクルの仕事から一個ズレるだけで嬉しい。
アフロ:どういう経緯で自分にオファーが来たのか、それが分かっている仕事は楽しいよね。
ニコル:うん。仕事は全部楽しいけど、やっぱり興味のない分野にぶち当たることもあるじゃん。それはそれでちゃんと仕事するけど、自分が掴んだ仕事は心がワクワクするよね。
アフロ:前に渋谷くんとも話したんだけど「仕事を頂けるようになった時、どうして自分たちにその仕事のオファーが来たのか、ちゃんと分かっておきたい」と。与えられた仕事なのかもしれないけど、自分達を信じてくれる人がいて、その人はこんな気持ちで、こんな人生で、それらが自分達の音楽がどう繋がっているのか……、みたいなことを把握しておく。そこまで行くと、与えられた仕事じゃなくなってくると思う。
ニコル:それは良いアドバイスをもらったな。相手の人生まで見れば良いのね。
アフロ:関連する話で言うと、ある日、広告代理店から「CMの為に1曲作ってもらえませんか」と誘われたんだよね。最初は「CMの為の曲なんかあるか! あほんだら!」と警戒してたの。だけどオファーしてくれた人がMOROHAの音楽をちゃんと聴いてくれていて、「この会社の企業理念と通ずると思うんです。ここで働いている人はこういう人がいて……」と綿密な取材をしてくれてた。その姿勢にも好感を持てたし、そこで働いている人たちというのは、俺たちがまさに歌いたいと思っている人たちでもあった。ここに自分自身が踏み込めば新たな曲が生まれるかもしれない、と思って受けたことがある。
ニコル:それぐらい自分から他人に踏み込まないとだよね。話をするのは緊張しないけど、誘うのは緊張するなぁ。
アフロ:誘われ待ちの人?
ニコル:そう。テレビの仕事をしてても、そこでの友達は全然いない。マネージャーががっちり付いているし、どのタイミングで連絡先を交換するのかもわからない。だからテレビの世界は出会いもそんなにない。収録現場へ行って、メイクをして、撮影が終わったら帰る。それだけの関係性なのかと思ったら切なくなったりする。
アフロ:分かるよー。でもそんななかに天使みたいな人が時々現れる事ない? どうにか人としての繋がりのある現場にしようとしてる人。俺はそういう人に会うと、もう好き! となっちゃう。好感度というか、愛情が湧くよね。俺もそういう人になれたらいいな、と思う。難しいんだけど。
ニコル:やっぱりコミュニケーションは大事だね。今はみんなSNSだったりリモートだったり、距離が遠いじゃん。コロナを通して、人と人が向き合う距離は大事だなと実感した。(一息つき、ライターに向かって)……急にふっちゃいますけど、質問ありますか?
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――「人と人との関係を築くことで、仕事のやりがいを見出せる」というお話がありましたけど、「この人と付き合えば仕事をもらえるかも」と下心でコミュニケーションを図ったことはありますか?
ニコル:え、ウチはゼロです! ありますか?
アフロ:俺はね、一緒に仕事して初めて友達になれるって感覚が強いかもなぁ。だから友達になりたいな、と思った人にはどうにか一緒に仕事する方法を探すかも。
ニコル:そうなんだ。ウチの場合、年上の人は別として同世代の子達が「仕事しようよ」という感覚で近づいてきたらめちゃくちゃ怖いです。「もしかして売名?」と壁を作っちゃうかもしれないですね。
アフロ:そこは人間性だよね。「こいつなら騙されてもいいか」と思わせてくれたら、仮に売名が目的だったとしてもいいかな。その代わり、こちらも喰っちまうぞ、みたいな気持ちで仕事に挑むけど。そのヒリヒリ感が好きだったりする。終わってみればめっちゃ好きになってるよ。
ニコル:そういう新しい出会い方って、ウチはまだないかもしれないですね。
アフロ:それこそ仕事を切り離して友情を築ける人もいるけど、俺の場合は業界外になるね。
ニコル:むしろ業界外で友達がいないんですよ。地元の友達が2人だけ。あとは全員芸能人。だけど芸能をやっているから友達になったというよりも、フィーリングが合って友達になった。
アフロ:確かに何かを表現する人、表に立つ人と話すと、風が当たる肌の面が似てるから共感出来る部分は多いかも。特に芸人さんはものすごい風速の中に体を投げ出してるんだなぁ、と毎回思うな。ちなみに一緒に仕事して「すごい!」と思った芸人さんはいた?
ニコル:うーん、本当にすごい人ばっかりだからな。……あ、有吉(弘行)さんは特にすごいと思う。冠番組をたくさん持ってて、めちゃくちゃ忙しいのに、すごい細かく私のインスタとかラジオで話した言葉とか色々知ってるの。若者の情報を全部把握していたりとか、本当にすごいと思う。
アフロ:それはまさに、与えられた仕事を与えられたままで済まさない人だろうね。
ニコル:多くの大人って若者の流行っている言葉に距離をおくじゃん。「何それ?」みたいな。だけど、ちゃんと向き合って近づいてくれる大人は良いなと思う。
●あいつもティッシュを鼻に当てながら号泣してた●
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アフロ:ちなみにクリスマスはどうしてるの?
ニコル:何があるとかじゃないけど、毎年お休みを頂いてます。去年は何もないから空けといたんだけど、予定がなくて1人で泣いてた。
アフロ:本当にポロポロ泣くの?
ニコル:うん。何で1人なんだろうと思ったら、ポロポロ泣いちゃう。ねえねえ、最近はいつ泣いた?
アフロ:覚えてるのは渋谷くんの家で一緒に『世界の果てまでイッテQ』を観た時かな。イモトアヤコさんが引退する安室(奈美恵)ちゃんと対面するという回だった。とにかくイモトさんがすごくピュアに安室ちゃんのことが好きでさ。自分たちもステージに立つ立場として「お客さんてこういう気持ちで自分の人生とアーティストの音楽活動を重ね合わせて生きているんだ」という目線で番組を観ていたら、すごい胸が熱くなったの。だけどあいつが隣にいるのに泣いたら「ヤバい、舐められる」と思ってグッと歯を食いしばってふと横をみたら、あいつもティッシュを鼻に当てながら号泣してたのよ。「だよね!!」と思って三十路2人でヒンヒン泣いたよ。ニコちゃんはいつ泣いたの?
ニコル:年に1回くらい仕事でパンクして泣いちゃうことがあって。仕事のストレスとか疲れとか全部が重なる瞬間があるんだよね。
アフロ:どうやって立て直すの?
ニコル:疲れるまで泣いて1人で噴火してる。
アフロ:誰かに話して楽になることはない?
ニコル:ママには言うね。文をまとめないでワーっと連発してLINEを送ると、ママが長文で返してくれて最後には必ず「愛してるよ」と書いてくれる、それだけで泣いちゃう。そういう時、親の一言ってデカいなと思う。感情が爆発する日はある?
アフロ:スタッフに対して強く言ってしまう時があるな。その時って、どんな言い方をすれば相手が傷つくか冷静に考えちゃってるのよ。そんで吐いた言葉の軌道を後ろから眺めて「こんなこと言うなんて……」と落ち込む。
ニコル:分かる分かる。だからウチは親に言うようにしてるの。だけど最後に「本当の私はこんなんじゃない」と。それを最後につけるのが大きいと思う。
●初めてテレビに出演した日を境に、人生がガラッと変わった●
MOROHAアフロの逢いたい、相対
アフロ:ちなみに人生で一番嬉しかった日ってある? 俺は「ROSE RECORDSからアルバムを出そう」と曽我部恵一さんに言われた日の夜は一生忘れられない。初めてのCDだから経験がない分、想像も無限で「この1枚でどれだけ世界が変わるんだろう」とワクワクしかなかった。
ニコル:んー……嬉しかったことはいっぱいあるから順位はつけられない。ただ、売れたなと思った日は高校生の時かな。『Popteen』の専属モデルになって、自分のことや付き合っている彼氏のことも普通にSNSで公表してたの。それを見つけてくれたテレビスタッフさんがテレビ出演の話をいただいて、あの日から人生がガラッと変わったね。その前から人気はあったし、雑誌の表紙もやらせてもらってたけど、世間的に知られたのはテレビに出てから。スケジュールがバーっと埋まって「こんなに忙しくなるの!?」と思った。
アフロ:そこから今日まで続いているんだもんね。
ニコル:そうなんだよ。高校3年生から仕事の忙しさが変わってないの。そう思うと、テレビの影響力はすごいなと。
アフロ:初めてのテレビはどういう内容だったの?
ニコル:当時はおバカキャラでもあったから「おバカなJKいる」ということで、『人生が変わる1分間の深イイ話』で彼氏とのデートに密着されたり、高校の授業も密着されたり。それで今があると思うと、自分で自分を褒めたい。不安というか今後はどう生きていくんだろうと思うよね。まあ別に芸能をやってなくても良いけどなと思う。そんな表にバンバン出るのも別になと。
アフロ:いやー、でも出たい人でしょ。
ニコル:出たいよ。裏みたいな表が良い。
アフロ:引退はしてるけど存在感があるからネット記事には上がる、みたいな。
ニコル:うん。モデルのお仕事をやってるけど、30歳まで今のビジュアルを保つのはキツい。だからモデルは25歳までかなと自分の中で思ってる。
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アフロ:容姿の話について聞きたいんだけど、最近は体毛とか体型とか美の多様性を見つめ直そうとする動きが活発だよね。そういう動きについてはどう思う?
ニコル:雑誌は細い人を使いたいじゃん。だけど細いだけが美しいとは思わない。というか自分が美しいと思っていれば、それで良いんじゃない? と思っちゃうんだよ。日本人の標準体型ってあるじゃん。ああいうのは嫌いだな。誰が決めたの? と思っちゃう。
アフロ:健康の指標だったら良いけどね。
ニコル:そうそう。「普通の体重」と「モデル体重」の表がたまにインスタで載っているんだけど、ああいうのは本当に嫌い。「モデル体重」にウチは全然当てはまってないし、「普通」も誰の普通なの? と。
アフロ:「普通」という言葉の使いやすさに囚われたらまずいよね。
ニコル:そうなんだよね。普通って怖い言葉だよ。例えば芸能のお仕事をしていると、悪気なく「一般の人」という言葉を使っちゃうんだけど、今思ったらヤバい言葉だよね。
アフロ:あるねー。そういう線を引く言葉というのは、疑っていかないと見失ってしまうよね。それこそ「普通のラッパーは……」とか「一般的なHIPHOPに比べて」みたいな尺度で俺たちの音楽を語られた時に、違和感を抱くんだから。線引きのせいで窮屈な思いをしている人も多いよね。
ニコル:いや、日本は窮屈よ。みんな悪口を言ったり噂話をしたりとか、なんかネチネチしている印象がある。例えば海外で何かをやらかしたとしても、日本みたいに人生が終わるまで追い込まれない。海外はその辺がゆるくて生きやすそうだなと思う。
●大抵は楽しいことよりも「色々あって面倒くさかったな」という恋愛を思い出す●
ニコル:キャミソールが3色用意されていたんだよね。
アフロ:どんな色が良いのかせーので指さしをすることになって。俺は赤、渋谷くんはグレーかネイビーを指さした。そんでニコちゃんも……。
ニコル:うん。ネイビーかグレーのどっちかかなと思った。
アフロ:そう、渋谷くんとニコちゃんが同じだったんだよね。でもね、その後、渋谷くんに「グレーとネイビーがお好みだったか! この欲張り野郎!」と言ったら「俺の好みじゃなくて、ニコちゃんはあのどちらかを着たがると思ったから」って。
ニコル:……優しい。
アフロ:いやいや、そっちには優しいよ! だけど男同士のやり取りとしては最低だよ! やっぱりあいつの優しさは刃だよ!
ニコル:ハハハ。だけど赤色にして正解だと思うよ。ベランダのシーンは長回しだったじゃん。あれは大変だったな。目の前に渋谷くんとかアフロくんもいるんだよ。集中できなくて「横にズレてください」って。
アフロ:あれすごく印象なシーンになったよね。
ニコル:初めてのタバコだからね。
アフロ:あのシーンを撮影している時、何か考え事をしてた?
ニコル:過去の恋愛を思い出してた。
アフロ:作中の女の子みたいに今ほかに男がいても、過去の恋愛を思い出すことはある?
ニコル:あるある。大抵は楽しいことよりも「色々あって面倒くさかったな」という恋愛を思い出す。
アフロ:思い出されるのは面倒くさい恋だったりするのか。
ニコル:うん。幸せな方はあまり思い出さないよ。
アフロ:あと朝方に目が覚めて「行ってらっしゃい」と冷め醒めと言い放つ感じも良かったな。すごく素敵な演技でした。
ニコル:全部経験してたからこそ、自然な演技が出来たんだと思う。「magic」も「blue」も1本のMVとしても楽しめるけど、実は繋がっているから2本とも見てほしいね。
MOROHAアフロの逢いたい、相対
文=真貝聡 撮影=森好弘
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MOROHA / 竹原ピストル
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