尾上右近、京都・南座『三月花形歌舞伎』への意気込みを語るーー「憧れの役をやれて嬉しいという気持ちと、やるからには責任があるという思い」

インタビュー
舞台
2021.2.17
尾上右近

尾上右近

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3月6日(土)から21日(日)、京都・南座にて、歌舞伎の三大名作で知られる「義経千本桜」より「吉野山」と「川連法眼館」をAプロ・Bプロ役替わりで、中村壱太郎、尾上右近、中村米吉、中村橋之助らによる『三月花形歌舞伎』が上演される。

Aプロで「吉野山」「川連法眼館」とも佐藤忠信実は源九郎狐を演じ、Bプロでは「川連法眼館」で源義経を演じるのが尾上右近。「歌舞伎の古典のお芝居では、初めて自分が主となって勤めさせていただきます。自分の役者人生において今後、振り返ることがあった時に、とても意味深い公演になることを確信しています」と意気込む。

そして、幕開けを前にして心境を語る。「やっとここまできたかというのが正直な気持ちであると同時に、まだまだこれからだと思う気持ちもあります。ここまで来られたのは、本当に先輩方、お客様を含め皆様のおかげです。この公演を経て、どういう役者になっていくのかは、自分自身の踏ん張りようによって決まっていくと胸に刻んで、真摯に向き合って、そして楽しく、ワクワクとした童心を忘れずに、一生懸命勤めさせていただきます」

壱太郎、米吉、橋之助と同世代の役者が揃う。それぞれの印象を尋ねると、壱太郎については「お互いがいるから頑張れると思い合っているような、同士のような、戦友のような、親友のような。僕の自主公演に出ていただいたり、壱太郎さんの新たな試みとしての「アート歌舞伎」などの活動も一緒にやらせてもらったり、お互いに何か求め合っているという意味においては、もう精神的に恋人状態です(笑)」と笑顔を見せる。また、歌舞伎ファンとしては客席で見たいと切望する。「壱太郎さんご本人もいろいろと気合が入っていると思うので、そんな戦う姿をいち歌舞伎ファンとして見届けたいという思いもありますが、静御前と佐藤忠信でペアを組んだ姿を客席から見たいと思う自分もいます。お客様には僕の分も客席から見て、応援して、背中を押して、パワーを送って、どうか成功への道へ導いてほしいです」

同級生で幼いころから知っているという米吉については、「とにかく人を喜ばせたり、楽しませたり、華やかな気持ちにさせることに長けている」と賛辞を贈る。そして、「お客様の前に立って歌舞伎をやっていくという上ではまだまだ不勉強という謙虚な気持ちと、そこに同居する不安な気持ちとか、自信のなさのようなものはお互い内在していることを確認し合っているのですが、それでも彼は何よりも舞台度胸がある。そこは僕自身、見習うところで、そういうふうになれたらいいなと思います」とリスペクト。また、話すことが上手だという米吉に、出演者が日替わりで勤める「歌舞伎の魅力」の解説に期待を寄せる。「彼が一番、魅力をお伝えできるのではと思っているし、舞台度胸も功を奏して、「歌舞伎の魅力」で米吉くんが何か一石を投じるのではという予感がしています」

Bプロで佐藤忠信を演じる橋之助。二人とも尾上菊五郎からの指導を受けたという。「同じ型を二人の若手がやります。一見、同じことをやっているように見えると思いますが、違う個性が見えてくる。そして年代によって感じることも違うし、それが役者の色、パフォーマンスとして伝わっていくところを感じていただけるのではと思っています」。続けて、「いつも、芝居が大好きで、芝居心があって、歌舞伎のにおいを大事にしているんだなということを橋之助さんの舞台を観て思います。「歌舞伎の魅力」「吉野山」「川連法眼館」という演目を通じて、彼からその匂いを感じることが十分にあるのではないかと思います。僕より下の代で、がっちり立役という人が意外と少ない中で、彼はその王道を歩んでいる若手の歌舞伎俳優の一人だと思うので、そんな彼が「川連法眼館」で忠信を勤めることも魅力なんじゃないかなと思います」。また、狐忠信は中性的な役と話す右近。立役の橋之助と、時に女方も演じる右近という二人がそんな役を演じる点も、二人の個性が違って見えるポイントではないかと分析した。

佐藤忠信実は源九郎狐は、右近にとって憧れだった。今回の『三月花形歌舞伎』のポスターで使用されているのは、23歳の時に初めて行った自主公演第1回「研の會」で同役を勤めた際に撮ったものだ。「写真を見て思い出すのは忠信をやりたかったんだなということ。写真撮影で忠信の化粧をして、衣裳を着ただけで感動して、涙が止まらない状況だったことも思い出しました。本興行でのお役を菊五郎のおじさんに教えていただくことは今回が初めてなので、そういう意味でもとても気合が入ります」

「音羽屋ゆかりの演目、ゆかりの型で自分が本興行で大役にチャレンジできることにひとしおの思いがありますし、そこには本当に嬉しい、純真無垢の童心のような思いがあります。親の鼓をもらって喜ぶ狐忠信のごとく、「かえすがえすも嬉しやな」という気持ちだなと思います」と声を弾ませた。

壱太郎、米吉、橋之助は、歌舞伎役者の父を持ついわばサラブレッド。その点においても、右近の思いはますます募る。「自分がなぞるべきものは音羽屋で、ふまえるべきものもあるのですが、父が歌舞伎俳優ではないということを考えた時に、ある意味自由だし、自分の思ったように歩いた道が自分にしか出せない個性や色につながっていくと最近はつくづく感じています。だからこそ信じた道を突き進まないと、全てに対して失礼になると思っています。この歩みを進めていけばいつの日かに「右近さんのやっていたことをやってみたい」というふうに思ってもらえるような」と話した。

『三月花形歌舞伎』に出演することで「僕はこういうふうになりたいと思っていることを、自主公演以外で初めて提示できると思う」と期待を寄せ、「憧れの役をやれて嬉しいという気持ちと、やるからには責任があるという思いがあります。童心と、大人になろうとする気持ちが自分の中に同居している。そんな心の在り方はこの4人の中では誰にも負けないと思います」と力強く語った。

取材・文・写真=Iwamoto.K

公演情報

『三月花形歌舞伎』
2021年3月6日(土)~21日(日)
昼の部 12時~
夜の部 16時15分~
【休演】12日(金)
劇場:南座
出演
中村壱太郎 尾上右近 中村米吉 中村橋之助 中村福之助 中村歌之助
曲目・演目
一、歌舞伎の魅力
二、義経千本桜 吉野山
三、義経千本桜 川連法眼館
※昼の部/夜の部 同一演目にて上演します。
※日時により配役が異なります。出演日程をご確認の上、ご購入ください。
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