NHK木曜時代劇『ちかえもん』青木崇高&松尾スズキにインタビュー

インタビュー
舞台
2015.12.16
NHK木曜時代劇『ちかえもん』

NHK木曜時代劇『ちかえもん』

ちかえもんにとって万吉は「無意識の水先案内人」

近松門左衛門が描き、空前の大ヒット作となった人形浄瑠璃『曾根崎心中』の誕生は、歴史的な事件だった!!だが、その傑作誕生からさかのぼること半年前、元禄16(1703)年1月。近松は、定番の“歴史モノ”しか書けず、妻に逃げられ、母に呆れられ、超スランプ中。大坂堂島新地の「天満屋」に入り浸って、年増の遊女お袖相手にちびちび酒を飲む、冴えない中年男だった。
ところが、そこに現れた謎の渡世人・万吉と出会ったことで、近松の人生に次々と災難が襲いかかる!?

新感覚の時代劇として、注目を浴びているNHK木曜時代劇『ちかえもん』。本作で近松門左衛門を演じるのは大人計画の主宰であり、自らも脚本・演出・俳優と幅広く活躍する松尾スズキ。そして万吉役を演じるのは青木崇高。連日撮影が続く多忙な中、二人が揃ってインタビューに臨んだ。

――かなり面白いコメディだということですが、お二人は本作のどの辺りに一番魅力を感じて演じられていますか?

松尾:近松門左衛門は歴史に名を残す作家なんですけれど、人物がどうだったかという資料は残されてないわけです。そこを藤本有紀さんが、すごく人間味のある、お茶目で、変な小さいプライドを持ってて、だが器が小さくて、些細なことを気にするキャラクターにしてくださいました。スランプに陥ったときのスラップスティックな行動とかを見るとすごく人間らしい役だなと思います。僕自身が感情移入できて、(今まで)あんまり人間らしい役をやってこなかったので、充実した日々を送らせていただいております。

青木:ホンが面白いなと思っています。最初に上がったホンを見ると笑っちゃいますね。笑っている様子を誰かに笑われて見られているみたいな。スタッフさんもみんな読んでて笑って、「あ、笑ってるね」みたいな感じの会話が現場で結構あるようです。その面白さを損なわず、立体的にした時にさらに面白くなるようにしなければとは思っています。
撮影が進んでいく間で、松尾さん演じるちかえもんがどんどんかわいらしく、愛くるしく感じてきています。
登場人物は、しっかり血が通っていて、良いことも悪いことも含めいろいろ背負っている人たちが描かれています。初めて一緒のシーンだった人でもその人のキャラクターの背景を感じることができて、とても楽しくやっています。

――連日ハードな撮影になっているそうですが、これまでの撮影の感想は?

松尾:すごく丁寧に撮ってらっしゃるなと思っています。演出も細かいし、わかりやすくコメディをどう見せるかということにスタッフが全員苦心しているなあという。特に照明とか美術とかがすごく凝ってて、木曜時代劇ってこんなんだったっけ?もっとライトな気分で見れる時代劇だったんじゃないか?と思うぐらい力が入っていて…大河ドラマのような感があるんですよね。ワンシーンが長いから撮るのは大変ですが、今までにない充実感を味わっていますね。とにかく時代考証とかが凝ってます。
メインが僕と青木くんですからね。見る人が見たら誰なんだ?っていう二人なので、ホテルから撮影所まで二人とも、普通に電車通勤しています。誰にも顔を指されないっていう二人が主演というところに、NHKが何かを賭けてるなっていう決意を感じますね(笑)

青木:撮影は長いシーンもあり、その中でずっと掛け合いが繰り返されるということで集中力もいります。ストーリー上では一方的に僕が「ちかえもん」と呼んでるんですが、僕は「ちかえもん」の日常に突如現れ、自分の都合で去って、また突如現れ、ややこしい茶々ばっかり入れるんですよね。
撮影的には松尾さんの方が、出番が多くて大変だなと思いながらやってます。この間松尾さんとお話しした時に、本当かどうかわかりませんが、松尾さんは「撮影が全部終わった瞬間には感極まってもう泣くかわめくかする」っておっしゃったんです(笑)

松尾:泣くか、激怒するか(笑)

――本作のオファーがあった時にはどんな思いでしたか?

松尾:最初に話が来た時は木曜時代劇がどういうものなのかも実は存じあげなかったし、11月にちょっと大きな仕事をしようとしていたところだったんですよね。だからこれはちょっと難しいなっていう思いがあったんです。
ちょうどその話を受けた時、僕は藤子F不二雄ミュージアムにいました。連絡のメールを見ながら藤子先生の作品を見ていたんですけど、僕が52歳で、ちょうど藤子先生の50歳くらいの頃の年表が目に入りました。すごい働いてるんですよ。映画の脚本を何本も書いたりとか、この人、俺の知らないところでまだこんなに働いてたんだっていうことを考えると、俺も逃げちゃいかんなみたいな気持ちになって。
近松門左衛門も50歳になってから、急に人気浄瑠璃の「曽根崎心中」のような名作を生み出したという背景もあって、何かリンクするものを感じて、「(この作品を)やれ」っていうことかな、みたいな気持ちになりました。
自分ももちろん劇作家ですが、もうあんまり一年に何本も書ける歳ではないなと思っていたのですが、なんかやらなきゃいけないなっていう。図らずも藤子先生の「ドラえもん」を前に「ちかえもん」の話を聞くという(笑)、これはもう定めなのだって思いました。

青木:僕は「やりたい」と思いました。僕は藤本さんの本をいろいろとやらせてもらっていたので、また藤本さんのあの面白い世界の住人になれるんだったらやりたいですし。コメディの要素が多く、キャラクターも愛くるしいんですけど、動かすとなるとなかなか簡単ではなくて難しい。そこは作品の大きな力に支えてもらって、楽しくやってますね。やっててとても面白いんです。

――二人のコンビっていうのは「相棒」という感じですか?

青木:相棒とはちょっと違う感じですね。一方的に見たらなんとなく出会ったっていう感じはする。神のみぞ知る二人、運命ではないですけど、万吉は天使みたいなやつだって思ってるんです。どこから来て、どこへ向かって行くのかわからないようなキャラクターなので。
「ちかえもん」という頑張っても器用に生きられない人に、やり方に関しては万吉流でむちゃくちゃなんですけど、運命の歯車をちょっと上手いこと噛みあわせるような、そっと背中を押してあげられるような存在なのかな。もしかしたらそういうところは、ドラえもんとのび太みたいな関係なのかもしれないです(笑)

NHK木曜時代劇『ちかえもん』

NHK木曜時代劇『ちかえもん』

――お二人は共演は初めてかと思いますが、お会いする前のお互いのイメージと、実際会ってからのイメージは?変わりましたか?

青木:僕は怖い人だなぁって思ってました。名前も不思議な名前ですし。劇作家として劇団の主宰をやられてて、たぶん鬼のような人なんじゃないかなって思ってたんですよね。
お話を聞いてからは、松尾さんの作品とか公開される映画の情報とかを番組でやってたら、すぐチャンネルを変えるようにしてます。なるべく目に入れないように。松尾スズキさんというイメージをあまり(頭に)入れないようにして、「ちかえもん」の松尾さんとして近付こうと思いまして。

万吉として変なちょっかいをかけにくくなってはいけない、と思っていたんです。でも最初の顔合わせ、かつら合わせをされている時にご挨拶をさせてもらって、松尾さんが握手をされた時に、これはいけるって思いました。
これはいけるっていうのは変ですけど。楽しく、懐に飛び込ませてもらおうって思いましたね。ちょっかいを、かけまくろうと思いましたね。

――松尾さんから見て青木さんのイメージはいかがですか?

松尾:まずこれはなんて読むの?っていうところから入りました。

青木:(笑)僕の名前ですか。

松尾:もう、面倒くせえなぁって。(笑)

青木:なんですか、名前はしゃあないじゃないですか(笑)

松尾:僕は初めて会うし、相手の名前も読めないし。ウィキペディアで調べたらすごく熱いやつだっていう情報があって。殺陣のシーンで本気になって相手をしばいたとか、敵役とは口をきかないとか。やめて欲しいわぁ(笑)

青木:(笑) いや、あれは僕も迷惑してますからね。ウィキペディアのイメージで勝手に思われる。

松尾:だから味方の役でよかったなと思いました。すごい熱いやつだと思ったんで。外国によく行くっていうし、外国の子供たちとすぐ仲良くなるって書いてあるし、そんなこと普段絶対やらないんだけど、取り敢えず「ようっ」って言って握手を求めてみたんです。そしたら若干引かれたような気がして、そうでもないのかって思って。

青木:僕は僕で松尾さんのイメージがあったんで、え? こういう方なのかなって思って。

松尾:そんな人じゃない(笑)

青木:(笑)

松尾:それはそれでよかったんですけど。非常にアグレッシヴに万吉をやってくれるので、ほとんど突っ込みの役なんで突っ込みやすいですよね。もう出会った瞬間からうるさいって言いたくなる。何にも喋ってないのに。格好がうるさいです(笑)

――松尾さんは近松門左衛門と同様、ご自身も劇作家、作り手でいらっしゃいます。近松はスランプですごく苦しんで、その後新しい作品、新しいジャンルに目覚めましたが、松尾さんはネタが出ないとか、オチや続きが作りづらい時に、どうやって脱出していますか?

松尾:そういう時は基本のたうち回るしかないんですけど、宿を変えてみたり視界を変えるようにしますね。目から脳に飛び込んでくる情報が、脳に刺激を与えるんじゃないかという気分で、突然ホテルに泊まってみたり、喫茶店に行ってみたり、映画見たり、考えるのを一回やめてリセットして何かをすることはやります。どこに行っても、結局のたうち回るしかないんですけどね。頼れる人はどこにもいないから。

――近松を演じて(ご自身と)共通する思いがあると思うのですが、逆に自分はこの発想には至らないとか、近松と自分は違う、という点はありますか?

松尾:思ってることを顔や口には出さない(笑)近松はガキみたいなところがあるんでね。そこはいいなと思うところなんです。あんまり普通の人の役をやることに興味はないです。演じる場合には極端な人が好きですね。

――最初のお話で時代考証をかなり細かくされているという話でしたが、演じる上でのセリフ回しや、時代劇をやる上で苦労したとか苦戦したという部分があれば教えて下さい。

松尾:ここは苦労したなっていう以前に、苦労しかしていないです。

青木:苦労ベース(笑)

松尾:うん。大阪弁でセリフを言うということがまずないので。しかもちょっと古い大阪弁なんですよね。

青木:そうですね。決して今の大阪の人が使う言葉や言い回しではではないですね。

松尾:上方落語を頭においていただければわかると思うんですけど、そういった感じの喋り方なので、本当に苦労してます。アクセントが標準語と真逆なんで。

青木:僕は元々大阪出身なのですが、やっぱり難しいです。

――わりと破天荒なキャラクター、自由度の高そうなキャラクターで、どう演じる、という指針がない役は逆に難しくないですか?

青木:初めて鏡を見て芝居を一人でやってますね。僕はぼーっとしていると「顔が怖い」って言われるんですよ。ぼーっと人の話を聞いてたら怖く映っている。モニターで見てたら「怖っ」て思うんで、なるべくひょうきんな感じの顔(をする)というか。普段あまり表情筋を使わないんで頭が痛くなります。

――スランプで書けなくなった中年の作家ちかえもんは、ちょこちょこちょっかい出す万吉のどんなところに触発されるのですか?また、万吉はちかえもんのどんなところに惹かれるのでしょうか?

松尾:ちかえもんという人は非常に等身大の人間として描かれていて、臆病だし、功名心はあるし、小さいプライドに拘るし、話のネタをいつも探ってるんだけど、積極的に生きあぐねてる。そこを万吉がポーンと突破して、ちかえもんが今まで行けなかった道を切り開いてくれるんですよね。そこに乗っかって行くとまた新たな謎にぶつかる。無意識の水先案内人みたいなところがあるんです。

青木:さっきの天使じゃないですけど、そういう存在だとしたら、なぜちかえもんを選んだのか。何か縁があるのか、どこからかやってきたのか、自分の今の段階では、何かがあってこの人を選んで現れたんじゃないかなという感じがします。ちかえもん自身がネガティブな人間であったとしてそれを踏まえてでも、惹きつける引力のある人間、共感を呼べるような人だとも思います。どうしようもないやつだからこそ愛くるしいみたいな。そういうものを備えた人だと思いますね。

――演劇でコメディを作る・やるのはいちばん難しいと聞きます。今回は時代劇でありながらコメディの部分も非常に多いというこの作品で、何がいちばん大切だな、と思ってらっしゃいますか?

松尾:話の流れとか関係性とかギャグではないもので見せているドラマだなとは思います。自分の中はさておき、ドラマの中でフリがあってオチがあるっていう、そしてその笑いそのものが話を動かしていくっていうのが、お洒落なコメディだなと思います。見事に今回そういうシナリオに出会えて僕はすごく嬉しいですね。

青木:単なるコメディっていう話ではないと思います。今日ちらっと音楽を聞かせていただいたんですが、音楽も関係を豊かにする、この作品の面白い要素の一つになっています。アニメーションも入るんですよね。ちかえもんのこころの声とか、いろんな要素が交じり合っての作品になります。もちろん演技のこともあるんですが、作品として内包するものが大きいので、それがいい形のコメディ、木曜時代劇ちかえもんというものになっていくと思います。

放送情報
NHK木曜時代劇『ちかえもん』
 
2016年1月14日(木) スタート
NHK総合 毎週木曜 よる8時から放送
作:藤本有紀(連続テレビ小説「ちりとてちん」、大河ドラマ「平清盛」、土曜ドラマ「夫婦善哉」ほか)
音楽:宮川彬良
出演:
青木崇高(不孝糖売り・万吉)
優香(年増遊女・お袖)/小池徹平(あほぼん・徳兵衛)/早見あかり(ワケあり遊女・お初)
北村有起哉(竹本義太夫)/高岡早紀(天満屋女将・お玉)
岸部一徳(豪商・平野屋忠右衛門)
富司純子(近松母・喜里) 
松尾スズキ(近松門左衛門) ほか
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