「生きる鼓動を味わってほしい」コクーン歌舞伎『夏祭浪花鑑』が開幕! 勘九郎、七之助、松也、そして串田和美が意気込みを語る
(左より)松也、七之助、勘九郎 /(C)松竹
コクーン歌舞伎 第十七弾『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』が、2021年5月12日(水)にBunkamuraシアターコクーンで開幕した。これに先だち前日に、中村勘九郎、中村七之助、尾上松也、そして演出と美術の串田和美がオンライン会見を行った。
コクーン歌舞伎は、串田と十八世中村勘三郎とのタッグにより、1994年の『東海道四谷怪談』から始まった。第一弾で芸術監督を勤めた串田は、第二弾『夏祭浪花鑑(以下、『夏祭』)』より演出を担当している。
(右より)串田和美、中村勘九郎、中村七之助、尾上松也。会見はコクーンの舞台で。
シアターコクーンで『夏祭』が上演されるのは4回目だが、清新なキャスティングや、勘九郎の次男・中村長三郎の出演など、見どころが多い。勘九郎、七之助、松也、串田が、シアターコクーンの舞台からそれぞれの思いを語った。
■ずっと大切にしてきた、勘三郎と創った作品だから
本公演は、当初5月6日(木)が初日の予定だった。緊急事態宣言の影響を受け、12日からの上演となる。串田は開幕前日の緊張感の中にも、初日を迎えられることへの安堵も垣間見せる。
「幕を開けられることになりました。コクーンでも4回、平成中村座や松竹座、ニューヨーク、ベルリン、ルーマニアのシビウでも上演してきた作品です。初日を迎えられることにホッとし、喜びが湧き上がっています」
再演を重ねてきた中でも、今回は上演時間の短縮や観客との距離の確保など、安全面への配慮から過去作にはない制約がある。
「ずっと大切にしてきた作品なので壊さないようにしたい、という思いがありました。しかし克服しなくてはならないことが増え、花道を作れないならば、透明の箱に団七九郎兵衛をいれて担いではどうか……距離がとれないならこれはどうか……それもダメかと……と。色々試しましたし、上演時間への配慮から切らないといけないこともありました。その時はたまらなく辛かった。でも今は、その努力をして良かったと思えています」
乗り越えることができたのも、この一座だからこそと串田は言う。
(左より)勘九郎、笹野高史 /(C)松竹
「勘三郎さんと創ったものを息子さんたち、そしてお弟子さんたちがずっと支えてきました。その力が幕を開けたのだと感じています。この一座だからこそ幕が開けられたと思っています。お祭りというのは、楽しいときだけにやるものではありません。どうやら歴史の中で人間は、災害があった時もその苦しさをはらおうと、お祭りをしていたようです。辛い時こそお祭りのエッセンスを思い出していただければ」
■日常を忘れる舞台空間で、生きる鼓動を味わって
勘九郎は、団七九郎兵衛役を勤める。過去3回のコクーン歌舞伎における『夏祭』では、父の十八世中村勘三郎が演じていた役だ。
「大変な状況の中、幕を開けることができ嬉しいです。本当に大変な世の中ですが、皆様の心の栄養になるよう一致団結し、“超”楽しいお祭りをお見せします。ご期待ください」
緊急事態宣言下での開催にあたり、客席の使用率は50%となる。
「幕を開けられることは幸せですが、お客様の安全が第一です。安全、安心に観ていただき、苦しい日常をほんの少しでも忘れていただける舞台空間を、生きている肉体の芸術をお届けするのが私たちの使命だと思っていますし、この公演の意義であるとも思っています。生きる鼓動を味わっていただければうれしく思います」
コクーン歌舞伎の稽古場は「楽しかったです」と振り返る勘九郎。
「歌舞伎でやる時は、義太夫狂言としての型があり、そこに心を入れていく作業です。でも監督(串田)が常におっしゃるのは、実の部分をちゃんと持っていないと上滑りしてしまい、真実が見えてこないということです。歌舞伎に限らず役者として、初心にかえれるような稽古でした」
(左より)勘九郎、長三郎、七之助 /(C)松竹
倅・市松を勤める長三郎についてコメントを求められると、勘九郎は笑顔で口を開いた。
「歌舞伎役者は、型がありそこに心を込めていく作業をしますが、コクーン歌舞伎では、役をゼロから作ります。何でもいいよ、どう歩いても、どこから出てきてもいいよ、という演出を受ける経験が、彼の人生のプラスになると思います。色んなことを吸収して、楽しそうに、自由に舞台空間に存在しているので、親としてもうれしいです」
■祭りの音に魂の震えを感じました
中村七之助が勤めるのは、団七女房お梶。
「たくさんの思い出がつまった作品です。初日を迎えられることを本当に幸せに思います。ホッとしております。色んな方々のお考えがあると思いますが、私個人は『演劇は止めてはいけない』と思っております。『夏祭』は、何よりお祭り。この舞台で流れるお祭りの音を聞いて、腹の底に眠っている人間の魂の震えのようなものを感じました。これを聞くだけで元気になれます。一生懸命千穐楽までつとめますので、ぜひ足をお運びください」
稽古では、串田の演出が「皆にビビッドに伝わり、スイッチが入るように皆がすぐに修正していく様に、『コクーン歌舞伎の座組だな』と思いました」と仲間への信頼を再確認した様子。本作は、人間同士の義理や人情によってドラマが動いていく。その姿を七之助は次のように語る。
中村勘九郎 /(C)松竹
「登場する人物たちは、自分のためではなく人のために人が動きます。これは愛だと思っています。人のために、頭ではなく動物的に動ける人たちの、悲しくもあり、こう生きなきなくてはいけないという、熱い魂のお話だと思っています」
■自分が演劇に救われた時のように
松也がコクーン歌舞伎に参加するのは、『三人吉三』以来2作目。
「串田さん、勘九郎さん、七之助さんとやらせていただく『夏祭』への思いは深く、なんとかこの公演ができるよう願っていました。大変な状況の中ではありますが、昨年の自粛や休業の期間中には、僕自身、エンターテインメントに救われる経験をしました。初日を迎えるチャンスをいただきましたからには、自分が演劇に救われた時のように、皆さんの希望になるお芝居ができますよう、最後まで精一杯尽くすことができればと思います」
稽古場の雰囲気を問われ、松也は串田の演出について語った。
「串田さんは、殻を一度破ってごらん、とおっしゃいます。前回参加した時には、難しくもあり発見の連続でもありました。今回も稽古初日だったでしょうか。勘九郎さんとの立廻りのシーンを『勢いでやってみよう』と言われました。本当に何も考えず勢いでやり皆が大笑いして……(笑)。あの瞬間、コクーン歌舞伎に戻ってきた感覚があり、嬉しかったです」
松也は、一寸徳兵衛と、徳兵衛女房お辰を2役早替りで勤める。「お辰は一場面しか出てきません。その実を大切にしながら、どう表現できるか追求していきたい」とも語っていた。
■それでも生きていること
再演にあたり、この物語と再び向き合った4人。串田は「人間には立派な人も頭の良い人もいますが、どんな人間だって一生懸命生きていて、ささやかながらに自分が生きる証を、色々な形で探しているのだと感じます。団七という男は利口ではありませんし、つまらないことで犯罪を犯してしまったりもする。それでも生きているということを一生懸命示したい。内側から湧いてくるものに忠実な人間だったのではないでしょうか」と持論を述べた。
中村勘九郎 /(C)松竹
勘九郎は「義理や人情が、薄まっている時代に、ハッと思わせてくれる作品です。受けた恩を必ず返す。優しさや思いやりではなく、体の芯から滲み出てくるもの。それを忘れてはいけないなと思う作品でした」と答えた。
コクーン歌舞伎 第十七弾『夏祭浪花鑑』は5月12日(水)より5月30日(日)までの上演。その後6月17日(木)から6月22日(火)まで、第7回 信州・まつもと大歌舞伎でも上演される予定だ。